誠にありがとうございます。
――――異世界転生。
この五文字に心を躍らせる人は、ごまんといることだろう。
強大な力で好き放題して、『俺TUEEEEE!!』したり、現代の知識でちょっと楽しつつのんびりしたり。
見下されている能力で成り上がる『ざまぁ展開』が好きな人もいるだろう。
しかし、実際に経験してみたいかと聞かれて、首を縦に振る人はどれほどいるだろうか。
少なくとも自分は、横に振るタイプの人間だった。
いや、ホントに無理です。
勘弁してつかぁさい・・・・(土下座)
とんでもねぇモンスターに立ち向かうとか、世界平和の為に奔走するとか。
ましてや内政で活躍なんて、無理の中の無理。
ああいうのは実際に経験するんじゃなくて、フィクションとして楽しむのが一番なんだよ。
私は、そこそこのお給料で、治安のいいところで、趣味をのんびり楽しめればそれでよかった。
それで、よかったのに。
(なんで、私なんだ)
いつも通り仕事して、いつも通り寝ただけなのに。
いざ起きてみれば、底なしの天空に浮かぶ国『スカイランド』と来たもんだ。
しかも、よりにもよって『憑依』。
未来に向かってひたむきに努力していた幼子を犠牲にしてのトリップ。
あまりにも惨過ぎて吐いた。
なんでや、なんで憑依なんや・・・・。
せめて新しい命として転生するんじゃダメやったんか・・・・。
とはいえ、具体的な案もなにもない状態でうだうだ悩んだところで。
事態はなにも変わらないのである。
――――
どうしたらいいのか、何を成せばいいのか。
道を示してくれたのは、
かつて、命の危険にさらされたところを、『本物のヒーロー』に救われたという彼女は。
以来、『ヒーロー』を目指して鍛錬の日々だったらしい。
その中で大切にしていたのが、『ヒーロー手帳』。
日々の修行の中で、大切だと思ったことを書き留めている様だった。
『読み書きすら忘れた記憶喪失』として振る舞っていた私は、スカイランドの文字を必死に勉強して。
手帳を読み解いた。
『どんなに強い相手でも、最後まで正しいことをやり抜く』
『高い空を怖がるようでは、ヒーローは務まらない』
『泣いている子どもを見捨てない』
『約束は、絶対に守る』
――――眩しかった、尊かった。
そして自分のやったことをますます自覚して、また吐いた。
だけど、方針が定まった瞬間でもあった。
盗人の分際で、何を抜かすと言われてもしょうがない。
だけど、他に道はない様に思えた。
鍛えて、鍛えて、鍛え上げて。
そして、必ず。
――――『ソラ・ハレワタール』を、ヒーローにする。
それが、私の目標になったのだ。
「ぅひいいいいい~~~~ッ!!?」
まあ、早速前途多難なんですけどネー!!!!(やけくそ)
落ちる落ちる落ちる落ちる!!
このままじゃ赤ちゃんと仲良くあらびきミンチだ!!
流石にヤダ!!
「ふ、よっと!」
誘拐被害者の赤ちゃんを抱きなおして、すっかり手に馴染んだ愛刀を引き抜く。
おおよその着地点を見下ろしてみると、こちらを見上げている女の子と目が遭った。
「ッそこの人!!三歩後ろに!!」
「え、わ、わたし!?は、はいっ!!」
よし、これで人的被害はナシ!
