「――――あれ、あげはさん?」
「何をしているんだ?」
「あ、ソラちゃん。ベリィベリーちゃんもおかえり!」
その日、ベリィベリーさんとランニングから帰ると。
あげはさんがもう起きていた。
『おっはよ!』と、ひかえめながらも元気な声であいさつしてくるあげはさん。
ちなみに今は朝の六時。
部活の朝練などがないなら、もうちょっとくらい寝てても許される時間である。
「こんな早くに何を・・・・?」
問いながら、視線を動かすと。
ダイニングの上に、見事な朝食が並べられていて。
「うわぁっ!?バエーッ!!」
「ばえ・・・・?虫がどうしたんだ?こんなにすごいのに」
「そっっっちじゃなくてですね・・・・!!」
いや、ホントに。
見た目はもちろん、栄養もばっちり考えられているだろう食事達。
「あはは!ナイスリアクション!頑張った甲斐があったよ!」
「いや、でもこれ大変だったんじゃ・・・・!?」
果物、野菜、食パンに至るまで。
丁寧な飾り切りが施されていて・・・・!
絶対とんでもない手間かけてるでしょ!?
ありがたいのはもちろんあるんだけど、それ以上に戦慄が勝る・・・・!!
「いいんだよこれくらい!」
そんなこちらの心境を察してか、快活に笑ってくるあげはさん。
「でも・・・・!」
「おはよー・・・・あれっ!?今日の朝ごはんすごいね!?」
そうこうしているうちに、ましろさんが起きてきてしまった。
「これ、あげはちゃんが作ったの!?」
「そうだよー!おいしい朝ごはん食べて、気分アゲてこ!!」
「あらあら、とってもご機嫌な朝食ね」
「でしょー!?」
最終的に、あれよあれよと家人達が集まって来たので。
それ以上追及することは出来なくなってしまった。
「へー、あげはさんって器用なんだな」
鋳頭鋳造、休憩時間。
鉄郎くんの秘密基地だという、敷地の隅っこのスペースで。
一緒に缶ジュースを飲みながら、話を聞いてもらっている。
『ヒーローも吐き出したいことあるだろうから』と、たまにお邪魔させてもらっているのだ。
・・・・本当に。
本当にッ!
ありがとうございます・・・・!
プリキュアは、皆さまのサポートで成り立っております・・・・!(平伏)
「ええ、でも張り切り過ぎてて心配で・・・・」
「そうなの?」
「鉄郎くんだって、一日中全力疾走するのを毎日続けてたら、疲れちゃうでしょう?」
「ああ、なるほどー」
あれから数日。
めちゃくちゃ手の込んだ食事はもちろんのこと、掃除、洗濯、炊事に。
エルちゃんのお世話まで。
私、ましろさん、ベリィベリーさんのお弁当も作っちゃうし・・・・。
めっちゃ可愛かったし、おいしかったけど!!
おいしかったけど!!
「でも、ソラさんは大人だろ?」
「ええ、だから出来る範囲で手伝ってはいるんですけど、あげはさんがそれ以上で・・・・」
サボってるわけじゃないんよ・・・・サボってるわけじゃないんよ・・・・!!
戦国武将で例えるなら。
島津豊久の援軍に駆け付けたけど、豊久本人が強すぎて自分の出番はほとんどない。
みたいな状態・・・・。
「強敵だなぁ」
「強敵なんです・・・・」
同じプリキュアになって、とっても張り切っているのは明確だ。
私達の世話をとことん焼いてて・・・・。
特に一番年少であるツバサくんを気にかけている様だ。
『鳥なら野菜多い方がいいでしょー?』って、サラダを多く取り分けたり。
寝床をかわいくデコったり・・・・。
昨日なんかダイニングで寝落ちして、ツバサくんに怒られていた。
疲れが出ているのは明らかだ。
あげはさん・・・・どうしてそんなに働くの、あげはさん・・・・!
「ちなみに、ソラさん料理の腕は?」
「食べ物から食べ物は作れます、ビジュアルは期待しないでください」
(とーちゃんの料理みたいなもんかな)
メシマズ、では、ない、はず・・・・!
こちらの学校でも習いそうなメニューは作れるんよ。
でも、ましろさんやあげはさんのを見ちゃうと、ね?
ね!?
