偽物、スカイランドへ
「えーる!きゃっきゃ!!」
虹ヶ丘家。
やっとお気に入りの靴を履けてご満悦のエルを見守りながら、あげはがそっとソラに寄った。
「よく見つかったね、同じ靴」
「ええ、空港からのお店を片っ端から探し回って・・・・」
「それでこんな時間になったんだぁ・・・・」
「える?」
ひそひそ話をしていると、エルの目が彼女達を見た。
「な、なんでもないよー!」
「お似合いです、プリンセス!」
危うく聞かれそうになったのを、必死に誤魔化しながら。
慌てて靴を堪能するよう促す。
「はあー・・・・ふふふ」
「ご機嫌だねぇ、エルちゃん」
やり過ごせたことに胸をなでおろして、再び笑顔になったエルを見守る。
――――ほんのり腫れた跡が残る、ましろの目元や。
何かを隠す様に前が閉められたソラの上着には。
終始、誰も触れることはなかった。
◆ ◆ ◆
――――トンネルを抜けると、王様の上でした。
(エッ!?王様!?)
そう思った時には、もう遅く。
「ウワーッ!?」
「グワーッ!?」
私達三人は、仲良く王様の上に不時着したのであった・・・・。
いや、あの。
マジすみませんっした・・・・。
仕切りなおして。
上に落っこちるというとんでもねぇ不敬を働いたにも関わらず、お許しくださった国王ならびに王妃両陛下。
そんなお二人は、今。
「おお!歩いた!歩いたぞ!」
「ええ、プリンセスが歩いているわ!」
「えあい!」
エルちゃんのあんよを堪能している。
分かります、分かります。
めっちゃ可愛いですよね、お宅のお子さん。
「――――そなた達、よくぞプリンセスを取り戻してくれた」
ひとしきり我が子の成長を喜んだお二人。
王妃様がエルちゃんを抱っこして、改めて私達を見た。
「深い愛情を持って、プリンセスの世話もしてくれたこと。心から感謝する」
一人一人と、目を合わせながら。
言葉の節々から、深い感謝を伝えてくれて。
「そなた達が守ったのは、あの子の身の安全だけではない・・・・笑顔だ!」
「ソラ、ツバサ、ましろ。あなた達は、スカイランドのヒーローです!」
国王に続いて、王妃にもそういわれて。
ちょっとむず痒くなってしまった。
へ、へへへ。
改めて言われると、照れくさいな・・・・。
(いかんいかん、平常心平常心・・・・)
上がりそうになったテンションをなんとか抑えつつ、両サイドを伺ってみると。
「ヒーローだなんて、そんな」
「スカイランドの、ヒーロー・・・・!」
ましろさんは謙遜していたけれど。
ツバサくんは、目をキラッキラに輝かせていた。
普段大人っぽいところを見ているからか、こういう年相応の反応を目の当たりにするとほっとする。
なんか、こう。
大人っぽいことは悪いことじゃないけれど。
無理してないかなって、気になる・・・・気にならない?
「――――国王、ならびに王妃。両陛下」
「わ、ソラさん?」
それはそうと。
気を取り直して、私は片膝をつく。
「お褒めの言葉、光栄至極でございます」
まずは、誉め言葉へのお礼を述べる。
「つきましては、プリンセスをさらった者どもについてお話をさせて頂きたく」
それから、今後について話せたらと思ったんだけど。
「まあ、待て」
「プリンセスが戻ってくるのを待ち望んでいたのは、私達だけではないのです」
待ったをかけてきたお二人は、話を聞かない雰囲気ではない。
・・・・そっか、そうだよな。
エルちゃんは・・・・・プリンセスは。
国民にとっても大切な存在だもんな。
――――誘拐されて、はや数か月。
気を揉んでいたのは、陛下達だけではないのだ。
――――プリンセスー!!
――――姫様ー!!
――――おかえりなさーい!!
――――案内された、お城のバルコニー。
夕焼け空の下、直接見なくても分かるくらいの大歓声に包まれている。
「――――プリンセスが、帰ったぞー!」
国王が声を張り上げると、一層盛り上がる民衆の皆さん。
「めでたしめでたし、ですね」
「ええ」
いや、まだまだ問題は山積みなんだけどもね。
それでも。
「えう!」
お父さんとお母さんに出会えて、たくさんの人に祝福されて。
嬉しそうにしているエルちゃんを見ると。
私も、ほっとするのが分かった。
「アンダーグ帝国・・・・何故プリンセスを狙う・・・・」
お披露目も終わってから、改めてこれまであったことを報告すると。
少し考え込んでしまう国王陛下。
「あなた」
「む、ああ、いや・・・・すまなかった」
長くなりそうだと察したのか、王妃様に促されて立ち上がる。
「この件は全て、私が預かる。そなた達は親元に帰り、ゆっくり体を休めるといい」
・・・・労いの言葉を、かけてくれるのは。
本当にありがたいことなんだけども。
「恐れながら、申し上げます」
「なんだ?」
穏やかに続きを促してくれたので、お言葉に甘えて進言する。
「現状我々は、刺客を一人追い払っただけです。アンダーグ帝国なる不届き者は、未だ健在にございます」
「対抗するには、プリキュアの力が必要なんです!」
「僕も!プリンセスを守るために、戦います!」
まだ危険は去っていないこと、プリキュアの力を躊躇いなく貸すこと。
ましろさん達と一緒に、訴える。
・・・・本音を言うと、二人に関しては国王と同じ意見なんだけども。
ども・・・・!!
