コソコソッ(魔法の言葉は『所説在り』です・・・・!)
「こんにちは、虹ヶ丘ましろです!」
「ヴェッ、ア"ッ・・・・!」
――――頼人の様子を見て。
おや、とコナンは片眉を上げた。
そしてすぐに、ましろに一目惚れをした様だと察する。
「とぅっ、わ、い、らぃと、でつ・・・・!」
「だ、大丈夫?お顔が真っ赤だけど・・・・?」
「んもッ、元からだよォッ!」
証拠に、顔が耳まで真っ赤になっている。
何か病気だろうかという気遣いへ、恥ずかしさに後ずさりながら大声を上げる頼人を。
コナンや平次を始めとした、少年の淡い想いに気付いた面々が。
微笑まし気に彼を見守っていた。
(・・・・ん?)
その一方で。
ヨヨを始めとした虹ヶ丘邸の面々は、微妙な顔をしていることにコナンは気が付く。
『何事だろうか』という疑問は、すぐに瓦解する。
「うわ」
目の当たりにしたそれに、思わず声が出た。
直ちに口元を塞いだが、幸い聞かれてはいないらしい。
(すげー顔してる・・・・)
――――ソラが。
まさしく『妬いてます』と言わんばかりの迫力のある顔で。
微笑ましいやり取りをするましろと頼人を見ていた。
一生懸命自制している様だが、隠しきれていない。
「あげはさんあげはさん、ソラさんってましろちゃんのこと・・・・?」
「バレたか・・・・そうなのです、それどころか両想いのラブラブカップルなのです」
「ええーッ・・・・!」
同じく気が付いたらしい蘭と園子が、あげはにひそひそ問いかけると。
あげはが全く変わらぬひそひそで返した答えに、小声で大声を上げるという器用な真似をした。
「え、大丈夫なんです?」
「そっか、ソラさんとあげはさんって同い年。でもましろちゃんは未成年・・・・」
「あ、ちゃんと両家ご両親とヨヨさん公認だよー」
「わ、わぁ・・・・!」
会話を聞いていたコナンも、『マジか』と目を見開く。
「・・・・なんか、すごい」
「うん、障害もいっぱいあるのに・・・・なんか、こう」
「「かっこいい」」
「でしょー?」
『かっこいい』。
蘭と園子が口にした言葉がしっくり来て、コナンは一人頷く。
驚きはしたが、今は多様性の時代。
同性同士の恋愛も珍しくない。
そもそも野生動物の世界にすら、何年も前からそういった事例が報告されているくらいだ。
人間が同じことをやったって、なんらおかしくない。
未成年と成人というハードルもありはするものの。
ましろの家族が、揃ってソラのことを信じて認めているのなら。
外野がとやかく言うのは野暮というものだろう。
(俺の見識も、まだまだ狭かったってことかな)
一人、鼻で笑いながら。
かぶりを振って冷静になろうとしているらしいソラを見た。
◆ ◆ ◆
ましろさんを前にして、真っ赤な顔をした頼人君にジェラシーを抱きかけて。
慌ててかぶりを振るう。
――――落ち着け、弁えろ。
間違いなくましろさんのことは好きだ。
だけど、私は大人で、ましろさんは未成年。
好きだからこそ、『通過点』であらねばならないことを覚悟したはずだろう・・・・!
・・・・そうやって、自分に何度言い聞かせても、胸のモヤモヤは収まってくれない。
ああーッ!未熟ゥッ!
私はもちろん、他の誰にも。
彼の感情を好き勝手する権利はないんだっていうのに・・・・!!
――――気を取り直して。
「ばーちゃん!大丈夫だったか!?」
「怖い人達、来なかった?」
「うふふ、ありがとう。怖い人達は来なかったわ、お巡りさんのお陰ね」
心配してくれる探偵団に、ニコニコ笑いながら答えるヨヨさん。
・・・・あいつらくらいの連中なら、例えお巡りさんがいても来そうだけど。
結局来なかったということは、他に理由があると見ていいだろう。
郷土資料館でお仲間が死んだことに気付いたのか。
あるいは、何か作戦を練っているのか・・・・。
「今日は私と、もう一人この村の駐在が滞在することになったから、ここはもう大丈夫」
上原さんも加わって、そんな報告を子ども達にしてくれていた。
それはよかった。
服部君達に加えて、本職のお巡りさんもいてくれるのなら。
心強いことこの上ない。
「そっか、ひとまずは安心だね」
「ヴォッ、オ、オッス!」
ましろさんもニッコニコなのはいいんだけど。
頼人君はなんなの今の声?
