「――――あ、来たコメ!」
「よかった、また会えたメン!」
「ソラさーん!」
ましろさんと一緒にプリティホリックを出ると、さっきの子達が駆け寄ってきた。
「お姉さん、さっきは本当にありがとうございましたパム!」
まずは、パムパムさんを筆頭に頭を下げて。
改めてさきほどのお礼を述べて来た。
今更だけど、出来たお子さん達だな・・・・。
「ううん、そんな、いいんだよ。喜んでくれるといいね」
「パム!それで、三人で話し合って・・・・」
柔らかく微笑むましろさんへ、パムパムさんも嬉しそうに笑い返す。
すると、他の二人が前に進み出て来て。
「お礼に、おいしーなタウンを案内させてほしいコメ!」
「メェン!」
三人そろって、気合十分にそんな申し出をしてくれたのだった。
提案を受けたましろさんは、ぱちくりとまばたき。
「それは嬉しいけれど、いいの?」
「むしろお願いしたくらいパム!今日、これを譲ってもらえて、本当に本当に嬉しかったパム!」
「恩返ししないと、バチが当たっちゃうメン!」
「おいしいお店、いっぱい知ってるコメ。だから、コメコメ達と一緒に来てほしいコメ!」
「ええと・・・・」
小さな両手をぷんぷん振って、必死にアピールする子ども達。
さすがのましろさんも判断に困ったのか、こちらを見上げて来たので。
助け舟を出すことにした。
「私は受けてもいいと思いますよ、現地の人の案内程、心強いものはありませんから」
もちろん、ましろさんの意思に任せることも告げてから。
子ども達と一緒になって、思案するましろさんを見守っていると。
やがて、彼女は一つ頷いて。
「・・・・うん、それなら、お言葉に甘えようかな」
「パムー!」
「わぁい!やったコメ!」
「任せるメン!とびっきりのおいしいものを紹介するメン!」
ましろさんのお返事に、文字通り飛び上がって喜ぶ三人。
――――こうして。
『コメコメさん』、『パムパムさん』、『メンメンくん』の三人による。
おいしーなタウン日帰りツアーが決まったのであった。
「まずはここパム!」
まず、一番手のパムパムさんに案内されたのは。
『ハートベーカリー』という看板を掲げたパン屋さんは。
バターと小麦が焼ける香ばしいにおいで、幸せな気分にさせてくれる。
「うーん、いい匂い!」
「ふふーん、ここねもお気に入りのお店パム!」
自慢げに胸を張るパムパムさん。
「お友達もオススメなんですね」
「パム!」
オススメはハートパンとロールサンドとのことだったので、私達もそれを購入する。
「わぁー!可愛い!」
「ええ、ロールサンドもおいしそうです」
ロールサンドはレタスがシャキっと、ジューシーなハムとチーズのコクもさることながら。
それらをまとめるマヨネーズベースのソースも最高だ。
ハートパンは、イチゴを練り込んだ生地にホイップクリームが入っていた。
クリームの中には刻んだイチゴが混ぜ込まれていて、味と触感にアクセントを加えてくれている。
「おいしいですね、ましろさん!」
感動のままに、隣を見ると。
てっきり同じ笑顔になっていると思ったましろさんは。
打って変わって真剣な顔でパンを食べていた。
これは・・・・。
「お、おいしくなかったパム・・・・?」
「いや、これは味を探ってますね」
「んっ?あっ、ごめんなさい!」
この頃外でおいしいものを食べると、たまにこうなるのだ。
みんなでおいしいねと笑い合った味で、おうちでも笑いたいからと。
元々鍋を奮うことが多かったましろさんは、料理の研究に一生懸命になることが増えた。
「また難しい顔してました?」
「お気になさらず、ましろさんのおいしいごはんは、毎日の楽しみです」
「えへへ、ありがとうございます」
改めてパンを一口頬張ったましろさん。
「うん、すっごくおいしいよ!」
「パム!」
とびっきりの笑顔で感想を伝えられたパムパムさんは、嬉しそうに尻尾を振っていた。
「次はメンメンのオススメだメン!」
お次はメンメンくんのチョイス。
吹きあがる蒸気からもうおいしそうな、中華まんの専門店である。
「らんちゃんも太鼓判を押す激うま肉まん、召し上がれだメン!」
メンメンくんが抱えた紙袋には。
肉まんだけでなく、あんまんやピザまんも入っていた。
「すごい、こんなにジューシーな肉まんは初めて」
「ふ、ふぁい、あつつ、こぼれる・・・・!」
ずっしりもっちりした皮を食べ進めると、滴るほどの肉汁が溢れて来た。
うっかり服にこぼれそうになって、慌ててしまう。
「うん、うん、でもおいしい!」
「はい!ほんのり甘味がある皮も、コショウが効いた餡も、最高です!」
肉まんはいうまでもないが、他のもおいしかった。
あんまんは舌に絡むこしあんが幸せだし、ピザまんもこだわり抜かれたトマトソースと伸びるチーズが美味い!!
