誠にありがとうございました。
誤字報告もありがとうございます、助かっています・・・・!
ホームセンターを出た一行は、近くの公園に立ち寄ることになった。
早速絵本のアイデアを出すことにしたましろは、ベンチに座ってスケッチブックと向き合った。
とにもかくにも、まずはストーリーを考えなければ始まらない。
「山の中にさらさらと流れる川・・・・」
考えを口に出しながら、えんぴつを走らせるも。
大きな桃を流してしまった時点で、『それは桃太郎!』とざっくり塗りつぶしてボツ。
「えっと、川からかぼちゃが流れて来て、中からそれはそれは美しい女の子が・・・・って、シンデレラァッ!しかも桃太郎とごっちゃになってるし!」
何を考えても、どう工夫してみても。
既存の物語に似通ってしまって。
ましろは頭を抱えてしまったのだった。
「パパー、あのおねえちゃんひとりでしゃべってる」
「ぁ、ああ、そうだね」
思い悩む独り言を、赤の他人に聞かれてしまった羞恥心がとどめとなって。
すっかり俯いてしまった。
「やっぱり無理かも・・・・」
ぽつりと、弱音が漏れる。
「ストーリーなんて全然浮かんでこないし、絵だってあんなに綺麗に描けないし・・・・」
脳裏に浮かぶのは、菜摘が描いた人魚姫。
長く美しい髪を遊ばせて、海面の向こうの光を見上げる姿。
「そもそも、私にセンスなんて・・・・」
ソラや菜摘に褒められて、浮かれてしまっていたかもしれない。
沈んだ気持ちを、ため息で吐き出した。
「――――私が先走って、ましろさんを困らせてしまったみたいですね」
すると、隣に座ったソラが申し訳なさそうに覗き込んで来る。
「いいえ、誉めてもらえて嬉しかったですし・・・・でも、みんなみたいにこれをやりたいって気持ちに、どうしてもなれなくて・・・・」
せっかく期待してくれたのに、それに応えられない不甲斐なさに。
自分が、とても情けない存在になったように思えて。
なおも俯くましろへ、ソラは首を横に振ってから。
「ましろさんが変わりたいというのなら、私はもちろん応援します。でも、ましろさんが、ましろさんのままでいいという気持ちは、今も変わっていないんです」
思い悩む彼女の頭を、優しく撫でながら。
微笑みかけた。
「だから、あまり気に病まないでください」
「ソラさん・・・・はい、ありがとうございます」
沈んでいた気持ちが、少しだけ軽くなったましろは。
嬉しそうにソラを手を受け入れていた。
と、その時。
「――――プリンセス、一つくらい貸してあげてもいいじゃないですか!」
ツバサの大きな声がした。
ただ事ではない様子に二人か駆けつけると、砂場で遊んでいたエルの近くに男の子が立っている。
どうやら、同い年の彼に道具を貸したくないと、駄々をこねている様だった。
「そんな心の狭いことで、どうするんですか」
「やっ!!」
「そうですよ、みんなで仲良くしないと」
「やーっ!!」
ソラやベリィベリーにたしなめられても、かたくなに頷かないエル。
「ね、エルちゃん。エルちゃんの大好きなおもちゃで、お友達と遊べたら、きっともっと楽しいと思うなぁ」
「ううぅ・・・・やーやー!!」
ましろも一緒に説得にかかるが。
やっぱりエルは、拒絶を口にして。
最終的に、丸まってしまった。
「すみません!うちの子がご迷惑をおかけしちゃって」
「ああ、いえ、こちらこそすみません」
結局男の子は、迎えに来た母親に連れていかれたのだった。
邪魔者が居なくなったので、またご機嫌に砂遊びを再開するエル。
「もー・・・・」
「・・・・正直、相手の子も威圧的だったのは否めないが。これでは」
そんな彼女を、何とも言えない気持ちで見守っていると。
「・・・・まだまだ未熟ですね」
ソラがおもむろに口を開いた。
「私はエルちゃんを叱るだけでしたが、ましろさんは優しい言葉をかけていました。すごいと思います」
「そんな、結局エルちゃんには伝えられませんでしたし・・・・」
どうしたらいいんだろうと、新たに増えた悩みに。
ましろが頭を抱えていると。
ふと、絵本を読み聞かせする親子の声が聞こえた。
