あれからさらに一日。
バッタモンダーもキルミラも不気味なくらいに音沙汰がない。
とはいえ、奴らの根城も分からない以上、やみくもに藻掻くのは危険だ。
そういうことで、今日も今日とてパトロールである。
現在私が、何をしているのかと言えば。
「おああああああああああああ!!?」
とある郊外。
凶暴な獣に困っているという村で、件の獣に出くわしたのである。
いや、あの聞いて!!
今日はシャララ隊長と一緒に回っててね!?
隊長が聞き込みをしている間、村の周辺を見回っていたら。
それらしい奴にばったり遭遇してね!?
ヘラジカの親戚みたいな巨体を前に、『こらあかん』と木の上に退避したら叩き落とされちゃって!!
ピタゴラスイッチよろしく、獣の背中にジャストフィット!!
あとはもう強制ロデオよ!!
「ぐあ!っづ!止まれええええ!!」
なんとか角を引っ掴んで落ち着かせようとするけど、獣は元気に暴れ続けて!!
グエーッ!酔いそう!!
「ソラ!今行く!!」
シャララ隊長が駆けつけてくれたけど・・・・!
「ッ待ってください!!攻撃はやめて!!」
「何!?」
「この子、怪我をしているんです!それで気が立っている!だから暴れているんだ!!」
遭遇した時、はっきり見た。
後ろ足の片方に、怪我を追っている。
「まずは落ち着けて、治療を受けさせないと!!ずっと暴れるままです!!」
「ッ前!」
言われるがままに前を見ると、丘の切り立った部分が迫っていて。
ッまずい・・・・!!
「ッこの!」
角をハンドルに、何とか制御しようとするけれど。
獣は爆走をひたすら続けて。
「ウワーッ!?」
私諸共、激突してしまったのだった。
「あいたた・・・・」
「はは、もうしばらく横になっているといい」
「そうします・・・・!」
村の小高い丘の上。
水を吸わせた布を当てられ、仰向けに寝転がる。
――――結論から言えば、事件は無事に解決した。
頭を強打して大人しくなった獣は、粛々と村医者の治療を受けて。
静かに森へ帰っていった。
「しかし、よく気付いたな。あの獣の怪我に」
「遭遇した時に見たんです、でも興奮しきりでそれどころではなかったので・・・・」
「なるほど」
突き抜けるような青空を見上げながら、ため息を一つ。
「結局私諸共崖にぶつけてしまったし、もっといい方法があったように思います・・・・未熟です」
「完全な無傷で終わる案件なんて、そうそうないものだ。気に過ぎると、身が持たんぞ」
「・・・・はい!」
身じろぎすると体が軽い感覚がしたので、起き上がる。
気怠さも・・・・うん、なさそうだな。
念のためあとで診てもらった方がいいのかもしれないけど。
・・・・それにしても。
「隊長自らもパトロールに出るんですね」
「あまり長く王都を開けられないがな」
素朴な疑問に、どこか困った顔で笑った隊長は。
同じく、村と王都を一望できる景色を視界に収めた。
「王都の防衛ももちろん大事だ。だが、辺境にも助けを求める人々はいる。だから可能な限り出向いて、見回る様にしているんだ」
「なるほど」
主な拠点である王都だけでなく、国全体を見回る。
それはとてつもなく大変なことなんだろうけれども。
自力ではどうしようもない困難に涙する人が、少しでも減るのなら。
それに越したことはないのかもしれないな。
そう考えていると、隊長はおもむろに首元へ手をやって。
ペンダントを引き出した。
これは・・・・スカイジュエル?
「覚えているか?」
「え?」
「14年前、幼かったお前が助けたお礼にとくれたものなんだ」
「そうなんですか!?」
――――14年前。
『ソラ』がシャララ隊長に助けられたことは、家族から聞いていた。
それが切欠で、ヒーローを志したことも。
一年前に会った時、隊長が私を覚えていたことには驚いたけれども。
まさか、子どもがあり合わせで贈ったであろうスカイジュエルも大切にしていたなんて。
「そ、そんなスカイジュエルの欠片、どこにでもあるものでしょうに」
「ああ、そうだな・・・・だが、私にとっては、とても印象に残る出来事だったよ」
言いながら、隊長は物憂げにスカイジュエルを見つめて。
「ヒーローとして、大切にすべきは何か、なすべきは何か・・・・考えさせられた」
「・・・・隊長?」
・・・・何か、あったのだろうか。
私が、首を傾げている時だった。
「なんだ、あれは!?」
村の方で、どよめきが上がるのが聞こえた。
何事だろうかと、隊長へ向けていた顔を前に戻せば。
王都の上空に浮かぶ、巨大な物体。
あれは・・・・!?
