――――『プリキュア』。
そのヒーローの話を、聞いた事があった。
青空の様な髪と、蒼穹のマントをはためかせ。
卓越した剣技で怪物に立ち向かう。
この頃噂の、女性ヒーロー。
それが、今。
鉄郎の目の前に現れた。
「あんたが、プリキュア・・・・!?」
ずっと疑いの視線を向けていた、ソラ・ハレワタールの変身によって。
「――――全集中・炎の呼吸」
すらりと抜き放たれた剣が、炎を纏う。
「伍ノ型 炎虎ッッ!!」
「ラァンボーグッ!?」
巨体を易々と叩き飛ばすと、鋳頭一家に向き直る。
「ソラちゃん、あんた・・・・!」
「話は後です、下がって!」
夫妻を下がらせると、鉄郎にのしかかる天井に剣を振るい。
あっという間に解放してしまった。
「っぁ・・・・!」
「早く逃げて下さい!」
鉄郎が何か言おうとしていたが、スカイはランボーグを優先して。
飛び出して行ってしまう。
「ランボー・・・・!」
発送トラックが出入りするスペースまで飛ばされたランボーグは、降り立ったスカイを恨めしそうに睨んで。
注ぎ口から、蒸気を噴き上げた。
一気に体が赤熱して、目に見えて脅威が増したのが分かる。
「ランボーグ!!」
案の定、威力もスピードも増した叩きつけが襲い掛かって来た。
スカイは軽々飛んで避けると、剣を構えて突撃しようとして。
「・・・・ッ!?」
その熱気に、思わず足を止めた。
動揺が見逃されるはずもなく、横薙ぎが放たれて。
スカイはそれを紙一重で逃れたものの、表情は芳しくなかった。
(いや、我慢できる熱さだ!)
すぐに引き締めて、剣を握りなおす。
「ヒュウウウ・・・・!」
呼吸を切り替えて、水を纏う。
「全集中・水の呼吸ッ!拾ノ型ッ!」
振るった剣から現れた激流は、龍の形を取り。
「――――生生流転ッ!!」
共に突撃していった。
「ラララララララッ!?」
「ムキーッ!ランボーグ気合入れるのねん!今のお前はスカイ一人に絶対負けないのねん!」
一撃ごとに威力を増していく斬撃に、圧倒されていくランボーグ。
だがカバトンの言う通り、今のランボーグはスカイだけで浄化できるものではない。
「――――ヒーローガール!!」
そう、スカイだけでは。
「プリズムショット!!」
「ラァンッ!?」
「んなぁっ!?」
完全に不意をつかれたランボーグ。
カバトンが慄いて視線を向けると、プリズムが駆けつけていた。
「遅くなってごめんなさい!」
「いえ、来てくれて助かりました。決めましょう!」
「はいッ!!」
スカイミラージュを構えて、並んで立つ。
「スカイブルーッ!」
「プリズムホワイトッ!」
「あわわわわッ!ランボーグ!」
片や、要救助者の為に。
片や、遅刻の分を取り戻す為に。
スカイにもプリズムにも、手心を加える理由はない。
カバトンは慌てだしたが、もう遅い。
「「――――プリキュアッ!!」」
「「アップドラフト・シャイニングッッッ!!!」」
無情にも、浄化の光が降り落ちて。
そこそこ頑張って作られたランボーグは、あっという間に浄化されてしまったのだった。
「むきーっ!またしてもー!」
「まだやりますか?」
「今日のところはこれでカンベンしてやる!カバトントン!」
カバトンが退散した後を、束の間睨みつけたスカイは。
完全な撤退を確信してから、はあっと息を吐き出した。
「何とかなりましたね」
「ええ、こんなところにまで来るなんて、まったく・・・・」
額に手を当ててかぶりを振るスカイへ、プリズムは『お疲れ様です』と声をかけた。
「それよりも、プリズムは先に戻っていてください。実は、社長さん一家の前で変身してしまって・・・・」
「ええーっ!?それ、大丈夫なんですか!?」
「今から頑張って大丈夫にしに行きます・・・・!」
仰天するプリズムの隣で、スカイは腹を押さえながらも親指を立てる。
「とにかく、貴女までバレる謂れはないはずですから・・・・さ、早く」
「う、うう・・・・分かりました!気を付けてくださいね!スカイ!」
「はい、また後で」
去っていくプリズムを、手を振って見送り。
変身を解除したソラは、さて、と踵を返した。
◆ ◆ ◆
「社長!みんな無事ですか!?」
「ソラちゃん!」
まさか社長さん一家を放置してバックレるわけにもいかないので、戻ってみると。
みなさん建物の横にいた。
ランボーグを追い払ったので、壊れは個所は元通りだし。
うん、特に危険はないようでよかった。
「い、今のはなんだ!?でっけぇバケモンが消えたと思ったら、壊れた建物もなんもかんも戻るし!!」
社長はこっちを見るなり、両肩を思いっきり掴んでがっくがっく振り回し始める。
グエーッ!!シェイキンッ!!
