いや、ほんとにいつくっつくんだこの二人・・・・。
――――相手の拳を、手のひらで滑らせていなす。
お返しに殴打を放つと、防がれた。
続けて二撃、三撃と避けられて。
反撃を受け止める。
「せぇいっ!!」
手を引っ掴んで投げ飛ばすけど、手ごたえがない。
あえて吹っ飛ばさせたな?
証拠に、ベリィベリーさんは容易く身を翻した。
「はあっ!!」
構えを取って、突撃してくる。
殴打が来る、と思ったら蹴りが飛んできた。
頬に掠りながら避けて、蹴り返すついでにバク転。
着地と同時に身をかがめて、足払いを放つ。
「・・・・ッ!」
ぐらっと傾くけれど、すぐに手をついて立て直したベリィベリーさん。
そのままブレイクダンスの要領で回り蹴りを叩き込んできた。
「っ・・・・!」
受け止めた左腕から、風船が破裂した様な音。
思った以上の威力に怯んでいると、反対側からも蹴りが飛んできて。
「うわっ・・・・!」
こちらは対処が間に合わず、防御に回した腕ごと吹っ飛ばされる。
なんとか起き上がろうとした喉元に、貫手が突き付けられる。
せめてもの抵抗に、こちらも拳を向けているけど。
これ以上は何も出来そうにない。
「・・・・お見事です、徒手ではかないませんね」
「何、一歩間違えればこちらがやられていた」
なので、素直に降参したのだった。
「二人とも、おかえりなさい」
虹ヶ丘家に戻ると、ましろさんが出迎えてくれたけど。
声が少しかすれている・・・・?
「声はどうしたんだ?喉を傷めたのか?」
ベリィベリーさんも気が付いたようで、心配そうに問いかけると。
ましろさんは、『あはは』と笑って。
「今日のエルちゃん、絵本をいっぱい読んでほしい気分だったみたいで、わたしも張り切って読みまくってたんです」
「ああ、それで」
ましろさんの隣には、ご満悦なエルちゃんが。
絵本の山を前に、嬉しそうに揺れていた。
「少し、喉を休ませた方がいいかもしれませんね」
「はい、のど飴も舐めておきます」
早速立ち上がって移動するましろさん。
多分、おやつバスケットにあるのど飴を取りに行ったんだろう。
「しょら!」
『お大事にー』と思いながら見送っていると。
エルちゃんがいつの間にか足元にいて。
「よんで!」
「えっ、今度は私ですか!?」
「あい!」
そこにあるの、うちにある絵本全部では!?
ましろさんに読んでもらって、コンプリートしたはずなのに。
まさかのバージョン違いをご所望ですか!?
さすがプリンセス!俺達に出来ないことをやってのける!
そこに痺れる憧れるゥッ!!
「よーっで!」
「アッ、ハイ!おおせのままに!」
プリティなプリンセスのお願い、断れるやつはおる?
おらんよなぁ・・・・(ニッコニコ)
◆ ◆ ◆
「――――それでそろってのど飴舐めてるわけですか」
「いやぁ、あはは・・・・」
午後。
呆れるツバサの視線を受けながら、苦笑いを零すソラとましろ。
しこたま絵本を読んでもらえたエルはというと、ご機嫌なステップを踏みながらよちよち歩いている。
「む、見えて来た」
今日は、あげはのアルバイト初日。
職場は、ましろも大好きな『プリティホリック』だということもあり、新作チェックも兼ねて様子を見に来た次第である。
「あ、みんないらっしゃい!来てくれてありがとう!」
店内に入ると、早々に目当てのあげはに出迎えられた。
「あげはさん、忙しいのにバイトまで・・・・無理してるんじゃないですか?」
「全然!前からここでバイトしたいと思っててさ!もうめちゃくちゃ楽しくて!」
「本当ですか?」
「あはは!心配し過ぎ!少年お母さんみたい!」
「それはこっちの台詞です!」
あげはとツバサの、夫婦漫才の様なやり取りを横目に店内を見ていくと。
ましろが新作のコスメに気が付いた。
「これ、新作だ!」
「綺麗な色ですねぇ」
サンプルによると、『ビビットピンク』という色らしい。
「ピンク一つとっても、いろんなバリエーションがあるんだな」
「ですね。シャララ隊長も口紅を引いてらっしゃいますし、私達も見苦しくない程度には化粧を覚えた方がいいのかも」
「一理あるなぁ・・・・」
ソラとベリィベリーの、おしゃれに疎いコンビは。
職業が職業なだけに、化粧はどうしても縁遠いものと感じてしまうところがあった。
だが、戦うだけが護衛隊の仕事ではない。
時には着飾る機会もあるのかもしれないと、思いを馳せる。
まじまじと化粧品を眺めながら、ベリィベリーはふと。
サンプルを手に取って口紅を出してみて。
「うん、いい色だ」
「はい!夏のキラキラ太陽に負けないくらい、元気になれそう!」
ベリィベリーに頷いて、ましろがそうコメントした時だった。
「――――素敵な表現ですね」
話しかけられたので振り向くと、大人しそうな女性が立っていた。
あげはと同じエプロンをしているので、ここの店員の様だ。
「あ、菜摘さん!」
予想は当たっていたようで、あげはがこちらにやってくる。
「あげはちゃんのお友達?よくうちのお店に来てくれてるよね?」
