(――――どうしよう)
虹ヶ丘家。
庭から街を見下ろしながら、少年『ツバサ』は悩んでいた。
ランボーグが出現し、スカイが飛び出していった直後。
元々ましろを心配していたエルも、一瞬の隙をついて街に飛んで行ってしまったのである。
(僕が、ちゃんと見ていなかったから・・・・!)
言い訳になるが、本当に一瞬の出来事だったのだ。
まさか、だっこ紐が飛行形態で自動で飛んでくるなんて。
それにびっくりして、手を離した次の瞬間には。
エルは飛び乗って、スカイの後を追って行ってしまった。
「なんとかして、連れ戻さないと・・・・!」
だけど、どうやって?
考える彼の頬を、風が撫でた。
(――――風を、読むんだ)
父の言葉を、思い出す。
目を閉じて、覚悟を決めた。
「っやああああああ!!」
プニバードの姿で、思いっきり飛び出す。
さくを飛び越え、宙に出る。
・・・・までは、よかった。
「あれ?あれっ?あれぇっ!?」
悲しいかな。
飛ぶためではない羽を何度バタつかせても、揚力を得ることは出来ず。
「あああああああああ!!」
哀れ、情けなく落下する他なかった。
自身のまんまるとした体が幸いして、大事に至らなかったが。
「・・・・やっぱりプニバード族は、何をやっても空を飛べないのかな」
上空を飛ぶカラスを見て、悲しい気持ちになってくる。
しかし、嘆いたところで状況は変わらない。
かぶりを振って、気持ちを切り替えた。
「どうしよう、歩いて行ってたんじゃ間に合わないぞ・・・・!」
とはいえ、虹ヶ丘家のある丘から街まで、かなりの距離がある。
律儀に歩いて行ったとして、その間にエルが捕まり、プリキュアがやられてしまったのでは元も子もない。
少し考えたツバサは、やがて妙案を思いついた。
「よっと!」
体を縮めて、まあるくなる。
そのまま坂を転がっていけば、歩くよりもはるかに速く動くことが出来たのだった。
「――――ム」
「――――ズム」
「――――リズム」
「――――プリズム」
「――――プリズム!」
「・・・・っは!」
――――プリズムは、自分を呼ぶ声で目を覚ました。
ランボーグの攻撃をもろに受けて、意識を飛ばしてしまっていたらしい。
何があったと周囲を見渡しながら、声のする方を見上げれば。
「よかった、起きましたね」
「スカイ・・・・!?」
こちらを見下ろして安堵する顔。
その頬には赤い線が走っていて、液体らしきものも流れている。
それが血だと分かるのに、時間はかからなかった。
どうやらここは、ビルの内部の様だ。
まだまだサラリーマンが働いていただろうオフィスには大穴が開き、風が吹き込んできている。
恐らく、スカイもろともここへ叩き込まれたのだろう。
ガラスやデスク、パソコンに筆記用具が、辺り一面に散乱していた。
「わたしをかばったんですか!?」
「はい、プリズムは避けられそうになかったので・・・・間に合って良かった」
今プリズムは、座ったスカイにもたれかかった姿勢にあるらしく。
体には、頭からすっぽりとスカイのマントがかぶせられている。
思ったよりも怪我が少ないのは、これのお陰だとすぐに理解した。
「ご、ごめんなさい。わたしの所為で、こんな・・・・!」
「このくらい掠り傷です、なんてことありませんよ」
「でも・・・・!」
元はと言えば、自分が飛び出したことが原因なのだ。
一緒に出撃して、最初から連携がとれていれば。
こんな、余計な怪我を負わせずに済んだかもしれないのに・・・・!!