「っていうかお前さんなにもんだ!?いやぁ、悪人じゃねえのは分かり切ってるんだが!『ぷりきゅあ』ってのは何だい!?」
「あっば、ばばっば・・・・!社長、落ち、ついて!話、します!話しますから!」
「あんたその辺にしな!ソラちゃん話せないよ!」
女将さんがヘルプに入ってくれたことで、何とか解放された。
よ、酔うかと思った・・・・!
回った目を、目頭を揉んで何とか持ち直そうとしていると。
鉄郎くんと目が合う。
ランボーグを浄化したキラキラは、怪我も直してくれるようで。
折れているはずの足は、すっかり治っているようだった。
念のためか、資材の上に片足を上げた状態で座らされているけれども。
・・・・うん、まずは彼と話すべきだな。
「――――初めまして、ソラ・ハレワタールと言います。『スカイランド』っていう、こことは別の世界からやってきました」
目線を合わせて、まずはそう口にする。
「え、そうなの?」
「はい、ですが、帰り道が出来るまで時間が必要で・・・・それまでの間、ここでお世話になることになりました」
目を丸くする鉄郎くんを肯定しながら、話し続ける。
「決してあなたのご両親や、職人さんの様な、大好きな人達を傷つけるつもりはありません」
大事なことを、しっかり伝えて。
「これから、どうぞよろしくお願いします」
頭を垂れて、挨拶すれば。
鉄郎くんは、しばらく戸惑った様子を見せた後。
「よ、よろしく・・・・その、疑ってごめん」
「はい!」
そう言って、手を差し出してくれたのだった。
◆ ◆ ◆
(――――大丈夫かな、ソラさん)
その日の夕方。
ましろは鋳頭鋳造の周辺にやってきていた。
社長一家に、正体を明かしてしまったというソラ。
『何とかする』と言っていた彼女だったが、やっぱり心配だったので様子を伺いに来たのだ。
物陰から、そおっとソラの職場を覗いてみると。
「――――いやぁ、一時はどうなるかと思った!」
「ああ、ぼっちゃんも何とか無事でよかった!」
「プリキュアだっけか、来てくれて助かったなぁ」
元気な職人たちが、口々にランボーグ襲来のことを言いながら。
退勤していた。
「みなさん、お疲れ様です!」
「おおっ、ソラちゃん!」
「いよっ、今日のMVP!」
(そ、ソラさん・・・・!?)
屈強な男たちに交じって、ソラも出てくる。
『MVP』だなんてやんやの声をかけられる彼女に、すわ秘密がバレたのかと戦慄するましろだったが。
「しっかし、無茶しやがって!このこの!」
「ぷりきゅあだったか、そいつが来なかったら危なかったぞ!」
「でもよぉくやった!」
「あわわ・・・・!」
職人たちは、どうやら知らない様だ。
さすがに社長一家には話しただろうが、大勢の人目にさらされる事態にはならなかったようで。
ましろはほっと息を吐いた。
(よかったぁ・・・・みんなにバレたわけじゃなさそう・・・・)
この分なら、ましろも余裕を持って詳しい報告を聞けそうである。
職場の同僚たちと笑い合うソラを、もう少しだけ見守っていたましろだったが。
「もー!やめてくださいよー!あははっ!」
屈託なく笑う彼女を見ている内に、段々と笑みが保てなくなってきて。
気付くと、胸に重たいものが渦巻き始めていた。
(いや、別におかしい光景じゃないよね?職人さんたちからすれば、『活躍したけど無茶やった新人』なんだし、あれくらい撫でまわすことだって・・・・)
かぶりを振って、渦を断ち切ろうとするましろだが。
むしろ増していくばかりで、どうにも出来ない。
(なんで・・・・?)
段々沈んでいく体に、戸惑いを隠せない。
折れる膝が、まるで胸中の渦に敗北してしまったようで。
ますます動揺して。
ましろは胸元を握りしめた。
(わたし、どうしちゃったの・・・・!?)
自問自答しても、答えは出ないまま。
夕焼けに染まる街角で。
ましろは、正体に見当もつかない『重たい渦』に。
一人、狼狽えていた。
おや ? 虹ヶ丘ましろ の ようす が ? ▼