ヒーローガールは異物入り   作:数多 命

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偽物、がっつり特訓

その日は、ヨヨさんにおつかいを頼まれていた。

 

「帰りにプリティ・ホリックに行きませんか?」

「いいですね。あそこの新しいスイーツ、気になっていたんです」

「ソラさん、意外と甘党ですよね」

「えるぅ」

 

なんて、呑気に歩いている時だった。

 

「――――イラつくぜ」

 

見覚えのある巨体が立ちはだかる。

明らかに余裕のない、血気迫った表情のそいつは。

 

「イラついて、しょーがねーのねん!」

「お前は!?」

「カバトン!?」

 

なんだかいつもと様子が違うカバトンに、思わず前に出てエルちゃんを庇う。

 

「こっちはいよいよヤバいことになってるっていうのによ!!」

「ヤバい・・・・?」

「一体どういうことだ!?」

「うるせーッ!」

 

頭を掻き毟るカバトンへ、ツバサくんが疑問をぶつけると。

怒鳴り声が返って来た。

 

「そもそもソラ・ハレワタール!お前が全部悪いのねん!プリンセス・エルをさらおうとした時!お前さえッ、お前さえ邪魔しなけりゃあ!!」

 

今までにない気迫、切羽詰まった様子。

・・・・カバトンが追い詰められているのは、本当らしい。

 

「あれからやる事なす事まるで上手くいかねぇ!!お前は俺の疫病神だ!!だから、お前さえ倒せば全てうまくいくッッ!!」

「・・・・ならば、如何に?」

「三日後だッ!!俺と一対一で決闘しろッッ!!最強にTUEEE奥の手で、お前を倒してやるッッ!!」

 

・・・・そう来たか。

 

「逆恨みもいいところです!」

「ソラさん!そんな勝負受ける必要ないです!」

 

ましろさんとツバサくんは、こちらを案じてそう言ってくれるけれど。

 

「えゆぅ・・・・!」

 

みんなと同じ表情で、不安そうにしているエルちゃん。

・・・・このままあの子をスカイランドに送り届けたところで、カバトンに狙われ続けるのなら意味はない。

だったら、ここで決着をつけるべきだ。

私の考えは決まった。

・・・・その前に。

 

「・・・・一つ、答えて下さい」

「なんだ!?」

「一週間前の、水族館。ランボーグが出たことを、把握していますか?」

 

ましろさんが息を呑んだのを聞きながら、カバトンを見つめると。

 

「しらねーよ!!なーにを訳の分からんことを!!」

 

・・・・本当に知らないらしいな。

 

「・・・・いいでしょう」

 

頷くと、カバトンはさらに声を荒げる。

 

「お前が勝ったら、プリンセスはさっぱり諦めてやる!俺が勝ったら、プリンセスはもらい受けるッッ!!」

「・・・・その言葉に、偽りはありませんね?」

「ああ!!」

「・・・・いいでしょう、引き受けます」

 

『ソラさん!?』と、それぞれに驚く仲間達を他所に。

カバトンは黒いもやと共に去っていったのだった。

 

「ソラさん、大丈夫なんですか?」

「そうですよ、あんな決闘なんて引き受けちゃって!」

「勝手に決めたのは、ごめんなさい・・・・でも」

「「でも?」」

 

思い出す。

カバトンの、目。

 

「あの目、だいぶ危ういものでした。断ればどうなっていたか」

「あ・・・・」

「確かに、暴れちゃったら大変だった・・・・」

 

この前の、謎のランボーグみたいに。

無差別に暴れて、人間に被害を及ぼしたかもしれない。

そうなったら、どれほどの被害が出たことか。

 

「とにかく、戻って作戦会議ですね」

「「はい!」」

「えるー!」

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

「ははあー、それで特訓ってわけねぇ」

「はい」

 

あげはの愛車の中。

カバトンとの決闘の話を聞きつけた彼女曰く、『山の中に、オススメのキャンプ場がある』ということで。

一同向かっている次第。

なお、あげはには、学校が忙しいが故に現実逃避しているのではないかと言う疑いもあったり、なかったり・・・・。

 

「ところでソラちゃんは、普段どんなトレーニングしてるの?なんか素振りとかランニングしてるのは聞いてるけど。やっぱりスカイランドでも山にこもったり主と戦ったりしたの?」

「なんですか、その漫画みたいな内容は・・・・」

 

やはり話題は、トレーニング内容だ。

あげはが述べた具体例に、ツバサは呆れた顔をするものの。

ソラの圧倒的なフィジカルの由来ということもあり、みんな興味津々である。

一方のソラは、少しだけ悩んでいた。

別に秘伝と言うわけでもないので、言う分には全然構わないのだが。

なにせ、自他ともに認める『ドMの所業』である。

 

「・・・・そうですね」

 

どう伝えたもんかと、いくばくか悩んでから。

口を開いた。

 

「腕立てと腹筋とスクワットを、各百回ずつ三セット」

「ふむふむ」

「それからランニングを、こちらの単位で100キロ走って」

「うんうん」

「スカイランドにいたころは、山も駆け上っていましたね」

「わあ、足腰鍛えられそう」

 

『やっぱりそれくらいするよな』と、相槌を打っていく三人。

 

「あとは技の、型の練習と」

「それに素振りもやってますよね、一時間!」

「ええ、正確には一万回を一時間で終わらせるようにしています」

「え」

 

ましろが身を乗り出すと、捕捉された情報に目が点になる。

・・・・なんだか風向きが怪しくなって来た。

 

「大岩を身一つで10スカイヤード・・・・えっと、こちらで言う100メートルですね。それだけ押します」

「待って」

「あとはとにかく肺活量ですよね。それから十分間息を吸い続けて、十分間吐き続けて」

「待って、待って」

「肺活量ですよねじゃないんだよ」

「一秒に十回呼吸できるようになると、テツビョウタンを息だけで割れるんですよ」

「嘘でしょ、あれスカイランドで一番硬い植物」

「ターイム!!」

「アッ、ハイ」

 

ましろの一声で、一度口を止めたソラ。

・・・・これでもだいぶハードな部分を省いているのだが、十分衝撃を与えてしまったらしい。

しん、と静まり返った車内で、気まずそうに口を結んでいると。

あげはが、『うん』と笑顔で頷いて。

 

「体力オバケかな?」

 

さもありなん。

 

 

 

 

 

 

閑話休題(チェスト―ッ!)