『ヴォッ』って言うたで、『ヴォッ』って・・・・。
「――――失礼します!」
頼人君に、
また新しい声がして、振り向く。
どうやら例の駐在さんが来てくれたらしい。
「初めまして!晴谷湖村駐在の、
敬礼をしながらあいさつしてくれたのは。
お手本の様な格好の、まさしく『お巡りさん』な青年。
そこはかとないフレッシュさから、『この頃警察官になったんだろうな』というのが分かる。
「長野県警捜査一課刑事、上原由衣です。ご協力感謝します」
「いえ!この神社の先代には、良くお世話になっていました。そのお孫さんが困っているとあらば、助けないわけには行きません!」
「そうなの?頼人兄ちゃん」
「あ、ああ。村の年寄り達は、『たぁ坊』って呼んでるよ・・・・じいちゃん達もそうだった」
ああ、なるほど。
田舎に一人はいる、『お年寄りのアイドル』的な若者か・・・・。
あと、ましろさんが関わらなければ普通に喋れるのね、頼人君・・・・。
◆ ◆ ◆
「――――それで、そっちはなんか分かったのか?」
「あったといえば、あったなぁ・・・・」
『難しい話は大人に任せてしまいなさい』というヨヨの鶴の一声で。
頼人も加えた一行は、今度こそスタンプラリーに乗り出していた。
かわるがわる台紙にスタンプを押して、姦しく歓声を上げる友人達を横目に。
コナンがひっそり進捗を問いかけると。
対する平次は、なんとも言えない顔で返事をした。
出発前、聖と言い合いをしただけではないようだ。
「なんだよ、煮え切らねぇなぁ」
ジトッとした目で悪態をつくコナンに、平次は『せやかて工藤』と言い返す。
「ヨヨさんから満を持して宝のことを聞き出せたー思うたら――――」
言いながら、スマホを操作して。
「こんなん見せられたんやで」
「・・・・なんだこれ?」
表示されたのは、一枚の写真。
写っていた古い紙には、『資格在るものにのみ、道は開ける』という文章が、不思議な模様で囲まれていた。
「湖の島、中が空洞になっとって、そこには池があるらしい。連中が狙っとるお宝はそのことやろうって言うてたんや」
そして、そこに至る道は。
ヨヨが50年前に仕掛けたからくりによって、固く閉ざされているという。
「ホテルにせよ遊び場にせよ、その池をどうにかせんといかん」
「だから根志来組は聖地を狙っているわけか・・・・で、こいつがその手がかりと」
「せや」
――――平次への依頼は『宝の調査』。
しかし、それも管理者であるヨヨがいる今は不要となったと、コナンは思ったが。
スマホを返してもらった平次は『ただ・・・・』と続ける。
「根志来組をどうにか出来んうちは、解き方を教えられへんって言うてはったわ」
「どっから漏れるか分からねぇからな・・・・妥当と言えば妥当だが・・・・」
それはそれとして、謎を目の前にした探偵が、中途半端で終われるかどうかと言えば。
答えは『NO』だ。
「・・・・こっそり解くのは、アリかな」
「・・・・アリでええんとちゃうか?」
探偵にして、男子高校生でもある二人は。
手ごわい謎を前に、ウッキウキでスマホを覗き込む。
「やっぱり、この模様に秘密があるんだろうな」
「ああ、法則が分かれば・・・・」
「――――あーッ!!コナン君、また抜け駆けしてるー!」
「なんだとー!?」
「コ!ナ!ン!君!?」
早速額を突き合わせ、頭を回し始めた二人だったが。
歩美に目ざとく見つかってしまい、あっという間に子ども達に囲まれてしまった。
「なんだなんだ!?それがお宝の手かがりかぁ!?」
「なんの暗号ですか!?」
「見せて見せてー!」
「ちょ!待て待て!落ち着け!」
騒ぎを聞きつけ、他のメンバーもなんだなんだと集まってきてしまい。
結局全員で平次のスマホを覗き込むことになった。
「そうそう、ヨヨさんが見せてくれはったんよ」
「へぇー、これが・・・・」
和葉のコメントを受けながら、まじまじと観察している中。
ふと、なんとなく視線を外したコナンは。
「・・・・?」
虹ヶ丘邸の面々が、タダならぬ顔をしていることに気が付く。
特に、ソラ、ツバサ、ベリィベリーの視線は。
明らかに何かの読み物をしている動きで。
「ソラさん、何か分かったの?」
「えっ?」
「だって、なんか知ってそうな顔してるよ?」
そう指摘すると、『しまった』と言いたげな眼差しになってしまうソラ。
良くも悪くも、素直な人だなと思いながら。
コナンはさらに追及しようとするが。
「えー?私は綺麗な模様だなーって思いながら見てたけどー?」
