ヒーローガールは異物入り   作:数多 命

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前振りのつもりが、だいぶ長くなってしまったので投稿。

ところで、来年のプリキュアのタイトルが発表されましたね。
ひろプリ二年目やらないんだ・・・・と寂しさが募ります。


偽物、走り過ぎた

その夜。

ヨヨは久しぶりに一人のリラックスタイムを楽しんでいた。

孫に加えて、故郷からの同居人も増えたこの頃も、賑やかでとてもよろしいのだが。

やはり、こうやって物思いにふける時間も愛おしい。

好きな本を読みながら、ゆったりとハーブティーを味わっていると。

部屋のドアが、ノックされる。

 

「はい」

「――――おばあちゃん」

 

扉の向こうから聞こえたのは、孫娘の。

ましろの声だ。

 

「ましろさん?」

「遅くにごめんね・・・・今、いい?」

「ええ、どうぞ」

 

断る理由も特にない。

招き入れると、パジャマ姿のましろがおずおずと顔を見せた。

 

「その・・・・相談したいことがあって」

「何かしら?さ、座って」

「うん・・・・」

 

座らせて、ハーブティーを差し出すと。

一口飲んだましろは、ほっと一息吐き出した。

 

「それで?ましろさんは、何をお悩みなのかしら」

「・・・・その、おばあちゃんには、もうバレてるかもしれないけど」

 

問いかけに、まるで悪戯がバレた幼子の様な態度で、ましろは口火を切った。

 

「わたし、あの・・・・ソラさんが、好きに、なって・・・・」

「・・・・ええ、知っているわ。この頃のましろさん、とってもかわいらしいもの」

「うう・・・・うん、でもね・・・・」

 

別に悪いことではないので、ヨヨはにこやかに頷く。

一瞬だけ恥ずかしがったましろだったが、すぐに顔を曇らせてしまった。

 

「・・・・もしかしたら、わたしの気持ちが、ソラさんを困らせているかもしれないって、思って」

「どうして、そう思ったのかしら?」

 

静かに、穏やかに。

ヨヨは問いを重ねる。

 

「この前、らそ山に行った帰りに・・・・ソラさんとあげはちゃんが話しているのを、聞いて」

「うん」

 

とつとつ、とつとつ。

時折言葉に悩みながら、打ち明けていく。

ソラが、ましろの気持ちを知っているらしいこと。

だけど、それを指摘したあげはの問いに、ソラは沈黙を返したこと。

ましろは寝たふりをしていたから、その時の彼女の表情が見えなかったこと。

ソラの、胸の内が分からないこと。

 

「あげはちゃんが、『大人だから軽々しく答えられないのも分かる』って言ってて・・・・それで・・・・・」

「・・・・確かに、この国の法律において、ソラさんは立派な成人だけど、ましろさんはまだ未成年・・・・子供扱いだものね」

「・・・・・・うん」

 

ヨヨの、確認の様な言葉に。

ましろは頷いて、俯いた。

 

「世の中には・・・・何も知らない子供に、あることないこと吹き込んで、酷いことをする大人がいるのも、知ってる」

「ええ」

「でも、ソラさんは違うもん、それはおばあちゃんも分かってくれるよね?」

「もちろん、とても誠実で、いい子だわ」

 

――――『グルーミング』という言葉がある。

通常は、猫などの動物による毛づくろいを差すのだが。

犯罪化学の界隈では、『大人による悪意ある摺り込み』という意味に変わってしまう。

愛を盾に都合のいい言葉を吹き込み続けて、無知な子供を思いのままに操る。

この世で指折りの、悍ましい行為の一つだ。

当然、ソラに当てはまるわけがない。

それはましろもヨヨも分かっている。

・・・・けれど、

 

「・・・・けど、考えちゃったの」

「何を?」

「もし、この気持ちを受け入れてもらえても・・・・周りの人はどう見るんだろうって」

 

あげはやヨヨは、祝福してくれるだろう。

でも、赤の他人はどう思うだろうか。

ソラが、ましろをたぶらかした様に見えてしまわないだろうか。

遠く離れた、ましろの両親だってそうだ。

ソラとの面識が、極端に薄い彼らは。

ましろが大好きな人を、どう見るだろうか。

・・・・大切な一人娘を手籠めにした、悪人に見えてしまうかもしれない。

 

「分かってるの・・・・・そもそも付き合えてすらいないのに、こんなの考えたって、しょうがないって・・・・でも・・・・」

 

塗れる目元を拭いながら、ましろは吐露する。

 

「このまま・・・・このまま、恋しちゃってていいのかなって・・・・ソラさんがどんな目にあうか考えないで、自分勝手に憧れてて、いいのかなって・・・・・!!」

 

我慢できない雫を零して、溢れる嗚咽を必死に飲み下すましろを。

ヨヨは優しく、背中を撫でてやりながら。

 

「・・・・・そうねぇ」

 

しばし考えて、口を開く。

 

「まず、ましろさんの言う通り、世の中は楽しいことや優しいことだけでないわ・・・・残念なことにね」

 

悩みに寄り添って、不安でいっぱいの肩を抱きしめる。

 

