めっちゃごついの乗り回しますやん、あげはさん・・・・。
「もー!離してくださーい!」
その日、朝練から戻ると賑やかな声が出迎えてくれた。
リビングに向かうと、今まさにツバサくんが人間に戻るところで。
「ワオ!今のどうやったの!?」
・・・・彼の対面にあげはさんがいたので。
なんとなく事態を察した。
「おはようございます、あげはさん」
「あ、ソラちゃんおはよー!」
元気よく挨拶を返してくれたあげはさんは、ぴゃっとこちらへ近づいて。
「っていうか、ソラちゃんほんとに鍛えてるね!お腹とか割れてたりするの?」
「まあ、それなりに」
「わー!見せて見せて!」
「やめてくださいツバサくんもいるのに!!」
「おっと!そうだった!」
いいって言う前からジャージをめくろうとしてくるので、全力で阻止した。
見せるわけないでしょー!
古傷生傷だらけの体なんてみせたら、なんて追及されるか!
自慢じゃないけど、あのましろさんですら驚愕のあまり絶句したんだぞ!
自慢じゃないけど!!(泣)
「そういえば、君とちゃんと話すのは初めましてだよねー?私、聖あげは!よろしく!」
「よ、よろしくお願いします」
あげはさんの自己紹介に、こっくり頷いて返事するツバサくん。
ぐいぐい来るけど、こっちの話はちゃんと聞いてくれるんだよな。
お陰でいつも助かっております・・・・。
「こないだの活躍見てたよー!ましろんからも色々聞いてる!ねねね!鳥でも朝弱かったりするの?後でもう一度鳥になるのやってみせて!」
「はいはいはいそこまでー!ツバサくん困ってますから!」
「ああ、ごめんごめん!つい!」
とはいえ、このままではツバサくんがキャパオーバーになってしまう。
マシンガントークが止まる気配を見せないので、あげはさんを物理的に引き離すと。
ツバサくんは目に見えてほっとしていた。
お疲れさん・・・・。
「おはよー・・・・あれ、あげはちゃん?」
「あ、ましろんおっはよー!」
ここで、ましろさんが降りて来た。
まあ、これだけ大騒ぎしていれば気付くか。
「こんな朝早くにどうしたの?」
至極当然の疑問をましろさんぶつけると、あげはさんは得意げに笑って。
「みんなで山登り、いっくよー!」
はい、というわけで。
『たまにはみんなで出かけたいじゃん?』というあげはさんの提案で、急遽決まった山登り。
現在、目的地である『らそ山』まで、あげはさんの愛車で移動中である。
言い出しっぺなだけあって、エルちゃん様のチャイルドシートも用意してくれていた。
お陰でエルちゃんはとってもご機嫌だ。
・・・・それにしても。
「速いなぁ・・・・」
「スカイランドには、車はないんですよね?」
「ああ、はい。向こうでは陸も空も、鳥が主な移動手段だったので」
今となっては懐かしいな。
ダチョウの親戚みたいな鳥に乗って、こっちのお父さんがよく色んなところに連れて行ってくれたんだ。
・・・・記憶を無くしたと言い張る小娘を、静かに気遣ってくれる。
本当にいい人だった。
「鳥もいいけどー、私のピヨたんもあげあげできゃわわーでしょー?」
「ふふ、はい。頼もしい見た目ですよね」
明らかにオフロード使用のごっつい車に、初心者マークが張ってあった時は目を剥いたけどな!
普通、最初の車って軽みたいな扱いやすいものからじゃないんか・・・・?
どうもこの世界、私が知っている年代から随分先をいっている様だからなぁ。
この頃の常識に、おばちゃんついていけません・・・・。
「あ、見えて来たよー!」
なんてしょんぼりしているうちについたようだ。
車を降りてみれば、目の前にはでっかい山。
出かける前にましろさんが教えてくれたところに寄ると。
初心者から中級者向けの、比較的昇り易い山ということだった。
家族連れも多いし、その辺の需要もあるんだろうな。
と、考えたところで。
ツバサくんが、大きなリュックを背負っていることに気付いて。
「ツバサくん、持ちますよ」
明らかに子どもに背負わせる量じゃないなと、手伝いを申し出たけど。
「ありがとうございます、でも、大丈夫です」
「けど、だいぶ大荷物ですよ?」
「中身はプリンセスのものが大半ですから、見た目よりもそんなに重くないんですよ。何より、ナイトとしてプリンセスの荷物を持つのは当然のことです!」
そう、得意げに言われてしまったので。
好きにさせた方がいいかなと判断した。
「えあーい!える!える!」
何はともあれ、登山口を目指していると。
急に荒ぶり出すエルちゃん。
何事かと、ちいちゃい手をぱたぱたさせている先を、みんなで見てみると。
「『らそ山クエスト』?」
どうやら、謎解きをしつつ頂上を目指そうというイベントのようだ。
見事クリアした人には、らそ山の公式キャラクター『ソラ吾郎』の非売品限定グッズをプレゼントと書いてある。
エルちゃんはどうやら、このソラ吾郎がツボに入ったらしい。
「エルちゃん、ソラ吾郎好きなんですか?」
「えるー!」
聞いてみると、元気のいいお返事。
うーん!そっかそっか!
