「ランボォーッグ!!」
プリキュアになって現場に飛び込めば、シャチのようなランボーグが暴れている。
おみやげのぬいぐるみ辺りを素体にしたのか?
何はともあれ、一般人もいる。
「私が引きつけます、プリズムは避難誘導を!」
「ッはい!」
「――――いえ、避難は僕が引き受けます!」
駆け出そうとした足が、たたらを踏んだ。
振り向くと、ウィングがいる。
「ウィング!?」
「どうしてここに!?」
「は、話は後です!とにかく、今は・・・・!」
・・・・なんでここにっていうのは、なんとなくわかっているので。
今はランボーグを優先することに。
「行きましょう!」
「ええ!」
気を取り直して、今度こそ飛び出す。
「ラアアアアアア!!」
「うわあああああ!」
観客の一人に、大口を開けて迫るランボーグ。
ウソだろ、まさか食べるつもりか!?
「させないッ!!」
すかさずプリズムショットが放たれて、口をすっぽり塞いでしまう。
「ハアアッ!!」
そこへドロップキックを叩き込んで、観客から引き離した。
「ラアアンッ!!」
「シイイイ・・・・!」
なおも飛び出してくるランボーグを前に、呼吸を整えて。
「雷の呼吸ッ!!参ノ型ッ!!
その場で、ぐるりと回転。
連撃を叩き込む。
「ランボーグ!!」
「ッハア!!」
「やああッ!!」
ひるまず噛み付いてくるランボーグの攻撃を避けて、脳天に踵落とし。
怯んだところへ、プリズムが拳を突き刺した。
「ラアアアアンッ!!」
ランボーグが溜まらず切り揉みして吹っ飛んでいく。
派手に煙を上げて壁に激突したランボーグは、一度沈黙した。
「避難誘導、終わりました!」
「ありがとう!」
避難を終えたウィングも合流して、一緒に睨みつける。
・・・・ふと、気になった。
「・・・・カバトンは?」
「そういえば・・・・」
「まだ出てきていませんね?」
そろそろ何かしら文句を言いに出てきてもいいのに。
周囲を見渡しても、それらしい人影も見えない。
「じゃあ、誰がこのランボーグを・・・・?」
誰ともなく、嫌な予感を覚えた時だった。
「――――やめてえええええええええええ!!」
「危ないですって!隠れてましょ、ね!?」
会場いっぱいに、声が響き渡る。
揃ってそちらを見ると、あげはさんに引き止められている人がいる。
あれは、さっきのショーで見たインストラクターさん!?
「お願い!!ルカを殺さないでえッ!!」
「ルカ・・・・?」
「殺さないでって、まさか・・・・!!」
まさか、あのランボーグ。
生き物を使って生み出されたのか!?
「ランボーグ!!」
「・・・・ッ!!」
こちらの動揺なんて関係なく、飛び掛かってくるランボーグ。
また噛み付いてくるかと思ったけれど、大口はかっぴらいたままで。
「―――――――ッッッ!!!!!」
「ッああああああああああああ!!!」
・・・・脳みそを、内臓を。
直接揺さぶられているような感覚。
これは・・・・超音波か・・・・!