「危険な戦いになりますよ」
「承知の上です」
案じてくれる王妃様に、即答する。
「一度関わった以上、投げ出すつもりは元よりございません。それは、この二人も同じです」
「はい!」
「もちろんです!」
正直なところ、二人はここで離脱してもいいんじゃないかとは思っている。
でも、それを決めるのは本人であって、私じゃないから。
両隣と視線を合わせて、頷き合って。
改めて両陛下を見た。
「例え相手が強大でも、正しいことを最後までやり抜く。我々を『ヒーロー』と呼んで下さるなら、その責務、最後まで果たさせて頂きたく・・・・!!」
「「お願いします!!」」
最後にそう締めくくって。
三人一緒に、深々と頭を下げた時だった。
「――――ヒーロー、か」
――――背後から、知っている声。
思わず、振り向く。
◆ ◆ ◆
聞こえた第三者の声に全員で振り向くと。
一人の女性が、謁見の間に入ってくるところだった。
すっと伸びた背筋に、整った顔立ち。
マントとともに靡く長髪は、彼女の威厳を示していた。
「ましろさん」
「ぁ、はい」
ソラに促されて、横に避けたましろは。
ふと、女性の目がソラに向いたのが気になった。
「プリンセス、ご無事でなによりです」
ましろが首を傾げている間に、女性は国王と王妃に膝をつく。
「戻ってくれたか」
「都を留守にしていた間とはいえ、プリンセスをお守りできず・・・・誠に申し訳ございません」
「いいえ、辺境の大火災。あなたがはるばる出向いて指揮を執ってくれたお陰で、被害は最小限に抑えられたと聞きます」
『何かしらの偉い人だろうか』と、見当をつけるましろの反対隣。
キラキラとした目で女性を見ていたツバサが、まさしく憧れを口にする。
「本物だ・・・・」
「有名人なの?」
「シャララ隊長ですよ!スカイランドを守るヒーローチーム『青の護衛隊』のリーダーなんです!世界一強い剣士でもあって・・・・!うわぁ、握手してもらえないかなぁ」
あのツバサがこんなにはしゃぐのだ。
こちらでは相当な有名人なのだなと、ましろが納得していると。
国王達と一通り話し終えた女性、シャララが立ち上がって。
ソラと向き合った。
「――――一年ぶりか」
「シャララ隊長」
すると、視線を受けたソラは、深々と頭を下げたのだ。
「申し訳ございませんでした。人助けのためと言えど、推薦を反故にする形となってしまい・・・・」
「構わない、息災で何よりだ」
「・・・・・知り合い、ですか?」
ましろが恐る恐る問いかけると、頭を上げたソラはバツの悪そうな顔をして。
「はい・・・・去年、ちょっとあって」
「ははっ、我が青の護衛隊へのスカウトは、『ちょっと』ではないだろう」
苦い笑い声を上げて、シャララはたしなめる様に続ける。
「スカウト!?ソラさん、スカウトされてたんですか!?」
「ええ、その・・・・・はい」
ツバサに詰め寄られて、たじたじのソラ。
あまり見ない光景に、ましろの目はまんまるに開かれた。
「入隊前日に行方不明と聞いて、心配したぞ」
「はい、ご迷惑をおかけしました」
会話が一段落したところで。
何かを思い出した国王が、身を乗り出して。
「そなた、もしや『なまくらハレワタール』か?」
「・・・・木剣にこだわる変わり者、という意味でしたら。私くらいしかいないかと」
「おお!そうか!」
「ギガノマンチュラ討伐の活躍は、
「恐れ多いことにございます」
「・・・・ぎ、ギガノマンチュラ!?」
ソラが、今度は国王夫妻へ深々と頭を下げる一方で。
驚愕に口をあんぐり開けていたツバサは、素っ頓狂な声を上げた。
すぐに自分で塞いだので、思わずといったところらしい。
「そんなに危ないの?」
「そっちで言う、カマキリとタランチュラを合体させて、三メートルくらいに巨大化させた様な生き物だと思ってください。スカイランドでも屈指の危険な肉食生物なんです!」
「すっごく嫌なビジュアルなのはよく分かった!」
ましろがおずおず質問すると、驚愕のままにぐりんと振り向いたツバサがまくしたてる。
勢いに押された彼女の脳裏に浮かんだのは、いつか見たソラの背中。
体を一度バラバラにして繋ぎ合わせた様な、痛々しい古傷の数々。
「両手の鎌や毒の糸はもちろんですが、何より脅威たらしめているのは脱皮です!!手足や甲殻を著しく損傷すると、即座に脱皮して再生させちゃうんですよ!!」
