ヒーローガールは異物入り   作:数多 命

54 / 172
前回までの評価、閲覧、お気に入り登録。
誠にありがとうございました。
誤字報告もありがとうございます、助かっています・・・・!


偽物、見守る

ホームセンターを出た一行は、近くの公園に立ち寄ることになった。

早速絵本のアイデアを出すことにしたましろは、ベンチに座ってスケッチブックと向き合った。

とにもかくにも、まずはストーリーを考えなければ始まらない。

 

「山の中にさらさらと流れる川・・・・」

 

考えを口に出しながら、えんぴつを走らせるも。

大きな桃を流してしまった時点で、『それは桃太郎!』とざっくり塗りつぶしてボツ。

 

「えっと、川からかぼちゃが流れて来て、中からそれはそれは美しい女の子が・・・・って、シンデレラァッ!しかも桃太郎とごっちゃになってるし!」

 

何を考えても、どう工夫してみても。

既存の物語に似通ってしまって。

ましろは頭を抱えてしまったのだった。

 

「パパー、あのおねえちゃんひとりでしゃべってる」

「ぁ、ああ、そうだね」

 

思い悩む独り言を、赤の他人に聞かれてしまった羞恥心がとどめとなって。

すっかり俯いてしまった。

 

「やっぱり無理かも・・・・」

 

ぽつりと、弱音が漏れる。

 

「ストーリーなんて全然浮かんでこないし、絵だってあんなに綺麗に描けないし・・・・」

 

脳裏に浮かぶのは、菜摘が描いた人魚姫。

長く美しい髪を遊ばせて、海面の向こうの光を見上げる姿。

 

「そもそも、私にセンスなんて・・・・」

 

ソラや菜摘に褒められて、浮かれてしまっていたかもしれない。

沈んだ気持ちを、ため息で吐き出した。

 

「――――私が先走って、ましろさんを困らせてしまったみたいですね」

 

すると、隣に座ったソラが申し訳なさそうに覗き込んで来る。

 

「いいえ、誉めてもらえて嬉しかったですし・・・・でも、みんなみたいにこれをやりたいって気持ちに、どうしてもなれなくて・・・・」

 

せっかく期待してくれたのに、それに応えられない不甲斐なさに。

自分が、とても情けない存在になったように思えて。

なおも俯くましろへ、ソラは首を横に振ってから。

 

「ましろさんが変わりたいというのなら、私はもちろん応援します。でも、ましろさんが、ましろさんのままでいいという気持ちは、今も変わっていないんです」

 

思い悩む彼女の頭を、優しく撫でながら。

微笑みかけた。

 

「だから、あまり気に病まないでください」

「ソラさん・・・・はい、ありがとうございます」

 

沈んでいた気持ちが、少しだけ軽くなったましろは。

嬉しそうにソラを手を受け入れていた。

と、その時。

 

「――――プリンセス、一つくらい貸してあげてもいいじゃないですか!」

 

ツバサの大きな声がした。

ただ事ではない様子に二人か駆けつけると、砂場で遊んでいたエルの近くに男の子が立っている。

どうやら、同い年の彼に道具を貸したくないと、駄々をこねている様だった。

 

「そんな心の狭いことで、どうするんですか」

「やっ!!」

「そうですよ、みんなで仲良くしないと」

「やーっ!!」

 

ソラやベリィベリーにたしなめられても、かたくなに頷かないエル。

 

「ね、エルちゃん。エルちゃんの大好きなおもちゃで、お友達と遊べたら、きっともっと楽しいと思うなぁ」

「ううぅ・・・・やーやー!!」

 

ましろも一緒に説得にかかるが。

やっぱりエルは、拒絶を口にして。

最終的に、丸まってしまった。

 

「すみません!うちの子がご迷惑をおかけしちゃって」

「ああ、いえ、こちらこそすみません」

 

結局男の子は、迎えに来た母親に連れていかれたのだった。

邪魔者が居なくなったので、またご機嫌に砂遊びを再開するエル。

 

「もー・・・・」

「・・・・正直、相手の子も威圧的だったのは否めないが。これでは」

 

そんな彼女を、何とも言えない気持ちで見守っていると。

 

「・・・・まだまだ未熟ですね」

 

ソラがおもむろに口を開いた。

 

「私はエルちゃんを叱るだけでしたが、ましろさんは優しい言葉をかけていました。すごいと思います」

「そんな、結局エルちゃんには伝えられませんでしたし・・・・」

 