「ああああああ・・・・!!」
「ぐうううううう・・・・!!」
プリズムも、ウィングも。
程度は違えど、あげはさんやインストラクターさんも。
同じように耳を塞いで、苦しんでいる。
・・・・他の、生き物や。
外に避難した人達も。
苦しんでいるのだろうか。
「っは・・・・」
超音波が止んだ。
苦痛から解放されて、気が緩んだその一瞬に。
薙ぎ払いが放たれて。
「「「うわああああああ――――ッ!!」」」
まともに喰らった私達は、それぞれ会場内を跳ねながら吹き飛ばされた。
◆ ◆ ◆
「っ~~~・・・・そうだ、みんなは!?」
揺さぶられた頭を抱えながらも、あげはが何とか顔を出して見れば。
離れた場所で倒れているプリキュア達が。
「ッみんな!」
「えややーい!!」
エルと一緒に叫べば、ランボーグの目がこちらを向いてしまう。
「しまった・・・・!」
「あ、ぐ・・・・!」
慄くあげはの隣で、ルカのインストラクターが起き上がる。
「――――ああ」
視線を上にやると、ランボーグが目の前まで迫っていた。
「ランボーグ・・・・!」
「ルカ・・・・ねえ、やめて・・・・!」
泣き出しながら、懇願する。
フラッシュバックするのは、ルカが怪物にされてしまう瞬間。
スカイ達にとっては、倒すべき敵でも。
彼女にとっては、我が子同然の存在なのだ。
「悪いものに負けないで、ルカ・・・・!」
「ランボオオオオオオグッッ!!」
願いは届かず、無常にも牙が剥かれる。
時に同等のサイズの哺乳類すら捕食する凶器が、突き立てられようとして。
「――――肆ノ型 遠雷ッ!!」
駆けつけたスカイに、阻まれる。
「スカイ!」
「皆さん、怪我は!?」
「私は平気!エルちゃんも、さっきはしっかり耳守ったから!」
問いかけに、あげはがはきはき答える一方で、まだまだやる気のランボーグが再び睨みつけてきた。
「ルカ・・・・!」
インストラクターは、悲痛な声で名前を呼んでも。
やはり、反応は返ってこない。
「・・・・」
集中するスカイ。
その耳に、喧騒が聞こえる。
人々の悲鳴が、聞こえてくる。
――――耳が、耳が・・・・!
――――いたいよぉ!おかあさん!
――――頭が、割れる・・・・!
――――誰か、救急車を!応急手当じゃ間に合わない!
それは、あげはとインストラクターにも聞こえたのだろう。
愕然とした顔で、ランボーグを見上げていた。
「・・・・・すぅ・・・・はぁ・・・・すぅ・・・・はぁ・・・・」
深呼吸、二つ。
目を閉じたスカイは、何かを決意する様に息を呑んで。
口火を切る。
「――――ごめんなさい」
「・・・・ッ!」
顔を上げたインストラクターの視線を感じながら、スカイは剣を強く握る。
「存分に、恨んでいただいて結構です。ただ、それは私一人だけにしてください」
「スカイ・・・・!」
「えうぅ・・・・!」
あげはとエルの案じる声にも振り返らないまま、構える。
「大丈夫、私は大人なので・・・・全部、ちゃんと受け止めます」
「ゃ、やめ・・・・!」
制止の声を振り切って、飛び出す。
「ランボーグッ!」
体当たりを避けて、あげは達から引き離しつつ。
呼吸を、練り上げる。
「ヒュウウウウウウ・・・・!」
(思い出せ、思い出せ・・・・!)
必死に想起するのは、スカイが参考にしている『鬼退治』の話。
性質の違う力を織り交ぜて、脅威に立ち向かった。
その姿。
(スカイソードじゃ、多分苦痛を与える。全集中じゃ、浄化に今一つ足りない・・・・!)
考え続けて、繰り出したのは。
「――――ひろがる」
水の呼吸の伍ノ型と、スカイソードを合わせた。
痛みを与えない、慈悲の斬撃。
「スカイソード・・・・!」
――――一閃。
静かな切断の音がして、ランボーグの巨体がプールに沈んだ。
「は・・・・は・・・・は・・・・」
スカイは、振り向けない。
生物に取り付いたパターンは初めてだ。
浄化の攻撃を当てて、無事で済むか分からない。
加減はした、痛みのない技も使った。
それでも。
あの活力溢れた巨体が、物言わぬ肉塊となって浮いてくるかもしれない。
「は、は、は・・・・!」
目を伏せたスカイは、意を決して。
体を反転させようとして。
「――――わっぶ!?」
迫る大波を、避けられなかった。
勢いに押されて強かに尻を撃つ。
顔に張り付いた髪を、何とか引きはがすと。
