「隊長ー!!」
「シャララ隊長ー!!」
「返事をしてくださーい!!シャララ隊長ー!!」
――――あちらこちらで、護衛隊のみんなの声がする。
誰もかれもが探しているのは、シャララ隊長だ。
とっくに日は沈み、雨まで降り出した中。
動ける青の護衛隊で、未だ行方知れずの隊長を探し回っていた。
「・・・・ッ」
「ソラ!!」
視界が明滅する。
傾いてしまった体を、木に寄りかからせることで何とか持ちこたえさせていると。
ハヤテ先輩に見られてしまった。
「もう限界なんだろ、無茶すんな」
「先輩、でも・・・・!」
まだ隊長を見つけられていないのに。
休んでいる暇なんてない。
「思い上がんじゃねぇぞ」
訴えようとすると、胸倉をつかまれた。
「あの状況では、あれしかなかった。お前達プリキュアも、隊長も、最善を選んで、その結果が今だ」
「・・・・でも」
「いいから黙れ、口を閉じて、休め」
視界が晴れて、やっと先輩の顔が見える。
「お前も、隊長も、守ったんだよ。この王都に住む、何千何百と言う人間を守ったんだ」
「・・・・ッ」
「頼むから、その成果から目を背けるな。隊長がやったことを・・・・無駄だと断じるなッ・・・・!!」
普段の飄々とした頼れる様子からは、とても考えられない。
泣きそうな、顔だった。
「・・・・ご、めんなさい」
「・・・・分かりゃいい」
・・・・あまりにも。
あまりいにも、自分が情けなくて。
項垂れてしまった頭を。
ハヤテ先輩は、静かに撫でてくれた。
◆ ◆ ◆
「――――ソラさん!」
護衛隊の宿舎へ向かうべく、城へ引き返したソラを。
偶然にもましろが出迎えた。
その右手を見やって、ソラは顔を陰らせる。
「・・・・すみません、ましろさん」
「え?」
「・・・・右手が」
「ああ、これですか?」
シャララが撃墜されてしまったあの時。
己が考えなしに握りつぶしてしまった、ましろの手。
プリキュアの防御力のお陰で、多少はダメージが抑えられたとはいえ。
包帯が巻かれている様は、とても痛々しかった。
「大丈夫ですよ!ちゃんと手当もしてもらえましたし!」
「・・・・それでも、ごめんなさい」
明るく振る舞うましろだが、空元気なのは一目瞭然だった。
・・・・己どころか、上司や、仲間までも傷つけてしまって。
ソラの胸中は、自責と後悔の念が嵐となって暴れ回っていた。
「・・・・本当に、気にしないでください」
あえて怪我を負った右手で、ソラの手を取って。
ましろは微笑みかける。
「ソラさんもシャララ隊長も、みんな一生懸命だったんです。ヒーローとして、みんなを守ろうと真剣に頑張っていて・・・・だから、誰が悪いとか、言いたくないです」
『ね?』と語り掛けると、ソラは今にも泣き出しそうな顔になった。
なんとか涙を堪えようとして、一度目を伏せた彼女は。
「・・・・はい」
上手く、笑顔を作り出したのだった。
「怪我をさせた私が言うのもなんですが、どうかお大事に」
「はい、頑張って治します!」
そっと、右手を労わる様に両手で包めば。
緊張が解けた笑顔が返ってきたのだった。
◆ ◆ ◆
自室に戻る。
扉を閉めた音がやけに響いて、何だか悪いことをしてしまったような気持ちになってしまった。
それを皮切りに、まだ罪悪感がぶり返してくる。
陛下達を守れなかった、ツバサくんを守れなかった、エルちゃんを泣かせてしまった。
隊長は倒れて、ましろさんを傷つけてしまった。
確かに多くの人を守れた、それも事実だ。
だけど、それでも。
数えてしまう。
失ったものを、守れなかったものを。
至らなかったことを、一つ一つ数えてしまう。
「未熟・・・・!」
ああ、ハヤテ先輩に怒られたばかりなのになぁ。
『たられば』がぐるぐる回って、体を重く重く沈ませる。
・・・・カバトンを退けたからと、慢心していたのかもしれない。
いや、万事うまくいくなんて稀なことは分かっている、理解している。
それでも、ここまで敵わない出来事が続くと。
流石に、参ってしまう。
「・・・・?」
せめてベッドで横になろうと、ゆるゆる立ち上がると。
机の上に何か乗っているのが見えた。
出かける前にはなかった。
誰かが置いていったのか?