「あれは、ランボーグ!?」
「ッ戻るぞ、ソラ!!」
「はい!!」
立ち上がって、丘を駆け下りていく。
◆ ◆ ◆
「――――陛下!」
「一体何が!?」
シャララとソラが謁見の間に飛び込むと、主要なメンバーは既に揃っていた。
「――――先ほど、バッタモンダーから脅迫状が届いた」
いつになく険しい顔をした国王が、口を開く。
要求は実にシンプルで予想通り、『プリンセス・エルの引き渡し』である。
さもなくば、上空に出現させたランボーグを爆破させると。
件のランボーグは、今回満を持して繰り出してきただけあってただものではなかった。
――――プリキュアのみならず、青の護衛隊によって倒されてきたこれまでの個体。
プリキュアによって討伐されたものは、アンダーグエナジーを残さず浄化されたが。
青の護衛隊が対処したものはその限りではない。
そうやって少しずつ少しずつ王都に留まり続けてきた、アンダーグエナジーを以て生み出されたものだということだった。
「ジークが一時帰国している時に仕掛けてくるとは・・・・タイミングを計っていたな」
(とっくに奴の術中にはまっていたということか、クソッ!どうして気付かなかった・・・・!!)
ソラが苦い顔をしたところで、謁見の間の扉が開く。
一同が目を向けると、片腕を抑えるツバサが満身創痍で立っていた。
なんなら今にも倒れるところで。
「ツバサくん!」
「大丈夫!?」
「えゃうー!!」
王妃の腕で、エルが悲痛な声を上げる中。
真っ先にソラが、続けてましろが駆けつけて。
危うく床に強打されるところだったツバサの体を受け止めた。
「ご、ごめんなさい。せめて偵察をと思ったんですけど・・・・あっけなくやられちゃって・・・・」
「ッいいんです、自分を責めないで」
「そうだよ、ゆっくり休んでツバサくん」
「は、い・・・・!」
気を失ったツバサをアリリに託したところで、シャララが口を開いた。
「ソラ、あの巨大なランボーグ。お前たちの最強の技で倒せるか?」
「アップドラフト・シャイニング・・・・」
言葉なく、ましろと目を合わせるソラ。
視線が重なった彼女もまた、力強く頷く。
「――――やりましょう、ましろさん」
「はい!」
ところ変わって、城のバルコニー。
並んで立ったソラとましろは、上空のランボーグを睨みつけて。
それぞれ、ミラージュペンを構える。
「「スカイミラージュッ!!」」
「「トーンコネクトッ!!」」
「「ひろがるチェンジッ!!」」
「スカイッ!!」「プリズムッ!!」
「スカイブルーッ!!」
「プリズムホワイトッ!!」
初手より奥義にて仕るとばかりに発動させるは、『アップドラフト・シャイニング』。
展開された巨大な円盤が、ランボーグを呑み込まんと光を放つが。
「ランボーグ!」
ランボーグもまた、ただではやられない。
体から腕を何本も伸ばすと、円盤を直接つかみにかかった。
「ぐっ・・・・!!」
「ううう・・・・!!」
予想以上の抵抗に、技を途切れさせまいと必死に力むスカイとプリズム。
手は抜いていない、むしろ死力を振り絞っている。
それでも、進むひび割れを止めることは出来なかった。
「く、っそ・・・・!」
まるで歯が立たないわけではない。
少しずつ、少しずつ。
ランボーグは円盤に吸い込まれてはいる。
しかし、やはり抵抗が凄まじかった。
(このまま、では・・・・!)
このままでは、浄化しきれない。
スカイも、プリズムも。
うっすらと、だが確かな確信を持っていた。
(クソ、どうする、どうする・・・・!?)