「・・・・ぁ」
その姿を見て、今朝のことを思い出して。
何か、ひらめいたようだ。
「ましろさん?」
「わたし、先に帰ってますね!」
「あ、はい」
ぽかんと口を開けて動かなくなった彼女を、ソラが心配すると。
途端に手荷物をまとめて、一目散に去っていくましろだった。
「ましろさん?何かあったのかな・・・・?」
「さあ?ただ・・・・」
何かを思いついたらしいと。
ソラはましろの背中を見送った。
◆ ◆ ◆
夕方。
あげはさんが帰宅しても、ましろさんはまだ部屋に籠ったままだった。
どうやら、彼女がこんなに熱中するのはだいぶ珍しいようで。
あげはさんもヨヨさんも、とても驚いているのが印象的だった。
「とはいえ、数時間籠り通し・・・・さすがに無理をしていないか、心配になるな」
「そうですね・・・・」
いや、ましろさんのやりたいようにやらせてあげたいけど。
ここまでとなるとさすがに気になる・・・・。
「じゃあ、様子を見てきたら?ソラちゃん」
どうしたもんかと頭をひねっていると、あげはさんがおやつセットを差し出しながら話しかけて来た。
・・・・確かに、一理あるな。
「分かりました、では、少しだけ見てきます」
「お願いねー♪」
トレーを受け取って、早速ましろさんの部屋へ向かう。
「ましろさん、お茶を持ってきました」
まずはノックで様子をうかがうけど、返事はない。
「――――入りますよ?」
集中しているであろう彼女の妨げにならいよう、なるべく抑えた声で話しかけてから。
ドアを開ける。
入ってすぐの勉強机に、ましろさんはいた。
顔色が悪いという訳でもなさそうだし・・・・うん、無理している様ではない。
夢中でペンを走らせる横顔は、むしろ楽しそうだ。
(これは・・・・邪魔しちゃ悪いな)
そう判断して、何も言わずに立ち去ろうとしたところで。
「ありがとう、ソラさん」
「っ、はい」
話しかけられたので、ちょっとびっくりしたのは内緒。
ましろさんにバレてないといいんだけど・・・・。
「なんか、すっごく楽しいんです」
「・・・・それはよかった」
だけど、そんな些細な心配は。
彼女の弾んだ声で打ち消されて。
・・・・『なりたいものがない』、『これといった特技もない』。
悩んでいたあの子が、初めて夢中になれるものを見つけられた様を見て。
柄にもなく、胸が躍ったのだった。
それから数日の間。
ましろさんは絵本作りに集中した。
画用紙に線を引いて、色を塗って。
躓いたりしたら、スケッチでどう描けばいいのか学んで。
あげはさんにもアドバイスをもらいながら、とにかく書き続けるましろさん。
そして、とうとう。
「――――出来たぁ!」
嬉しそうな声がしたので、様子を見に行くと。
達成感溢れる笑顔で、出来上がったらしい絵本を抱きしめているましろさんがいた。
「完成したんですか?」
「はい!ありがとうございます!」
「私は何も・・・・むしろ、あげはさんやツバサくんの方が手伝っていたでしょう?」
卵でも保育士としてアドバイスしていたあげはさんはもちろん、ツバサくんも鳥のモデルとして度々スケッチされていた。
ベリィベリーさんも、同級生の美術部員と渡りを作って、色々教えてもらうきっかけを作ったらしい。
それに比べて、私がやったことなんて。
ましろさんに集中してもらうために家事を代わったり、おやつを差し入れたことくらいだ。
他の三人の様に、直接力になれたわけじゃない。
「えへへ、でも、見守ってもらえてたの、嬉しかったですよ」
けれど、ましろさんが嬉しそうにそんなことをいうものだから。
まあ、悪い気はしないなと・・・・。
「でも、ギリギリになっちゃった。早く市役所にもっていかないと・・・・!」
「締め切りは今日なんでしたっけ?」
「はい、直接出すのもオーケーらしいので」
市役所が閉まるのは夕方五時。
今は三時くらいだから・・・・少しギリギリになるが、間に合いはしそうだ。
「では、行きましょうか?」
「はい!」
何はともあれ、急がない理由はない。
同じく制作を見守って来た仲間達も一緒に、一路市役所へ向かうことになった。