「お疲れ様です、今日の報告書を提出に来ました」
「ああ、ご苦労」
ハヤテ先輩とともに、初日を終えて。
報告書を提出に、隊長の執務室を訪れる。
「む、新しい剣も来たな」
「はい、とっても手に馴染みます。手配、ありがとうございました」
「何、福利厚生の一環だ」
『気にするな』と笑ったシャララ隊長は、改めて一日の業務の感想を聞いてきた。
「今日はどうだった?」
「やはり、戦えるだけではいけませんね。やることも学ぶことも多いです」
当たり前だけどね。
書類仕事ととかもそうだけど。
パトロールの時に注意する点とか、思いもよらない場所を見なきゃいけなかったりしたから。
丁寧に教えてくれたハヤテ先輩には、感謝するほかないな。
もちろん、そんな人選をしてくれたシャララ隊長にも。
「ふふ、充実していたようで何よりだ」
「はい!」
覚えたばかりの敬礼をすれば、微笑まし気な反応をされた。
・・・・今まで、自分が微笑ましくする側だっただけに。
ちょっと、新鮮。
「・・・・時に、ベリィベリーのことだが」
「はい?」
「あまり、嫌ってやらないでくれ」
ベリィベリー・・・・確か、朝礼の時にましろさんとツバサくんに文句言ってた人か。
ましろさんとそう変わらなさそうなのに、結構強かったから。
印象に残ってたんだよな。
・・・・・いちゃもんつけられた件?
あれは、ほら。
私にも非はあるから・・・・。
それはそうと、出来るなら二人に謝ってほしいけど。
「あの子は、子どもの頃に負った怪我の所為で、入隊試験に何度も落ちてしまったことがあってな・・・・以来、力に執着するようになってしまっていたんだ」
「・・・・なるほど、それで」
・・・・そりゃあ、ますます気に食わんよな。
よく分からん理由で、一度隊長の推薦を蹴った癖に。
また『入隊させてください』ってやってきた奴なんか。
「彼女の強さは、こちらもなんとなく分かっていました・・・・叶うなら、お話出来たらよかったんですが」
「・・・・そうか」
悪い子じゃないのは確実ってのもあるんだけど。
あの模擬戦以降見かけなかったもんだから、単純に心配してる。
いや、不審者なんかにどうこうされるわけないだろうけど。
年下だし、やっぱり心配よね?
「確かに、守るために力は必要だ。だが、力だけではどうにもならんこともある・・・・ヒーローは、常に何が正しいかを考え続けなければならないんだ」
「・・・・その通りだと思います」
『正しさを、考え続けなければならない』、か。
・・・・シャララ隊長にも、あったのだろうか。
私にとっての、水族館の様な出来事が。
「ひとまず、今日はもう上がるといい。まだまだ覚えてもらうことはあるからな」
「はい、ついでにベリィベリーさんも探してきます」
「何?」
首を傾げた隊長に、にっと笑って。
「少なくとも今は、それが正しいと判断したので!では!」
「――――その前に」
執務室を後にしようとしたけど、呼び止められてたたらを踏んでしまった。
振り向くと、何だか不機嫌そうな隊長が。
な、何かやっちゃいました・・・・?
「・・・・試験の時、最後に手を抜いたな?」
・・・・・そのこと、か。
「まさか」
何でもないように肩をすくめて、困ったように笑って見せる。
「貴女は隊長、私は新人。勝てる要素なんてないでしょう?」
「・・・・・そういうことにしておいてやる」
「ふふ、では、失礼します!」
話は終わったようなので、今度こそ執務室を後にした。
「まったく・・・・食えないやつだ」
◆ ◆ ◆
――――情けない、と感じた。
本当は分かっていたのだ。
朝礼の、仲間を侮辱された時に発した威圧感から。
彼女は、『ソラ・ハレワタール』は。
己の思うような弱者ではないのだと。
――――幼い頃の怪我が原因で、膂力を失った所為で。
青の護衛隊の試験に、何度も落ちて。
その度に、嗤われて。
・・・・力が、欲しかった。
力さえあれば、望んだ場所に立てるのだと。
だから、人並み以上に努力した。
失った膂力を、雷を放つスカイジュエルで補って。
頑張って、鍛えて、駆け抜けて。
そして、念願かなって青の護衛隊に入隊出来て。
これで、やっと。
憧れた人の下で戦えると、嗤ってきた奴らを見返してやれると。
――――嗤いながら言われた文言の中で、一つだけ納得できるものがあった。
『力』だ。
『力』さえあれば、屈辱を受けることはないのだ。
嗤われることはないのだ。
だから、入隊後も鍛錬を続けた。
自身を誇るために、二度と嗤われないために。
(本当に、強かった)
シャララとの、入隊をかけた模擬戦。
木剣という得物で、ソラは互角に渡り合って見せた。
それどころか。
あえて剣の軌道をずらして、シャララに斬らせたのも分かった。
ただ勝つだけではない、『強さ』が。
確かにそこにあったのだ。
(それに比べて、私は・・・・!!)
