「お疲れ様です、ベリィベリーさん」
「むぐ」
青の護衛隊の詰め所。
ソラが座っていたベリィベリーに話しかけると、彼女は口をもごもごさせながら振り向いた。
「何食べてるんです?」
「んぐ・・・・
「なるほど、頂いても?」
「ああ、青の護衛隊にと言っていたからな」
バナナに酷似した果物を、房から一本取って。
並んで食べ始める。
「お、ナババ」
「俺も食べたーい」
「あ、はい。どうぞ」
そこへやってきた他の隊員にも差し出しながら、同じ机についておやつを堪能する。
その中、ふと槍を携えた方の隊員が口を開いて。
「これ、誰が?」
「ましろさんだそうです」
「ああー、お前さんと同じプリキュアか」
「こないだベリィベリーと組んで戦ったらしいな」
「は、はい」
通りすがりの隊員達にも分けながら、会話は続く。
さすがのベリィベリーも、先輩に話を振られれば敬語になるようで。
「異世界の子なんだっけ?」
「はい、ヨヨさん共々、生活面でものすごくお世話になりました」
「やっぱり常識から違う感じかー、不思議なもんだなあ」
「だいぶ違いますよ。動く階段とか、喋る人形とかいるんです」
「ひええ、すげぇな」
食べ殻を設置されたごみ箱に入れても、会話は途切れない。
異世界の話を聞いて慄く隊員達へ、ソラは『分かる分かる』と頷く。
「食べ物も、ちょっと味が違うんですよね。このナババも、向こうによく似たバナナっていうのがあるんですけど、ねっちり具合とか甘味の方向性も少し違います」
「「「へー」」」
自分の話に、三者三様に感嘆の声を上げる様を見て。
普段引き締めた表情を見る機会が多いだけに、ちょっとだけ面白いものをみた気分になるソラ。
「それにしても、いい子だよなましろちゃん・・・・」
その一方で、剣と盾を背負った隊員がしみじみ口を開く。
「一昨日の、バッタモンダーとかいうのがやってきた時。自分もふらふらなのに避難誘導手伝おうとしてさ・・・・全力で止めたよね、休みなさいって」
「何やってんですかましろさん」
(いや、そういう優しさがあの子のいいところなんだけど!!)
頭を抱えたソラを見て、今度はベリィベリーや隊員達が面白いものを見た気分になる。
「おっ、ナババ」
「ましろって子からの差し入れだって」
「あー、あの子」
通りがかったハヤテもまた、一本手に取って食べ始めた。
「そういえば、同じプニバードのよしみでツバサって奴から聞いたんだが・・・・ましろちゃん、ヤーキターイを作れるって?」
「ヤーキターイ?」
「プニバードの伝統料理だろ?お祝いの時に食べるって」
席に座ったハヤテの話に、ソラは頷いて。
「はい、正確には『たい焼き』っていう、向こうの酷似した食べ物があるんで、それをみんなで作ったんですけど」
「へぇー、料理上手なんだな」
「それはもう!ましろさんのごはんはものすごくおいしくて!いつもおかわりしちゃうんですよ!」
ニコニコする彼女を見て、ハヤテは微笑まし気になる。
「おいしいだけじゃなくて、何と言うかこう、真心もあるんですよね」
「そうなん?」
「はい、向こうに行って間もない頃。スカイランドをイメージして、『くもぱん』って料理も作ってくれたんです」
「そりゃすげぇや」
再び感嘆の声が上がる横で、槍の隊員と盾の隊員はにやっと笑って。
「というか、お前めっちゃ喋るじゃん」
「さては大好きだな?ましろちゃんのこと」
「ヒョッ?」
指摘に、奇声を上げて一時停止したソラに。
一同、『おや?』と首を傾げた。
「あ、いえ、そうですね。好きか嫌いかで言えば好きですね、ええ」
「・・・・お前さん、もしや」
すぐに再起動してなんでもないように話すも、動揺しているのが丸分かりである。
面白い気配を察知したハヤテが、さらに問い詰めようと口を開こうとした。
その時。
「――――大変だ!西区にランボーグ!」
「ダァーッ!!またかよ!!」
「あんの『※放送禁止用語』野郎!!今日で何回目だ!!」
「四回目だなァーッ!!お元気なこって!!」
敵襲が知らされて、にわかに騒がしくなる詰め所内。
「ッ先行します!!」
「お、おう!」
「また後でな!」
「はいっ!!」
