山道をひたすら駆けあがっていくツバサ。
(もしかしたら、上からじゃないと見えないものなのかも・・・・!)
花畑で出題された『ここに隠されたものを探せ』という課題。
始めこそ、コースをはずれてロープウェイに行ってしまったあげはに憤慨したものの。
ソラやましろと会話を経て、ひらめきを得た少年は。
とにかく頂上を目指していた。
「ふう・・・・ふう・・・・あと、少し・・・・!」
努力の甲斐あり、もう数歩だけ進めばというところまでたどり着く。
が、ここで疲労がピークに達してしまい。
足が止まった。
(もう目の前なのに・・・・!)
未だ登れぬほんの少しがもどかしい。
呼吸を整えていると、頂上の方から誰かが来るのが見えて。
「ほら、ツバサくん!」
「・・・・ッ!」
ツバサは無我夢中で、差し出されたあげはの手を取った。
「――――待っていて、くれたんですか?」
「うん、少年なら来ると思ってたし」
依然息を整えながら、目を見開いて問いかけると。
あげはは屈託のない笑みを浮かべて。
「何より、ロープウェイから見えてたから!頑張って登って来てるの!」
『足速いねぇ』だなんて、あっけらかんと言い放ったのだった。
そんなあげはの楽観的な様子に、ツバサは一気に脱力して。
はあっとため息をつく。
「それよりも、ほら!いいのが見えるよ!」
そんなツバサの様子を知ってか知らずか、あげはは彼の肩に触れて背後に振り向かせる。
視界いっぱいに、現れたのは。
色とりどりの花畑で描いた、巨大な『翼』。
「あれが、謎解きの答え?」
「うん、上から見ないと分からないようになってたみたいだねぇ」
「わ、分かってたなら先に言ってくださいよ!!」
すっかり調子を取り戻したツバサは、元気よく『ぎゃんっ!』と異を唱える。
しかし、先ほどまでの刺々しさは見当たらず。
遠慮のない物言いに、あげはも楽しそうに笑っていたのだった。
「でも、頑張った甲斐あったでしょ?本当にきれい・・・・」
「それは、まあ・・・・」
「えあい!」
トンビの声がのどかに響く中。
虹色の翼を、三者三様に眺めていた。
――――そんな澄み渡る様な気持ちを遮るのは、特有の嫌な気配。
「・・・・ッ!?」
「あれはっ!?」
はっとなって振り向けば、なんと。
ロープウェイをランボーグが昇ってくるではないか。
「ランボーグ!」
「ああ!」
「えあー!」
ランボーグがあっという間にあげはとエルを確保すると。
アナウンスからカバトンの声が聞こえる。
『プリンセス・エルゲーット!ついでに脇役ガールBもゲットなのねん!』
『こっちはいらないけど』の余計な一言に、あげはがむっとした隙に。
ランボーグはロープを伝って降りて行ってしまう。
「ッスカイミラージュ!!」
追わない選択肢はない。
ツバサはウィングに変身して、後を追いかけ始めた。
「はあああ!!」
すかさず攻撃を加えようとするが。
「あ!」
すぐにあげはとエルを突き出されては、当てられない。
「・・・・ッ」
攻めあぐねるウィングを見て、あげはは少し考えると。
口元に、小さな笑みを湛えた。
「ねえ、君!私とじゃんけんしない?」
「えっ?」
「ランボーグ?」
唐突な提案に、敵も味方も困惑する。
周囲を置いてけぼりにして、あげははなおもニコニコ笑って。
「ちなみに私は、グーを出すよ!」
あろうことか、出す手を暴露してしまったのだった。
『自分から手の内を明かすとは、馬鹿な奴!いいだろう、乗ってやるのねん、ランボーグ!』
カバトンは調子よく笑い声を上げて、応じる様に命令した。
出す手は言うまでもなく、パーだ。
「――――ッ!」
成り行きを見守っていたウィングは、視線を合わせて来たあげはを見て。
彼女の企みを察して。
「じゃーんけーん!ぽん!」
思惑通り、ぱっと解放されて自由落下を始めた二人を。
見事、受け止めたのだった。
「あ、はは!びっくりした!」
「もう!!無茶し過ぎですよ!!」
自分が間に合わなかったら、どうするつもりだったのか!?