「私も、本腰を入れて家事をやるべきでしょうか・・・・」
「でも、それだと今度はソラさんが大変になるんじゃない?ソラさんが心配されちゃうよ」
「ううん・・・・」
あちらを立てればこちらが立たぬ・・・・!
「もうしばらく様子見してみたら?ツバサってやつも気に懸けてるなら、ソラさんが無理になにかやらなくてもよさそうだけど・・・・」
「・・・・悔しいですけど、そうする他はなさそうですね」
んー・・・・。
適材適所といえど、友人の助けに、即戦力になれないっていうのは。
もどかしいにもほどがあるよなぁ・・・・。
しょんぼりしながらジュースを一口した。
その時だった。
「・・・・ん?」
「なんだ?鳥?」
可愛くの騒がしい声に気付いて見上げると、小鳥さん達が慌ただし気に鳴いている。
・・・・この子達確か。
「ツバサくんの鳥友達ですか?」
問いかけると、『そうそう!』とばかりに一層賑やかになる鳥さん達。
その内の何羽かは、まるでついてこいとばかりに距離を取ったり戻ってきたりして・・・・。
「もしかして、どっかでランボーグが出たんじゃないのか?」
「ええ、だと思います!」
この前も鳥さん達が報せてくれたし、可能性は高い・・・・!
「鉄郎くん、すみませんが・・・・!」
「うん!みんなには『ソラさんとこの赤ちゃんが、熱だした』って言っときゃ大丈夫だろ」
「ありがとうございます、すぐに戻りますから!」
「気をつけてなー!」
鉄郎くんに見送られながら、塀を飛び越えて敷地から出る。
「案内、よろしくお願いします!!」
「チチチ!!」
「ピィーッ!!」
◆ ◆ ◆
――――時間を少し遡る。
とある広場を訪れていた、あげは、ツバサ、エルの三人。
今日は、あげはの実習先であるソラシド保育園の壁画アートの一画に、お言葉に甘えて絵を描きに来ていた。
「保育園の先生が、『実習の記念に描いて』って言ってくれたんだ。でも引っ越しでバタバタして、時間がなくて」
「時間がなかったのに、僕達のお世話までしていたんですか?」
事情を話すあげはに、筆を執っていたツバサが問いかけると。
彼女はバツが悪そうに笑ってごかましたのだった。
「あ、上手じゃん少年!」
それから畳みかける様に、ツバサの絵心について触れる。
「父さんが絵描きなので、これくらいは・・・・」
「へえー・・・・ねえ、スカイランドのご両親ってどんな人なの?」
(そういえばあげはさんは、会ったことがなかったな)
問いかけに、低い位置を描くために座り込んだツバサは。
筆を洗いながら、ややすねた様子で応える。
「・・・・二人とも、いつまでたっても僕を子供扱いですよ?何かと構ってくるから、鬱陶しくて」
そこまで答えてから、思い当たることがあって。
ツバサは短く笑った。
「どうしたの?」
「いえ、あげはさんの世話焼きな感じ、誰かに似てるって思ったら、父さん母さんに似てるんだ」
突然笑い声を上げたツバサに、疑問の目を向けていたあげは。
彼の、年相応の表情に、何か納得したような顔になって。
「あげはさん?」
「ああ、いや・・・・ツバサくんはさ、家族と離れて暮らしてるじゃん?」
気を取り直して、壁画に向き直って。
「エルちゃんやソラちゃん、ベリィベリーちゃんにましろんもそうだし・・・・・だからかな、構ってあげたくなるんだよね」
とつとつ、心情を零していく。
「みんながいーっぱい頑張ってるの、知ってるし」
「あげはさん・・・・」
ツバサから見れば、あげはだってとても頑張っている。
しかし、それは自分達を想ってのとこで。
何と言えばいいのかと、言葉を迷わせた時だった。
「あーい!」
エルの歓声が聞こえて、揃って振り向くと。
「あっ!」
「プリンセス!?」
いつの間にやったのか。
絵具を両手に塗りたくったエルが、壁画にペタペタと手形を残してしまっている。
「もう、めっですよ」
「・・・・いや」
ツバサは、普通にエルをたしなめたが。
あげはは違う考えの様で。
「これはこれでいいんじゃない?」
「えっ?」
「ほら、これはこうしたらチューリップ、こっちはこれで、少年!ね?」
ピンクの手形には葉と茎をつけてチューリップに、黄色い手形には羽と足を書き込んでひよこにしてしまう。
