苦手な方は、ごめんなさい。
「――――あれ?」
それは、ある日の朝のこと。
朝食を終えると、いそいそ出かける準備を始めたソラに、ましろが疑問の声を上げた。
「ソラさん、どこにいくんですか?」
「ああ、ましろさん」
話しかけられたソラは、快活に笑って。
「アルバイトです、行ってきます!」
「ああ、バイトかぁ。いってらっしゃーい」
見送ってから、はたと気付く。
「・・・・アルバイト?」
ソラが?
この世界の戸籍もないのに?
アルバイト!?
「――――ええええええええええええええッッ!!!?」
ましろが素っ頓狂な声を上げていると露知らず、ソラは街へ駆けて行く。
◆ ◆ ◆
如何に異世界人と言えど、お世話になっている身で
ヨヨさんに相談した結果、なんと『仮の戸籍』と『外国人労働者』としてのビザを用意してもらえた。
この間のミルクにおむつといい、だいぶ用意が良すぎるので。
さすがに聞いてみたところ、ソラシド市にはスカイランドからきた人が結構いて、ひっそりコミュニティを作っているらしい。
そして、ヨヨさんみたいに望んでやって来た人や、私やエルちゃんみたいに帰るに帰れない人達が。
お互いに助け合っているということだった。
「っと、ここだ」
で、肝心のバイト先はというと。
「
鍋ややかんなどなど、この地域の生活を支えてきた鋳物の老舗。
普段使いのものはもちろん、中には大手家電メーカーと共同で開発した炊飯窯もあるとか。
なんでこんなところにご縁が出来たかと言うと。
「――――おおっ!来たか!」
「おはようございます!社長!」
敷地の奥から現れた中年男性『
この人、この世界に来た初日にランボーグからかばった人である。
仕事を求めてハロワに向かっていたところ、偶然再会。
あの時のお礼を言われたところから始まり、その中でぽろっと仕事を探していることを話したら。
『じゃあ、うちに来な!!』となった次第である。
「主にやってもらうのは、完成品の包装と積み込みだな。仕事は女房に教えてもらってくれ」
「はい!」
『仕上げ』と呼ばれている包装の工程の作業場で、話が終わったタイミング。
ふくよかな女性が出て来た。
「おーい、
「あらま!こないだ言ってた!?初めましてー!よく来てくれたねー!」
まさしく『老舗の女将』な雰囲気の女性だ。
思った通り、他の従業員さんから『女将さん』と呼ばれていた。
「ソラ・ハレワタールです、よろしくお願いします!」
「まあまあまあ!お名前通り気持ちのいいこと!」
『よろしくねぇ!!』と、肩をバシバシ叩かれていると。
ふと、作業場の更に奥。
こちらを見ている小さな子供と目が遭った。
ひとまずにこっとしてみると、びくっとして引っ込んでしまった。
(悪いことしたかな・・・・)
「ソラちゃん!早速だけどこっちに来て!色々覚えてもらうから!」
「はい!お願いします!」
とにかく今は、仕事を覚えるところから始めないと。
女将さんについていって、私も作業場に入る。
◆ ◆ ◆
「へぇー!ソラちゃんバイト始めたんだ!」
「うん、もうびっくりだよ。聞いてなかったんだもん」
プリティ・ホリック、併設されたカフェスペース。
なんとなしに出かけていたましろは、学校帰りのあげはとばったり出会っていた。
そのままお茶し始めた二人は、ソラのバイトについての話を始める。
「そっかそっか、よかったじゃん。こっちに馴染んできたみたいで」
「うん、そうだけど・・・・」
にこにこ顔のあげはとは対照的に、ましろはどこか浮かない表情。
『おや?』と思ったあげはは、耳を傾けることにした。
「何かあったの?」
「ううん、悪いことがあったわけじゃないんだけど・・・・」
穏やかな問いかけに、ましろはうんうん唸りだす。
あげはは急かさず静かに言葉を待ち続けた。
やがて、考えがまとまったらしいましろは。
ゆるゆる口を開いて、
「・・・・違和感、なのかな」
「うん」
「ソラさんが隣にいるのが当たり前だったのに、いなくなって変な感じっていうか」
「うん」
