その翌日も、あげははくるくると実習をこなしていた。
園児と遊ぶのはもちろん。
ソラ達プリキュアからのお返事の配布、食事の介助、レクリエーションのサポートと。
やることは山積みだ。
たけるがいる年長さんだけではなく、年中、年少や。
乳児クラスも面倒を見なければならない。
「はぁーっ!」
予測の遥か上を動いていく子ども達数十人を、怪我やトラブルのないように気を配るというのは。
あげはが想像している以上に重労働であった。
だが、それはそれとして、
「満たされるぅー・・・・」
心地よい充実感に満たされているのもまた、事実だった。
職員室。
あてがわれたデスクで、誰もいないのをいいことにやや行儀悪く寝そべるあげは。
その顔は、濃い疲労と溢れる満足感で満たされていた。
「大変だけど、子ども達はかわいいし。この後も・・・・!」
身を起こし、拳を握って気合を入れなおそうとした。
その時だった。
「あげは先生、大変!たけるくんが!」
「えっ?」
――――慌てて駆けつけてみれば。
わあわあと声を上げて泣く男の子と、そっぽを向いているたけるが。
話を聞いてみると、男の子が割り込みをしたので。
たけるが手を上げたとのことだった。
「あいつが順番守らないからやっつけただけだもん!」
「そっかぁ」
納得いかない顔で主張するたけるに、穏やかに話しかけるあげは。
「でも、ぶつのはどうかなぁ?」
「ぼく最強になるんだもん!プリキュアみたいに、悪い奴をやっつけるんだ!」
彼女の問いかけに、たけるはすかさず言い返す。
――――悪い奴を、やっつける。
確かにそれも必要なことだ。
(だけど)
プリキュア達の戦いを、この場の誰よりも近くで見て来たからこそ。
あげははたけるの拳を包み込んで、語り掛ける。
「たけるくん、最強になるために大事なのは、先生は、敵をやっつけることじゃないと思うなぁ」
あげはが想起するのは、やはりプリキュア達だ。
自分の何倍もの大きな相手を前に、怯まず立ち向かう彼女達。
一見常勝無敗のプリキュアでも、出来なかったこと、取りこぼしたものを想って。
悩み、傷つき、落ち込んでしまったりもする。
その、姿。
「違くないもん!ぼく正しいもん!」
しかし、残念ながら幼いたけるには、今一つ伝わらなかったようだ。
あげはの手を振り払った彼は、背を向けて走り出す。
「あげは先生は最強じゃないもん!!」
「たけるくん!!」
このまま放っておいたらいけない。
直感的にそう思ったあげはは、たけるを追いかけていく。
◆ ◆ ◆
――――さてさて。
お手紙の反応がどうしても気になってしまったので。
おなじみとなった『いつメン』で、あげはさんの保育園近くにやってきてしまった。
・・・・うん。
こそこそしてるからね、ぶっちゃけ不審者扱いされても文句言えねぇ(白目)
そもそもあげはさんの邪魔をするのは不本意なので、なるべく目立たないように気を付けるつもりではあるけども・・・・!
「それにしても暑いな・・・・スカイランドの夏とは大違いだ」
「ええ、湿気が多いというか、じめっとした暑さです・・・・」
「お二人とも、熱中症には気を付けて下さいね」
前世でもすっかり恒例となった、所謂『デス夏』は。
『プリキュア世界線』でも健在らしい。
容赦ない日差しと湿気に、ベリィベリーさんは襟元をパタパタさせて暑さをしのごうとしていた。
ちなみに。
私は黒のタンクトップに、白い薄手の半袖上着。
それから紺色のルーミーパンツである。
ベリィベリーさんは、白い袖に赤い胴体のTシャツ。
下はピンクのキュロットだ。
夏服ですよ!!奥さん!!