ニコニコ顔のあげはが、にゅっと割り込んできた。
『ねー?』と水を向けられたましろも、『うん』と頷いて。
「そうそう!わたしも、神社の伝統的なものかなぁって思ってた!頼人君、何か知らない?」
「エッ!?アッ、イヤ。俺は何も・・・・」
そして、彼女に話しかけられた頼人が、賑やかな反応をしたことで。
それ以上話題に上げることは出来なくなってしまった。
・・・・なんだか、上手くはぐらかされてしまった気がしないでもないが。
子ども達が興味津々になっている今は、あまり深入りし過ぎても良くない。
普段の事件ならまだしも、ヤクザが関わっている今回。
謎解きも慎重にするべきだろうと。
ひっそりため息をついたコナンであった。
「びっくりしたぁ・・・・あれ、読めなかったけれどスカイランド文字だよね?」
「ええ、十中八九仕掛けの解き方でしょう」
「間違いないだろうな、明らかにそれっぽい文章だった」
「やっぱり」
「僕も、今更ながら思い出しましたよ」
「――――ライゼン・ドーバーハ」
「ヨヨさんと同じ、ハイパースゴスギレジェンド名誉博学者です」
「――――ほぉーっ!これは立派じゃのう!」
気を取り直した一行は、『晴谷湖村教会』にやってきていた。
永逢神社の対岸に位置するここもまた、スタンプラリーのコースに入っている。
「――――はい、どうぞ」
「わぁ!ありがとうございます!」
「なんか、ご利益がありそうですね」
「ホントだな!」
ちょうど、敷地の掃除で外に出ていた神父『
子ども達は大はしゃぎだ。
「ご丁寧にありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそありがとうございます」
阿笠の礼に対し、逆に礼を述べ返した智癒によると。
この半月ほど、鬼塚達が特に頻繁に現れていることで。
村人や観光客が怯えているのだと、話してくれた。
「そんな中でも、こうやって子ども達が遊びに来てくれるのは。本当にありがたいことです」
心配なのは大前提として、少しでも平穏が戻ってきてくれたのなら。
こんなにうれしいことはないと、智癒はニコニコと笑っていたのだった。
「それに、我が教会と永逢神社は少しだけご縁があるのですよ」
「そうなの?」
「あ、ああ」
智癒の言葉とましろを質問を、頼人はこっくり頷いて肯定した。
「江戸時代に、キリスト教の信者さんを匿っていたことがあるって聞いた事がある」
「かくまうって、逃げていたってことだよな?」
「何か悪いことをしちゃったの?」
首を傾げる少年探偵団に、智癒は言葉を選びながら説明する。
江戸時代に、キリスト教が禁止されていたこと。
改宗を迫られた信者達は、犯罪者のような扱いを受けてしまっていたことを。
「悪いことしてないのに、犯人扱いされたのか!?」
「ひどい・・・・」
「なんでそんなことをしたんですか?」
「その頃、神父や牧師に化けた人さらいの被害が大きかったんです。テレビもインターネットもない当時、本物かどうかを見抜く術は有りませんでしたから」
何より当時の日本人にとって、見慣れない西洋人の顔は。
どれも同じに見えたことだろう。
故に、彼らが足を運ぶ大きな要因であった宗教を、徹底的に排除にかかったのだ。
「二度とあってはいけないことですが、当時の情勢を思えば、やむを得ないことだったのでしょう」
「でも、それを助けてくれたのが永逢神社だったんですね」
「ええ、当時の神主様が『祈る先が違えども、同じ幸福を目指す仲間だ』と、寛大なお言葉を下さったそうで」
「へぇー!素敵なお話やね!」
「その通り、信じる者は救われる・・・・誠にありがたいことです」
そして、その時匿った中に侍がいたらしく。
自らの刀を感謝の印に奉納したという話だった。
「俺も見たことがあるよ。鍔が十字架の形してて、結構かっこいいんだ」
「へぇー!見てみたーい!」
「色々落ち着いたらな」
刀というのもは、いつの時代も日本人を魅了するらしい。
頼人の証言を聞いて歓声を上げる子ども達を、智癒は微笑まし気に見守ると。
「今もこの村は、残念ながら大変な状況にあります。そんな中でも足を運んでくれた皆様の旅路に、どうか祝福がありますように」
最後に祈りを捧げてくれたのだった。
おまけ
晴谷湖村駐在の巡査。
村のお年寄り達からは『たぁ坊』と呼ばれ愛されている。
ネーミングは『ターボババア』。
晴谷湖村教会の神父。
八極拳は使えないし、甘党である。
ネーミングは『チュパカブラ』。