ヒーローガールは異物入り   作:数多 命

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偽物、お買い物

――――次に目が覚めた時、夜が明けるところだった。

窓を開けると、今まさに上ってきた朝日が照らしてくれる。

 

「・・・・おはようございます!」

 

ご来光に頭を下げて、私の異世界一日目が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、おばあちゃん」

「おはよう、ましろさん」

 

朝、虹ヶ丘家。

身支度を終えてリビングへやってきたましろへ、ヨヨはおおらかに笑いながら挨拶を返す。

 

「朝ごはんが出来ているから、ソラさんを呼んできてくれるかしら?庭にいると思うから」

「わかった!」

 

食卓には、ご飯に味噌汁、焼き鮭と。

まさしく『日本』というべき献立が並んでいる。

用意してくれたヨヨにありがとうを告げてから、ましろは家の庭に向かってみた。

 

「ソラさーん、朝ごはん出来てますよー」

 

窓を開けて、まず耳に入ったのは風を切る音。

続けて、同じ動作で剣を振るうソラの姿が飛び込んでくる。

ましろもよく知る素振りかと思ったが、違う。

始めは早すぎてよく分からなったが、しばらく観察して分かった。

何か祈りを捧げるように剣を立ててから、振り下ろしている。

それを目にもとまらぬ速さで繰り返しているのだ。

 

「ッハ!そ、ソラさーん!」

「ん?あ、おはようございます。ましろさん!」

 

真剣な横顔に思わず見とれそうになったところで我に返り、もう一度声をかけると。

ソラはこちらに気が付いて笑顔を見せてきたのだった。

 

「朝ごはん出来てるって、おばあちゃんが」

「分かりました、今行きます」

 

返事をしながら剣を鞘に納めると、それをさらに昨日の不思議なペンへ収納する。

 

「わあ、便利ですね」

「ええ、おかげでこちらで怪しまれずに済みそうです。『じゅうとうほう』でしたか、気を付けないといけませんね」

「そうですね、剣持ったままだとソラさん捕まっちゃいます」

 

ペンをジャージのポケットに入れるソラを見ていて、ふと。

ましろは疑問を抱く。

 

「ソラさん、どれくらい素振りしてたんですか?」

「一時間ほどでしょうか?いつもこれくらいやってますよ」

「えっ!?」

「えっ?」

 

声を上げたましろに、ソラもまた首をかしげる。

 

「え、でも、汗かいてないじゃないですか」

「これくらいならかきませんよ」

「えええー・・・・」

 

聞けば、普段はもっとメニューをこなしているという。

ソラの底なしの体力に、ましろは慄かざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

「~~~~ッ!」

 

うんんんんんまっ!

十云年ぶりの米!味噌汁!そしてシャケ!

人様のおうちではしたないけどがっついちゃう。

うま、うまぁ・・・・!

 

「ふふふ、お口に合った様でよかったわ」

「んぐ、す、すみません。行儀悪かったですね」

「いいのよ」

 

冷静になって思い出すと、割と音立てて食べてたように思う。

お恥ずかしい・・・・。

 

「ええと・・・・」

 

一方で、ましろさんは赤ちゃんにミルクを飲ませ終えて。

げっぷをさせている様だった。

ヨヨさんに習いつつ、背中をさすって。

 

「けぷっ」

「あ、出来た」

 

よかった。

呑み込み早いですね、ましろさん。

優秀!

 

「今日は、ソラさんの生活必需品を買ってくるといいわ」

 

そう促してくれたヨヨさんは、割とずっしりしたがま口を持たせてくれる。

今の私の格好、ヨヨさんのジャージを借りている状態だからな。

これから数か月単位でお世話になりそうだし、その間ジャージだけっていうのは無理があるだろう・・・・。

本当に、何から何まで・・・・!(五体投地)

 

「あと、昨日のおつかいもね」

「ああ、そうだった。昨日結局できなかったんだよなぁ」

「その節は大変ご迷惑を・・・・」

「いいんですよ!助けてくれて、ありがとうございました」

 

ましろさんと、ひとしきり頭を下げ合って。

そんな様をヨヨさんが微笑まし気に見守っていた。

 

「この子は私が面倒を見ておくわ」

「はい、よろしくお願いします!」

 

・・・・そういえば。

この子も一緒に暮らすんだから、いつまでも『赤ちゃん』じゃ不便だよな。

仮でも名前を付けなければ・・・・。

 

「える!」

 

・・・・エルちゃん、でいいかな。

いや、だって。

この子関連で一番印象に残ってる単語だし(震え声)

 

「ヨヨさんと良い子にお留守番しているんですよ、エルちゃん」

「えるぅ!きゃっきゃっ!」

 

勝手に名付けたんだけど、お気に召してもらえたようだ。

 

「エルちゃん?」

「この子の、仮の名前です」

「そっか、名前がないと不便ですもんねぇ」

 

納得した様子のましろさんも、『よろしくね、エルちゃん』と話しかけると。

エルちゃんは嬉しそうに笑ったのだった。

うーん、かわいい!