尊敬するべき本当の強者を見抜けず、それどころか侮辱するような発言。
人としても、青の護衛隊としても。
醜態をさらす始末。
「うぅ・・・・っく・・・・!」
恥ずかしくて、恥ずかしくて。
両目に涙を滲ませていた。
「――――あの」
その時だった。
「・・・・ッ!?」
「大丈夫、ですか?」
声に驚いて、振り向いた先。
昨日から話題に上っている、『ヨヨの孫娘』が。
心配そうにこちらを見ていた。
「・・・・・その」
並んで座っていたましろが、静かに耳を傾けていると。
ベリィベリーはおもむろに口を開いて。
「・・・・すまなかった。嘘つき呼ばわりしてしまって」
「ああ、それはいいんですよ。わたしも、ソラさんやエルちゃんと出会うまで、異世界なんて信じてなかったし」
頭を下げる彼女に、ましろはあたふたと許す旨を伝えた。
「・・・・それに」
「それに?」
「気持ちは、分かりますから」
食べかけのパンに目を落として、今度はましろが語り出す。
「わたし、あなたやソラさんと違って、ちゃんと戦うためのトレーニングは全然やってないんです。それまで必要なかったからっていうのも、あるんですけど」
「・・・・それは、そうだろう。このスカイランドにすら、君みたいな子はいるんだから」
「ありがとうございます」
ましろはベリィベリーに微笑むも、やはりどこか覇気がない。
「でも、プリキュアになって、戦わなきゃいけなくなって・・・・もちろん真面目にやってるんだけど、やっぱり上手くいかないことが多くて」
どこか遠くを見つめる目は、記憶を想起しているらしい。
「スカイに、ソラさんに助けてもらってばっかりで・・・・悔しいなって、何度も思いました」
「・・・・そう、なのか」
「はい」
意外だった。
プリンセスを守った特別な戦士の一人が、自分と同じ『悔しい』を感じたことがあったなんて。
「・・・・だけど」
動揺しているベリィベリーの隣で、ましろの声から陰りが消える。
「だけど?」
「信じて、くれているから」
視線が上がる。
見つめる虚空には、ソラの姿を映しているのだろうことが。
ありありと分かった。
「とても強くて、優しくて、かっこよくて・・・・そんなすごい人が、信じてくれているから」
キラキラと輝くましろの瞳。
本当に尊敬しているのだなと感心しながら、ベリィベリーは耳を傾け続ける。
「だから、胸を張って隣に立てる様にって、頑張れるんです!」
手を握って笑う顔に、己とは違う『強さ』を見たベリィベリーは想起する。
――――かつて、故郷の村は大災害に見舞われたことがある。
瓦礫の下敷きになり、もうダメだと諦めかけていたその時。
救い出してくれた、シャララの力強い手のひらと。
『もう大丈夫』と安心させてくれた、あの笑顔。
(そうだ、私も)
一周回って愕然としながら、己の手を見つめて。
(ああなりたいと、願ったんだ)
一番最初の夢を、忘れないように。
握りしめた。
「弱いなりの、意地っ張りなんですけども・・・・」
「・・・・いや」
照れくさそうにするましろへ、慰める様に首を振って。
「悪くないと思う」
「・・・・はい!」
微笑んだベリィベリーに、ましろもまた笑顔を深めた。
――――その時だ。
「――――可哀そうに、騙されていることにすら気付かないなんて」
「ッ誰だ!?」
振り落ちて来た第三者の声に、身構える。
小馬鹿にしたような口調に、険しい表情になりながら見上げれば。
やせ形の青年が見下ろしてきていた。
「力のある強い奴はね、そうやって弱い奴を思い通りにして、好き勝手に使い捨てるのさ」
「ッソラさんは違うもん!」
「洗脳され切っているんだね、ますます哀れだ」
ましろが力強く言い返しても、青年は意に介した様子はない。
「でも、ほら。僕って優しいから、分かっちゃうんだよね。弱い者の悲しみ?怒り?なんかそういうの・・・・」
「あなた、アンダーグ帝国の人だね!?」
「あれが・・・・!?」
「ご明察!」
ベリィベリーが驚く一方で、青年は俳優の様に両手を広げた。
「バッタモンダー!いうなれば新しい敵ってところだね!!」
青年は、バッタモンダーは。
名乗るなり、片手を足元に叩きつけて。
「カモン!アンダーグエナジー!」
カバトンと同じく、黒いエネルギーを呼び出したのだった。
「ッ下がれ!」
ベリィベリーが、青の護衛隊として、ごく自然な動きでましろを庇って。
アンダーグエナジーが、彼女のグローブに当たってしまう。
「うわぁっ!!」
「ベリィベリーさん!?」
後ろに倒れてしまうベリィベリーは咄嗟に支えることは出来たが。
「ランボーグッ!!」
ランボーグは生み出されてしまった。
「クソッ・・・・!」