心配のあまり、ウィングが大声を出すと。
あげはは参ったとばかりに乾いた笑みを浮かべてから。
「でも、ツバサくんなら作戦に気付いてくれると思ったからさ」
「~~~~ッ、もう!!」
なんてことないとばかりに、信頼を寄せられてしまっては。
ウィングも怒るに怒れず。
「地上に降ろしますから、安全な場所に隠れていて下さい!」
でも素直に喜ぶのはなんだか恥ずかしい気がしたので。
そう、叱り飛ばしたのだった。
「「――――ウィング!」」
二人を安全な場所に降ろしたところで、さらにスカイとプリズムも駆けつけてくる。
「お待たせしました!」
「今行くよ!」
ワイヤーの上を、器用に伝って走ってくる増援に。
ウィングの顔も明るくなる。
もちろん、カバトンだって簡単に攻めさせない。
『だーれも待ってないっつーのねん!暴れろ!ランボーグ!』
「ランボーグ!」
指示に従ったランボーグが、上りと下り両方のワイヤーの間を飛んだり跳ねたりすれば。
大きくたわんで、スカイとプリズムの足元を揺らす。
「ッなんの!!水の呼吸!玖ノ型!!」
ヒュウウ、と風の様な呼吸を漏らして。
スカイが身構えて。
「――――水流飛沫・乱ッッ!!」
不安定な足場を、見事渡り切ってみせた。
「ハアッ!!」
「ランボーグッッ!!」
思い切り一太刀浴びせれば、ワイヤーから落下してしまうランボーグ。
「プリキュアッ!ヒィーロォーガァールゥー!!」
地面に叩きつけられて動けなくなったところへ。
復帰したプリズムが両手を掲げて。
「プリズムショットォッ!!」
ランボーグへ撃ち込んだのだった。
動けないところへ追撃を受けてしまえば、もはやなすすべなく。
「スミキッター・・・・!」
浄化されたランボーグは、元のロープウェイへ戻ったのだった。
◆ ◆ ◆
あげはさんとエルちゃんが捕まって、一時はどうなるかと思ったけれど。
あげはさんの機転と、ツバサくんのファインプレーのお陰でなんとかなった。
よかった・・・・。
二人とも無事で、私もましろさんもほっとしたよ。
頂上から良いものも見れたし、悪くない山登りじゃなかったろうか。
「みんな寝ちゃったねぇ」
「そうですねぇ」
今は帰りの車の中。
後ろですやすやしている年下組を見守りながら、年長同士でひそひそ話す。
「ソラちゃん、今日は楽しかった?」
「はい、おかげさまで」
「それはよかった♪」
エルちゃんも念願のソラ吾郎グッズを纏って、幸せそうに眠っている。
ふふふ、いい夢見てるといいなぁ。
なんて、微笑ましくなっていると。
「・・・・ソラちゃん、ましろんと歩いたよね」
ふいに、あげはさんが口火を切った。
「どうだった?」
「それが、私の方がはしゃいでしまって、一度ましろさんをグロッキーにさせちゃって」
「ああ~、それでゆっくり来てたのかぁ」
「はい、一度休憩を挟んだら回復したんですけど・・・・今後の反省点です」
「そっかそっか」
・・・・ハンドルを握っているからだろうか。
こちらと目を合わせないあげはさんは、どこか。
笑っているのに、笑っていない様な。
何か、強い気配を感じて。
「――――ソラちゃんさ」
視線に、射貫かれる。
「気付いてるよね、ましろんの気持ち」
・・・・イエスとも、ノーとも言えない。
浅はかな私は、ただ曖昧に笑って沈黙するだけだ。
「・・・・同じ大人だからさ、簡単に答えられないのも、よく分かるよ」
一度、視線が外れて。
目の前の信号が、赤に変わった。
「――――だけど」
次の、瞬間。
あげはさんはこちらを見ないまま、左手を素早く伸ばして。
胸倉をつかんできた。
再びこちらを捉えた視線は、爛々とぎらついている。
「例えどんな答えでも、どんなお別れでも・・・・ましろんの気持ちを蔑ろにするのだけは、絶対に許さないから」
信号が、青に変わった。
車は、進まない。
あげはさんが、顔ごとこちらを睨みつけているからだ。
「分かった?」
「――――はい」
『後続がいなくてよかった』と、どこか他人事の様に考えながら。
「肝に銘じておきます」
私は、静かに頷いた。
◆ ◆ ◆
「――――ふあーあ」
どこかの暗がりの中。
目覚めたそいつは、大あくびをかました。
「私を目覚めさせるなんて、随分物好きがいたものね」
乱れた髪を整えながら、まさしく『寝起きです』という雰囲気で歩いていく彼女。
その足元は、物言わぬ肉と、飛び散った鮮血の。
生臭いレッドカーペットが敷かれていた。
「何がお望み?」
ハリウッドスターよろしく歩いて行った先には。
フードを目深くかぶった人物。
「――――服従と、成果」
シンプルに要求を言い渡す声から、辛うじて男だと分かるそいつを。
つまらなさそうに見つめた彼女は、すぐに肩をすくめて。
「まあ、仕事の内容次第ね。自分で言うのもなんだけど、私、気分屋よ?」
「関係ない、こちらは対価を支払った」
「・・・・・それもそうか」
物憂げにため息をついた彼女。
「――――だ、れか」
ふと、その鋭い耳が音を拾う。
そちらを見やれば、まだ息のある者がいた。
「だぇ、か・・・・れ、らく・・・・・ぶ、どへ・・・・あくむ・・・・!」
「――――正直趣味じゃないけれど」
下半身を失ったまま、虚空へ手を伸ばすそいつへ。
彼女は容赦なく手を突き刺して。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"・・・・!!」
「今は不細工でも使わなきゃ、ね」
ごりごりと、不自然に盛り上がる肉体を見下ろしながら。
彼女は可憐に笑う。
「いいでしょう、義理の分は仕事するわ。ただし、成果のほどは気分次第よ?」
「・・・・」
高揚した、艶やかな視線と。
平坦な、冷ややかな視線が交差した。
私の他作品で調教()された、聡明な読者の皆様ならお察し下さっていると思いますが。
ここもそこそこ地獄になります()