「は、は、は・・・・!」
見知らぬ赤子を抱えたまま、ましろは息を切らして街を走る。
とんでもない出来事が立て続けに置きまくって、頭はとっくにキャパオーバーだった。
混乱が収まらない中でも、考えるのは。
「ソラさん、大丈夫かな・・・?」
ソラ・ハレワタール。
名前の通り、空から降って来た不思議な女性。
大きな怪物を前にしても一歩も退かずに、立ち向かった勇敢な人。
出会って間もないが、まさしく『善人』というべき人となりはとても分かり易かった。
何より、生来の優しさから。
ましろは真っ当にソラを心配していた。
「とにかく、今は逃げないと・・・・!」
とはいえ、あの場に残って何かが出来るとも思えない。
ましてや、肩を並べて戦うなぞ。
どこに逃げるべきか分からないので、ひとまず自宅を目指していた。
「え?」
と、急に辺りが暗くなる。
思わず見上げると、
「見つけたのねん!!」
「きゃああっ!!」
「えるううう!!」
あの大柄な男が、怪物を伴って現れた。
重々しく降り立った振動で、ましろは大きく揺さぶられて。
赤ん坊も不安に泣き声を上げてしまう。
「そ、ソラさんは!?」
いや、言わずとも分かっていても、聞かずにいられない。
奴らがここにいるということは・・・・!!
「心配せずとも、同じ場所に送ってやるのねん!!」
「そんな・・・・!」
「さあ、痛い目を見たくなければプリンセスを寄こせ!言うこと聞くなら、命は見逃してやるのねん!!」
ゲラゲラ嗤う男に、恐怖で足がすくむましろ。
そんな彼女を、引き戻したのは。
「えるううう!!ああああん!!」
ソラに託された、赤ん坊の泣き声。
言葉はなくとも、ダイレクトに『たすけて』と伝えてくる声に。
ましろは唇をかみしめる。
「・・・・・いやだ、渡さない!」
「何?」
「あなたみたいな悪い人には、絶対に渡さない!」
戦えない、何もできない。
でも、あんなやつの言うことは聞きたくない!
声を張り上げて、せめてもの抵抗に睨みつけるも。
「そうか、そうか・・・・・ランボーグ!!」
「ランボーッグ!!!」
男の号令で、怪物が腕を振り上げる。
ショベルカーのバケットが基だと分かる腕。
ましろが受ければ、一溜りもないだろう。
(足、動かない・・・・!)
体は完全に硬直してしまった。
逃げようにも、逃げられない。
「・・・・たす、けて」
震えが止まらない。
赤ん坊を庇いはするものの、意味はないだろう。
「たすけて・・・・!!」
諸共にぺしゃんこにされる未来を前に、弱音を漏らした。
「――――全集中・雷の呼吸」
「壱ノ型 霹靂一閃!!」
雷鳴が、轟く。
◆ ◆ ◆
ッシャラァーイッッ!!間に合ったぁーッッ!!
うおおおおお!よかった!よかった!
我 勝 利 せ り !!!
「ソラさん!」
「ましろさん、待たせてごめんなさい!もう大丈夫ですよ!」
安心させられたらと、にっと笑って見せるけど。
ましろさんの顔は陰ったままだ。
そんなに怖かったんか・・・・遅くなってごめんな・・・・。
「ソラさん、頭・・・・!ッ怪我してるじゃないですか!!」
アッ、そっち!?
「こんなの掠り傷です!それより、逃げられますか!?」
聞いてみると、首が横に揺れた。
それもそうか。
「ご、ごめんなさい・・・・!」
「いいえ、よく頑張りました!あとは任せて!」
ましろさんは何一つ悪くない。
今まで怖い思いをしていたんだ、動けないのもしょうがない。
愛刀を構えて、誘拐犯と向き合う。
「しぶといやつなのねん・・・・!」
「あなたが諦めれば良い話です」
「抜かしおるねん!!ランボーグ!!」
「ランボーグッ!!!」
再び叩きつけてくる腕を見上げて、息を吸う。
鍛え上げた肺活量で、いっぱいに空気を吸い込む。
「全集中・炎の呼吸!」
そうすれば、加速した血流に筋肉がびっくりして。
――――人の身でありながら、鬼の様な力を得る!!
「弐ノ型 昇り炎天ッッ!!」
斬り上げをぶつけて、叩きつけ諸共巨体を吹っ飛ばしてやる。
これでましろさん達との距離はとれたはず!
畳みかけるぞ!
「参ノ型 気炎万象ッ!!」
怪物の体とビルを伝って飛び上がり、斬り下し。
「伍ノ型 炎虎!!」
「ランボーッ!?」
さらに激怒した虎のような猛撃をぶちかませば、怪物は大きくのけ反って悶絶した。
「ムキーッ!なぁにやってるのねん!ランボーグ!!」
誘拐犯は空中で地団太なんて器用なことして、ふと、視線が私から外れた。
にやつきながら、見ている先は・・・・ッ。
「あの脇役を狙え!!」
「ランボーグッッ!!」
命令を受けるなり、怪物は手ごろなビルに腕のバケットを引っかけて。
瓦礫に変えて、ましろさん達に吹っ飛ばしやがった!!