「――――ましろさん」
心を乱していたところへ、穏やかに名前を呼ばれた。
「ツバサくんのこと、すみませんでした。隠し事をされた貴女がどう思うか、考えが足りなかった」
「・・・・ソラさん」
零れそうになっていた、プリズムの涙を拭いながら。
スカイはまっすぐ目を合わせてくる。
「恨み言も、苦言も、あとで全部受け止めます。だから今は、力を貸してください」
ほとんどわがままで飛び出したようなものなのに、それでも信頼を向けてくれることが嬉しくて。
「ッはい・・・・やりましょう!」
おざなりにも涙を拭って、プリズムは力強く頷いた。
「――――ッましろん!大丈夫!?」
「あげはちゃん!?」
決意を新たにしていたところへ、あげはが駆け込んできた。
避難で誰もいなくなったからか、ビルへ容易に入ることが出来たらしい。
「スカイもいたんだ、大丈夫?怪我とかない!?」
「掠り傷は負いましたが、それくらいです。ありがとう、あげはさん」
プリズムに降りてもらい、スカイも立ち上がる。
何でもないように笑うスカイだったが、彼女がもたれかかっていたキャビネットが。
しっかり赤く汚れているのを目ざとく見つけたあげはは。
スカイにつかみかかって、背中を見やって。
「これの、どこが、掠り傷なのかな?」
ガラスや筆記用具で引っかけ、がっつり傷だらけなスカイの背中。
なんなら所々に刺さってる。
「あ、はは・・・・見た目が派手なだけで、血は止めてますから・・・・」
あげはのジトッと責める視線に耐え切れず、スカイは乾いた笑い声を上げて目を逸らす。
実際、スカイは出血を意識的に止めることが出来ている。
『全集中の呼吸』を応用した力業ではあるが。
当然、あげはがそんなもん認めるはずもなく。
「止めてますからじゃないの!応急処置するよ!」
「ええっ、そんな無体、ウワーッ!?」
「プリズム、そこに救急箱見かけたから持ってきて!」
「うん!分かった!」
スカイの背中を目の当たりにして、声を失っていたプリズムも。
飛ばされたあげはの一喝につられて、気合十分な返事。
指示に従って走り出す。
ちなみにスカイは身ぐるみ引っぺがされて情けない声を上げた。
「急ぐよ!さっきヨヨさんから電話があって、エルちゃんが家を飛び出しちゃったって、ツバサって子もそれを追いかけたみたい!」
「エルちゃんと、ツバサくんが!?ッいったぁ!!」
あげはに教えられた事態に驚愕したスカイ。
気が緩んだせいか、背中の痛みがダイレクトに自己主張して。
たまらず悲鳴を上げてしまった。
「やっぱり痛いんじゃないですか!」
「い、いや、今のはあげはさんが「はいはい、怪我人はおとなしくしてるー」ああああああ!?」
言い訳のしようがない苦悶に、プリズムに詰め寄られる横で。
容赦なく消毒液を吹き付けていくあげはに、うめき声を上げるスカイ。
今後の力関係が見えてくるような、気の抜けた光景に。
プリズムは良い具合に緊張がほぐれていくのを実感していく。
「同じ大人だからさ、カッコつけたいのは分かるけど、やせ我慢はナシだよ」
「押忍・・・・!」
「ふふっ・・・・」
最終的にはしわしわな顔になってしまったスカイを見て、思わず笑ってしまったのであった。
「はい、おしまい!」
「・・・・ありがとうございます」
ガーゼでは足りないので、自前のタオルを包帯で固定した背中を。
ダメージが出ない程度にあげはが叩いて。
激励を送ってくれた彼女に、コスチュームを着なおしたスカイが微笑む。
「改めて行きましょう、プリズム」
「はいっ!」
並んで割れた窓から顔を出せば、飛び込んできたのは。
「ッエルちゃん!?」
「ツバサくん!!」
時は、少しばかり遡る。
プリズムをかばったスカイもろとも、ビルの中へ叩き込むことに成功したカバトン。
確かなダメージに笑みを深めるも、『あいつらもTUEEEからな』としっかり学習していた彼は。
油断しないようにと気を引き締めていた。
と、そこへ鳴り響く警報。
見れば、そもそもの目的であるエルが。
のこのこと単独行動しているではないか。
ビルの中で動かないプリキュアと、エルとを見比べて。
「・・・・先にこっちだな」
至極妥当な判断を下した。
早速UFOランボーグを操縦しようとすると、また警報。
「んもう!今度はなんなのねん!」
文句を言いつつ、そちらもしっかりと確認してみれば。
モニターに映ったのは、まるくてちっこい鳥だった。
『カバトン!エルちゃんに手を出すな!僕が相手だ!』
果敢にもこちらを睨みつけてくるが、カバトンにとって屁でもない相手。
よって、取る対応と言えば。
『邪魔だ!!脇役は引っ込んでろ!!』
容赦なくUFOのビームを浴びせることだった。
「うわああああああ!!」
一方のツバサは大ピンチだ。
威勢よく啖呵を切ったのは良いものの、何の作戦もないままに『相手になる』とか言ったらそりゃこうなる。
悲鳴を上げながら、自分の情けなさに泣きそうになりながら。
鳥の姿で必死に逃げ回っていると。
「えるるー!」
「え、エルちゃん!」
悲鳴を聞きつけたらしいエルが、文字通り飛んできた。
「ここは危ないよ!早く逃げて!」
「える!えあーう!」
ここから逃げる様に促すも、エルは中々撤退してくれない。
どころか、何かを懸命に訴えている。
「・・・・乗せてくれるの?」
「えあい!!」
エルの表情と、傾いただっこ紐から推測。
おずおず問いかけると、エルは力強く頷いたのだった。
他に道もない。
ツバサはがむしゃらに飛び乗った。
エルはだっこ紐を操り、全速で離脱を試みるが。
思惑とは裏腹に、速度が落ちて行ってしまう。
「もしかして、僕が乗っちゃったから・・・・!?」
このままではいけないと、ツバサは気付くも。
一歩遅かった。
『チャンス!掃除機光線なのねん!』
好機を逃さず、カバトンはUFOを操作。
緑色の光線を発射して。
ツバサごとエルを手中に収めてしまうのだった。
◆ ◆ ◆
くそ、なんてこった。
ツバサくんとエルちゃんが、カバトンに捕まった!
