シャララ隊長でLV90とする。
――――街中から退散して、歩くこと少しばかり。
小高い丘の上にある、ましろさんの家についた。
・・・・・結構でっかいおうちですね!?
「よもやましろさん、やんごとなき御方なのでは・・・・?」
「ち、違いますよ!いたって普通の十代です!」
ましろさんが、私のトンチキ発言に慌てふためきながらも、ドアを開けようとすると。
ドアノブに触れるか否かというタイミングで、先んじて開かれた。
出てきたのは、上品なマダム。
「おかえりなさい、ましろさん」
「おばあちゃん」
なるほど、おばあ様。
佇んでいるだけでも感じる、エレガントなオーラ。
やっぱりいいとこのお嬢さんじゃないのましろさん?
「おつかいはどうだった?」
「あ、あのね、それなんだけど・・・・」
あらら、おつかいの途中だったのね。
なのにあんなことに巻きこんでしまって・・・・。
誠に・・・・誠に申し訳なく・・・・。
「お、おばあちゃん!信じてもらえないかもだけど・・・・!」
気まずそうにしたましろさんは、意を決して口を開く。
「この人が空からぴゅーって落ちて、ドーン!て着地したら、おっきな怪物ががおーって来て、ソラさんがピカー!シャキンシャキーンって!!」
ま、ましろさん。
さすがにその説明は・・・・いや、巻きこんだ私が言うのもなんだけども。
「そう、大変だったわね」
通じるんかいッッ!?
え、あの。
大丈夫ですか!?
「大丈夫ですか?自分でも割と怪しい人物だと思うのですが・・・・」
「構わないわ、孫が大変お世話になったようだし、遠慮なく上がって頂戴」
ぉ、おおう。
いや、正直なとこありがたいんだけど。
なんか、複雑・・・・。
とはいえ、他にいくとこもないので。
お言葉に甘えてお邪魔することになった。
「・・・・自分で言うのもなんだけど、今の説明で納得するの?」
すごく分かります、ましろさん・・・・。
「スカイランド・・・・こことは別の世界があるだなんて、信じられないよ・・・・」
「私もです、まさか異世界に来ることになるなんて・・・・」
いや、ホント。
ファンタジーだと思ってたら、まさかのニチアサ。
しかも『プリキュア』でっせ?
驚天動地とはこのことよ・・・・。
『人間界(仮)』も、私が知ってる時代からだいぶ進んでいるようだし・・・・。
「プリキュアってなんなんだろう・・・・おばあちゃん、百科事典で調べてあげられないかな?」
「いいえ、それよりも、スカイランドに帰る方法を探したいです。この子のご両親も、きっと心配しているはずですから」
そうだよ。
私だけならともかくとして、赤ちゃんだけでも帰してあげないと。
どんな理由で誘拐されたか、未だに知る由もないけれど。
親元を離れて、心細いはずだ。
「ヒーローは、泣いている子供を見捨てたりしない・・・・絶対親元に帰します!」
決意硬く、宣言した時だった。
「えるううぅぅー!!」
「むしろ泣かせちゃった!?」
あかん!泣いてしもうた!
声大きかったかー!ごめんよー!
「ああああ、ごめんなさい。びっくりさせましたね」
「お願い、泣き止んでー。べろべろばー!」
ましろさんも一緒になってあやしてくれるんだけど、一向に泣き止む気配がない。
えーと、赤ちゃんが泣く理由は。
おむつ、おねむ・・・・。
「「ミルク!」」
ましろさんも同じことを考えていたようで、同時に出た声がハモった。
・・・・いや!
「ミルクってどこで売ってるの!?コンビニにはないよね!?ど、どうしよー!!」
ましろさんはもちろん子育て未経験だし、私だって土地勘が無いからどこから手をつければいいのか分からない。
ぜ、前途多難過ぎる・・・・!