やらせるかッッ!!
「シイイイィィィィィィ――――ッッ!!」
脚に全集中して、駆け出す。
瓦礫がいくつかぶつかったけど、構わん!
間に合ええぇ――――ッ!!
◆ ◆ ◆
あわや、潰されそうになっていたましろの体が、ふわっと浮かび上がる。
轟音が鳴り響く中、瓦礫が地面に当たって砕けるのを目の当たりにしながら。
怪物から離れた場所に降ろされた。
「そら、さ・・・・!」
呆然と、自分を守ってくれた人を見上げる。
背中だけではない、額の怪我だって出血が増えている。
どう見ても大怪我、満身創痍だ。
・・・・なのに。
「無事ですね?」
「えるうぅ・・・・!」
「よしよし、もう少しだけ頑張りましょうね」
穏やかに、安心させるように。
優しく笑いかけてくれるのだ。
「んんん?なんなのねん?」
ふと、そんな声が聞こえる。
一同振り向くと、カバトンが何かを持っている。
ましろは一瞬首をかしげたが、即座に理解した。
あれは、ソラが大事にしていた手帳だ。
「『わたしのヒーロー手帳』~?」
そんなことが書いてあったのかと思う目の前で、小馬鹿にした調子で読み上げられていく。
『どんなに強い相手でも、最後まで正しいことをやり抜く』
『高い空を怖がるようでは、ヒーローは務まらない』
『泣いている子どもを見捨てない』
『約束は、絶対に守る』
あの、よく分からなかった文字で。
ヒーローとしても人としても、大切なことが書かれていた。
・・・・だから、この人は。
こんなにも優しいのか。
人の為に、一生懸命になれるのか。
険しい横顔を見つめて、ましろは言葉を失ってしまう。
そんなことなぞ、露知らず。
「ッダーハッハッハッハッハッ!!ちゃんちゃらおかしいのねん!」
「ああっ・・・・!」
カバトンは無情にもびりびりに引き裂いてしまった。
ましろの悲痛な声をよそに、人を見下す下卑た笑い声を上げる。
「綺麗ごとに縋るだけで、なんの力もない!自分の身すら満足に守れない脇役は!!すみっこでガタガタ震えてるのがお似合いなのねん!」
『さあ!』と、芝居がかった仕草で。
カバトンが手を広げる。
「最終通告なのねん、プリンセスをよこせ!!!」
ましろが固唾を呑んで見つめる中、ソラは険しい顔をしたまま沈黙を保って。
「――――断るッッ!!」
やはり、否を答えたのだった。
「んもう!強情なのねん!」
「強情で結構!」
ましろに背を向けて、一歩、一歩。
踏みしめる様に前に出るソラ。
「その手帳は何度も読み込んだ!例え引き裂かれて踏みつけられても、私の魂が覚えている!!その程度で折れると思ったら、大間違いだぞ!」
剣を握る手元には、力が籠っているのだろう。
ぎちぎちという音が、ましろの耳にも聞こえていた。
「お前を倒す!ましろさんも守る!赤ちゃんだって、お父さんとお母さんのところに返す!!」
傷だらけで、敗色も濃厚で、油断すればあっという間にやられそうなのに。
嗚呼、その背中はどうしようもなく。
「――――例え及ばずとも、正しいと信じたならッッ!!最後までやりとげるッッ!!」
眩しくて、安心できる。
「それが、ヒーローだッッッ!!!!」
ヒーローだったのだ。
――――刹那。
ソラの胸元が、眩い光を放つ。
◆ ◆ ◆
「――――んぇ?はっ!?」
・・・・・ヒーロー手帳をびりっびりにされたのは、正直ダメージデカかったんだけど。
ましろさんや赤ちゃんもいる手前、『おんどりゃ!負けてたまるか!』と気合を入れたら。
手に、ニチアサヒロイン的なアイテムが握られていた。
ええぇ~、ちょっとこれは似合わなさすぎないか・・・・。
こんな、肉刺が潰れて、硬くって、節くれ立った。
ごつごつの手に持っていいもんじゃねぇよ・・・・。
だ、大丈夫?
加減間違えて、うっかり壊れない?
「ぷいきゅあああああ――――ッッ!!」
「うわっ!?」
なんて慄いていたら、今度は赤ちゃんがぴかっとして。
一筋の光をこっちに向けて放ってくる。
・・・・んんんんんんん!?
っていうか、君今なんつった!?
『ぷいきゅあ』?
――――――『プリキュア』アアアァッ!?
「へっ?はっ!?ええっ!?」
「わぁ、綺麗な三度見・・・・」
私が!?私が!?
正気か!?
あ、えっと!スマイルとハートキャッチは私の青春でした!押忍!!
なんてパニックになってる間にも。
思わず受け取ったアイテムが、みるみる薄い青に染まっていく。
ええ、これ決定事項っすか?