「って、変なのはわたしもそうなのかな。出会ってそんなに経ってないのに、こんな気持ちになるなんて・・・・」
「うん」
ましろの話に耳を傾け、静かに頷き続けたあげは。
「そっか」
咀嚼する様に何度か首を揺らすと、微笑まし気ににっこり笑って。
「さみしいんだね、ましろん」
「・・・・さみしい?」
あげはが示してくれた答えに、きょとんと呆けたましろは。
段々と驚愕に目を見開いて、口元を抑える。
「さみしい・・・・わたし、さみしいの?」
「私にはそう聞こえたよ?」
『え、えっ?』と小さく声をもらしながら、俯いて動揺するましろ。
そんな彼女の愛らしい反応を、あげははニコニコ見守っている。
「ソラちゃん来てから、ましろんの日常ってだいぶ目まぐるしかったんじゃない?」
「・・・・そう、だね。スカイランドのこと、プリキュアのこと、毎日びっくりの連続だよ」
「やっぱりさ、絆とか、友情とか?そういうつながりの強さって、必ずしも一緒に過ごした時間に比例するわけじゃないじゃん?」
ここで、アイスティーを一口。
「私達だって、だいたい手紙のやり取りだけで、顔を合わせてるわけじゃないのに、仲良しだもん」
「過ごした、時間・・・・」
言われてみれば、確かに。
ましろは向かい側の幼馴染を見つめた。
「でも、何だか妬けちゃうな。可愛い妹分が、ぽっと出の輩にあっさり懐いちゃうなんてー」
「そ、ソラさんはそんなんじゃないよ」
「分かってるって」
話がひと段落したところで、あげはは手を打ち合わせて。
「せっかくだし、ソラちゃんに何か買ってかない?就職祝いにさ!」
「ナイスアイデアだよ、あげはちゃん!行こう行こう!」
「何がよろこぶかなぁ」
お茶を切り上げた二人は、賑やかに雑貨スペースへ降りて行った。
◆ ◆ ◆
「ソラちゃん!倉庫から
「分かりましたー!」
「サイズはLとLL!お願いね!」
業務を始めてから、半日。
結構力仕事も多くて大変だけど、なかなかやりがいを感じている。
特にこうやって重たいものを運ぶと、とても喜ばれた。
「カートン、カートン・・・・あ、これか」
台車を持って倉庫に入ると、でかでかと『カートン』と書かれた表札が見えた。
これは間違えようが無い、分かり易い!
サイズごとに敷物の色を分けているのも、理解しやすさに拍車をかけていた。
正直ありがたい。
「えっと、LとLLだっけ」
あったあった。
言われた段ボールを積み込んでいると、後ろから誰かがやって来て。
ぽこんっ!と叩かれる。
「ん?」
振り向くと、朝見かけた男の子が。
丸めた新聞紙を、剣の様に向けてきていた。
その目は、どこか剣呑な気配を帯びていて。
「お前、何しに来たんだよ」
「えっと・・・・?」
やっぱり険しい顔と声で、曖昧な問いかけをされたので。
意図が分からず、首を傾げていると。
「俺、見たんだぞ。ちょっと前、お前が空から降って来たのを」
「・・・・ッ」
エッ。
この子あの現場にいたの!?
「それだけじゃない!ソラシドモールと、丘の向こうの里山!訳のわからないバケモノが出た現場にいただろ!?」
ウワーッ!!買い物のときとスカイジュエル探しに来た時にもいたんか!?
「父ちゃんはお前に助けられたとかなんとか言ってたけど、俺は騙されないからな!母ちゃんにまで取り入って、どうしようって言うんだよ!?」
「ま、待ってください。何かの間違いでは?」
父ちゃん母ちゃんってことは、ここの息子さんか!?
何はともあれ、まずは落ち着いてもらわないと・・・・!
「落ち着いてください、私は決して・・・・!」
「うるせぇっ!」
話し合いに持ち込めないかと試みたけど、相手はそれどころじゃないくらいに激情に駆られていて。
とても耳を貸してくれそうにない。
「いいから正体現しやがれッ!!このッ――――!」
これは参ったと、内心で両手を上げる目の前で。
「――――エイリアン女ッ!!!」
彼は、そんなことを怒鳴ったのであった。
そ、そっち~~~~!?
ここのソラさんはあげはさんと同い年なので、学校よりもこっちかなって思って・・・・。