 

「おっと、そろそろ行かないと」

「本当だ、そろそろ行きましょうか」

「はい」

 

靴を履いて、玄関を出て。

 

「「いってきまーす!」」

 

揃って、家の敷地を抜けようとしたところで。

 

「・・・・?」

 

ふと、見上げると。

玄関アーチの上に、真ん丸な鳥がいた。

くりくりとした目が、こちらを見つめている。

・・・・この子、もしや。

 

「――――あなたさえよかったら、ヨヨさんを手伝ってあげて下さい」

「ソラさん?」

 

前を歩いていたましろさんが、不思議そうにこちらを見てくる。

 

「どうしたんですか?」

「・・・・いいえ、何でもないです。行きましょうか」

 

今度こそ、出発する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、どうしたの?」

 

 

「――――ふふふ、そう」

 

 

「とっても勘がいいのね」

 

 

「ええ、お願いしちゃおうかしら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「買い物するならここですよ!」

 

ましろさんの後ろをついて歩くこと、しばらく。

目の前に現れたのは、おっきなショッピングモール。

 

「すっごい、この建物一つにお店が?」

「はい!私もよく来るんです!」

 

『ソラシドモール』と言うらしいここは、前世の記憶と照らし合わせてもでっかいショッピングモールだ。

普通にびっくりすれば、ましろさんが得意げに笑った。

 

「ひとまずお洋服からですよね、服屋さんはこっちです」

「はい、案内お願いしま――――」

 

瞬間、耳に入って来た甲高い音にびっくりしてしまう。

 

「ああ、もしもし?どうしたの?」

 

続けて聞こえた話し声に、顔が熱くなるのを感じた。

・・・・・しょーがねーだろォン!?十云年ぶりなんだヨォン!!

 

「す、すみません・・・・」

「あはは・・・・」

 

ましろさんに苦笑いされながら、服屋に向かう。

 

「ひとまず、私がよく行くのはここですけど・・・・どうですか?」

「そうですね・・・・」

 

少し、見てみるが・・・・。

うん、さっぱどわからん(あたまのわるいかお)

とはいえ、こういう時の切り札というものはあるのだ。

 

「ましろさん」

「はい?」

「どうもこの世界の標準と言うものが分からなくて・・・・お手数ですが、選んでくれませんか?」

「え、わたしが?ソラさんの服を!?」

「はい」

 

秘儀、丸投げ!!

・・・・・いや、最悪なのは自覚してるよ。

でも!!分からんもんは!!分からん!!

ただでさえ訳アリのオンパレードなんだし、周囲から浮くような服装して悪目立ちするのはよくない。

何より!私自身に!センスが!ないんじゃ!!

前世も今も『お化粧?何それおいしいの?』状態です!

対戦よろしくお願いします!押忍!!!!

 

「・・・・分かりました、頑張って似合うの探してみます!」

 

と、自己嫌悪している横で、ましろさんは何だか気合の入った様子で了承してくれた。

 

「あの、頼んだ手前なんですけど、ほどほどで大丈夫ですよ・・・・?」

「ダメです!ソラさんかっこいいんだから、おしゃれしないと!」

「アッ、ハイ」

 

なんだか、スイッチを入れてしまったようだ。

ましろさんに手を引かれて、店内へ入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

閑話休題(買い物、男女問わず長い人は長い)

 

 

 

 

 

 

 

「助かりました、ありがとうございます」

「いえいえ、似合う服があってよかったです」

 

紺色の長袖上着、白地に水色のラインが入ったTシャツ。

ニーハイにスカートと、とっても爽やかでスポーティなコーディネートになった。

ましろさんめっちゃセンスいいですね。

今後服を選ぶときは、これを参考にさせてもらおう。

 

「あとは、ヨヨさんのおつかいですよね?」

「はい、ローズオイルとシナモンスティックと、干したカエル、なんですけど・・・・」

「・・・・・スカイランドでも見かけないですよ、干したカエル」

「ですよねぇ、どこに売ってるんだろう?」

 

今はベンチで一休みしながら、ヨヨさんのおつかいメモを覗き込んでいる。

お前は何なんだ、干したカエル。

どこに売ってるんだ・・・・。

 

「・・・・あの」

 

考え込んでいると、ましろさんがおずおず話しかけてくる。

 

「ソラさんが、ヒーローを目指す理由って、聞いてもいいですか?」

「・・・・ヒーローを目指す理由、ですか」

 

・・・・・まあ、聞かれると思った。

避けられる話題じゃないよなぁ。

 

「――――私、子どもの頃の記憶がないんです」

「え?」

 

どうしても重くなる話なので、努めて明るくなるように意識して。

口を開く。

 

「自分のことも、家族のことも、何も分からなくて・・・・そんなときに道しるべになったのが、ヒーロー手帳だったんです」

「それって、昨日の・・・・?」

「はい」

 

頷いて、続ける。

ましろさんが気にしないように、淡々と。

 

