旧年は大変お世話になりました。
今年もよろしくお願い申し上げます。
――――さて。
重ねた説明になってしまうが。
ハロウィンでオバケの仮装をするのは、護身の意味合いが強い。
先祖と一緒にあの世からやってくる、魑魅魍魎に襲われないように。
全力で仲間の振りをして、目を欺けることを目的としているのだ。
――――もしも、その怪物が。
人の目にも見えるようになったのなら。
「ナーッハッハッハ!!お菓子は全部、このキュアパンプキン様のものだー!!」
「わーんっ!」
「あたしのお菓子ー!」
それはきっと、たった今子ども達からお菓子を奪い取った。
こいつの様な姿を取っているのだろう。
「パンプキーン!」
「あ、コラ!!」
「横入りするなーっ!!」
その正体は、何を隠そうバッタモンダーである。
プリキュア達へ報いる一矢の一環として、仲間を自称する『キュアパンプキン』を名乗って。
お菓子というお菓子を横取り、強奪し、独り占めにする。
傍若無人な行動を取っていた。
「なんでこんなことするのよ!?」
「んん~?」
屋台を占拠し、特大の綿あめを作るバッタモンダーへ。
今しがた横入りされた女の子が、果敢に怒鳴りつけると。
被り物の中で、『待ってました』とほくそ笑んで。
「だってぇ、僕はキュアパンプキン!」
見えないと分かっていても、ニッコリ笑う。
「いつもお前らを守ってやってる、プリキュアの仲間なんだよー?だからこれくらいやったっていいんだー!!」
プリキュア達へ風評被害が湧くように、たっぷりの理不尽と横暴を込めて演技。
これで奴らの評判が下がること間違いなしと、ぴょんぴょこぴょんぴょこ飛び跳ねるバッタモンダー。
ここまで散々暴れて来たのだ。
連中の信頼に傷がつけられると、ハイテンションになっていると。
「――――いや、んなわけないでしょ」
「ヘァッ?」
彼にとっては、思ってもみなかったリアクションが返って来た。
「そうだそうだ!」
「プリキュアは怪獣と戦ってくれるんだよ!」
「その通り!」
「毎回命がけで戦ってくれる彼女達と、自分勝手なお前が仲間なわけないだろう!!」
口火を切った少女を皮切りに、老若男女がそろってプリキュアを擁護し始める。
「な、な、な・・・・!」
思っていたのと違う展開に、明らかに狼狽えてしまうバッタモンダーだったが。
これで怯む様な玉ではない。
「ふ、ふーんだ!どっちにしろ、お菓子はぜーんぶ俺のもんだもんねー!」
「あ、逃げた!」
「待てーッ!!」
綿菓子をぺろりと平らげると、次の獲物を求めて駆け出した。
◆ ◆ ◆
――――ってな具合で。
『キュアパンプキン』なる偽物が、あっちこっちでお菓子を強奪してまわっているのだとか。
幸い怪我人はいないものの、横入りなんかでお菓子を奪われてショックを受けたり、泣いたりする子供が続出しているらしい。
アンダーグ帝国が関わっている可能性は・・・・ゼロとは言い切れないけれど。
とんでもねぇことしやがるな・・・・。
現実にもいるよね、こういう迷惑な人・・・・。
「やばい、ソラさん。今見たら、
「ッ社長と女将さんは、ご無事ですか?」
「うん、みんな怪我はないらしいけど・・・・」
なんてこった、バイト先にも出現してたか・・・・。
怪我人はいないといえども、窃盗の被害は出ているわけで。
知っている人達ということもあり、解像度が一気に跳ね上がる。
大丈夫かな・・・・。
「マジで全部ないの!?」
「ええーッ!俺達も行きたかったのに!」
「おのれキュアパンプキン・・・・!」
心配していると、子どもががっかりした声を上げている。
分かる(分かる)
悔しいよね・・・・。
「魔女さん、どうにかならないの?」
「魔女さーん!」
どうしたもんかと悩んでいると、ヨヨさんが子ども達に囲まれている。
いやぁ、確かに今日のヨヨさんは大魔女様だけども。
お菓子をぱっと出すのは・・・・いや、ミラーパッドを使えばなんか出来そうな気がしないでもないけど・・・・。
「ふふふっ、いいわよ」
エッ!?