いや、エルちゃん一人で捕らえられるよりはずっといいけれど。
どちらにせよ、まずい状況だ・・・・!
ご丁寧に、UFOランボーグはこれ見よがしに高い上空へ飛んで行ってしまった。
まずいぞ、これじゃ攻撃が届かない・・・・!!
「ど、どうしたら・・・・!?」
「ねえ、スカイ!あそこまで届く、なんかすっごい技あったりしない!?」
狼狽えるプリズムの隣で、一緒に上空を見上げていたあげはさんが問いかけてくる。
・・・・あそこまで、届きうる技。
ないことはないんだけど・・・・。
「・・・・ありは、します。ツバサくんとエルちゃんもろともでよければ、撃ち落とせます」
「ヨシ!じゃあ地道に行こうか!」
そのことを報告すると、親指を立てたあげはさん。
何やら作戦があるようだ。
導かれるがままに、三人で屋上へ。
今いるビルでは高度が足りないとのことなので、そこからさらに移動する。
「――――行きますよ、プリズム」
「はい!」
道中授けられた作戦を、実行に移す。
まず二人一緒に飛んで、プリズムに押し出してもらう形で互いを蹴り合う。
そこへさらに、プリズムショットを打ってもらって、それを足場にもっと跳ぶッ!!
「はあっ!!」
作戦通り、UFOに肉薄することが出来た!
あとは剣を突き立てるなりして、掴まれれば御の字・・・・。
「あっ!?」
と、フラグを立てたのがいけなかったらしい。
あと少しで届きそうなタイミングで、UFOはひょいと距離を取ってしまった。
コラー!それ卑怯だぞーッ!
「それはズル過ぎないかな!?」
「そーだそーだ!卑怯だぞー!!」
プリズムとあげはさんが、元気に抗議しているのを聞きながら。
なんとか体勢を立て直して着地の準備。
「スカイ、使って!」
と、プリズムがちいさな光弾をいくつも打ち出してきた。
プリズムを信じて踏むと、しっかり足場になってくれる。
すぐに消えちゃうから、リズミカルに移動しないと落下しちゃうけど。
ないよりはずっとマシだ。
「ありがとうございます、助かりました」
なんとか着地するけど、屋上には大きな落下跡。
プリズムを見れば、少し傷がついているのが見えた。
・・・・・ふむ。
「――――中止ッ!」
考え込む私より早く、あげはさんがそう結論付ける。
「ごめん、やっぱり無理があった。二人にこんな危ないことは・・・・」
「まだたった一回じゃないですか、試行錯誤の余地は十分にありますよ」
「そうだよあげはちゃん!それに、他にいい方法何て思いつかないし」
何より。
「信じてるから!」「信じていますから」
プリズムも同じ気持ちだったようで。
声が重なった後、こちらを見て嬉しそうににっこりした。
うん、まだまだ大丈夫そうだね。
「ただ、次飛び出す役はプリズムの方がいいかもしれません」
「えっ?」
「先ほど跳んで分かりましたが・・・・私の脚力に、プリズムが押し負ける感覚がありました」
「・・・・ッ」
さっき気付いたことを報告すると、プリズムも自覚があったのかしょぼんとする。
ああ、ごめんよ。
責めてるわけじゃないんだ。
「それでも十分に距離を稼げたので悪いわけではありませんが・・・・先ほどの様に逃げられたら、意味はないでしょう。だったら、遠距離の攻撃手段があるプリズムを飛ばした方がまだいいはずです」
「でも、それだとスカイが・・・・!」
「そうだよ、もう結構な怪我してんじゃん!」
既にそこそこ怪我しているからか。
あげはさんと一緒に案じてくれるけれども・・・・。
「私は鍛えていますから、着地くらい自分で何とかしますよ。それに・・・・」
すぐ横の、落下跡を見やってから。
プリズムへ視線を戻して。
「受け身をうまく取れないと、いずれそれどころではない大怪我を負いますよ」
「う・・・・」
私のバカみたいなフィジカルの所為で、仲間を傷つけたとあっちゃ。
悲しくなるどころじゃないからね。
プリズムには悪いけど、ここは心を鬼にします。
「・・・・分かりました」
対するプリズムの目は、やる気に満ちている。
・・・・よかった。
ちょっと言い過ぎたかなと思っていたから。
厳しい言葉は、今回いい方向に作用してくれたらしい。
幸いUFO型ランボーグは、エルちゃんを手に入れたにも関わらず、未だ健在だ。
エルちゃんを連れて行くのに準備がいるのか、あるいは・・・・。
どちらにせよ、ツバサくん共々直ちに救出するに越したことはないんだけど。
「託しましたよ、プリズム」
「託されました、スカイ!」
二人で並んで、上空を見上げた。