・・・・それにしても、この鳥。
「なんとなく少年に似てるね、このキャラクター!」
「似てませんよ!ふんっ!」
あっ、あげはさん!
思ってても言わなかったことを!!
ツバサくんはへそを曲げてそっぽ向いちゃうし・・・・。
なぁんかこの二人、でこぼこっていうか。
人格の方向性が違うのかな。
出かける時からずっとこの調子だ。
大丈夫だろうか・・・・。
とはいえ、ただ上るよりも面白そうだ。
「それじゃあ、エルちゃんの為にも、謎解きしよっか!?」
「「「おー!」」」
「えるー!」
みんなも同じ意見だったようで。
あげはさんの音頭に、手を挙げた。
「――――コースは二つあるみたいだね」
一つは花畑やアスレチックがある、ファミリー向けの『ゆったり楽々コース』。
もう一つは、まさしく登山道!な登りがいのありそうな道だ。
・・・・・うーん、こっちに来てからあんまり派手な鍛錬が出来ていないし。
個人的には登山道を行きたいけど・・・・。
でも今日はみんなで来てるからな、さすがに遠慮を・・・・。
と、思っていると。
「ソラちゃん、エルちゃんは私が見てるから、登りたい方行ってきなよ」
「え?」
「顔に出てたぞー?」
びっくりしてあげはさんを見ると、彼女は自分のほっぺたをつついていたずらっぽく笑っている。
「あ、はは。面目ない」
「いーのいーの!せっかくのお出かけなんだから、遠慮はナシ!」
「はい、すみません」
お言葉に甘えて、エルちゃんをあげはさんにバトンタッチ。
『いってらっしゃーい!』とばかりに手を振るエルちゃんに、手を振り返していると。
「どうせなら、競争しよう!私と少年はこっち行くから、ソラちゃんとましろんはそっちね!」
「・・・・ええっ!?」
突然の提案に、声を上げたのはやっぱりツバサくん。
「なんで僕があげはさんと!?」
「いーからいーから!また後でねー!!」
「えあーい!!」
素っ頓狂な声を上げる彼を、ものともせず。
歓声を上げるエルちゃんと一緒に、びゅーんとばかりに去って行ってしまったのだった。
「・・・・えっ、わたしもこっち行くんですか!?」
「そうみたいです」
ワンテンポ遅れて、ましろさんもぎょっとして登山道を見上げる。
「どうしますか?今からでも、あげはさんの方に行きますか?」
「うーん・・・・でも、あげはちゃんあんなに遠くに行っちゃってるし・・・・」
『それに』と、どこか決意した様子で登山道を見上げて。
「わたしもプリキュアなんだし、ちょっとくらい鍛えたくて!」
「・・・・そうですか」
本人がやる気に満ちているのなら、これ以上引き止めるのは無粋だなと判断して。
「では、行きましょうか?」
「はいっ!」
ましろさんと一緒に、登山道へ歩き出す。
・・・・さっき別れるとき。
あげはさんがウィンクしていた。
あれは多分、ましろさんに向けていたんだろう。
どこまでが思い付きなんだか。
◆ ◆ ◆
らそ山の登山道は、着の身着のままでふらっとチャレンジできることも特徴だ。
しっかり山道だが、道は整備されているし、ところどころに休憩所も設けられている。
実際、ソラとましろ以外にも、ラフな格好で挑戦している人と何度かすれ違った。
とはいえ、やはり整った装備で挑む者が大半だったが。
「はあ・・・・はあ・・・・!」
「ましろさん、大丈夫ですか?」
後ろから聞こえた疲労の息遣いに、ソラが振り向くと。
案の定、へろへろになっているましろがいた。
登り始めてだいぶ経つ。
何度か立ち止まってペースを合わせていたとはいえ、無理をさせてしまったかと反省したソラは。
さすがに休憩を入れようと考えた。
ちょうどあつらえたように、自販機と東屋も見える。
「少し、休みましょう」
「は、はい・・・・!」
提案して、了承を得たのは良いものの。
ましろは今にも倒れそうだ。
「ちょっと、失礼しますね」
見かねたソラは、ましろの手を取り、体を支えてエスコートする。
「飲み物、買ってきます」
「お、お願いします・・・・!」
無事座らせてから、購入したお茶を額に当ててやると。
『ふぅー・・・・』と、幸せそうなため息を漏らしたのだった。
「すみません、もう少しペースを考えればよかった」
「いえ、わたしもきたえてないので・・・・」
会話に返事はするものの、ろれつがどことなく幼い。
なんなら言葉自体もどこかふわふわしている。
(これは重症だな・・・・)
反省と罪悪感で胸がいっぱいになったソラ。
前かがみになっているましろに、手をかけて。
「こちらに、前かがみよりはいいはずです」
膝に、横たえさせた。
つまるところ、俗にいう『膝枕』である。
「――――ッ!?」
びっっっっくりするましろに気付いているのかいないのか。