 

 

 

 

 

 

目的地に到着して。

最初に向かったのは、キャンプ場の傍にある滝である。

 

「アゲアゲなご利益がある、パワースポットって話だよ。滝行するといいことあるって!」

 

解説するあげはの言う通り、自然に満ち溢れたこの場所。

件の滝にも、すでに先客がいた。

 

「すごい集中力・・・・!」

「うんうん、なんか達人のオーラが出てるよ!」

「確かに・・・・とても真剣な気配を感じます」

 

手を合わせて、ひたすら大量の水に打たれる老人。

その無我の境地たるや、まさに明鏡止水。

息を呑んで、見守る目の前。

くわっと両目が開かれて、

 

「――――肩こりッ!!治ったアッ!!!!」

「・・・・肩こり?」

 

首を傾げる一同。

視線が集中したあげはは、慌ててスマホを操作して。

 

「あ、ああ~・・・・ここのご利益、肩こりに効果ありだって」

「なぁんだぁ・・・・勝負事じゃないんだぁ・・・・」

「まったく、しっかりしてくださいよ」

 

ツバサにジト目を向けられて、あげはは乾いた笑い声で誤魔化した。

皆が呆れる一方で、ソラは一人。

水に手を入れる。

夏の気配を感じ始める季節というのに、まるで冷蔵庫で冷やした様に冷たい。

氷とまで行かずとも、長時間晒されれば体の芯まで冷え切るであろう。

 

「・・・・勢いもいいですね」

「ソラさん?」

 

滝を見上げるソラへ、ましろが話しかけると。

ソラはにっこり笑いながら振り向いて。

 

「せっかくですから、ちょっと打たれてきます」

「あ、はい!いってらっしゃい!」

 

ざぶざぶ水に分け入るソラを見送って、ましろはツバサとあげはを見た。

 

「・・・・ソラさん的には問題なさそうだね」

「だね!」

「じゃあ、僕達はキャンプの準備をしましょうか」

「じゃあ、私も・・・・」

 

言いかけたところで、ツバサが目を向けて。

 

「あげはさん、学校の課題が忙しいんじゃないんですか?」

「えっ、いや」

「そうなの?じゃあそっちをやらないとだよ、あげはちゃん!」

「アッ、ハイ・・・・」

 

しょんぼりとしたあげはだったが、せめてテントの設営だけは手伝うのであった。

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

六根清浄、六根清浄、六根清浄・・・・。

詳しい意味を知っているわけじゃないけれど。

語呂がいいから唱えちゃう。

六根清浄、六根清浄、六根清浄・・・・。

 

「お、と・・・・」

 

いかん、時間を忘れそうになるところだった。

・・・・スカイランドにいた頃。

瞑想してたら、三週間くらい経ってたことがあって。

実家に戻ったら滅茶苦茶怒られたことがあったんだ。

・・・・特に、お母さんが。

お母さんがッ・・・・!!

見たこともない様な、般若を通り越した真蛇の形相で・・・・!!

以来、時間は気にするようにしてるんだ・・・・。

 

「ソラさん!」

 

目を開けて、前を見ると。

ましろさんが手を振っているのが見えた。

振り返しながら、ざぶざぶ岸に上がる。

 

「すごい集中力でしたね。三時間くらい微動だにしないから、ちょっと心配になりました」

「それはごめんなさい」

 

・・・・日をまたがないだけマシ、かなぁ。

 

「どうも一度集中すると、時間の感覚が鈍るみたいで・・・・タオル、ありがとうございます」

「ソラさんソラさん!」

 

ほんのり遠い目をしながら、受け取ったタオルであらかた拭き終えると。

ちょうどそのタイミングで、プニバード姿のツバサくんが駆け寄って来た。

そのお隣には、なぜかエゾリスがいる。

・・・・えっ、エゾリス!?何故ここに!?

なんで北海道(蝦夷)じゃなくて本州にいるの!?

 

「ツバサくん、そちらのリスさんは?」

「こちら、この山の主さんです。ソラさんのことをお話したら、修行に協力してくれるって!」

 

アッ、そうなの!?

なるほど、北海道とはまた違う環境で生き延びるということもまた、強さの証というわけか・・・・。

 

「突然、申し訳ありません。ご協力感謝します」

 

しゃがんで話しかけてみると、頷くように顔をくしくしするエゾリスもとい山の主。

『よろしく』ってことでいいのかな・・・・?

首を傾げていると、人間の数歩分移動した山の主は。

『ついてこい』とばかりにこちらへ振り向く。

 

「あ、ちょっと待ってください。濡れた服を着替えてきます!」

「テントこっちですよ!」

 

どうやら、早速鍛錬をつけてもらえそうだ。

ましろさんにテントへ案内してもらって、慌てて着替えを済ませる。

 

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