「――――破魔ッ」
剣を、振り上げて。
「竜王刃ッッ!!!」
激突寸前に合わせて、技を叩き込んだ。
◆ ◆ ◆
――――虹ヶ丘ましろは、ソラシド市に住むごく普通の女の子だ。
この日は、祖母に頼まれたおつかいで街に出ていた。
「『干したカエル』って、どこで買えるんだろう?」
買い物メモを見返して、首を傾げていると。
「あれ?」
何かが落ちて来たことに気付く。
拾い上げてみると、見たことのない文字が書かれている。
少しだけ中身を見てみれば、かわいらしいイラストと、やはり読めない文字が書かれていた。
「なんだろう、どこから・・・・?」
また首を傾げながら上を見上げると。
――――まさに落ちてくる女性と、目が遭った。
「ッそこの人!!三歩後ろに!!」
「え、わ、わたし!?は、はいっ!!」
話しかけられると同時に、剣を引き抜くのが見えて。
言う通りに慌てて後ろに下がった。
「――――破魔ッ」
女性が、剣を振り上げて。
「竜王刃ッッ!!!」
どん、と。
目の前で、煙と衝撃波。
「え、えええええ・・・・!?」
他の通行人も、なんだなんだとざわつく中で。
「げほ、げほっ・・・・ッあー、死ぬかと思った・・・・」
剣を収めながら立ち上がる女性がいた。
この辺りではあまり見ない格好。
「あ」
快晴の空の様な、髪と目の彼女は。
ましろと目が合うなり、声を上げたと思ったら。
「だ、大丈夫でしたか!?怪我とかは!?」
「え、あ、はい!大丈夫です!」
「本当・・・・みたいですね」
あまりの勢いに押されながらも返事をすると、
「っはー!よかったぁ・・・・」
そんな台詞とともに、安堵の息をついたのだった。
「突然ごめんなさい、怪しい者じゃないんです。この子が誘拐されてて、追いかけたらあんな状態で・・・・」
「た、タイム・・・・」
何が、何だか。
分からない。
何で空から降って来たのか、というかその剣は本物なのか。
銃刀法違反じゃないのか。
「っていうか、ここはどこですか?王都まではどう行けば・・・・」
「ターイム!!!」
「アッ、ハイ!!」
キャパオーバーになったましろが、出した結論は。
「――――これ、夢だぁ」
「・・・・なるほど、夢」
だいぶ荒唐無稽なことを言っている自覚はあったが、女性は否定せず乗ってくれた。
「初めまして夢の中の人、虹ヶ丘ましろって言います」
「これはご丁寧にどうも、ソラ・ハレワタールと申します」
「えっと、その子は・・・・?」
挨拶もそこそこに、赤ん坊について聞くと。
女性ことソラは、『ああ』と少し困った顔をして。
「繰り返す形になるのですが、この子、誘拐されていて。私も名前すら知らないんです」
「ええっ、そうなんですか!?大変な目にあったねぇ」
「えるぅー」
ましろが抱かれている赤ん坊に話しかけると、女性はまた『あ』と声を上げた。
「あの、ましろさん。それ」
「え、ああ、これ。もしかしてあなたの?」
女性が指さしたのは、ましろが今しがた拾った不思議な手帳。
「はい!よかった、大事なものなんです」
「そうなんですね、なら、どうぞ」
「ありがとうございます!」
手帳を受け取って、安心した様子で笑う女性。
(剣なんて振り回すから、危ない人かと思ったけど・・・・優しい人なんだなぁ)
そんな彼女を見て、ましろは警戒を解き始めていた。
丁寧な言葉づかい、物腰柔らかい態度。
そして、赤ん坊を慈しむやさしさ。
少なくとも、危険人物ではないと考えていた。
「そうだった、ここがどこか教えて頂けますか?」
「ああ、ここは――――」
話を総合するなら、彼女達は迷子だったと思い出しながら。
ましろは地名を告げようとして。
すぐ脇の道路で、大きな音が響く。
「えっ?」
「・・・・ッ」
ましろは戸惑いに、ソラは視線を鋭くして。
道路を見やれば。
「――――見つけたのねん!」
大柄な男が、睨みつけてきたのだった。
「性懲りもなく追いかけてきましたか!」
「あったり前なのねん!さあ!プリンセスを渡してもうらうのねん!」
「断るッ!」
彼らの会話から、あの男が誘拐犯だと理解したましろも。
身をこわばらせる。
「ふん、その強情。どこまで続くかな!!」
ソラの態度に、心底気分を害した様子の男は。
おもむろに片手を地面に叩きつけた。
「カモーン!アンダーグエナジー!!」
途端に溢れ出す、何か悪い気配を発するもや。