ソラの優しい指使いに、目にかかりそうだった前髪がそっと流された。
日頃庇われている申し訳なさだとか、また迷惑をかけている罪悪感が一気に吹き飛ばされて。
別の意味で鼓動が速くなったましろ。
動揺を悟られないように、必死に平静を装っていると。
次に来た、まるであやすような肩たたきに虚を突かれて。
「・・・・っ」
そおっと目を開けて、様子を伺ってみれば。
壁に背中を預け、完全にリラックスモードに入っているソラが見えた。
なんなら目を閉じているし、かすかに鼻歌も聞こえる。
(なぁんだ、いつもの妹扱いか・・・・)
ほっとしたような、残念に思うような気持ち。
とにもかくにも、心身が落ち着いたのは間違いなかった。
鼻歌と、あやすような叩き方は、まだ続いている。
風もそよそよとちょうどよく、日差しもまだ刺すような強さはない。
まさしく春先の心地よい陽気だ。
そんな中で、鼻歌を聞かされ続ければどうなるかと言えば。
(ああ、ダメ・・・・眠っちゃう・・・・)
段々、意識が遠のいていく。
・・・・ここで一言。
鼻歌なりあやすなりをやめてくれるように言えばいいのだが。
もうそこまでの気力もない。
肉刺が潰れて硬くなった、ソラの手のひら。
本人は『可愛げがない』と自嘲するが、ましろは温かいその手が好きだった。
(ちょっとだけ・・・・ちょっとだけ・・・・)
微睡みに身を任せて、意識を手放す。
(あ、寝た)
(まあ、無茶させちゃったし・・・・これくらいはいいか)
◆ ◆ ◆
「ご、ごめんなさい!わたしってば、結構しっかりめに寝ちゃって・・・・!!」
あれから十分ばかりうたた寝したましろさん。
自分ががっつり寝ていたと気付くなり、文字通り跳び起きて謝り倒してきたけれど。
『あれくらいなら大丈夫ですよ』と、なんとか宥める。
「そもそも、自分だけのペースで突き進んで、ましろさんのことを考えなかった私も悪いですから」
『ね?』と語り掛ければ、なんとか納得したようだった。
「それよりも、ほら。私達、思ったよりも登れていたみたいですよ」
これで気を取り直せればと、先に見える花畑ゾーンを指し示してみる。
どうも、二つの登山道は途中で合流する形で整備されているようだった。
「わあ・・・・!」
「もう少しだけ、頑張ってみましょうか」
「はい!」
見ごたえのあるものが先に待っていると分かって、ましろさんのモチベーションも上がったようだ。
よかった、よかった。
しんどい思いをするにせよ、『やってよかった』っていう達成感は大事だよねぇ。
今度はましろさんのこともちゃんと気に懸けつつ、えっちらおっちら進んでいく。
森を抜ければ景色が開けて。
小鳥のさえずりが、トンビの鳴き声に変わった頃。
「――――おや、あれは」
「ツバサくん?」
何だか疲れた様子のツバサくんが、向こう側から歩いてきた。
やっぱり道は繋がっていたんだと確信しながら、彼の様子を観察してみる。
・・・・どうやら、だいぶあげはさんに揉まれたようだな。
「――――僕、ああいう強引な人苦手です」
ひとしきり零したツバサくんは、最後にそう口にしたのだった。
「・・・・あげはちゃん、分かってくれると思ったんじゃないかな?」
話を聞き終えて、まずましろさんが口火を切る。
「ツバサくんのこと、信じてたから」
「僕のことを?」
身を乗り出すツバサくんへ、ましろさんはこっくり頷く。
「この前、エルちゃんを守った時。ツバサくん、すっごく怒ってたでしょ?」
「あれは、あいつがプリンセスをバカにするから・・・・」
「あげはちゃんもね、同じくらい怒ってたんだよ」
「そうなんですか?」
それは私も初耳。
思えばあの時、プリズムはあげはさんと合流するために一度退いていたんだから。
その時に見たんだろう。
「ちょっと強引な所もあるけれど・・・・エルちゃんを思う気持ちは、きっとツバサくんと同じだよ」
「あげはさんもきっと、それが分かっていたんでしょうね。だから、貴方なら言葉にせずとも分かってくれると思ったのかも」
確かにちょっと強引なところもあって、振り回されてしまうところもあるけれど。
裏を返せば、それだけ信頼してくれているということで。
・・・・自分で言ってて、ちょっとむず痒くなって来たな。
へへへ・・・・。
「・・・・そうか、もしかしたら」
なんて考えていると、何か思いついたらしいツバサくんが。
すっくと立ちあがる。
「僕、山頂へ向かいます!」
「はい、いってらっしゃい」
そのまま駆け出して行った彼を、手を振って見送った。
「って、そういえば競争してるんじゃありませんでした?」
「ああー・・・・まあ、いいでしょう。ましろさんも勝ち負けにこだわっていないでしょう?」
「ですねぇ」
「では、私達はのんびり行きましょう」