目の前に、モノクロの顔面が。
鋭い歯の並んだ大口を開けて。
「ギイイイイイイイイイイ!!!」
『痛ぇじゃねえか!』とばかりの、抗議の声を浴びせて来たのだった。
「・・・・あ、はは」
ふすふす鼻息を荒げるルカを前に、スカイはすっかり毒毛の抜かれた顔で。
「はい、ごめんなさい」
心から、安堵した。
◆ ◆ ◆
――――なんとか、なりはした。
でも、今後の課題として考えなければならない。
今回は生き物で済んだけれど、もしかしたら人間をランボーグにされる可能性だってあり得る。
もし、それが。
誰かの大切な人だったら。
もし、それが。
私の大切な人だったら。
――――ましろさん、だったら。
私は、今日の様な選択を取れるだろうか。
今日の様な、命と命を天秤にかけることが。
出来るだろうか。
・・・・いや。
(――――きっと、出来てしまう)
さっきの私は、出来ていた。
インストラクターさんの懇願と、遠くで聞こえた大多数の悲鳴とを。
天秤にかけて、そして。
(大多数を、選んだ)
あの場で上がっていた『助けて』を、文字通り切り捨てた。
無機質で、無感情な。
大衆的正義を選んだ。
選んで、しまったんだ。
「――――ソラさん」
夕焼けの中。
水族館近くの砂浜。
とりあえず退避したその場所で座り込んでいると。
ましろさんが隣に座った。
「水族館の方は、あげはちゃん達が様子を見てくれています。何か分かったら、教えてくれるって」
「・・・・そう、ですか」
・・・・私は、何も言えないまま。
ましろさんも、何も言わないまま。
夕方の海風に、晒され続ける。
「・・・・あの」
少し、肌寒さを感じ始めた頃。
ましろさんが、口を開く。
「クラゲのところで、言おうとしたこと、なんですけど・・・・」
・・・・ああ、そういえば。
「その・・・・」
「それ、なんですが」
ましろさんには悪いけれど、遮らせてもらう。
「ソラさん?」
当然、戸惑うましろさん。
・・・・目を、合わせられなくて。
視線を夕焼けに逃がしながら、それでも自分の言葉を紡ぐ。
「・・・・もう少しだけ、待ってもらえませんか?」
「・・・・どうして、ですか」
「今の私は、まだ・・・・それに足る人物じゃないからです」
そうだ。
まだ、ましろさんの想いに応えられるような人間じゃない。
・・・・全部守る覚悟を決めるんじゃなくて、何かを切り捨てることに逃げる奴が。
何か、特定の大事なものを持つなんて。
そんなこと、出来ない。
そもそも私が、ましろさんのことをどう思っているのか。
それすら分かっていないのに。
「・・・・ごめんなさい。貴女にとって、どれほどの勇気が要ることだったか、分かっているのに」
結局逃げてる自分に吐き気を覚えながらも、伝えたいことを告げる。
「・・・・・そうですね、ズルいです」
「・・・・ッ」
困った顔のましろさんに、胸をグサッと刺されながらも。
「でも、ちゃんとくれるんですよね?お返事」
「それは、もちろん」
ましろさんに限らず、人の気持ちを蔑ろにするなんて。
絶対にしていはいけないことだ。
「・・・・ちゃんと、向き合います。ちゃんと、考えます」
今度はちゃんと、視線を合わせて。
「だから、もう少しだけ・・・・未熟な私と友人でいて下さい」
「・・・・はいっ」
膝に顔を乗せて、こちらを見ていたましろさんは。
年相応の、嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
「おーい!」
「ソラさーん!ましろさーん!」
「あ、あげはちゃんだ。おーい!」
あげはさん達がこちらにやってきたので。
私達も立ち上がる。
――――後であげはさんに聞いたところによると。
水族館は臨時休業になってしまったけれど、ルカくんの容体は何ともないらしい。
後日、あの超音波にやられてしまった人達も、数日のうちに回復したらしい。
◆ ◆ ◆
はるか先の浜辺で、プリキュア達がはしゃいでいる。
指でフレームを作って、向けた。
「――――これは薄味」
ツバサを収める。
「――――これは好みじゃないわ」
ましろを収める。
「――――これとこれは論外ね」
あげはとエルを収める。
「――――やっぱり、これかしらねぇ」
最後に、ソラを収めた。
「熟成が必要だけども・・・・楽しみだわ」
人知れず笑ったそいつは。
静かに去っていく。