「でも、貴女が思う程、厳しいものでもないのよ」

「・・・・っ、そう、かな」

「ええ」

 

見上げる頭を撫でてやりながら、優しく語り掛ける。

 

「相手を思いやって、相手の気持ちを考える。それはましろさんの素晴らしいところだわ」

「・・・・うん」

 

ヨヨに言われたことは、ソラやツバサも言ってくれたことだ。

ましろもしっかり自覚しているので、頷く。

 

「けれど今回は、それが少し悪い方向に行ってしまったのね」

 

相手を思うあまり、悪い方へ悪い方へ考えて。

そうやって思考の袋小路に入り込んでしまったのだろうと、ヨヨは辺りをつけた。

 

「確かに、ソラさんの気持ちも大事・・・・でも、ましろさんの気持ちも同じくらい大事よ」

「わたしの、気持ちも・・・・」

「もちろん」

 

恋に悩む孫娘を、深く深く慈しんで。

ヨヨは優しく微笑むのだ。

 

「いつか、スカイランドに帰るかもしれない。いつか、別れる時が来るかもしれない」

「・・・・っ」

「それでも、好きになってしまうもの。恋って本当に厄介よね」

 

――――いつまでも続く保証はない。

いつかは終わるかもしれない。

それでも。

その胸に生まれた想いは、決して否定されていいものではないのだ。

 

「おばあちゃん・・・・!」

「大丈夫、大丈夫・・・・そんなに怖がらなくてもいいのよ」

 

在りし日の、ましろの祖父に当たる男性との出会いに思いを馳せながら。

再び涙をあふれさせるましろを抱きしめて、頭を撫でながら。

 

「怖い思いをしたのなら、次は幸せが待っているわ。貴女の恋は、きっと素敵なものになるはすだから」

「うん・・・・うん・・・・!」

 

彼女の恋路に、どうか幸あれと。

静かに祈った。

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

日課のランニングをこなしながら、考える。

 

(――――ましろさんは、私が好き)

 

・・・・薄々分かっていた。

いつからだったか。

あの子が向ける目に、熱が入ったのは。

いつからだったか。

あの子が向ける笑顔に、輝きが宿ったのは。

いつからだったか。

あの子が向ける信頼に、愛がこもったのは。

 

(悪いことじゃない)

 

悪いことじゃないんだ。

恋すること自体は、悪いことじゃない。

・・・・相手が私ってのはちょっと照れくさいけど。

でも、それこそ。

私がどうこう言えるものじゃない。

人の心に口出しするなんて、ヒーロー以前に人間としてやっちゃいけないことだ。

・・・・だけど。

 

(私は、大人だ。ましろさんは、子どもだ)

 

・・・・・下心なんて、あるわけない。

少なくとも私は、一人の人として尊重してきたつもりだ。

でも、ましろさんからしたら、『その気』がある様に見えてしまったかもしれない。

それこそ。

触れられた時の不快感を、『恋のドキドキ』と勘違いしてしまったのだとしたら。

 

(とんだクソ野郎じゃん、私)

 

『グルーミング』。

その気がなくとも、年下に手を出していたなんて。

どうしたらいいんだろう・・・・。

いや、ましろさんの気持ちを聞いたわけじゃないし、あげはさんにも釘を刺されたばかりだ。

大人を名乗るなら、きちんと向き合って。

しっかりけじめをつけないと。

とはいえ、どうやってましろさんの気持ちを知ればいいんだ。

――――そもそもの話。

私はあの子をどう思っているんだ?

好きか嫌いかで言えば、好ましく思っている。

懐も広いし、困っている人に手を差し出せる。

・・・・頭もいいよな。

プリズムショットを色んな形に応用出来るし。

『くもぱん』を思いついたり、ツバサくんの歓迎会もレイアウト考えてたよな。

あれめっちゃかわいかった。

・・・・いや。

 

(ましろさん大好きか、私)

 

恋かどうかと言われるとまた違うんだけどね!!

違うんだけどね!!

色恋沙汰について考えてるとき、これだけいいところが思い浮かぶと。

ちょっとね!!

 

「はあーっ・・・・」

 

まとまらない思考に、足が重たくなって。

立ち止まった時だった。

 

「・・・・ん?」

 

なんとなく違和感を覚えて、顔を上げると。

最近見た、カラフルな山体が聳え立っている。

――――アレェッ!?

 

「らそ山!?嘘でしょ!?」

 

ウワーッ!?走り過ぎた!!

っていうか今何時!?

 

「バイト、遅刻するーッ!!!」

 

――――結局遅刻した。

ちくしょう・・・・!!

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

「これは?」

「ここから少し離れた、あさやけ市の水族館のチケットよ」

 

差し出されたチケットを手に、ましろが首を傾げると。

ヨヨはにこやかに笑って答える。

 

「乗馬クラブでもらったのだけれど、二人分だしどうしたものかと思っていてね。よかったら、ソラさんと一緒にどうかしら?」

 

祖母の提案に、ましろの目が見開かれた。

 

「何か、進展があるといいわね」

「・・・・うんっ!ありがとうだよ、おばあちゃん!」

 

微笑むヨヨへ、ましろはチケットを胸に寄せて。

意気込んで見せた。

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