ヒーローガールは異物入り   作:数多 命

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偽物、空港へ走る

次の日。

早速街に繰り出して、あちこちの靴屋を探して回るソラとましろ。

目的はもちろん、あのマダムだ。

 

「なかなか見つかりませんね・・・・」

「ええ、どこかで入れ違いになってしまったのでしょうか・・・・?」

 

途方に暮れながらも、まだ足は動くからと。

次の靴屋に行こうとして。

 

「――――悪いけど、急用が入ってしもうて」

「・・・・この声」

「ソラさん?」

 

聞き覚えのある、声。

ソラが、弾かれるようにある方向を見たので。

ましろも倣ってそちらを見れば。

 

「あっちについたら、電話頂戴。ほな、達者でな!」

「あの人・・・・!」

「間違いないですね、行きましょう!」

 

この機を逃してなるものかと、二人一緒に駆け出した。

 

 

 

 

――――その女性の息子夫婦には、エルと同じくらいの娘がいるそうだ。

この頃よちよち歩きが出来る様になったということだったが、時を同じくして、海外赴任が決まった。

本当なら、空港まで見送りに行って。

そこで、ファーストシューズを渡すつもりだったらしいが。

 

 

 

 

「――――でも、こんなん渡したら、きっとおばちゃん泣いてまうやろ?そしたら、息子家族もしんどい気持ちになる・・・・そんなんだーれも得せぇへん」

 

ソラシドモール内の喫茶店。

譲ってもらったファーストシューズを前に、そんな事情を語ってくれたマダムは。

明らかに作り笑いと分かる表情になって。

 

「別れは涙で汚さんほうがええ、ニコニコ笑って、明るくお別れした方がずっとええ。そんで、外国でバリバリ仕事して、家族で楽しく暮らしてくれた方がええねん!」

 

そう、話を締めくくったのだった。

・・・・確かに。

別れは辛いもので、出来ることなら相手に悲しんでほしくない。

それは、去る側も置いて行かれる側も、お互いに強く望んでいることだ。

マダムの言い分も正しい。

海外への栄転が決まった喜ばしい門出を、泣いた顔で曇らせたくない。

その想いは、間違っていない。

 

(でも・・・・!)

 

それでも。

話を聞き終えたソラは、腑に落ちなかった。

納得がいかなかった。

そりゃあ、マダムはソラよりもずっとずっと年上で。

人生で色んな経験をしたから、その結論に至ったのかもしれない。

もしかしたらこの感情は、『若さゆえの過ち』と言うものなのかもしれない。

ましろもいる手前、いろいろ理屈を考えては己を宥めようとしたが。

 

(やっぱり、ダメだ!!)

「そんな――――」

「――――そんなのダメだよ!!」

 

やはり、我慢ならなくなって。

いざ口を開こうとすれば。

先んじて、ましろが立ち上がって叫んだのだった。

 

「き、急にどないしたん?」

 

マダムは困惑しているが。

ソラも、ましろも、湧きあがった思いを止めることは出来なかった。

 

「ッ本当の気持ちを言わないとダメです!」

「涙の何がいけないんですか!?本当の気持ちを言うことのッ!何がいけないんですか!?」

 

ましろに乗っかる形になってしまったが、ソラも立ち上がってマダムへ伝える。

二人の語気は、とても強い。

 

「泣いたっていい・・・・!」

「駄々をこねたって・・・・!」

 

一度落ち着きはしたものの、走り出した口は止まらない。

止められない。

 

「そしたら、きっと・・・・ちゃんと笑って、お別れできるはずだから・・・・!!」

 

だって、あまりにも似ているのだ。

彼女と、その息子夫婦の状況が。

今の自分達と重なっているのだ。

お節介だと分かっていても、余計なお世話だと分かっていても。

それでも。

伝えずにいられなかった。

 

「・・・・せやな、確かにその通りや」

 

二人の真剣さは伝わったのか、マダムは静かに頷いたが。

 

「でも、もう遅いねん。じきテイクオフや・・・・せやから、その靴。お嬢ちゃん家の赤ちゃんにあげたって」

 

その言葉を最後に、マダムは喫茶店から去って行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

――――やっぱり、無理だ。

このままおしまいだなんて、無理だ。

若いから割り切れない?

知ったことか。

人の決めたことに口出しするな?

・・・・それは、ちょっと、一理あるけど!

でも、やっぱり。

納得なんて、出来るものか!!

 

「ソラさん!!」

 

・・・・ましろさんも、同じ気持ちでいてくれたようだ。

マダムが去ってすぐにスマホを操作していた彼女は、空港までの最短距離を調べてくれていた。

なら、後は・・・・!

 

「行きましょう!!」

「はいッ!!」

 

モールの屋上に上がる。

右ヨシ!左ヨシ!

目撃者、ナシ!ヨシ!

一緒に、ミラージュペンを構えて。

 

 

 

 

 

「「スカイミラージュッ!!」」

 

 

 

 

 

――――プリズムと一緒に、街を飛び回る。

まだ遠くに行っていないはず、あのマダムは・・・・ッ!!

いた!!

 

「ひ、ひえっ!あんたら誰ぇっ!?」

「通りすがりの!」

「ヒーローガールです!」

 

一目散に降り立てば、当然腰を抜かしてしまうマダム。

ご、ごめんなさい!

でも、今は!!