これ幸いとばかりに、ソラは立ち上がって。
ミラージュペンを握りしめる。
◆ ◆ ◆
「――――ソラ・ハレワタール、参りました!」
「ああ、来てくれたか」
その日。
ランボーグの討伐を終えた私は、隊長室に呼び出されていた。
隊長室の中には、シャララ隊長の他にももう一人。
黒いローブで全身を覆った人がいる。
その人個人は知らなくても、何者かくらいは見当がついた。
「紹介しよう。こちら、隣国の『クシザス王国』から来た、王太子の」
「――――『ジークフリート・ラキュラ・クシザス』だ。よろしく頼む、噂のプリキュア」
「ッ恐れ入ります、ソラ・ハレワタールです!」
やっぱり。
――――『クシザス王国』。
この世界に住む人間以外の種族『
日の光が致命的な弱点である代わりに、驚異的な身体能力と魔力を持っている
人間でいう、水や呼吸と同じくらいに必須な吸血行為により。
かつては怪物と呼ばれ恐れられていたけれど。
500年前の『ある出来事』を切欠に、和平と国交を結んだ種族。
体全体を覆うローブは、彼らが文字通り日に焼かれないように纏う民族衣装なのだ。
まさか王子様とは思わなかったけれど・・・・。
確かこの人、シャララ隊長と同門じゃなかったっけか。
「挨拶が遅れました無礼、ご容赦頂きたく」
「構わん、そのくらいのことで目くじら立てんよ」
「はっ!寛大な御心、感謝します!」
ひとまず、無事に挨拶は終えたけれど。
そんな人がどうしてここに?
「ジークが持ってきた件、君の耳にも入れた方がいいと判断した」
疑問に思っている内に。
隊長の顔が、みるみる険しくなっていって。
言いようのない迫力に、思わず身が強張る。
「・・・・・同じプリキュアに共有するかどうかは、君の判断に任せるが・・・・ここで聞いた事は、極力他言無用で頼む」
・・・・なんか。
いやぁな予感。
「――――キルミラは、知っているな?」
――――全身が、強張るのが分かった。
◆ ◆ ◆
「――――ソラさん!お疲れ様です!」
「おや、ましろさん」
夕方。
珍しく私服姿のソラを見かけたましろは、駆け寄っていく。
スカイランドの服を着ているのは初めてではないが、何せ最初に出会った日以来だ。
懐かしいよりも、新鮮という感想が勝った。
「どうしました?」
「あの、ご迷惑じゃなければ一緒にご飯でもどうかなあって」
「ああ、いいですよ。この世界の感想も聞きたいですし」
「やった!ありがとうございます!」
ましろの提案を、快く受け入れるソラ。
恋愛感情は抜きにして、自分を慕ってくれている相手からのお誘い。
断る理由がなかった。
「ベリィベリーさんに、おいしいお店を教えてもらって!」
「・・・・仲がいいんですね」
「はい!この間一緒に戦ったからか、よくお話するんです!」
「ふふ、そうなんですか」
微笑まし気に見守ってくれるソラだが、その顔に何か陰りがある様に見えて。
疑問を抱いたましろは、口を開いた。
「・・・・何か、あったんですか?」
「え?」
「あの、勘違いだったら申し訳ないんですけど・・・・ソラさん、元気ない様に見えて」
「ああ・・・・多分、疲れてるんですよ。今日だけでもたくさんランボーグが出ましたから」
「そう、ですか・・・・」
違和感は、まだあった。
しかし、それ以上追及する手立てをましろは知らなかった。
「ところで、何がおいしいお店なんです?」
「あ、ハンバーグ、じゃなくて、こっちだとバンハーグだったかな?トマト煮込み、じゃなくって、えっと」
「タモタですね。なるほど、それはおいしいやつです」
件の店は城から近い場所にあった。
夜暗くなっても、すぐに帰れるだろう。
ソラも付き添えば、たいていの危険もなさそうだ。
「それでは、行きましょうか?」
「はい!」
久しぶりに、一緒になって歩いていく。
「ちなみにツバサくんは?」
「今日はエルちゃんの傍にいたいって」
「ふふ、とても張り切っていますね」
「はい!」
「な、なんだ?好きで悪いか!?バンハーグ!!」
「急にどしたー?」
「い、いえ、何かこう、言わねばならない気がして・・・・」
「・・・・俺も好きだぞー、バンハーグ」
「わたしもー!」
「オレもオレも!
