「ただいま戻りました」
「あ、おかえりなさい!」
朝練から戻ると、ツバサくんが出迎えてくれた。
人間の姿でいることがすっかりおなじみとなったこの頃は、王様・王妃様に向けた『エルちゃん成長記録』への書き込みに参加するようになった。
ちなみに。
わたしとましろさんは、身長・体重など基本的なデータ以外は一文から二文程度のコメントで済ませているけれど。
ツバサくんはその日の体温や睡眠時間まで、事細かに書き込んでいる。
空を飛ぶという夢の他に、『エルちゃんのナイトになる』という信念も持ったが故なんだろうけど。
それにしちゃ熱量が半端なくないかい?君・・・・。
いや、一人くらい几帳面なのがいた方がいいんだろうけども。
「えるー!」
「ただいま、エルちゃん」
そんなナイトの熱量なんぞ露知らず。
我らがエルちゃんは相変わらずキュートである。
両手を伸ばしてだっこを所望してきたので、応じてあげると。
楽しそうに歓声を上げた。
うーん、今日もかわいいぞ!プリンセス!
「あ、ソラさん。おかえりなさい」
「ただいま戻りました」
続けて、ダイニングからましろさんが顔を覗かせて来た。
「すぐに着替えます。朝ごはん、何かお手伝いできることはありませんか?」
「もう出来るので、大丈夫ですよ。ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ。いつもおいしいごはんをありがとうございます」
ツバサくんにエルちゃんをパスしつつ、ご用命は無いか聞いてみるけれど。
もうほとんど終わっている様だな。
ひとまず、日ごろのお礼を伝えると、ましろさんはにっこり笑ったのだった。
――――この前の夜には、あんなことがあったけれど。
結局、ましろさんには何も追及しないまま、いつも通りを貫いている。
・・・・いや、あの。
うん、見える。
全国の皆々様からブーイングとともに拳が飛んでくるのが見える・・・・!
でも、ちょっと、待ってほしい・・・・!(切実)
寝込みにキッスだなんて大胆なことしてきたましろさんだけども。
確かに『好き』と言ったけどそれだけで、誰が好きかと明言してはなくない?
呟いた言葉の対象が、私ではない可能性は十分にあり得るんだ。
唇だって、私のそれじゃなくて頬に当たったわけだしね。
あの後すぐ寝ちゃったみたいだし、もしかしたら寝ぼけて他の意中の人と間違えたのかも。
何より。
私が意中であろうがなかろうが、年頃の娘さんが『お前夜中にキスしてきただろ』なんて言われて。
果たして平静を保っていられるだろうか?
私なら、羞恥のあまりその場で舌を噛み切る自信がある(ドン!)
と、いうわけで。
この件は、一旦保留。
変わらず妹分として、見守り続けることにした次第なのである。
(大体、ましろさんの想いが本当だとしても、未成年が成人に恋するなんて、どんな苦労をさせてしまうか・・・・)
・・・・そもそもの話。
私はいずれスカイランドへ帰る身だ。
ヨヨさんの話によれば、道の作成にはまだ時間がかかるようだけど。
それが明日である場合は?何なら今日にでも完成するのだってあり得る。
往来が自由に出来る保証もない。
そんな、不安定な中で。
想いに応えたって。
きっと、辛い思いをさせるだけだ。
・・・・何より。
(終わりが見え切っている恋なんて、そんなのあんまりじゃないか)
あんなにいい子に、そんな悲しい思いをさせるなんて。
あんまりじゃないか。
◆ ◆ ◆
「――――ツバサくんの歓迎会、ですか」
「はい!」
団らんの最中、ましろの提案にソラが目を丸くすると。
ましろは大きく頷く。
「ツバサくんもプリキュアに加わって、遠慮なく一緒に暮らせるようになりましたし。これからもよろしくねってことで、パーティをしたいなって!」
「なるほど、いいですね」
そもそも、二人の出会いはお世辞にもいい印象とは言えない。
これを気に、もっと仲良くなってくれればと考えたソラも頷くと。
おもむろに、ましろの横に視線を向けて。
「ツバサくんは?」
「えっ?」
思わず振り向いたましろの目の前で、ぽんっと煙が上がって。
鳥小屋から、ツバサが現れた。
「うわぁっ!?ツバサくん、そこにいたんだ!?」
『まだちょっと慣れないな』と、苦笑いするましろ。
ソラも微笑まし気に見ていると、ツバサは眉を少し下げた。
「あの、そこまで気を遣っていただかなくても」
「気を遣ってなんていませんよ、私もやりたいです」
「えあーい!」
「ほら、エルちゃんも賛成みたいですよ?」
ソラの膝の上、笑顔で手足をパタパタさせるエルを見て。
ツバサの中から、遠慮の気持ちはなくなったらしい。
「迷惑だった?」
「いえ、そんな!・・・・嬉しい、です!」
ましろの問いかけを、両手を振って否定するツバサ。
照れくさそうだが、嬉しいのは本心からの言葉だった。
「では、開催決定ですね」
「それじゃあ、早速準備に取り掛かりましょう!」
「僕も手伝います!」
やる気十分に立ち上がったソラとましろだったが。
主役であるツバサの申し出に、きょとんとしてしまった。
「ツバサくんの為のパーティなんですから、ゆっくりしていても構わないんですよ?」
「はい、でも、何かしていないと落ち着かなくて・・・・」
「じゃあ、手伝ってもらいましょうよ!」
ソラの提案に、ツバサがやんわり首を横に振るのを見て。
