本年度は大変お世話になりました。
来年もまた、よろしくお願いいたします。
皆様、よいお年を。
偽物、ハッピーハロウィン
――――ソラシド市には魔女がいる。
小高い丘の上の屋敷には、少女や赤ん坊、まんまるな鳥と。
愉快な面々で暮らしており。
川原で綺麗な石を採集していたり、鏡に向かって話しかけたり。
赤ん坊を浮かせたりなんてことも。
つい先日なんか、腕の立つ用心棒に命じて、ひったくりを捕まえたらしい。
・・・・用心棒云々は、置いといて。
「――――それ、完全にうちじゃないですか」
「だよなぁ」
話してくれた鉄郎君と一緒に、苦笑いを零した。
晴谷湖村の騒動から二週間後。
夕食の片付け最中の虹ヶ丘邸に、笑い声が響いた。
『ソラシド市の魔女』は、あげはさんの実習先でも噂になっているらしい。
もちもち寄り添った子ども達が、怖がりながらもウッキウキで話していたそうだ。
「確かに、おばあちゃんって魔女っぽいかも!」
『孫のわたしが言うのもなんだけど』と、ましろさんがはにかむ。
「鉄郎君の小学校でも話題になってたそうです・・・・気を付けていたつもりでしたが・・・・」
「まあ、『壁に耳あり、障子に目あり』とも言うしな・・・・」
いや、ほんとに・・・・。
ハロウィンが近いこともあって、街中がどこか浮ついている雰囲気に包まれている。
噂が盛り上がっているのも、そのせいなんだろう。
「しかし、ハロウィンか・・・・この国は、年に二回も先祖が返ってくるんだな」
ベリィベリーさんが、テーブルを拭きながらしみじみ感心している。
・・・・ああ、そっか。
私は前世があるから普通に受け入れていたけど、ベリィベリーさんを始めとした他国(?)の人からすれば不思議に見えるのか。
――――元はケルトの収穫だというハロウィン。
初期も初期では、ジャックオランタンもかぼちゃじゃなくてカブだったらしい。
あの世からご先祖と一緒にオバケもやってくるので、連れていかれないようにオバケの格好をするんだったか。
他にも、祭りで焚いた火を持ち帰らないといけないとか、駒かいルールがあるみたいだったけど・・・・。
まあ、今は置いといて。
「うーん、ちょっと違うかなぁ」
「確かに!どっちかっていうと、お祭り騒ぎがメインかも」
ましろさんも首を傾げながら、『二度目のお盆』をやんわり否定。
あげはさんも、何度も頷きながら隣にならんで。
「本場だって今はコスプレイベントみたいになってるらしいし、こっちでは難しいこと考えず楽しもー!」
「お、おー・・・・!」
肩を組んで、気合十分とばかりに腕を突き上げるあげはさんとベリィベリーさん。
・・・・正直、勢いに乗せられている感は否めないんだけども。
それはそうと、近づいていたハロウィンが楽しみであるのも間違いなく・・・・。
「もうこの際だから、今度のハロウィンはいっそ魔女の格好をやろうよ!ヨヨさんは、ハイパースゴスギレジェンド魔女で、エルちゃんはハイパーぷにぷに可愛すぎ魔女っ子!!」
テンションそのままに、あげはさんは話し出す。
――――そう。
このソラシド市では、数年前から街を上げてのハロウィンイベントを行っていて。
小学校や保育園の子ども達が、あちこちのご家庭を回ってお菓子をもらったりするらしい。
魔女っ子の恰好したエルちゃんとか、絶対微笑ましいに決まってるじゃん・・・・。
「僕達もおばけの真似をするべきでしょうか・・・・『お菓子をくれないと悪戯するカボー』とか」
「それがあったか!『ハーロハロハロ』しか思いつけなかった・・・・!」
早速当日の演技について話し合ってるベリィベリーさんとツバサ君。
『カボー』って語尾も、『ハーロハロ』って笑い方も微笑ましすぎる。
「子ども達に楽しんでもらえるよう、尽力しましょうね」
私も負けられないと、当日のあれこれを考えていると。
「あっはは!でも、私達大人も楽しんでいいんだよ!思いっきり『トリックオアトリート』言っちゃおう!」
「ふふっ、はい!」
肩を組んでくれたあげはさんと笑い合って、来るハロウィンに思いを寄せた。
◆ ◆ ◆
「――――くっふふふ」
ソラシド市。
とあるボロアパート。
バッタモンダーは一人、不敵に笑う。
手中に収めたかぼちゃを見下ろして思うのは、やはりにっくきプリキュア達。
だったら、アプローチを変えるだけだ。
「今に見てろよ・・・・お前達をぎゃふんと言わせてやるからなぁー!!」
『ギャーッハッハッハッ!!』と笑い声を上げるバッタモンダー。
しかし、
――――ドンッ!!