「えるー!きゃっきゃっ!!」
決定事項ですか、そうですか・・・・。
とはいえ、他に打開策もなさそうだ。
うーん、腹を決めるっきゃないか・・・・。
「な、何をするつもりなのねん!?」
「見て分かりませんか?」
誘拐犯と怪物に、アイテムを見せつけてやりながら。
にやっと笑う。
「――――逆転、ですよ」
呆気にとられる彼らの目の前で、かわいらしいペンを構える。
「――――スカイミラージュッ!!!」
「トーンコネクト!」
「ひろがるチェンジ!スカイッ!」
あ、すごい。
本当に初回はオートなんだ。
なんて感動している間に、体が変わっていく。
まずサイドテールだった髪が思いっきり伸びて、ツインテールへ。
足元も、ブーツが履かされた。
「煌めきホップ!」
頭に髪飾り、耳にイヤリング。
「爽やかステップ!」
シンプルなシャツとズボンが、青と白を基調としたスカート系の衣装に変わる。
両手には指ぬきグローブ。
左肩からは、マントが翻る。
「晴れ晴れジャンプ!」
左目元に、翼を模したメイク。
愛刀も青く染まり、可愛い羽根飾りがついて。
ちょっとテンション上がったので、ウィンクもしちゃう。
「よっと!」
光の中から出てみれば、時間は経っていないようだった。
「――――無限に広がる、青い空ッ!」
「キュアスカイッ!」
降り立って、名乗りを上げれば。
誘拐犯は、みるみる顔を歪めて。
「生意気なのねん!!やっちまえランボーグッッ!!」
「ランボーグッッ!!!」
腕のバケットが襲い掛かってくる。
思いっきり飛んで避け、てぇっ・・・・!?
「飛び過ぎたぁっ!?」
ウワーッ!グーグ〇マップ!!!
「・・・・シイィッ!」
狼狽えている場合じゃない!
体勢を立て直す。
剣に手をかけて、足に力を込めて。
「雷の呼吸、壱ノ型 霹靂一閃!!」
落雷よろしく、振り落ちる!!
「ダアッ!!」
「ランボーグッッ!!!!」
脳天に一撃叩き込んで、まずは先攻!!
傾いたところへ、振りかぶって。
「弐ノ型 稲魂!!」
高速の五連撃で追い打ち。
「なぁにやってるのねん!ランボーグ!!」
「ら、らぁんぼぉ・・・・!」
誘拐犯は一喝するけど、怪物はフラッフラだ。
・・・・怪我は治ってるけど、決着は早い方がいいな。
「――――プリキュアッ!」
剣を意識すると、何かスイッチが入ったような感覚。
「ヒィーロォーガァールウウゥ・・・・!!」
衝動のままに、体を動かして。
「スカイッ、ソオオオオオオ――――ドッ!!!!」
怪物を、両断する!!
「スウゥッ・・・・!」
相手を背にしたまま、納刀。
瞬間、爆発が起きた。
うーん、ニチアサ!
「スミキッター・・・・!!」
振り向くと、怪物はそんな言葉を遺して。
ショベルカーに戻ったのだった。
・・・・断末魔っていうには、ちょいと静かすぎるな。
「あ」
辺りを見渡すと。
怪物が暴れた後が、何事もなかったかのように戻っていった。
便利だなぁ・・・・。
「おっと」
気が抜けたからか、変身も解ける。
愛刀もなくなっていて焦ったけど、どうやらこのペンの中に入ったようだった。
便利(小並感)
「ソラさん!」
「えーるぅ!」
感心していると、ましろさんが駆け寄って来た。
「ああ、ましろさん。赤ちゃんありがとうございました、お怪我は・・・・ないみたいですね」
「ソラさんの方が大怪我だったでしょ!大丈夫なんですか!?」
よかったよかったと安心しながら、赤ちゃんを受け取ると。
血気迫った様子のましろさんに、体をあちこちぺたぺたされた。
「し、心配させてすみません。でも、ほんとに大丈夫なんですよ!さっきのあれ便利ですね!」
いや、本当に便利だな『プリキュアの力(初回特典)』。
ましろさんはもうしばらく難しい顔で私の体を見た後、ようやくほっと溜息をついた。
・・・・・だいぶ心配させたみたいだな。
悪いことをした。
「あなたも、無事でよかった」
「える!」
指をひょこひょこ動かすと、きゃっきゃと笑う赤ちゃん。
うん、元気が一番だ。
「あの!」
「はい、なんでしょう?」
赤ちゃんの無事も確認し終えたところで、ましろさんがまた口火を切る。
「ソラさんって、ヒーローなんですか?」
・・・・・ヒーロー、ヒーロー。
うーん、目指すところは確かにそうなんだけど。
今そうかと言われたら違うし・・・・。
「・・・・よく分からないです」
「は、はあ・・・・」
今はそう、誤魔化すしかなかった。
ふと、遠くでサイレンが聞こえてきた。
辺りを見れば、人だかりも出来ていて。
「・・・・もしかして、まずい、ですかね?」
「まずいです!ひとまずこっち!行きましょう!」
「あ、はい!」
ましろさんに手を引かれて、その場を退散する。
・・・・私がプリキュア、かぁ。
これからどうなるんだろうなぁ・・・・。