「みんな、お手紙喜んでくれたかなぁ」
気を取り直して。
ドキドキしながら、あげはさんの実習先である保育園を覗き込んでみると。
「たけるくん!待って!」
「やぁだ!!」
早速、件のあげはさんが飛び出してきた。
園児であろう男の子と、追いかけっこをしている様だけど・・・・。
「鬼ごっこか?」
「それにしてはだいぶ真剣に見えるんだけど・・・・」
「?、鬼ごっこは基本真剣勝負だろう?」
「なんて純粋な瞳・・・・」
ベリィベリーさんの曇りなき眼に、慄いていた。
その時。
「・・・・ッ!?」
これまたおなじみとなった、邪な気配。
ベリィベリーさんも気付いたのか、険しい顔で辺りを見渡しだした。
「どうしたんですか?」
「カモン!アンダーグエナジー!」
ましろさんの質問に答える前に、やっぱり聞こえたバッタモンダーの声。
揃って弾かれるように振り向けば、改装中の建物の上に立っているのが見えて。
「ランボーグッ!!」
象型のじょうろを素体にしたらしい、ランボーグが召喚されてしまった。
「わあああああん!!」
「怖いよぉー!!」
「助けて!助けて!」
「ぷいきゅあー!はやくー!」
一気に阿鼻叫喚になる保育園。
パニックになる園児達を、保育士が何とか落ち着かせようとしているのが見える。
「たけるくん!私から離れないで!」
「おいっ!そこの外野!」
あげはさんも、怯えるたけるくんを果敢に庇っていると。
バッタモンダーが声を上げた。
「よくもこの前は負け惜しみとか言ってくれたねぇ!?観客は多い方がいいからさ!子ども達や君の前でプリキュアをボッコボコにして、現実を見せてあげよう!」
こいつ・・・・!!
そんなことの為に、保育園を襲うのか!?
「行きましょう!」
「ええ、ヒーローの出番です!」
何にせよ、ほっとく道理はない!!
「「「スカイミラージュッ!!」」」
「ルナ・グローブ!!」
――――ひろがるチェンジ!!
「無限にひろがる青い空!キュアスカイ!」
「ふわりひろがる優しい光!キュアプリズム!」
「天高くひろがる勇気!キュアウィング!」
「月下にひろがる裁きの雷鳴!キュアエクリプス!」
何気に明記するのは初めてよね!?
みんなで名乗り!!
「レディー!ゴー!」
――――ひろがるスカイ!プリキュア!!
描写してないだけで、今までもちゃんと名乗ってたよ!(メメタァ)
「来たな!プリキュア!」
「みんな!」
「あげはさんは下がっていてください!」
保育園から聞こえる声も、悲鳴から歓声に変わった。
私達が来たことで余裕が出来たのなら、上々!
「キュアウィング!」
「たけるくん、お手紙ありがとう!あとは任せて!」
ウィングもしっかりファンサービス。
「みなさんは安全なところへ!」
園内に向かって声を張り上げると。
ガラス越しで聞こえこそしなかったものの、保育士が頷いたのは見えた。
「ほら!たけるくんも逃げるよ!」
「ええー!」
あげはさんも、たけるくんを連れて行ってくれる。
っていうか、『ええー!』じゃないの!危ないでしょうが!!
「おいおい!観客がいなくなるんじゃ意味ないじゃないか・・・・!」
「ショーと呼ぶにはあまりにも稚拙だこと、ベガスも一周回って憐れむレベルですよ」
「ッぶっつぶせ!!ランボーグ!!」
「ランボォーグッ!!」
腹が立っているので、怒りのままに挑発すると。
面白いくらいにキレ散らかしたバッタモンダーが号令をかけた。
命令を受けたランボーグは、あちこちに水の砲弾を放つ。
それは、逃げている子ども達の近くにも着弾して。
「貴様ァッ!!」
「やめなさいッ!!」
エクリプスが雷撃を、プリズムが光弾を叩き込む。
「破魔・竜王刃!!」
「はああああッ!!」
煙で相手の視界が塞がれたところへ、一撃。
体勢が崩れたところへ、ウィングが上空から急襲して。
まずはダウンを取った。
(・・・・エルちゃんは?)