アイデアを思い付いたましろは、そう進言する。
「ツバサくんの希望を聞きながら準備したら、きっと素敵なパーティになると思うんです!」
「・・・・確かに。こういったイベントは、準備している時が一番楽しいとも言いますからね」
ソラも一つ頷いて、にっこり笑う。
「それじゃあ、三人で準備しましょー!」
「「「おー!」」」
◆ ◆ ◆
急遽決まったツバサくんの歓迎会。
三人で頭を突き合わせて、飾りつけやレイアウトを考えつつ。
ついでにツバサくんの達筆ぶりに感心しつつ。
アイデアを詰めていく。
そんな中、パーティに欠かせない料理の話になった。
「ツバサくん、何か食べたいものはある?」
「そうですねぇ、やっぱりお祝い事と言えばヤーキターイです!」
ましろさんが問いかけると、ツバサくんはうきうきしながら料理の名前を口にした。
「そっかぁ、ヤーキターイかぁ・・・・うん?ヤーキターイ?」
きょとん、と頭にはてなを浮かべるましろさん。
・・・・・そりゃそうだ。
こっちにはない料理なんだもの。
「ソラさん知ってます?」
「プニバード族のお祝い料理、というのは聞いていますが。その程度で・・・・」
と、いうことで。
改めてツバサくんから話を聞いてみる。
曰く、『外はふわふわ、中はしっとり甘くて、すごくおいしい』とのこと。
「最後に食べたのは、ここに来る少し前だったなぁ」
なんでも、絵のコンクールで入選した時。
そのお祝いで、ご家族みんなで食べたとか。
「あの時食べたヤーキターイ、すっごくおいしかった・・・・!」
「そういえばツバサくん、こっちに来て長いんだっけ?やっぱり、パパやママに会えなくて寂しい?」
懐かしそうに思い出を語るツバサくんへ、ましろさんが問いかけると。
彼は慌てて手を振って、
「いえ、あの。両親とはミラーパッドで連絡も取れているので、ホームシックとかじゃないんですよ」
「そっか、じゃあ無事なのも知っているんだね」
「はい!」
私は元から知っていたとはいえ、安心できる話だ。
嵐の日に一人息子が行方不明だなんて、どれほどの心労だったか・・・・。
「ねえ、作ってみようよ!ヤーキターイ!」
なんて、一人でしみじみしていると、ましろさんが提案しているのが聞こえた。
「ええっ、でも。僕もレシピを知っているわけじゃあ・・・・」
「けれど、チャレンジしてみるのは良いかもしれませんね」
「でしょー!?」
悪くないと思ったので、私も賛成すると。
ツバサくんはなおも『でも』と遠慮する。
・・・・そんな彼に、ヒーロー手帳の一ページを見せた。
「『一度決めたことは、最後までやり抜く』、貴方に教わったことです」
「ソラさん」
「せっかくの歓迎会ですし、出来る限りのことはやらせてください」
「うんうん!」
二人係で説得すると、さすがのツバサくんもこれ以上の遠慮は無礼だと思った様だ。
「・・・・分かりました、やってみましょう!」
そんなこんなで。
ここに、『ヤーキターイ再現プロジェクト』が始まったのである・・・・!
なんて、脳内で中島〇ゆきを流しておどけつつ。
やる気に溢れた年下ズに、微笑ましい気持ちになっていたのであった。
何はともあれ、まずはヤーキターイがどんなものかを知らなければ始まらない。
ということで、まずは我らが知恵袋であるヨヨさんに聞いてみることにした。
「――――あったわ、ヤーキターイの作り方」
ヨヨさんはミラーパッドを操作すると、画像を見せてくれた。
っていうかすごいな、ミラーパッド。
スカイランドと通信出来て、街中をあちこち見ることも出来て。
更に検索機能もついてるなんて・・・・。
負けてられないな!ap〇le!!
「完成すると、こーんな形になるみたいよ」
そういえば私も初めて見るなと思いながら、覗き込んだ画面には。
「「えっ」」
「そうそう!こんな見た目になるんです!スカイランドでも、プニバード族だけに伝わる特別な料理なんですよ!」
思わず、ましろさんと一緒に声を上げてしまった。
ツバサくんは、自慢げにしてるけど。
これは・・・・。
「わたし達の世界で言うところの、たい焼きだね」
「はい、私もバイト先でごちそうになりました。まさかここまで似ているとは・・・・」
「えっ」
今度は、ツバサくんがぽかんとする番だ。
そんな私達を微笑まし気に見ながら、ヨヨさんは解説を続けてくれる。
「確かに、こちらの世界で言うたい焼きにとてもよく似ているけれど、ヤーキターイは材料にスカイランドのものを使うから、少しだけ味が違うの」
「ああ、やっぱりそうなんですね」
こちらの世界に来てから、いつも思っていることだけれど。
ほぼほぼ同じ見た目で、似たような名前の料理でも。
実際に口にすると、少しだけ味が違うんだよなぁ。
いや、どちらもおいしいからいいんだけどさ。
その辺を自覚すると、やっぱり異世界なんだなとしみじみするのです・・・・。
「よおーっし!それじゃあ、まずはこっちの材料でたい焼きを作ってみるから。ツバサくん、食べてみて!」
「はい、分かりました!」
な、何はともあれ(二回目)。
ましろさん主導の下、まずはたい焼きづくりを始めることになったのである。
・・・・ところで。
「たい焼きって、確か専用の焼き型が必要だったと記憶しているんですが」
「えへへ、実はお菓子作りに凝っていた時、買ったのがあるんです」
「なるほど」