「ヒィッ!!」
次の瞬間には壁を叩かれて、一気に勢いを削がれてしまった。
情けなく距離を取り、反対側の壁まで登って逃げていく。
「ぐ、ぬぬぬ・・・・精々束の間の平和を噛み締めてろ、プリキュアの次はあんただからな・・・・!」
真っ逆さまに落ちて、強かに頭を打ち付けつつも。
瞳にほの暗い火を燃やすのだった。
(隣の、やっぱりあいつだよな?)
(こりねーやつなのねん・・・・)
――――さて。
泣いても笑っても日々は過ぎていき。
そしてやってきたハロウィン当日。
大人も子どもも、各々工夫を凝らした仮装に身を包み。
街のあちこちで『ハッピーハロウィン』や『トリックオアトリート』を元気よく唱える。
「ここかぁ・・・・」
そんな中、虹ヶ丘邸の前に並び立っているのは鉄郎達だ。
二人の友人に加えて、あげはの保育園の園児達も三人。
噂の魔女の家を前に足踏みしていたのを見かねて、声をかけたのである。
その際『頼れる小学生のお兄さんだ』とキラキラした目を向けられて。
『へへへ』と照れくさい想いをしたのは余談だ。
「すごい・・・・!」
「ほんとに魔女いるかも・・・・!」
とにもかくにも来てみれば。
かぼちゃやコウモリと言った、装飾で彩られていて。
まさしく気合十分といった門構えが出迎えてくれていた。
「ピンポン、押すぞ?」
「う、うん・・・・!」
いつまでも圧倒されているわけにもいかないので、呼び鈴を押す。
やや緊張しながら、ピンポン、と鳴らせば。
しばし沈黙の後、扉の向こうに人の気配が現れて。
「――――いらっしゃーい」
二人の『おばけ』が、出迎えてくれた。
「先生!」
「あげは先生だ!」
園児達の笑顔に、クモをモチーフにした衣装の女性もまた、にっこり笑う。
役に入り込んでいるのか、何かコメントを言うことはなかった。
鉄郎はソラからちょくちょく話を聞いていたため、『この人が・・・・』と思いながら見上げていると。
「さあさあ、どうぞこちらへ」
「大魔女様がお待ちです」
誘われるがままに通された家の中も、ハロウィン一色。
それがまた、非日常を演出してくれている。
ついに辿り着いたリビングでは、七人の人影がいた。
まず真ん中にいたのは、件の『魔女』だろう。
その両脇には、お供のおばけ達。
先ほど出迎えてくれた二人もいる。
「あ」
「――――」
『従者』の一人、フードを目深くかぶった人狼が、ソラだと気が付いた鉄郎。
ソラもまた彼に気が付くと、挨拶代わりににっこり笑うのだった。
「ようこそ、私の館へ」
「よーこちょ・・・・」
『魔女』が、隣の赤ん坊と一緒に微笑んでくれるも。
よく利いた演出の所為で、どこか怖い雰囲気を漂わせている。
「ぁ、う・・・・」
何もかも『ばっちり』な空気に、すっかり臆したのだろう。
園児達はしばし、黙してもじもじとしてしまっていた。
『魔女』一行は笑顔を絶やさないまま、静かに見守っているが。
子ども達の緊張がそのまま空気に溶け込んで、誰もが張りつめ出したその時。
「わ・・・・!?」
真ん中の男の子は、背中を押される感覚を覚えた。
振り返ると、二人の友達が頼もし気な笑みを向けてくれている。
その表情に勇気をもらった男の子は、口元を結んで。
「と、トリックオアトリート!!」
「がおー!」
三人一緒にハロウィンの決まり文句を唱えれば、後ろの鉄郎達も援護とばかりに吠える真似をする。