言うまでもないが、バッタモンダーはずる賢い。
もしかすると、ランボーグに夢中になっている間に・・・・なんてことも有り得る。
何が隙になるか分からないから、あまり広範囲を見れたわけではないけれど。
少なくとも、私の視界には見当たらなかった。
(上手く隠れてくれているといいけど・・・・)
◆ ◆ ◆
「プリキュアが最強なところを見るんだ・・・・!」
一方その頃。
避難から抜け出してきてしまったたけるは、物陰からそっと現場を覗き込んだ。
すると、怪物はすっかり倒れ伏しており。
プリキュアも怪我をしているようには見えない。
予想通りの『かっこいい最強な姿』に、たけるの顔が破顔する。
「――――見せたかった現実って、これ?」
「まさか!観客が君だけになったのは残念だけど、いいものを見せてあげるよ!」
あげはが不敵に問いかけると、なお余裕を崩さないバッタモンダーは指を鳴らした。
「ランボーグ!」
まだ動けたランボーグが立ち上がる。
油断なく構えるプリキュアには目もくれず。
離れたところから見守っていたエルへ、狙いを定めて。
「あんまり弱い者いじめは好きじゃないんだけど・・・・やっちゃえ」
「・・・・ッ!」
「させるか!」
水の砲撃が放たれて、エルに襲い掛かる。
すぐに行動を起こしたのは、スカイとエクリプス。
一瞬でランボーグとの距離を詰めると、それぞれ一撃を叩き込んで相手の体勢を崩す。
「ランボーグ!!」
即座に鼻を振り回して、二人を引きはがしたランボーグは。
なおもエルに狙いを定めて。
「プリンセス!」
「エルちゃん!」
かけつけたウィングとプリズムへ、明らかに水ではないものが放たれる。
「ップリズム!!」
「ウィング!!」
仲間を案じたスカイとエクリプスの前で、爆発。
煙が晴れると、プリズム達は黒い球体に閉じ込められてしまっていた。
「閉じ込められた!?」
「プリズムショットが・・・・っく、出せない!?」
二人は即座に脱出を試みるが、一向に出られそうにない。
「あっはっはっは!まずは二人!正義の味方気取りの君達なら、そうすると思っていたよ!」
「プリズム達に何をした!?」
エクリプスの怒鳴り声に、ニヤニヤしながらバッタモンダーは答えた。
「それはアンダーグエナジーを濃縮した球体さ!その中ではプリキュアの力は使えない!」
『あとは・・・・』と、残った二人に目が向けられる。
「ランボーグ!!」
「なっ、ぐあぁッ!!」
「エクリプス!!」
動揺ゆえに、隙が産まれてしまっていた。
ランボーグが即座に鼻を振り上げて、エクリプスを殴打。
続けて巨体を跳ねさせて、球体諸共プリズム達を押しつぶそうとする。
「させるかぁッ!!伍ノ型 炎虎ッ!!」
一気に駆けつけたスカイは、剣に炎を纏わせて。
ランボーグを迎え撃つが。
相手の質量が、はるかに圧倒的だった。
「がああ!あっぐ・・・・!」
「スカイッ!!きゃああああああ!!」
「うわああああ!!」
直撃は何とか免れたものの、プリズムとウィングは余波をもろに喰らい。
スカイに至っては、近くの木で頭をぶつける。
「っぐ、ぅ、あ・・・・!」
(めまい、耳鳴りも・・・・脳震盪・・・・!!)
ぐらぐらと明滅する視界に苦しみながらも、何とか立ち上がろうとするスカイだったが。
頭を盛大に揺さぶられた所為で、手足どころか指先を動かすことすらままならない。
「ギャハハハハハハハハッ!!!その顔が見たかったんだよォッ!!プリキュアアアアアア!!!」
心底愉快だとばかりに、腹を抱えて大笑いするバッタモンダーは。
ふと、明後日の方向に目を向けて。
「そういや観客がもう一人いたねぇ?」
「う・・・・!」
覗き見していたたけるに、目をつけてしまったのだった。