「渋いですね、あたし
「それ絶対おいしいやつー!!」
「ベリィベリーも今度やってみたら?」
「は、はい!」
「おいしかったですね」
「はい、夢中になっちゃいました!」
大衆食堂の様な店は、期待通りの料理を出してくれた。
舌鼓を打ちつつ、話に花を咲かせたソラとましろ。
食べ終えた皿が下げられてもなお、話題は尽きない。
「この世界、ほんとうに鳥さんに乗って移動するんですね。落ちないかどうかドキドキで、あんまり景色見る余裕ありませんでした」
「最初は誰だってそうですよ」
「ソラさんも?」
「ええ、ヒーローになるうえで頑張って克服したんです」
遊覧鳥に初めて乗った話をするましろへ、微笑まし気に相槌を打つソラ。
「慣れないならしょうがないですけれど、出来たら見てほしいです。高いだけあって、とっても素敵な光景が見られるんですよ」
「へぇー!」
スカイランド人ならではの意見に、ましろが感嘆の声を上げた。
その時だった。
「・・・・ん?」
二人の隣のテーブルが、にわかに騒がしくなる。
何事かと目を向けると、男女が椅子の上に立つのが見えた。
男女は幸せそうに互いを見ると、両手を口元に当てて。
「みなさーん!!」
「私達!!」
「「結婚しまーす!!」」
ましろと同じく注視していた他の客達は、彼らの宣言に目を点にした後。
ワッっと大歓声を上げた。
中には指笛を鳴らすものや、勢いのままに追加注文をするものまで現れる。
「・・・・えっ、ええっ!?えええっ!?」
「あはははっ!」
突然の御祭り騒ぎに戸惑うましろの隣で、ソラが懐かしそうに笑い声を上げる。
「ソラさん?」
「ああ、ごめんなさい・・・・これ、うちの地方の伝統的な結婚式なんです」
「そうなんですか!?」
ぎょっと驚いたましろを微笑まし気に見ながら、彼女は身を乗り出して隣の席に話しかけた。
「みなさんもしかして、イナカノゾーラですか?」
「おっ、そういう姉ちゃんもか!?」
「はい!イナカノゾーラ地方の、キョーヘンです!」
「いいねぇ、のどかなところじゃないか!」
「ありがとうございます!」
ソラの質問に、陽気に答える中年男性。
一通り会話した後で、改めてましろに向き直って。
「新しく夫婦になる二人が、村や街の高いところから大声で宣言するんです。で、それを聞いた人々は一晩中踊るんですよ」
「わぁー、なんだか楽しそう!」
「他の地方民もいる王都だと、さすがに迷惑だからな。三・四周ばかり新郎新婦を囲んで回るのが王都流だ!お前さん達もどうだい?」
「ええっ・・・・」
中年男性の提案に、ましろは一瞬怯んだが。
対照的に、ソラはノリノリで立ち上がって。
「いいですね、ご一緒させていただきます!ましろさんも!」
「え、ええええっ!?」
ましろの手を取ると、あっという間に輪に加わってしまった。
周囲のやんやの声を受けながら、新郎新婦を囲んで回り出す一団。
ましろはついていくだけで精いっぱいだったが。
「あははっ!ふふふっ!」
幸せいっぱいの面々の顔を見ていると、なんだかこちらも嬉しくなって来た。
隣を見れば、ソラも楽しそうに笑っている。
(・・・・よかった)
先ほどの、あの陰った表情は見受けられない。
踊り終えて、万来の拍手で締める中。
ましろは安堵を覚える。
(――――このままじゃ、ダメだよね)
しかし、すぐに口を結んで。
『どうしたの?』とばかりに笑いかけてくるソラを見上げる。
(いい加減、助けられてばかりじゃいられない)
◆ ◆ ◆
いやぁ、まさかご飯食べにいって、地元式の結婚式に遭遇することになるとは。
ノリと勢いのままにましろさんも巻き込んでしまったけれど、楽しんでくれたようで何より。
「楽しかったですね」
「はい、忘れられそうにないです」
「わたしもです!」
・・・・少し、悩ましいこともあったけれど。
前向きな気持ちにもなれたし、結果オーライだな。
うん!