重たい足を動かして、近寄って。
「――――ッ!」
疲労に濁る視界で、なんとかピントを合わせると。
あの、スカイジュエルのペンダントが見えて。
半ば、ひったくる様に。
添えられていた手紙を開く。
・・・・そこには、たった一文だけが記されていた。
「立ち止まるな、ヒーローガール・・・・」
――――もしかしたら。
もしかしたら、シャララ隊長は。
こうなることを、見越していたのかもしれない。
自分が犠牲になってでも。
街を、命を守るために。
出撃したんだ。
「――――ぁあ」
ああ、そうだ。
泣いても、嘆いても。
過去はもう変えられないんだ。
大丈夫、まだ残っているものはある。
大丈夫、まだ出来ることはある・・・・!
「ヒーローの、出番だ」
――――撃墜される直前。
隊長が言っていたことを思い出して。
立ち上がる。
◆ ◆ ◆
「――――申し訳ない」
ましろは、ツバサとエルと共に。
眠ったままの国王と王妃の傍にいた。
ベッドを挟んだ反対側には、慌てて戻って来たジークフリートが。
彼らに向けて頭を下げる。
「そ、そんな!頭を上げて下さい!」
「そうです!ジークフリート王子は、自分の国も大事なんですから!」
「しかし、共に戦うと言っておきながらこのザマだ」
暗い顔で見下ろした、国王と王妃の胸元。
バッタモンダーに当てられた、アンダーグエナジーがうごめいている。
「この靄を何とかしない限り、両陛下達も眠ったままだが・・・・我々吸血人の技術でも、祓えるかどうか」
「・・・・シャララ隊長もいなくなって、これからどうすれば」
落ち込んだ声で、ツバサが不安を漏らす。
その場の誰も、皆目見当がつかない。
見えぬ未来の展望に、顔を曇らせた。
「――――帰りましょう、ソラシド市へ」
鶴の一声を投げたのは。
「ソラさん?」
「帰るって、どういう・・・・?」
「そのままの意味です」
凛、とした面持ちで。
まっすぐ歩いてきたソラ。
「お二人の呪いを解く方法を、ヨヨさんに調べてもらうんです」
集まった面々と目を合わせて、己の考えを述べていく。
「バッタモンダーはこれからもエルちゃんを狙ってくるでしょう。キルミラだって、アンダーグ帝国にいる以上目的は同じはず」
「・・・・確かに、スカイランドに置いていく方が愚策だな」
「加えて、私達プリキュアがバラバラになるのもよくないです」
頷くジークフリートへ捕捉してから、改めてましろ達と目を合わせた。
「しょら・・・・」
「大丈夫、プリキュアは無敵です」
不安げに手を伸ばしてくるエルに、笑顔で応えるソラ。
「ソラさん、無理しちゃダメですよ」
「・・・・何があった?」
先ほどとは明らかな変わりように、ましろが思わず声を上げると。
ジークフリートもまた、静かに問いかけてくる。
遠目から見かけた時、憔悴しているのが手に取る様に分かった。
それから半日も経たない内の、この様子だ。
よもや、やけを起こしているのではと危惧したのだが。
対するソラは、静かに微笑んで。
「シャララ隊長から、手紙をもらったんです」
「手紙?」
「はい」
言いながら、ソラが差し出した紙切れを受け取るジークフリート。
「出撃する前に、部屋に立ち寄ってくれたみたいで」
「・・・・なるほど」
書かれていた、親友らしい一文に。
ジークフリートは、ここで初めて笑みを浮かべてみせた。
「泣こうが喚こうが、敵はこっちの事情なんてお構いなしです。だったら、残ったものを守らねば」
ソラの手に握られた、ジークフリートも覚えのあるペンダント。
祈る様に顔に寄せて、彼女は続ける。
「これ以上、奪わせないために。シャララ隊長の尽力を、無駄にしないために」
「・・・・そうか、分かった」
見開かれた、強い瞳に。
もう大丈夫だと、確信を持ったジークフリートは。
激励する様に、ソラの肩をやや強めに叩いた。
「ならば、スカイランド側は我々が引き受けよう。もとよりそういう条約なのもあるが・・・・何より、友の犠牲を無駄にしたくない」
「・・・・はい!!」
様になって来た、青の護衛隊の敬礼をして。
ソラは、力強く答えたのだった。
◆ ◆ ◆
これからも、無力に嘆くでしょう。
これからも、未熟に泣くでしょう。
それでも、立ち止まりません。
貴女が繋げてくれたもの、死に物狂いでつかみ取ったもの。
決して無駄にはしません。
だから、隊長もどうか。
どうか。
無事でいて下さい。