「はい!」
「ましろんはここの大ファンで、それで私もよく来るようになったって感じで!」
「プリティホリックは、私の癒しなんです!」
「ふふ、そうなんだ」
あげはが志望動機を改めて説明すると、ましろも満面の笑みの浮かべる。
ソラもそんな彼女を微笑まし気に見守りながら、やりとりを眺めていた。
「菜摘さんはバイトの先輩で、普段は大学生・・・・ですよね?」
「うん、絵の勉強をしているの」
あげはの確認にこっくり頷いた菜摘。
改めてましろに向き合うと、『相談がある』と切り出してきた。
案内されたのは、とある一画。
夏用の、ウォータープルーフコスメをピックアップしているらしい区画だ。
菜摘曰く、『何か物足りない』とのことで。
プリティホリックファンのましろに、何かいいアイデアは無いか聞きたいとのことだった。
「この絵、菜摘さんが?」
「うん」
スペースの拝啓には、水中を見上げる構図の海の絵。
差し込む日の光と、色とりどりの魚達が。
優雅に踊っている。
はっきり言って、これだけでも十分に素晴らしいのだが。
描いた本人である菜摘にとっては、まだ納得のいかないものらしい。
「綺麗・・・・まるで、人魚が住んでそう・・・・」
「人魚・・・・?」
ぽつり、と。
目を輝かせたましろが、心のままに呟くと。
菜摘は少しばかり思案して。
「それ!いいかも!」
言うなり、背景を回収した菜摘。
バックヤードに引っ込むこと、数分。
見事な人魚が描かれた背景を、改めて設置したのだった。
「すごい、短い時間であっという間に描いちゃうなんて・・・・!」
「はい、絵を描くのって結構な重労働と聞きますが、こんなに早く・・・・すごいです」
「うんうん!この新作コスメ使ったら、人魚に成れそうって感じするもん!」
「ふふふ、ありがとう!」
ましろとソラ、そしてあげは。
それぞれが感嘆の声を上げると、菜摘は嬉しそうに顔を綻ばせる。
「私にも、ましろんさんみたいなセンスがあったら、絵本もすいすい描けるんだろうけど・・・・」
「絵本、ですか?」
何故ここで絵本の話題が出るのか。
首を傾げるましろへ、菜摘は店内のポスターを指し示した。
「あれに挑戦しているの!」
どうやら、ソラシド市で近々絵本コンテストがあるらしい。
菜摘もチャレンジしているが、躓くことも多く。
納得のいく出来までは、まだまだ遠いそうだ。
「そうだ!ましろんさんもやってみたら?」
話し終えた菜摘は、ぽんと手を合わせると。
名案とばかりに、ましろへ提案してくる。
「い、いえいえそんな・・・・!」
対するましろは、始めこそ謙遜の態度を見せた。
無理もない。
菜摘の描く絵はとても素敵で、そんな彼女と同じコンテストにだなんて。
恐れ多いと思ったのだ。
「へぇー、面白そうじゃん!ましろん!」
「え、ええ・・・・!」
しかし、あげはが菜摘の援護に加わったこともあり。
結局圧し負けたましろは、絵本作りに挑戦することとなったのだ。
◆ ◆ ◆
さてさて。
成り行きで、絵本コンテストに挑戦することになったましろさん。
始めこそ遠慮していたけれど、あげはさんや菜摘さんに強く勧められたこともあり。
結局、ホームセンターの画材コーナーに立っているのだった。
「絵本作り・・・・」
まだ迷っているのか、もらったチラシを少し不安そうに見つめているましろさん。
「迷っていますか?」
「そう、ですね・・・・菜摘さんの絵、すっごく素敵だったのに、わたしなんかが一緒に・・・・むっ」
ネガティブなことを言いかけた彼女の唇を、人差し指を当てて制した。
「『私なんか』なんて言わないでください、あげはさんにも怒られますよ」
「あ・・・・」
後ろ向きになり過ぎたことに気付いたらしいましろさんは、目に見えてしゅんとしてしまった。
「ごめんなさい」
「いえいえ」
そんな彼女を宥めながら、スケッチブックを手渡す。
「実のところを言うと、私が読んでみたいんです。ましろさんの描いた絵本を」
「そうなんですか?」
「はい」
菜摘さんにも指摘されていたことだが。
ましろさんはとってもセンスがいい。
くもパンを作ってくれたこともそうだが。
誰かの為に心を尽くせる彼女が、どんな物語を綴るのか。
とても興味があるのだ。
「すみません、私の勝手な希望です」
とはいえ、これは私のエゴ。
決めるのはましろさんだ。
彼女が『やぱりやめる』と言うのであれば、残念ながらそこまでだが・・・・。
「・・・・とりあえず、挑戦してみます!」
「え、いいんですか?」
「はい!そこまで言われたら、やってみたくなっちゃいました」
・・・・どうやら、ましろさんのやる気がスイッチオンしたらしい。
スケッチブックと画材を抱きしめたましろさんは、照れくさそうにはにかんでいたのだった。
「おや、プリンセス。それは・・・・?」
「砂で遊ぶ道具ですね」
「そういえば、赤ちゃん用の砂遊びセットはありませんでしたね」
「なら、ついでに買ってしまおうか」