 

「行きましょう!」

「ど、どこに!?」

「「空港に!!」」

 

靴を差し出しながら、行き先を告げれば。

私達が誰か、分かってしまったようだったけど。

マダムの口元が、結ばれて。

 

「――――お願い!」

「お任せ有れ!!」

 

靴を受け取ったマダムは、短くそれだけを口にした。

 

「――――しっかり掴まってくださいね!」

「言われなくともそうしますぅー!!」

 

プリズムにマダムを背負ってもらい、ビルの上を爆走する。

先んじて加速した私は、体を反転させて。

剣を、鞘に収めたまま構えて。

 

「乗って!!」

「はいっ!!」

 

そのまま、私自身がカタパルトになることで。

距離を、稼ぐ!!

 

「ひえええええええ――――!!や、やめてえぇ――――!!」

 

ご、ごめんなさい!!(二回目)

でも、ちょっと我慢して!!

 

「もう一度!」

「行きますッ!!」

 

またプリズムに剣(鞘付き)に乗ってもらって、再び跳ね飛ばす。

 

「ひゃあああああああ!!飛んでるうううううううううううう!!!」

 

そうやって、マダムのドップラー効果を何度も聞きながら。

一路、ももぞら空港を目指す・・・・!!

 

 

 

 

 

閑話休題(間に合えーッ!!)

 

 

 

 

 

「は、は、は・・・・!!」

 

無事空港に辿り着いた、私達三人。

最後の力を振り絞り、国際線のロビーまで走っていく。

 

「――――あ」

 

果たして。

件の、マダムの息子一家はいた。

まだ保安検査場を通っていなかったんだ。

幼い娘を挟んで、穏やかに戯れる家族。

 

「・・・・ッ」

 

そんな幸せな光景を目の当たりにして。

一度は踵を返しそうになったマダムだけど。

 

「――――行ってあげてください」

 

やっぱり、そんな優しい人だからこそ。

悔いのないお見送りをしてほしくて。

マダムは、もう少しだけ悩んでから。

やがて、こっくり頷いた。

ましろさんと一緒に見守る中、マダムは静かに踏み出して。

そして、

 

「――――りょうた!!」

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

「――――よかったですね」

 

空港からの帰り道。

夕焼けが近付く中、ソラは明るい声を出した。

 

「あの人は息子さんと悔いのないお別れが出来たし、エルちゃんのシューズも早く手に入ったし」

「・・・・そう、ですね」

 

前を歩く、ソラの背中を見ながら。

ましろは、ふと、気付いた。

気付いて、しまった。

 

(本当に、終わりなんだ)

 

・・・・二度と会えなくなるわけじゃない。

会おうと思えば、会うことは出来る。

それでも。

この帰路を、歩き切ったら。

家に、辿り着いてしまえば。

一つ屋根の下で過ごした日々は、終わるのだ。

 

「・・・・っ」

 

ましろの脳裏。

走馬灯の様に、これまでの日々が過ぎっていく。

ソラに出会って、プリキュアになって。

ツバサやエルと言った、大切な友達も出来て。

自分では気づけなかった、自分の輝きを知って。

そして、恋をして。

 

(・・・・嗚呼、終わっちゃう)

 

――――ソラがいる日常が、終わってしまう。

まだまだ学生のましろと違って、ソラは大人だ。

だから、もし会いに行ったとしても。

都合がつかない場合もあるだろう。

もしかしたら、ランボーグとの戦いしか接点がない。

なんて状態にも十分になり得る。

そうやって、ましろの日常から。

ちょっとずつ、ちょっとずつ。

大好きな人が、消えていくかもしれない。

 

――――泣いてもいい

――――駄々をこねてもいい

 

本当に、そう言ってほしかったのは。

他でもないましろ自身だったのだ。

 

「ましろさん?」

 

いつの間にか止まっていた足。

付いてこない自分に気付いたソラが、こちらへ歩み寄ってくる。

 

「どうしたんですか?」

 

今のましろは、きっと酷い顔をしているのだろう。

ソラは心配そうに目尻を下げている。

 

「・・・・ッ」

 

相変わらずの優しさに。

何もかもをこらえきれなくなったましろは。

熱くなった目頭を押さえて。

雫とともに、零したのだ。

 

「――――すきです」

 

ソラの目が、見開かれる。

明らかな動揺と、困惑。

彼女にとっては、これ以上ない不意打ちだったのだろう。

 

「すきです、ソラさん」

 

申し訳ない思いでいっぱいになりながら。

口元を押さえても、必死に喉を絞っても。

次々溢れて止まらない。

 

「すき、すきです・・・・すきです・・・・!!」

 

零れ落ちる涙と、言葉を、止める術を。

ましろは知らなかった。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい・・・・ご、め、ぁさっ・・・・!」

 

情けなく、みっともなく。

醜態をさらしながら。

まるで子供の様だと、恥を覚え始めた時だった。

 

「・・・・ッ」

 

ソラの手が、伸ばされて。

涙でぐしゃぐしゃになったましろの顔が、そっと。

彼女の胸元に収められる。

 

「そら、さ・・・・!」

 

ましろが何かを言おうとすると、頭をぽんぽんと叩かれて。

まるで、何も言うなと言われている様だった。

 

「――――ぁあ」

 

ああ、そうだ。

 

「ああああ・・・・!」

 

虹ヶ丘ましろは、ソラ・ハレワタールの。

こんなところが、好きになったのだ。

 

「わああああああん!!ぅあああああああ!!あああ!ッわああああああああ!!」

 

声を張り上げて、縋りついて。

ただただ泣き叫ぶましろ。

そんな彼女が、泣き止むまで。

ソラは静かに抱きしめていたのだった。




次回、スカイランドへ・・・・!
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