ヒーローガールは異物入り   作:数多 命

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偽物、えるたろうさん

型紙を作り、布を切り出し。

縫いあげて形にする。

大きな布に風景を描いて、紐を結んで上からつるす。

手慣れている者、たどたどしい者。

それぞれが楽しく、だけど心を込めて整えた舞台。

 

「さあ!人形劇の始まり始まりー!」

 

クッションに座ったエルを前に、あげはが大らかに宣言した。

 

「むかーしむかし、あるところに。小さな雲がふわふわと降りてきました!」

「・・・・(トト)ではないのか?」

「だよね?」

 

声を潜めて首を

傾げ合っていると、

 

「アレンジしちゃった」

 

舞台袖から、同じく声を潜めたあげはがそう言ってきた。

 

「舞い降りた雲が、ぱかっと開くと。中から元気な『えるたろう』が産まれました!」

「「「「えるたろう?」」」」

「そう!雲から生まれた、えるたろう!」

 

のっけから大分アレンジされているが、エルは自分が主役になっているのが嬉しいのか。

ぱたぱたと手を振っていた。

その様子を見て、一同はひとまず演劇を続行することにする。

――――ミルクを飲んでぐんぐん大きくなったえるたろう。

ある日、大好きな『あげは姫』が、悪い鬼に連れ去られてしまう。

 

「・・・・だいぶ、変わっていないか?」

「うん、変わってるね・・・・」

「桃太郎でも、都からお姫様がさらわれる話がありますから・・・・」

 

演者達の戸惑いを他所に、話は続く。

――――さらわれたあげは姫を助けるため。

おばあさんから籠いっぱいのくもパンをもらったえるたろうは。

鬼退治の旅に出発したのである。

 

「えーるたろさん♪えるたろさん♪」

 

道中、犬のソラ、猿のましろ、雉のツバサを仲間に加え。

旅をしながら助け合い、時には喧嘩しながらも進んでいくえるたろう一行は。

ついに、鬼ヶ島へ辿り着いた。

 

「あれが、鬼ヶ島・・・・!」

「なんだか、嫌な感じです・・・・!」

「まるで、アンダーグ帝国の様な・・・・!」

 

自分の台詞を切欠に、スカイランドでの出来事がフラッシュバックしてしまう一同。

見ているしか出来なかった、力が及ばなかった。

大切なものを、守りたいものを。

守ることが、出来なかった。

その、無力感。

 

「シャララ隊長・・・・」

 

思わず零してしまった言葉。

幕の向こうで、俯いてしまった時だった。

 

「え、ぐ・・・・ううぅ・・・・!」

 

聞こえた泣き声に、はっと我に返る。

 

「うわあああああん!」

「え、エルちゃん!?」

「どうしたの!?」

「な、何か怖いことがあったんじゃ・・・・!?」

 

泣き出したエルを目の当たりにして、そろって舞台裏から飛び出す、ソラ、ましろ、ツバサにベリィベリー。

ソラが抱き上げたエルの頭を撫でながら、あげはは苦笑いをした。

 

「不安な気持ちって、不思議と伝染しちゃうんだよね」

「そうでした、私としたことが・・・・」

 

二人のやり取りを聞いて、ましろやツバサ、ベリィベリーもはっとなる。

 

「す、すみませんでした。プリンセス」

「元気になってもらいたかったのに・・・・」

「自分の心を抑えきれぬとは、なんという体たらくだ・・・・!」

 

猛省する面々の横で、あげははえるたろうの人形を取り出す。

 

「えるたろうは、大丈夫!ね?」

 

そして、エルの前でひょこひょこ動かせば。

エルは何とか落ち着いて、笑顔を取り戻したのだった。

 

「気を取り直して、鬼ヶ島にいきましょうか?」

「「はい!」」「ああ!」

 

配置に戻って、お芝居を再開する。

――――一行が乗った船は、ついに鬼ヶ島へ辿り着いた。

えるたろうが、あげは姫を返す様に要求すると。

 