どうしたものかと、二人して頭を抱えていると。
「キッチンの棚、一番下に粉ミルクとマグがあるわ」
「「えっ?」」
突然の助言に、一緒になってましろさんのおばあさんを。
ヨヨさんを見る。
「ミルクは人肌でね」
アッ、ハイ・・・・。
・・・・・用意が良すぎるというか、都合が良すぎて慄くほかないけど。
他に当てもないから、やるしかない。
言われた通りましろさんと二人でキッチンを探すと、本当に粉ミルクとマグがあった。
粉ミルクの賞味期限も大丈夫だった。
「なんでこんなものがうちに・・・・?」
ねー、びっくりよね。
マグはギリギリ分かるとして、ミルクまでなんて。
この家の子ども、ましろさんの他にいなさそうだし。
処分しててもおかしくないのに・・・・。
いや、ひとまず今はありがたく使わせてもらおう。
赤ちゃんがひもじい思いしてるのはしんどいしね。
「むっく、んっく、んく・・・・」
ましろさんにポットなどの使い方を教えてもらいながら(結構進んでる機種で、なじみがなかった)、何とか作ったミルクを与えれば。
ものすごい勢いで飲み干していく赤ちゃん。
お腹減ってたんやな・・・・ごめんな、ひもじかったろう・・・・。
と、申し訳なくなっているうちに飲み終えたので。
マグを置いて、背中をさすってやれば。
「けぷっ」
うん、良いげっぷ。
「すごい、慣れてるんですね」
「年の離れた弟がいるので、何度かやったことあるんです」
いやぁ、あの頃は大変だったな。
修行に加えて、油断できない赤ん坊のお世話もあったから・・・・。
あのお陰で、割と動じない心を手に入れられたところはあるんだけど。
「へぇー!」
心なしか、ましろさんの目がキラキラしている。
さっきのパニックもあったことだし、多分私が頼れるお姉さん的なものに見えているのかもしれない。
・・・・ちょっと、照れくさい。
「オムツもあるわよ」
「そ、そうなんですか?」
揃い過ぎて末恐ろしくなってきてるんですけど!?
虹ヶ丘家、何なんだ・・・・?
いや、ましろさんのこともあるし、悪人でないのは確かなんだけども。
「あっ、そうだった!」
なんて考えつつ、落ち着いた赤ちゃんを見下ろしている横で。
ましろさんが、赤ちゃんを起こしてしまわない程度に声を上げた。
「おばあちゃん、救急箱どこだっけ?ソラさん怪我したの!」
「あらあら、それなら確か・・・・」
あ、そういえばしてたな!?怪我!!
でもアレ、プリキュアの力(初回特典)で何とかなったし・・・・。
とはいえ、ここまで心配してくれてるのに水を差すのも・・・・。
と、ちょっと悩んでしまった間に、あれよあれよと救急箱が用意されてしまった。
「ソラさん、診せて下さい」
「あの、ましろさん。私の怪我は本当に大丈夫で・・・・」
「い い か ら 診 せ て 下 さ い !!」
「アッ、ハイ」
いつの間にか、赤ちゃんはヨヨさんにバトンタッチされているし。
何よりましろさんの剣幕がやべぇ。
お世話になっている分際で、なお拒否できる度量も無く・・・・。
大人しく手当てを受ける他なくなったのであった・・・・。
「あれ、本当にない・・・・」
前髪をめくって、額を確認するましろさんのつぶやきが聞こえる。
流れた血の跡は残っちゃってたから、それで心配させてしまったみたいだけど。
やっぱり、怪我は治っている様だった。
「せ、背中は!?そっちも怪我してましたよね!?」
「背中、ですか・・・・」
・・・・・正直、あんまり人に見せたくないんだけども。
今のましろさん、それで納得しないだろうしなぁ。
「ソ ラ さ ん ?」
「アッ、ハイ」
案の定納得してくれなかったので、黙って従うことにする。
トホホ、今日だけで何度『アッ、ハイ』を言っただろうか・・・・。
背中を向けて、シャツを脱ぐ。
・・・・ちょっとドキドキしてきた。
いやいや、心頭滅却。
相手は純粋に心配してくれてんだぞ。
「――――ッ」
一人悶々としている後ろで、息を呑む音が聞こえた。
・・・・やっぱ見えるよなぁ。
「ソラさん、これ」
「若気の至りです、お恥ずかしい」
震える指先が、確かめる様に背中に触れるのが分かる。
「・・・・背中の傷は、どうですか?今日ついたと思しきものは?」
「えっ、あ、なっ、無いです!・・・・・シャツ!着て、下さい・・・・」
「はい」
あんまり見せるもんでもないので、早々にシャツを着てしまう。
振り向くと、何だか難しい顔をしているましろさんがいて。
「その、ごめんなさい」
「いえ、むしろすみません。御見苦しいものを見せましたね」
「見苦しいなんて、そんな!」
ましろさんは、大声を出したっきり。
口をもごつかせて、上手く言葉を出せない様だった。
かくいう私も、何と言ったもんかと無言になってしまう。
きまずい沈黙が下りたところで。
「――――ソラさん」
「は、はい!」
ちょうどいいタイミングで、ヨヨさんが来てくれた。
「元の世界に戻れるまで、二階の部屋を使ってもらっていいから」
「いいんですか!?」
「ええ」
い、至れり尽くせり・・・・!!
人がいいってレベルじゃねぇよォッ!!