一番威力の出る技が、破られそうになっている事態。
必死に思考を巡らせる中、ふと。
スカイの目に、何かが見える。
「――――シャララ隊長!?」
見間違いかと思ったが、残念ながら現実だった。
愛鳥である巨大なワシを駆り、果敢にランボーグへ斬りかかっている。
「ダメだ、やめて・・・・!」
手痛い反撃を受けながらも、攻撃の手を緩めないシャララ。
ワシ共々、傷つき疲弊していく姿を。
スカイは首を横に振りながら見つめていた。
「貴女は、いなくなってはいけない人だ!だから、もうッ・・・・!」
懇願空しく、シャララはなお戦い続けて。
「ああっ・・・・!」
大きな雷に撃たれたのが見えて、プリズムも悲痛な声を上げてしまう。
ワシが墜落し、シャララが空中へ投げ出される。
「ぁぁああああ・・・・!!」
「ああ・・・・!」
今すぐにでも駆けつけたい。
だが、今ここを離れれば、ランボーグを浄化出来ない。
葛藤が慟哭となって、スカイの喉から絞り出される。
その身を裂かんばかりの苦しみが、どれほどのものか。
手に取る様に分かったプリズムも、かすれるような声を上げた。
「――――」
無情にも充填されるエネルギー。
それを前にして、シャララが笑ったのが見えて。
「――――ヒーローの、出番だ。ソラ」
離れていても、確かに聞こえた声を最後に。
シャララの体が、邪悪な光に呑まれて。
見えなくなった。
「ッああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
まるで、獣の咆哮の様だった。
砕かんばかりに握られた手の痛みで、いっそ冷静になったプリズムは。
それでもなお歯を食いしばって、スカイミラージュを握りしめる。
宿した想いは、激情にかられたスカイと同じだ。
――――何が、何でも、絶対に。
あのランボーグを、浄化してみせる!!
「「うわあああああああッ!!!」」
一緒になって、雄叫びを上げる。
シャララの死に物狂いが功を奏したのか、ランボーグは円盤に呑まれていって。
「スミキッター・・・・!」
大量のキラキラを散らしながら、浄化されたのだった。
◆ ◆ ◆
――――なん、で。
どうして。
嗚呼、なんで・・・・!!
なんで、こんな。
「シャララ、隊長・・・・!」
受け身を取れぬまま崩れ落ちたことも、馬鹿力の所為でプリズムに怪我をさせてしまったかもしれないことも。
全部吹き飛んでしまった。
――――本当に、悔しい。
出来ることが増えても、前に進めたと思えても。
また分厚い壁が立ちはだかって、進めなくなる。
すごい人達は、そのずっとずっと先で命を懸けているのに。
私は。
私はっ・・・・。
何も・・・・!!
「くそ、くそ・・・・ちくしょう・・・・!!」
がりっと、バルコニーの大理石をひっかいて。
後悔の念に浸かり切っていた。
その時だった。
――――そらぁ!!
その、声が。
聞こえたのは。
「・・・・いかなきゃ」
「スカイ・・・・?」
無意識だった。
体の痛みが、気だるさが。
あっという間に消えて。
難なく立ち上がれた。
「いかなきゃ、よんでる」
口が動いている。
自分が何を言っているのか分からない。
それでも、
「いかなきゃ・・・・!」
心のままに、飛び出した。
「な、なにッ!?」
ガラスらしきものを破って、飛び降りた先。
倒れたツバサくんと、国王王妃両陛下。
そして、エルちゃんに近づくバッタモンダー。
「――――動くなァッ!!!!!」
後のことなんて、考えなかった。
今残っている全てを注ぎ込んで、声を張り上げた。
「そこから一ミリでも動いて見ろッ!!!!その身一遍も残さず、ぶった切ってやるッッッ!!!!!!」
バッタモンダーは、口をパクパクさせるだけだ。
(・・・・来い)
こちらが死に体なのはバレているだろう。
十中八九攻撃してくるに違いない。
繰り出せるのは、技でも何でもない一太刀が限界だ。
(来るなら、来いッ!!)
だったら、それに全てをかける!!!
「ひ、ヒィッ!!」
だけど、こちらの覚悟とは裏腹に。
バッタモンダーは、思いっきり狼狽えて。
「ば、バッタモンモン!!」
黒い靄と共に、撤退していったのだった。
「は・・・・は・・・・は・・・・・!」
敵特有の気配がなくなった。
もう、大丈夫なんだろう。
「は・・・・っ・・・・・!」
意識が遠のく、体が傾く。
「ぅぅぅううう・・・・わああーん!!ああーん!!」
視界に移るは、倒れた仲間達。
耳に届くは、エルちゃんの泣き声。
――――嗚呼、何も。
(何も、守れなかった・・・・!)