「『なんだぁ?お前達は?』」

 

島の奥から、大きな大きな鬼が現れる。

まるで山の様な巨躯に、一行は圧倒されるものの。

それでも果敢に立ち向かう。

 

「『まずは私がいきますワン!』」

 

ソラ演じる犬が、一番槍を務めたが。

 

「んっ!?お、わぶっ!!」

 

勢いあまって、のぼりに描かれたイラストを落としてしまった。

布が顔に覆いかぶさり、視界が塞がれてしまうソラ。

慌ててはがそうともがくと、舞台にしていた布に引っかかって。

それも落としてしまった。

ようやく布から解放されたソラ。

エルとばちっと目が合ってしまって、慌てて笑顔を取り繕う。

 

「あ、はは、すみません。勢いあまってしまいました」

「大丈夫ですからね、プリンセス」

 

先ほど泣かせてしまったこともある。

これ以上心配させないように、慌てて直していると。

 

「ん、しょ」

 

おもむろに、エルが立ち上がって。

ソラ達の方へ、たどたどしく歩み寄って来た。

 

「エルちゃん?」

 

それぞれが、何事だろうかと見守っていると。

小さな手を前に出して、エルは口を開いた。

 

「――――しょら」

「えっ?」

 

ソラの。

 

「ましろ」

「あっ・・・・」

 

ましろの。

 

「ちゅばしゃ」

「ああ・・・・!」

 

ツバサの。

 

「あげは」

「・・・・ッ!」

 

あげはの。

それぞれの名前を確かに呼びながら、近づいて。

 

「ばあっ!」

 

両手を広げて、笑顔を見せたのだった。

 

「エルちゃん、今・・・・!」

「今、ましろって・・・・!」

「ぷ、プリンセスが・・・・プリンセスが、僕の名前を!」

 

感極まるあまり、膝をついたツバサが。

再び舞台を壊してしまったが、とても些末なことだった。

 

「えぃ、えい!」

「・・・・ふふっ、私の名前も呼んでくださるのですね」

 

ベリィベリーは付き合いが浅いことも有ってか、はっきりと発音できているわけではなかったが。

笑いながら向けてくる小さな手を、ベリィベリーは嬉しそうに握り返す。

 

「あはは、エルちゃんを元気づけるつもりが、私達が元気をもらってしまいましたね」

「だねぇ、結局励まされちゃったし」

 

参ったとばかりにソラが苦笑いすれば、あげはが同意して笑い声を上げる。

 

「・・・・私達が、力を合わせれば、バッタモンダーやキルミラからエルちゃんを守り抜ける」

「スカイランドに、帰ることもな」

「ええ、だから大丈夫です、きっと・・・・!」

 

エルを抱き上げて、決意する様に呟くソラ。

ベリィベリーと言葉を交わすその顔は、窓の外と同じく晴れ渡っていて。

仲間達も同じく、力強く頷き合ったのだった。

 

「・・・・もう、人形劇は必要なさそうだね!」

 

明るくなった面々を見て、あげはもにっこり笑ったところで。

天幕をくぐって、ヨヨが現れて。

 

「ちょっといいかしら?スカイランドから通信が来たわ」

「スカイランドから?」

 

よもや、何事かあったのでは。

見合ったソラとベリィベリーを中心に、揃ってそちらに向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

『――――国王と王妃のことは、ヨヨ殿から聞いた』

 

ミラーパッドの向こう、代表としてジークフリート王子が話しかけてくる。

 

『スカイランドの人々も、皆希望を胸に頑張っている』

 

画面が動き、力強く頷く一般兵と。

アリリ副隊長やハヤテ先輩と言った、青の護衛隊の面々も映し出された。

 

『・・・・お前達に負担をかけてしまうのは、心苦しいが』

「いえ、元よりこれが役目です。スカイランドのこと、どうかお願いいたします」

『ああ、もちろんだ』

 