どうしたらいいんだろうと、新たに増えた悩みに。

ましろが頭を抱えていると。

ふと、絵本を読み聞かせする親子の声が聞こえた。

 

「・・・・ぁ」

 

その姿を見て、今朝のことを思い出して。

何か、ひらめいたようだ。

 

「ましろさん?」

「わたし、先に帰ってますね!」

「あ、はい」

 

ぽかんと口を開けて動かなくなった彼女を、ソラが心配すると。

途端に手荷物をまとめて、一目散に去っていくましろだった。

 

「ましろさん?何かあったのかな・・・・?」

「さあ?ただ・・・・」

 

何かを思いついたらしいと。

ソラはましろの背中を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

夕方。

あげはさんが帰宅しても、ましろさんはまだ部屋に籠ったままだった。

どうやら、彼女がこんなに熱中するのはだいぶ珍しいようで。

あげはさんもヨヨさんも、とても驚いているのが印象的だった。

 

「とはいえ、数時間籠り通し・・・・さすがに無理をしていないか、心配になるな」

「そうですね・・・・」

 

いや、ましろさんのやりたいようにやらせてあげたいけど。

ここまでとなるとさすがに気になる・・・・。

 

「じゃあ、様子を見てきたら?ソラちゃん」

 

どうしたもんかと頭をひねっていると、あげはさんがおやつセットを差し出しながら話しかけて来た。

・・・・確かに、一理あるな。

 

「分かりました、では、少しだけ見てきます」

「お願いねー♪」

 

トレーを受け取って、早速ましろさんの部屋へ向かう。

 

「ましろさん、お茶を持ってきました」

 

まずはノックで様子をうかがうけど、返事はない。

 

「――――入りますよ?」

 

集中しているであろう彼女の妨げにならいよう、なるべく抑えた声で話しかけてから。

ドアを開ける。

入ってすぐの勉強机に、ましろさんはいた。

顔色が悪いという訳でもなさそうだし・・・・うん、無理している様ではない。

夢中でペンを走らせる横顔は、むしろ楽しそうだ。

 

(これは・・・・邪魔しちゃ悪いな)

 

そう判断して、何も言わずに立ち去ろうとしたところで。

 

「ありがとう、ソラさん」

「っ、はい」

 

話しかけられたので、ちょっとびっくりしたのは内緒。

ましろさんにバレてないといいんだけど・・・・。

 

「なんか、すっごく楽しいんです」

「・・・・それはよかった」

 

だけど、そんな些細な心配は。

彼女の弾んだ声で打ち消されて。

・・・・『なりたいものがない』、『これといった特技もない』。

悩んでいたあの子が、初めて夢中になれるものを見つけられた様を見て。

柄にもなく、胸が躍ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日の間。

ましろさんは絵本作りに集中した。

画用紙に線を引いて、色を塗って。

躓いたりしたら、スケッチでどう描けばいいのか学んで。

あげはさんにもアドバイスをもらいながら、とにかく書き続けるましろさん。

そして、とうとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――出来たぁ!」

 

嬉しそうな声がしたので、様子を見に行くと。

達成感溢れる笑顔で、出来上がったらしい絵本を抱きしめているましろさんがいた。

 

「完成したんですか?」

「はい!ありがとうございます!」

「私は何も・・・・むしろ、あげはさんやツバサくんの方が手伝っていたでしょう?」

 

卵でも保育士としてアドバイスしていたあげはさんはもちろん、ツバサくんも鳥のモデルとして度々スケッチされていた。

ベリィベリーさんも、同級生の美術部員と渡りを作って、色々教えてもらうきっかけを作ったらしい。

それに比べて、私がやったことなんて。

ましろさんに集中してもらうために家事を代わったり、おやつを差し入れたことくらいだ。

他の三人の様に、直接力になれたわけじゃない。

 

「えへへ、でも、見守ってもらえてたの、嬉しかったですよ」

 

けれど、ましろさんが嬉しそうにそんなことをいうものだから。

まあ、悪い気はしないなと・・・・。

 

「でも、ギリギリになっちゃった。早く市役所にもっていかないと・・・・!」

「締め切りは今日なんでしたっけ?」

「はい、直接出すのもオーケーらしいので」

 

市役所が閉まるのは夕方五時。

今は三時くらいだから・・・・少しギリギリになるが、間に合いはしそうだ。

 

「では、行きましょうか?」

「はい!」

 

何はともあれ、急がない理由はない。

同じく制作を見守って来た仲間達も一緒に、一路市役所へ向かうことになった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。