待って、出来るの!?
びっくりしている目の前で、ヨヨさんが杖を一振りすると。
あれよあれよと布が取り払われて現れたのは、新しいお菓子の山。
・・・・って、すご!
「ヨヨ殿は、本当に魔法を使えたのか・・・・!?」
「いやぁ、単に張り切り過ぎて買い過ぎただけだと思うよぉ・・・・?」
一瞬ベリィベリーさんと同じくびっくりしてたけれど、ましろさんの補足で納得。
よく見ると、ワイヤーみたいなのが見えるし・・・・。
いや、どっちにしろ仕込んでたってこと?
やっぱりめっちゃ張り切ってるじゃないですかヨヨさん!
かーわいいー!!
「なんにせよ、これだけあれば、街の人々にも配れるだろうな」
「ええ、偽物がお菓子と笑顔を奪うならば。私達はお祭りを盛り上げて、取り戻すのみです!」
・・・・本音を言うなら。
安全の為にも、偽物をとっちめたいところだけども。
それは既に警察や有志の皆さんで動いているみたいだしね。
(表向き)一般人の私達は、余計な首を突っ込まずに。
奪われたお菓子の補填に取り組むとしましょう!
「かぼちゃのおばけは、みんなの笑顔が大好きなの。だからきっと、楽しいハロウィンを取り戻してくれるわ」
やる気に満々な私達に、『ね?』とウィンクしてくるヨヨさんに、笑顔で頷く。
ええ、もちろんですとも!
「俺達も行くよ!」
「わたしも手伝う!」
「僕もー!」
ありがたいことに、鉄郎君含めた子ども達も協力を申し出てくれたことだし。
みんなで繰り出しますか、街に!
「――――みなさーん!お菓子を持ってきましたー!」
いつの間にやら用意されていた台車にお菓子を積み込み、街中で声を張り上げれば。
あちこちから歓声と共に人が集まって来た。
本当にあっちこっちで強奪していたんだな、キュアパンプキン・・・・。
「はい、どうぞ」
「わぁー!ありがとう!」
「もうもらえないと思った!」
何はともあれ、まずは笑顔を取り戻すことが優先だ。
大人にも子供にも、持ってきたお菓子を配っていくと。
子どもが受け取ったお菓子をお母さんに見せたり、お兄ちゃん・お姉ちゃんがもらったものを下の兄弟に分けたり。
揃って嬉しそうに笑う人々。
学生さん達が、お友達同士で笑い合ったりもしている。
・・・・嗚呼、今更ながら。
ましろさんの言っていたことが、分かる。
「トリックオアトリート!」
「はい、どうぞ!」
「ありがとー!」
『トリックオアトリート』。
たったそれだけで、笑顔が咲いて、広がっていく。
あちこちでお菓子を頬張ったり、写真を撮ったり。
来たときは少し重く暗かった空気が、すっかり軽く明るい者になっている。
・・・・本当に、魔法みたいだ。
「ああッ!」
目の前の光景に見とれていると、ただならぬ声。
そちらに目をやれば、飛んで行く風船と、めいいっぱい手を伸ばす子ども。
「ふっ!」
体はすぐに動いた。
街灯を伝い、高く飛びあがって。
風船をキャッチ!