頭を下げる私に、ジークフリート王子が頷いてくれるとと。

今度はアリリ副隊長とハヤテ先輩が顔を覗かせた。

 

『プリンセスのことは、頼んだぞ!』

『こっちはこっちで上手くやる!なぁに、先輩を信じろ!』

「はい!」

 

ベリィベリーさんの返事に、お二人も満足そうだ。

 

「えーる!」

 

私達が希望を持ち、気持ちが前向きになったことを感じ取ったのだろうか。

分からないなりにも笑顔になったエルちゃんが、ミラーパッドに手を振ると。

スカイランドの人達も、微笑まし気に振り返してくれたのだった。

ちょっとほっこり。

・・・・ひと悶着会った人形劇だけど、何とか俯いていた心を前に向けることが出来た。

スカイランドの人達も希望を持つことが出来て、本当によかったと思う。

 

「・・・・ん?」

 

通信を終えて、ほっとしていると。

窓の外が騒がしい。

見てみると、たくさんの小鳥が窓際にいて。

・・・・いや、多くないか!?

 

「うわ、何々!?」

「何事ですか!?」

 

あげはさんと一緒に驚いていると。

 

「僕の鳥友達です」

「鳥友達!?」

 

ツバサくんが前に進み出て、窓を開けた。

鳥ネットワークってこと!?

すごいなツバサくん!?

なんて、驚愕していると。

 

「えっ!?公園に!?」

 

上がった素っ頓狂な声に、気が引き締まるのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

果たして。

一同がおっとり刀で駆けつけてみれば。

 

「ああ、ようやく来てくれたねぇ?待ちくたびれたよ」

 

上から声。

見上げれば、鬼の遊具の頭にバッタモンダーが立っている。

 

「バッタモンダー、貴様・・・・!」

「やあ、君もスカイランドぶりだね」

 

殺気立つベリィベリーの心境を知ってか知らずか、飄々とした態度を崩さないバッタモンダー。

その様が益々神経を逆なでするが、ベリィベリーは深く呼吸することで何とか怒りを抑えた。

 

「あいつがバッタモンダー・・・・!」

「うん、エルちゃんのパパとママを呪った張本人だよ・・・!」

 

片や手負い、片やそもそも戦えないという理由で。

物陰から様子をうかがっていたあげはとましろ、それからエル。

ふと、あげはは心配そうにエルを、続けてましろを見やって。

 

「ねえ、ましろん、危ないから家にいようよ。エルちゃんも、おうちに戻らない?」

 

真剣に身を案じているからこその、提案だったが。

 

「・・・・分かってるよ、今の私じゃ足手纏いだって」

 

あげはの気遣いが分かったからこそ、一度は俯いたましろだったが。

次に上がった瞳には、強い意志が灯っていて。

 

「でも、やっぱり待っているなんて出来ないよ!」

「えぅあーう!」

 

ましろの言葉に、エルも『そうだそうだ!』とばかりに手足をぱたぱたさせる。

 

「・・・・そっか。エルちゃんも、みんなと一緒がいいんだね」

 

二人の意思が固いことを察したあげはは、未だ心配しながらも頷いてくれたのだった。

 

「――――プリンセスを狙ってきたんですね!?」

「いーや?僕の狙いは君達だよ・・・・プリキュアッ!!」

 

血相を変えたバッタモンダーは、プリキュアを。

特にソラを睨みつけて、指を鳴らす。

 

「カモン!アンダーグエナジー!」

 

呼び出されたエナジーが宿るのは、バッタモンダーが乗っていた鬼の遊具。

 

「・・・・行きましょう」

 

人々が逃げまどう中、ソラはミラージュペンを構えて一呼吸。

目を見開いて、前を見据える。

 

「ヒーローの、出番ですッ!」

「はい!」「ああ!」

 

ツバサも同じくミラージュペンを、ベリィベリーは愛用のグローブを取り出して。

三人それぞれが、勇ましく叫んだ。

 