「本当にありがとうございます!なんとお礼を申し上げていいのか・・・・!」
「ふふふ」
深々頭を下げる私を、微笑まし気に見たヨヨさんは。
ふと、その笑みに深みを持たせて。
「出会いに偶然はない」
「えっ?」
「人と人とが巡り合うこと、それはいつだって必然、運命、物語の始まり」
そう、詩的で意味深なことを告げてきた。
「え、えっと・・・・?」
「今はまだ、理解出来なくとも良いわ」
困惑している私を、また微笑ましく見つめると。
『ましろさん』と、声をかけた。
「あ、な、なぁに?」
「ソラさんをお部屋に案内してあげて、赤ちゃんもそこにいるから」
「うん、分かった!行こう、ソラさん!」
「はい」
頷いて、ついていくことにする。
「――――ここだね、赤ちゃんもすっかりおねむだ」
案内されたのは、ましろさんの自室の隣だった。
部屋の中では、赤ちゃんがゆりかごで寝息を立てている。
「よく眠っています、よかった」
「お父さん、お母さんから離されちゃって、大変だったねぇ」
一緒に覗き込んでくれるましろさんは、優しい顔をしていた。
・・・・・いい子だな。
きっと、素敵なご両親なんだろう。
だからこんなに他人を思いやって、手を差し伸べることが出来る。
・・・・本当なら。
おばあ様共々、巻きこんではいけない人間なのに。
「――――虹ヶ丘ましろさん」
「?、はい」
もう、だいぶもらい過ぎてしまっている。
だから、
「この大恩、一生お忘れいたしません」
膝をついて、頭を垂れる。
・・・・通用する金銭を始め、何も持ちえない今。
こうする他はない様に思えた。
「ソラ・ハレワタール、これよりあなたの騎士となり、忠誠を――――」
「た、タイム!ストップ、待って!」
「はい」
見上げると、困惑した様子のましろさんが見下ろしてきている。
・・・・・流石にちょっと性急すぎたか?
思えば、100%一般人な子に、騎士だの忠誠だのは早かったか。
口をつぐんで、ましろさんの言葉を待つ。
「・・・・あの!」
「はい」
意を決して口開いたましろさんは、もう少しだけ考え込んでから。
「騎士とか、忠誠とかじゃなくて・・・・お友達からじゃ、ダメですか?」
「・・・・ましろさんは、それでいいんですか?」
「むしろそれがいいです!」
夕日が挿す中、彼女は微笑んで。
「その方が、ずっといいです」
「・・・・分かりました」
差し出された手を握って、立ち上がる。
「では、友達として、よろしくお願いします。ましろさん」
「はい!」
「んんー、えうぅ・・・・」
笑顔になってくれたのはいいんだけど、眠っていた赤ちゃんが唸りだしてしまう。
よもや起こしてしまったかと、二人して身構えたんだけど。
赤ちゃんはそのまま眠りについた、よかった。
「「はぁー・・・・」」
安堵のため息をついたタイミングが重なって、それがおかしくて。
思わず、笑ってしまったのだった。
◆ ◆ ◆
「ソラさん、お夕飯・・・・あ」
夜。
夕食が要るかどうかを聞きに、ましろがソラの部屋を訪れると。
彼女はベッドで深く眠っていた。
赤ちゃんも、未だ夢の中だ。
「・・・・色んな事があったもんなぁ」
寝顔を覗き込みながら、想起する。
――――ソラ・ハレワタール。
突如として空から降って来た女性。
卓越した剣の腕を、人の為に振るう
ヒーローを目指しているらしい彼女は。
初対面ながら、少し心配になるくらいに優しくて。
そして、
(――――かっこよかったな)
ましろの『たすけて』に答えて、駆けつけてくれた。
その、背中。
怪我を見るために脱いでもらった肌には、何にやられたんだと聞きたくなるような傷が刻まれていた。
背中に限らず、よくよく見れば全身に古傷や生傷があちこちに出来ている。
特に、手が酷い。
指は節くれ立ち、手のひらも硬くごつごつとしている。
試しに、ちょうど上を向いていた手のひらをつついてみれば。
こつこつと硬い感触が返って来た。
(・・・・たくさん、たくさん、頑張ったんだろうな)
魂に刻まれたと言い切るくらいに、ヒーロー手帳を読み込んで。
体がボロボロになるくらいに修行して、強くなって。
それから更に、今日みたいに人助けをしてきたんだろう。
「・・・・おやすみなさい、ソラさん」
これからの日々に、胸を躍らせながら。
ましろは部屋を後にする。
ところでアンダークじゃなくてアンダーグなんですね。
修正しておきます・・・・。