なんとなく見上げると、真ん丸なお月様が空に浮かんでいた。
「おお」
「ソラさん?」
思わず素で声を上げると。
聞こえたらしいましろさんが振り向いた。
「ああ、すみません。月が綺麗で」
「月?あ、本当だ」
夜空を見るよう指さしたら、納得してくれた。
「こっちの模様は鳥さんなんですね、かわいい」
「そちらのうさぎさんも中々ですよ」
「えへへ、そうですね。どっちも素敵です」
一緒に足を止めて、満月を見上げる。
地球のそれと、模様はだいぶ異なるけれど。
その神秘的な光に魅了されるのは、どこの人間でも同じらしい。
・・・・繁華街の賑わいを遠くに。
私も、ましろさんも。
何を言うでもなく見つめていたけれど。
「――――ソラさん、あの」
ふと、いたずらっぽい笑みが向けられて。
「月が、綺麗ですね」
・・・・多分、ましろさんは私が知らない前提で口にしたんだろう。
だから私も、それに付き合って笑いかける。
「はい、とっても!」
「ふふっ」
言うだけで満足したのか、ころころと花の様に笑い声を上げるましろさん。
だんだんと、その顔を大人っぽい静かな微笑みに変わって。
「・・・・あの」
「はい」
急かさず、言葉を待つ。
「ソラさんが、何に悩んでいるのかわたしには分かりません」
応援の言葉の後、私の手を取って握りしめると。
「だから、いつか言ってくれたことを、伝えさせてください」
大切なものを扱う様に、頬を寄せて。
「わたしも、味方になります。ソラさんが、どんな答えを出しても、どんな決断を下しても・・・・大切な友達で、仲間で・・・・大好きな人、なので!」
――――嗚呼。
どうしてだろう。
この子が輝いて見えるのは。
どうしてだろう。
この子に友情以上の想いを抱くのは。
どうしてだろう。
この想いの大きさに、気付いてしまったのは。
(・・・・なんで)
ああ、本当に。
なんで今なんだ。
なんで、こんな。
今更・・・・!!
今まで、どれほどこの子の想いを蔑ろにしてきた。
今まで、どれほどこの子を振り回してきた。
今まで、どれほどこの子を弄んできた・・・・!!
(絶対に、いけない)
口にしてはいけない。
伝えてはいけない。
だって、そうだろう。
今まで『付き合うことはない』なんて態度を取っておきながら、今更手のひら返して『好きです付き合ってください』だ?
侮辱しているにも、ほどがある!!!!!!
「ソラさん?」
「・・・・いえ、何も」
不思議そうに見上げてくるましろさんへ、私は首を横に振って。
「ありがとうございます、ましろさん」
胸の内を、死力を尽くして抑え込みながら。
感謝を告げると。
ましろさんは、嬉しそうに笑ったのだった。
「・・・・っくしゅ!」
「ああ、冷えてしまいましたね」
かわいいくしゃみを一つ零した彼女を、今度こそお城へ送る。
「あはは、しまらないや」
「そんなことはないですよ」
照れくさそうにする彼女の年相応さに、一種の安心感を覚えた。
――――その時だった。
「――――こんばんは」
振り落ちた、声は。
まるで、世界そのものが冷やされるな感覚がした。
『
拙作オリジナル要素。
スカイランドに住む、人間以外の種族。
人と同じような食事もとれるが、水や呼吸と同じくらいに吸血行為を必要とするため。
かつては『
500年前のある出来事を切欠に、人族と友好な関係を結ぶことになる。
主な居住圏は『クシザス王国』。
作中に出て来た全身を覆うローブは、古来から続く民族衣装。
日差しの下に出れば文字通り焼かれてしまう彼らの必須アイテム。
これの所為で相手の顔が見えないのがデフォルトなので、行動によって善悪を判断する風潮がある。