「どうぞ」
「わぁ!ありがとう、狼のお姉さん!」
「どういたしまして、気を付けるんですよ」
「うん!」
そのまま返せば、にっこり笑ってくれた。
ふと見れば、ましろさんは犬系の衣装の子と写真撮影。
ツバサ君は鳥友達とご一緒に、花を散らすパフォーマンスをしていて。
あげはさんとベリィベリーさんは他の参加者さんと踊っている。
エルちゃんは、鉄郎君達に付き添ってもらいながらお菓子を配っていた。
かわいい(確信)
「そら!」
「はい、なんでしょう?」
「だっこ!」
「かしこまりました!」
かく言う私もお菓子を配りつつファンサをしていると。
エルちゃんが足元に来ていた。
ちいちゃな手をいっぱいに広げて、だっこをご所望だったので。
抱き上げついでに肩車しちゃう。
「どうですか?」
「たかい!」
「ふふ、そうでしょう?」
高くなった視点が珍しいのか、エルちゃんはしばし興味深そうに見渡してから。
「・・・・みんな、にこにこ!」
「ええ、ニッコニコですね」
こっくり首を傾げる。
「おかし、どうぞしたから?」
「そうですよ」
ゆっくり左右に揺れながら、周囲を見せてあげる。
「みんな『トリックオアトリート』って言えたから、ニコニコなんですよ」
「とぃく、あー、とりちょ!」
「はい、『トリックオアトリート』です」
キュアパンプキンのこととか、お祭り特有の空気とか。
エルちゃんに上手く説明できるだけの語彙はないので。
確かに言えることを伝えると。
『ほあー』と、もう少しだけ周りを見てから。
「えるも!えるもいいたい!とりっく、おあ、とぃーと!」
「もちろん、私も言いたいです。せっかくのハロウィンですもの」
「あーい!」
テンション上がったのか、足をぱたぱたさせていたエルちゃんをたしなめるけど。
私に『こら』って言われても、ニッコニコだ。
自分達のお陰で、笑顔が溢れているのが分かって嬉しいらしい。
・・・・まあ、楽しそうならいいか。
◆ ◆ ◆
「な、なんだよ・・・・!」
すっかり笑顔が戻って来た街を目の当たりにして、面白くないのはバッタモンダーだ。
せっかく偽物を名乗って混乱を引き起こしたのに、プリキュア達が台車にたっぷりのお菓子を配り始めた途端。
何事もなかったかのようにニコニコし出したのである。
まるで、自分の企みなんぞ、何の意味も効果もないと言われたようで。
「ふ、ふーんだ!!」
みじめな気持ちを紛らわす様に、両腕を振り上げて地団駄を踏む。
「お前らのお菓子は、ぜーんぶこのキュアパンプキン様が奪ってやるんだからな!!笑ってられるのも今のうちだぞ!!」
完全に強がって、精いっぱい怖がらせる台詞を吐くものの。
相手取る者は誰もおらず。
「お、おい!!」
もはや言葉も無くなっても、なお。
目を向けられることはなかった。
「んっぎゅ、ぬぬぬ・・・・ッああ!?」
怒りに拳を震わせていると、衣装を引っ張られる感覚。
苛立ちのままに振り返れば、プリキュア達と一緒に現れた
「怒らなくても、お菓子あるよ!」
どうやら、お菓子をもらえないから不機嫌なのだと思われたらしい。
「はい、どうぞ!」
「あ、ああ・・・・?」
街で暴れたキュアパンプキンと知ってか知らずか、ためらいなくお菓子を差し出した園児に。
すっかり勢いを削がれたバッタモンダー。
そのリアクションを、『お礼』と受け取った園児は。
「どういたしまして!」
にっこり笑って、その場を後にした。
「――――ッ」
虚無に支配された脳で、顔を上げる。
エルを肩車したソラと、目が遭う。
(あ、バッタモンダー)
一瞬だが、確かに視線に気が付き、そしてバッタモンダーに気が付いたソラだったが。
(まあ、後でいいか。人が多いし)
と、言った具合で。
特にリアクションせず、すぐに他所へ意識を逸らす。
――――少しも悔しい顔をせず。
偽物のキュアパンプキンを追いかけるよりも、お菓子を配ることを最優先に動き。
挙句、明らかに気が付いたのに、無視。
「――――まだだ」
十分すぎる、起爆剤だった。
「まだ終わらねぇッ・・・・!!」
感情のままに、袋を握りつぶす。
中のクッキーが、一瞬で砕け散っても。
当然気が晴れるなんてありやしない。
『アンダーグ帝国に見つかるかもしれない』、『勝てないかもしれない』。
等々の躊躇が、一瞬で燃え尽きて。
「カモン!アンダーグ・・・・!!」
(――――それはシャレにならんって!!!!)
手に灯ったアンダーグエナジーに気が付いて、ソラが振り向いた瞬間。
――――ビルの上に、スキアヘッドが現れた。
正月にハロウィンの話を書いてる不思議(笑)