「脱皮を重ねれば、その分だけ甲殻も硬くなり、動きも俊敏になる・・・・ソラの故郷に出たのは四体、内一体は既に三回の脱皮を経ていた。正直、もう間に合わないと思っていたよ」
「ひえ・・・・!」
早口を止めないツバサに、シャララが捕捉を入れたことで。
昨年のソラが、何をやったのか。
ありありと想像出来た。
「ものすごい無茶するじゃないですかぁ・・・・!!」
「いえ、その・・・・出過ぎた真似をした自覚はあります・・・・結局大怪我で数か月寝込むことになりましたし・・・・」
「しかし、お陰で犠牲者を大幅に抑え込むことが出来た・・・・ギガノマンチュラが人里に出て、民間の犠牲が手の指で足りる数で済むのは、奇跡だ」
当時を思い出しているのか、感慨深く頷くシャララだが。
対するソラは浮かない顔をしている。
「少数でも、犠牲は犠牲です。警備隊を含めれば、数は膨れ上がります・・・・もっと出来ることがあったはずなのに」
「・・・・・気にし過ぎるのが、お前の悪いところの様だな」
一時の結果に満足せず、先を見据えているとも取れるが。
あまり背負い過ぎると、自分自身が潰れかねない。
シャララは、真面目な若者を困った顔で心配した。
「――――うぉっほん」
咳払いで場を切り替えた国王は、改めてソラ、ツバサ、ましろを並ばせる。
「この目出度き良き日、最大の功労者たちに、褒美を取らせる形で締めにしたい。何か要望があるなら、遠慮なく申してみよ」
「――――はいッ!」
そう、威厳たっぷりに語り掛ければ。
いの一番に手を挙げたのはツバサだ。
「お許しくださるなら、僕をナイトとしてプリンセスのおそばに置いてください!」
「む、むう。そうか・・・・ならば、子守り役という形になるが、それでよいか?」
「十分です!!」
要望とは少し違う形になったが、ツバサにとってはそれで充分だったようだ。
きゃっきゃと手を振るエルに、嬉しそうに振り返している。
「そなた達は、何かあるか?」
「・・・・私は、青の護衛隊への所属を希望します」
次に手を挙げたのは、ソラだ。
「プリンセスを守るためと言えど、内定を蹴った形になってしまったので・・・・もちろん、シャララ隊長がお許しくださるなら、ですが」
「もともとそういう話であったのだろう?他にはないのか?」
「はい、元よりそれを目標にしておりましたので」
「私も構いません。期待の新星、逃す理由がない」
シャララの承諾も得られて、ソラはほっとしていた。
「ましろ、そなたは?」
「ヨヨ殿の分も含めて、手厚くいたしますよ?」
「あ、あの。わたしは特にいりません」
最後に目を向けられたましろは、恐れ多いとばかりに両手を振って。
「すごいのはおばあちゃんであってわたしじゃないですし・・・・ほんのちょっとの間、のんびり観光させてもらえたら、それで!」
「・・・・欲がなさすぎるのも、困りものだな」
無理難題を言われるよりはずっといいのだが。
三者三様に、とても慎ましい要望を言うものだから。
国王は微笑まし気に困った顔をしたのだった。
「その、ごめんなさい」
「いや、構わぬ。だがせめて、城の客間を宿として提供させてくれ」
「はい、それで大丈夫です!」
ましろが頷いたのを最後に。
その場は解散となったのであった。
「――――ソラ」
「?、はい」
謁見の間を出て、あてがわれた寝室へ向かおうとした時。
シャララがソラに話しかけた。
ましろも思わず足を止めて振り向くと、シャララは神妙な顔をしていて。
「・・・・何か、思い出せたことは?」
「・・・・申し訳ありません」
「・・・・いや」
問いかけに、ソラが静かに首を横に振ると。
シャララは少し寂しそうにしながら、目を伏せたのだった。
「・・・・いいんだ」
ギガノマンチュラ
拙作オリジナル要素。
大体は本文の通り。
スカイランドでも屈指のやべぇ大型昆虫。
ネーミングは『ギガ』+『マンティス(カマキリ)』+『タランチュラ』。
狩りの際は圧倒的フィジカルを駆使する一方で、毒の糸で罠を張って待ち伏せる狡猾な一面も持ち合わせている。
一年前、ソラの故郷に複数体で出没し、駐屯していた警備隊を壊滅させた。
一番近い青の護衛隊が到着するまで、一日。
ソラはその間、死に物狂いで立ち向かっていた。
背中の傷は、その際についたものである。