それは明確な意思を持ってうごめくと、近くの工事現場にあった重機に取り付いて。
「――――ランボオオオオオオーグッッ!!!!」
巨大なモンスターへと変化してしまったのだった。
「え、えええええッ!?」
ましろはあまりの非現実的な光景におののき、後ろに思い切り下がる。
頬をつねると、しっかり痛い。
「痛い、夢なのに!もしかして、夢じゃないの!?」
「ッましろさん!この子を!」
パニックになりかけているましろを引き戻す様に、ソラが鋭く声を上げて。
ましろに赤ん坊を手渡す。
「えるうぅ・・・・」
「重ね重ね、すみません。けど、他に頼めそうなのはあなたしかいないんです」
「そ、ソラさんは!?」
赤ん坊を受け取りつつ、ましろが問いかけると。
ソラは、言葉の代わりに剣を抜き放って答えた。
「あいつは私が食い止めます。ましろさんはとにかく遠くへ逃げて下さい!」
「で、でも!」
「早く!!」
ましろの返事を待たず、逃げる人々の流れに逆らって。
ソラは飛び出して行ってしまう。
「はあっ!!」
「ランボーグッ!!」
ソラの剣と、怪物の腕が激突して。
衝撃波が広がった。
「えるうううう!!」
「あ、う・・・・ッ!!」
赤ん坊も泣き出してしまい、もはや逃げるほかないと悟ったましろは。
それでもソラを心配して、何度も振り返りながら。
赤ん坊を落とさないようにしっかり抱えて、走り出した。
◆ ◆ ◆
――――ヒーローを目指し始めた私が、手本としたのは。
前世で見た漫画やアニメで出た修行の数々。
その中でも、『日本一優しい鬼退治』と銘打たれた作品を中心にして。
剣術を習得した。
・・・・・いや、他に参考になりそうなのが無かったんですよ。
それに加えて、知る人ぞ知る『腕立て100回、腹筋100回、スクワット100回の三セット』や。
『一日千回、感謝の正拳突き』などなど。
とにかく思いつくものはガンガン試して実行していった。
結果として、結構な強さを手に入れられたと思う。
「――――はああっ!!」
誘拐犯が生み出した、ショベルカーのバケモンへ。
まずは一閃。
すると、硬い感覚が返ってくる。
・・・・・かっっっっっっったぁ!!?
金属のつもりで叩き込んだのに、それでも斬れないって。
こいつ、ただのバケモンじゃないな!?
「ぬっふふふ!このカバトン様に立てついた事、後悔するのねん!ランボーグ!」
「ラァンボーォーグ!!」
「・・・・ッ」
道路が抉れるくらいの連撃。
瓦礫もバンバン飛び交うので、その中を縫うように駆け抜ける。
・・・・あの子が、ましろさんがどれほど離れられたかもまだ分からない。
とにかく、少しでもこいつらをここに留めないと!
「ランボーッ!!ッグ!!」
両腕を組んでのアームハンマー。
衝撃波が、瓦礫を巻き込みながら迫ってくる。
(――――避けられる)
飛び上がろうとして、
「――――ひいぃッ!」
「・・・・ッ!?」
背後に、逃げ遅れた人がいるのに気付いた。
ダメだ、避けたら当たる!
「――――拙剣無式ッ!!」
ええい、南無三!!
「――――鬼神辟易ッ!!」
迫る衝撃波へ、ありったけの力で攻撃を叩き込む。
中途半端な姿勢から放った所為か、威力が微妙だ・・・・!
攻撃を、殺しきれない!!
集中して、若干スローになった視界で。
こっちに飛んでくる小石が見えて。
「がッ・・・・!」
よけきれず、額に直撃を受けてしまった。
あいったぁー・・・・!
しまった、ふらついて・・・・!
「ぐうッ・・・・!」
がっくり膝をついてしまう。
だいぶ出血している、左目が塞がれてしまった!
「イッヒヒヒ、そこで這いつくばってるのねん!」
くそっ、あいつが行ってしまう!
ましろさん・・・・!!
「あ、あんた、大丈夫か!?」
「・・・・ええ、問題ありません」
庇った一般人が、こちらの怪我を心配してくれたので。
返事しつつ血を拭って、視界を確保する。
「あなたも早く逃げて下さい、ここは危険です」
「あんたは?真面目に大怪我じゃないか!」
「私はまだ、やることがありますので・・・・!」
これ以上引き止められる前に、飛び出す。
・・・・あの子は、ましろさんは。
完全にこちらの都合で巻きこんでしまったのだ。
絶対に傷つけさせるわけにはいかない!
「今行きます、ましろさん!」
あと、名も知らぬ赤ちゃん!
どうか、無事で・・・・!