「ここは任せて!」
己の失態に苦い顔をするベリィベリーを庇う様に、今度はましろが前に出て。
「スカイミラージュッ!トーンコネクトッ!ひろがるチェンジッ!プリズムッ!!」
「へぇ・・・・そっか、君が」
興味深そうににやつくバッタモンダーの前で、変身する。
「ふわりひろがる優しい光、キュアプリズム!!」
「ふふ、いいだろう。お手並み拝見といこうじゃないか!ランボーグ!!」
「ランボーグッッ!!」
ランボーグの、巨大な拳が。
プリズムを叩き潰そうと迫って来た。
「はあ!!」
努めて冷静に光弾を当てたプリズムは、すぐに体を反転させると。
ベリィベリーを抱えて、飛び出す。
「な、何を・・・・!?」
「ランボーグはわたしが引きつけますから、ベリィベリーさんは避難誘導をお願いします!」
「一人で戦うつもりか!?」
ある程度離れたところで降ろされたベリィベリーは、心配に声を荒げる。
「時間稼ぎならできますから!」
両手を握るプリズムだが、どうにも納得がいかない。
「ランボオオオグッ!!」
そうこうしている間に、ランボーグが追いついてきてしまった。
棘付きの拳が、激しく叩きつけられる。
「ッ止むをえまい!!二人でやるぞ!!」
「わ、分かりました!!」
プリズムと一緒に飛びのいたベリィベリー。
プリキュアに負けず劣らずのフィジカルを目の当たりにして、頷かざるを得なくなったプリズムは。
並んで着地して、ランボーグを見上げた。
「ああ、可哀そうに。そうやって不要な痛みを受けるんだ・・・・でも大丈夫、君達を傷つけるこんな世界。僕が壊してあげるからさ!!」
「ランボーグ!!」
再び拳を上げるランボーグへ、まずはプリズムによる牽制の光弾。
怯んだ足元に、ベリィベリーが接近して。
「はあっ!!」
正拳を叩き込む。
「ランボーグ・・・・?」
しかし、プリズムの攻撃と比べて、こちらは大して効果がない。
『何かやったか?』とばかりに目を向けたランボーグは、すぐに蹴り上げて反撃してきた。
避けながら、ベリィベリーは苦い顔。
(クソッ、やはりジュエルなしでは・・・・!)
弱った膂力が仇となっていることを口惜しく思いながら、それどころではないぞと気を引き締める。
「やああああ!!」
「ラァンッ!?」
入れ替わる様にプリズムが飛び出し、飛び蹴り。
ランボーグの体が大きく傾き、ふらついたところへ。
ダメ押しに光弾を叩き込んだ。
「なるほど、そうか・・・・!」
プリズムの戦いを見てひらめいたベリィベリー。
軽やかに跳躍すると。
起き上がろうとするランボーグの顔面目掛けて、蹴りを放つ。
普段から鍛えているだけあって、プリズムのそれよりも重い音を立ててクリーンヒット。
ランボーグは怯み、呻き、悶絶する。
「す、すごい・・・・!」
「足の力は、腕のそれの三・四倍・・・・こんな簡単なことを忘れるとはな」
不敵に笑うベリィベリーの後ろで、プリズムは感嘆の声を上げた。
「へぇ、やるじゃないか・・・・でも、忘れていないかい?」
顔をひきつらせたバッタモンダーだが、すぐに涼し気な表情に戻る。
いや、涼し気どころか、あくどい顔になって。
「こいつは、君の持ち物を素体にしているんだよ?」
「ッ下がれ!!」
気付いたベリィベリーが叫ぶも、遅かった。
「ラァンボオオオオオオグッ!!!」
ランボーグが吠えると同時に、激しい雷鳴。
迸る稲妻が、二人に襲い掛かる。
「うわああああああッ!!」
「きゃああああああッ!!」
直撃を受けて、吹き飛ばされるプリズムとベリィベリー。
地面を何度か跳ねて、転がっていく。
「ぅっぐ・・・・ベリィベリーさん!」
「ぐう・・・・!」
プリキュアゆえに、比較的頑丈なプリズムはすぐ起き上がれたが。
ベリィベリーは倒れ伏したまま動けない。
目の前にはランボーグ。
庇う様に、プリズムは立ち上がった。
「ふふふっ、ああ、なんて可哀そうに・・・・君が尊敬している人は、今の君を見てなんていうのかなあ?」
そんな彼女を見て、バッタモンダーは嘲笑う。
「身の程知らず、めくら蛇に怖じず、桂馬の高跳び。ねえ、他になんて言うんだろうね?」
「・・・・ッ!」
これみよがしに、再び稲妻を迸らせるランボーグを見上げて。
立ちはだかるプリズムと、庇われるベリィベリー。
「ランボーグッ!!」
とうとう放たれた稲妻が、二人に襲い掛かった。
その時だった。
「――――ええ、言いますとも!」
『青』が一つ、飛び込んで。
「『ヒーロー』という言葉を!!」
ランボーグを、吹き飛ばす。
手を抜かなくても普通に負けていたソラさん。
わざと木刀を斬らせる『手抜き』に気付いたのは、隊長とベリィベリーさんだけ。