そんな子ども達を見た『魔女』は、くすりと笑みを零して。
「まあ、元気なおばけ達だこと」
「どうなさいますか?魔女様」
「そうねぇ、大事な道具にいたずらされると大変だわ。お菓子を差し上げて」
「かしこまりました」
客人たちを歓迎してくれるのだった。
◆ ◆ ◆
「ソラさん」
「鉄郎君、お疲れ様です」
「ん」
お菓子を受け取ってはしゃぐ子ども達を見守っていると、落ち武者スタイルの鉄郎君がやってきた。
所々、薄汚れたり矢が刺さったりしてるのが本格的である。
お友達二人も、鬼や天狗といった和風なスタイルで統一しているらしい。
すごい・・・・!
「ソラさんもすごい気合入った格好じゃんか、狼男?」
「この日の為に頑張りました、正解は『前門の虎、後門の狼』です」
胸を張りながら、セットになってるベリィベリーさんを指せば。
鉄郎君は納得して首を揺らしていた。
ちなみに私が狼で、ベリィベリーさんが虎である。
「お姉さんお姉さん!」
「はい、なんでしょう?」
話していると、保育園の子がキラキラした目を向けてきている。
「その剣、本物!?」
「あはは、残念ながら偽物ですよ。危ないですから」
「そうなの!?」
そもそもお祭りの場に真剣持ち込むわけにはいかないでしょう。
なんて思っていると。
「偽物で大丈夫?悪い奴が来たら、大変じゃないの?」
なるほど、そっちを心配してくれているのか。
「あはは、お気遣いありがとうございます。けど、ご安心ください」
言いながら、剣に手をかけて引き抜いてみせれば。
鉄郎君共々、目がキラッキラになるのが分かる。
「私は魔女様お墨付きの達人ですから、偽物で十分なんですよ」
軽く振り回してから、仕上げにポーズを決めると。
いつの間にか一部始終を見ていた子ども達が、揃って『ハワーッ!!』と歓声を上げてくれた。
・・・・ふふっ、ちょっと嬉しいかも。
「人気者ですね」
「ましろさん」
ひとしきりはしゃいだ子ども達が落ち着いた頃、今度はましろさんが隣にやってきた。
「みんな、喜んでくれてよかった」
「ええ、本当に」
バスケットいっぱいのお菓子に、おばけ達のおもてなし。
中心にいる子ども達は、終始笑顔だ。
「――――ハロウィンって、特別な祭りだと思うんです」
『大魔女の魔法の道具』*1で遊び始めた子ども達を見ながら。
とつとつ、話してくれる。
「いつもならお話しない人とだって、『トリックオアトリート』の言葉一つで繋がれて。そこで生まれた笑顔が広がっていって・・・・」
「本当だ、まるで魔法みたいですね」
「ふふっ・・・・なんなら、本物かもしれませんよ」
「確かに」
笑顔が広がる魔法、か。
相変わらず、素敵な表現をする人だ。
「そうだ、この後街にも行ってみませんか?プリティホリックでもお菓子を配っているらしくって」
「いいですね!落ち着いたら、みんなで行きましょう」
「はい!」
かくいう私も、『トリックオアトリート』を言うのを楽しみにしていたんだ。
せっかくのハロウィン、一回くらいは唱えておきたいもんだと思いを馳せていると。
「――――ええっ!?プリキュアの偽物が暴れてる!?」
なにやら電話を受け取っていたあげはさんが、そんな素っ頓狂な声を上げていて。
・・・・一筋縄では、いかなさそうだな。