「記憶を無くす前の私は、本物のヒーローに出会っていて、彼女に憧れて鍛錬していたそうなんです。だから、私もそうすることにしました・・・・そうしたら、自分を取り戻せるような気がして」

「・・・・取り戻せたんですか?」

「いえ、未だに何も思い出せないままです」

 

首を横に振ると、ましろさんが痛ましげな顔になってしまった。

いかんいかん。

 

「・・・・でも、もう慣れましたし、今はそれでもいいと思っています。お陰で、エルちゃんやましろさんを助けられたわけですからね」

「・・・・すごく大事なものだったんですね、あの手帳」

「はい、でも、本当に大丈夫なんですよ?何度も読み込みましたから、諳んじるくらいわけありません」

 

『ソラだけに!』と付け加えると、ましろさんはふふっと笑ってくれた。

よかった。

せっかくの楽しいお買い物日和に、辛気臭い顔させるのもね・・・・。

 

「さて、そろそろ行きませんか?」

「はい!おばあちゃんも待ってるだろうし・・・・」

 

もう十分休憩も出来たし、荷物を持って立ち上がる。

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

(――――記憶喪失、だったんだ)

 

ソラの背中を見つめながら、ましろは一人考える。

話してくれている間、ソラは感情を抑えることに徹している様だった。

 

(自分のことが分からないって、どんな気分なんだろう)

 

名前も、家族も、思い出も。

自分を構成するすべてを、ある日突然失ってしまう。

それはどれほど恐ろしいことだろうか。

きっと、足元がごっそり無くなったような。

終わりのない闇と、常に隣り合わせの感覚なのだろう。

 

(あの手帳、わたしの想像以上に大切なものだったんだ)

 

そんな不安な中で支えになっていた、たった一つの道しるべ。

どれほどの希望だったろう、どれほどの拠り所だったろう。

破り棄てられた時、どんな気持ちだったのだろうか。

ましろやエルの前では、威勢よく啖呵を切っていたが。

その心は、きっと。

 

(心も、体も、いっぱい怪我して・・・・それでも笑って、『大丈夫』って言ってくれた)

 

ふと、何とも言えない不安が、ましろの胸に湧きあがった。

 

(・・・・・もしかして、怖くないのかな)

 

他でもない『自分』を、ある日ごっそり失ったから。

だから、失うのが当たり前になってしまっているのでは。

手元から零れ落ちるのが、当然になっているのでは。

 

(・・・・そんなの)

 

少し、悲しいと。

切なくなったましろだった。

 

「ましろさん?」

「ッはい!」

 

我に返ると、ソラが不思議そうな顔をしてこちらを見ている。

 

「どうしたんですか?」

「あ、いや!なんでもないです!よ!!」

「そう、ですか・・・・?」

 

ましろの勢いに、首を傾げながらもソラが納得した。

その時だった。

 

「――――うわああああああああああああッ!!!」

 

白昼のショッピングモールに、悲鳴が轟く。

はっとなってそちらを見ると、ハンバーガー屋台に見覚えのある巨体。

慄く店員の前で、大量のハンバーガーを抱えているのは。

 

「ああー!昨日の!!」

「んんん?ああ!お前ら!!」

 

ましろが思わず声を上げると。

向こうもこちらに気が付いて、指を向けてくる。

 

「ここであったが百年目なのねん!」

「それはこちらの台詞です!ザブトン!」

「カバトンなのねん!!間違えるな!!」

「ごめんなさい!カバトン!」

「ヨシ!!」

「いいんだ!?」

 

謝ってもらえたと言えど、怒りは収まらないらしい。

カバトンはひとしきり地団太を踏んでから睨みつけて。

 

「赤ん坊はどこなのねん!?」

「誰が教えるものか、このペド野郎!!」

「えっ」

 

ソラの口から、思ったよりも強い言葉が飛び出してきてびっくりするましろを他所に。

カバトンはとうとう堪忍袋の緒が切れた。

 

「ぐぬぬぬぬぬ、生意気なのねん!いいだろう、ここでお前をギッタンギッタンにしてからでも遅くないのねん!!カモン!アンダーグエナジー!!」

 

邪悪なエネルギーが呼び出されて、自販機に取り付く。

 

「ランボーグッッッ!!!!」

 

人々の悲鳴に満たされる中、ソラは精悍な顔でスカイミラージュペンを構えた。




ソラ・ハレワタール(18)
正確には『ソラ・ハレワタール』というガワに入ってしまった誰か。
幼い『ソラ』を殺してしまったと、並々ならぬ罪悪感を抱えて生きている。
せめて今の体になった意味を見出そうと、『ヒーロー手帳』を道しるべに生きていた。
知っている修行法が剣術中心だったので、剣士タイプである。
全力で『理想のヒーロー』を演じているので、表は凛とした麗人だが。
素の性格はだいぶハイテンションであり、口もちょっと悪い。
エルちゃんがいないところでは、割と言葉が荒くなりがち。


キュアスカイ
ソラが変身するプリキュア。
本家のスカイとの相違点は、剣を携えている他。
左目元に翼を模したメイクが乗っていること。
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