「「ひろがるチェンジ!!」」

「スカイ!」「ウィング!」

 

プリキュアがそれぞれ変身する横で、ベリィベリーはグローブを右手にはめて。

 

「――――武装ッ!!」

 

青の護衛隊の制服を、身にまとった。

 

「すご!あれヨヨさんがやったの!?」

「う、うん、グローブと制服を預かって、何をするのかなとは思っていたけど」

「へぇー!エルちゃんのだっこ紐といい、すごいね!」

 

グローブの新機能に、あげはとましろが感嘆の声を上げる中。

三人は飛び出した。

 

「ランボーグ!」

 

ランボーグの腹から、光弾が発射される。

即座に散開して避けた先で、スカイは呼吸を整えて。

 

「全集中・雷の呼吸」

 

稲妻を迸らせて、踏み込み。

 

「壱ノ型 霹靂一閃ッ!!」

 

まずは、一撃を叩き込もうとする。

が、ランボーグは金棒で受け止めると、野球よろしく弾き飛ばしてしまった。

 

「・・・・ッ!」

「スカイ!」

 

吹っ飛ばされたスカイをウィングが受け止め、着地。

ランボーグはその隙を狙うが、ベリィベリーが横合いから突っ込んで殴りつける。

 

「はあああああッ!!」

 

グローブから雷光を迸らせ、指意を向けると。

マシンガンよろしく撃ち出される弾幕。

 

「ラララララララッ!!」

 

ランボーグはそれすらも打ち返して、プリキュア達に反撃していく。

さらに腹からも光弾を発射。

凄まじい攻撃に、三人は最初こそ善戦していたものの。

やがて、処理が追いつかなくなり、大きく吹き飛ばされてしまった。

 

「ランボォーグ!!」

 

そこへ追い打ちとばかりに弾幕が放たれて。

もろに爆発を喰らってしまった。

 

「ああッ・・・・!」

「みんな!」

「えゆぅ・・・・!」

 

ましろ達が案じて声を上げる中、スカイが黒煙を振り払う。

戦意は失われていないものの、明らかに苦戦する様を見て。

バッタモンダーは意気揚々と口を開いた。

 

「ああ、めちゃくちゃだ。これじゃあまるで、スカイランドのようじゃないか」

「・・・・ッ!」

 

各々が食いしばる中、バッタモンダーは続ける。

 

「王と王妃が呪われて、護衛隊の隊長も消えてしまって・・・・弱いって、なんて可哀そうなんだ・・・・!」

 

形だけの嘆き、見た目だけの悲しみ。

その根底にあるのは、スカイランドとプリキュアへの侮辱だ。

故郷を貶されて、誇りを穢されて。

果たして誰が黙っていられるだろうか。

 

「――――お前が」

 

誰もかれもが、怒りを燃やしていたが。

一番爆発させたのは。

 

「お前がやったんだろうがッッッ!!!!!」

 

ベリィベリーだった。

 

「お前が陛下達を呪って!!お前がシャララ隊長を奪ったんだ!!」

 

痛みを忘れて立ち上がり、バッタモンダーへ咆哮するベリィベリー。

 

「何が弱い者の味方だ!!何が弱い者の気持ちが分かるだ!!」

 

思い出す

スカイランドの風景。

尊敬する隊長、頼れる仲間達。

守った人々の笑顔に、背中を押してくれる家族。

陰らせたのは誰だ、脅かしたのは誰だ。

他でもない!あの、いけ好かない青二才だ!!!!

 

「本当に味方ならッ!!本当に理解出来るのなら!!そもそもこんなことをやるなああああッッ!!!!」

 

二度と侵させるものか、二度と傷つけさせるものか。

決意のままに、雄叫びを上げた。

――――その時だ。

彼女の胸元が、輝きを放ったのは。




何気に初めて『ヒーローの出番です!』を口にした拙作ソラさんである。
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