彼女の発想に、感心するツバサと、歓声を上げるエル。
「ほら、エルちゃん!もっとペタペタしよ!」
「あーい!ぺたぺた!」
差し出されたパレットに、遠慮なく手をつけたエルは。
心のままに手形をつけ始めた。
「そうだ!少年も自由に描いてみてよ!」
「ええっ?」
「その方が三人の合作って感じがするじゃん?」
三人で、一緒に。
これまで頼ってくれなかったあげはからの頼み事。
「まあ、あげはさんがいいなら、いいですけど」
年相応のおませな態度ながらも、内心の嬉しさを隠せないツバサは。
確かに了承したのだった。
――――それから三人は、自由に筆を走らせた。
手形をアレンジしたり、気球を描き込んでみたり、大きな虹を横切らせたり。
始めに描いていた大空に、思い思いの絵を描いていく。
「かんせーい!」
そうして出来上がった壁画は、三人とも満足できる出来になった。
「二人ともありがとう!お陰で最高の壁画になったよ!」
「でも、よかったんですか?僕とプリンセスが混ざっちゃって」
元はあげはに許された一画だったのに、部外者の自分が手を加えてよかったのか。
そんなツバサに、あげはかからからと笑って。
「だからいいんじゃん!相乗効果ってやつ?私一人で描くよりも、ずっといい絵になったよ!」
とっても賑やかな壁画を見るあげはの横顔。
キラキラと輝く瞳が、なんとなく眩しく思えて。
ツバサはやや逃げる様に、同じく壁画に目をやる。
・・・・確かに。
自分と、エルと、あげはで描き上げた壁画は。
なんだか、光って見えるのだった。
「――――ああ、なんて可哀そうなんだ」
そんな雰囲気に水を差すのは、やはりこの男。
「せっかく一人増えたのに、ここにいるのは二人だけだなんてね」
「「バッタモンダー!」」
警戒する彼らを意に介さず、バッタモンダーはいつもの様に手を足元に打ち付けて。
「カモン!アンダーグエナジー!」
「――――ランボーグ!」
ゴミ箱を素体にした、ランボーグを呼び出したのだった。
「ツバサくん!」
「はい!」
「「スカイミラージュッ!!」」
ツバサとあげはもまた、ミラージュペンを取り出して変身する。
「あとの三人が来る前に、決着をつけさせてもらうよ」
現れたプリキュア達へ、気障ったらしく余裕を持って宣言するバッタモンダー。
むっとなったバタフライは、毅然と反論を口にする。
「なんかかっこつけてるけどさ!ようするに、五人相手に勝てる自信がないってことじゃん!」
「ですね!」
「自信がどうとかじゃねぇし!こういうのは、頭を使った作戦っていうんだよぉー!!」
ウィングにも突っ込まれて、苛立つ様子をみせたバッタモンダー。
作戦があるにしても、少なからず図星であろうことは。
明確なのであった。
「ランボォーグ!!」
「ごみはポイ捨てしちゃダメだろぉー!?」
「ごみはゴミ箱へ!!」
ランボーグが、ペットボトル型のミサイルを放つ。
ウィングもバタフライも、難なく攻撃を対処。
なんなら打ち返して、ランボーグの体を大きく傾けた。
「っち、たった二人にいいようにされてんなよ!」
「ランボーグ!!」
バッタモンダーに叱咤されながら、なお攻撃し続けるランボーグ。
「・・・・ッ!」
その攻防の最中。
流れ弾が、保育園の壁画に迫って。
「っく!」
バタフライが、咄嗟に障壁を張って守ったが。
「ほーう?・・・・ランボーグ!」
悪辣なバッタモンダーは目ざとく気が付き、指示。
ランボーグは、壁画諸共攻撃しようと、攻撃を乱射した。
「はあああああ!!」
ウィングがぐるんと身を翻し、起こした竜巻で攻撃を散らすが。
いくつかは壁画へ向かってしまった。
「あっ・・・・!!」
目を向けた先には、バタフライが立ちはだかっていて。
「――――させない!!」
障壁を大量に展開して、全て防ぎ切ったのだった。
「ふうーん・・・・その壁画、よっぽど大事なものなんだね?」
黒煙が晴れた先、バタフライとウィングは険しい顔で睨む。
そこには、大量のペットボトルミサイルを携えたランボーグがいた。
小鳥のところ、「ピピー!」と言わせたら別の奴に見えたのでボツッたんですよ・・・・。