ももまんも、ゴマ餡の香ばしさはさることながら、皮に描かれた桃の絵が芸術的だ。
「パムパムさんもですが、本当においしいお店を知っているんですね」
「らんちゃんがすごいんだメン!ここ以外にも、おいしいお店をいっぱい知っているんだメン!」
「へぇー!」
そう言って、自慢げに胸を張るメンメンくん。
「うーん、おいしい!」
「もう一個食べちゃおうかなぁ」
「また来ようね!」
らんさんと言うらしい、メンメンくんのお友達。
いや、パムパムさんや、ともすればコメコメさんのお友達も。
食べた人が、笑顔になる様な。
素敵なお店を知っているんだろうことが、よく分かった。
「コメコメは、ここをオススメするコメ!」
他の二人と打って変わって、いっぱいいっぱい悩んでいたコメコメさんは。
おむすびの専門店を案内してくれた。
「すっごいラインナップ!」
「鮭、たらこ、昆布にツナマヨ」
「唐揚げにネギトロ・・・・悩んじゃう!」
王道から変わり種まで。
様々な具材を取り揃えている。
メインとなるお米はもちろん。
おむすびに巻く海苔も、有明海産の品質の良いものを取り寄せているというこだわりっぷりだ。
どれを選んでも外れはなさそうだけど・・・・。
「でも、さすがにちょっとお腹いっぱいかも・・・・」
「こ、コメェッ!?」
「あと一口が限界かなぁ、ごめんねぇ・・・・」
ましろさんが残念そうにお腹をさすっていた。
「けっこう食べましたもんね、私はもう少し入りますから、頂きます。コメコメさん、オススメは?」
「コメ!鮭と、たらこと、ナポリタンコメ!」
私がまだいけるので、コメコメさんセレクションを頂くことになった。
鮭はグリルでふっくら焼かれて、噛むほどにうまみがあふれ出す。
たらこは辛いだけでなく出汁のうまみが効いていて、プチプチとした食感がたまらない。
「うわぁ、おいしそう!」
「食べてみます?」
「はい!」
隣でおいしそうにしてると、食欲って復活するよね。
というわけで、変わり種のナポリタンをましろさんに渡す。
ベーコンで巻かれたサフランライスの中には。
ケチャップで炒めたウィンナーとピーマン、玉ねぎが入っていた様だ。
ましろさんがもぐもぐするたび、しゃくしゃくとおいしそうな音が聞こえた。
「うん!すっごくおいしい!」
「コメー!よかったコメ!」
にっこり笑うましろさんに、コメコメさんは文字通り飛び上がって喜ぶのだった。
「今日は本当にありがとう、みんなのオススメ、全部おいしかったよ!」
一通り堪能した私達。
腹ごなしに歩きながら、ましろさんが改めて三人にお礼を述べる。
「どれも楽しんでもらえてよかったパム!」
「メン!」
「コメ!」
元々恩返しで始めたこともあってか。
私達のリアクションが、よほど嬉しかったらしい。
コメコメさん達は、飛び上がってハイタッチをしていた。
(それは、そうと・・・・)
――――そんな彼らを横目に。
いい加減無視できなくなった『それ』を視界に収める。
『ピピピー!』
――――なんか、いる。
オムライスやハンバーグ、サンドイッチなどのお料理に。
かわいらしい顔と羽が生えた、まさしく『妖精』とも言うべき存在。
実は行く先々で見かけていた。
始めは見間違いかなとも思ったんだけど・・・・。
(ここまでくると、見間違いではなさそうだ)
料理に舌鼓を打つ人々の周りで、ふよふよ飛び回るそれらからは、邪な気配は感じない。
『ピピ?ピー!』
目の前に飛んできたそれに指を向けると、『おっ、お前見えるんか?』とばかりに寄って来て。
指先でくるくる回って遊び始める。
んふふ、かわいい。
「そうだ!せっかくだから、お土産にぴったりなお店も教えてもらえるかな?こんなにおいしいものをわたし達だけって、なんだかもったいなくて」
「コメ!だったらあまねのとこコメ!」
「フルーツパーラーKASAIなら、おいしいお菓子があるパム!」
おっと、こうしている場合じゃねぇや。
ましろさんの意識が逸れているうちに、右耳に触れた。
◆ ◆ ◆
「――――ああ、しまった」
「ソラさん?」
「どうしたメン?」
ふと、声を上げたソラへ一同が振り返ると。
彼女は申し訳なさそうに右耳に触れて、
「すみませんましろさん、イヤーカフスを落としてしまったみたいです」
「ええっ!?」
申し訳なさそうに笑うソラの右耳。
確かについていたはずの、青い羽根のイヤーカフスが無くなっている。
「た、大変パム!探さないと!」
「大丈夫ですよ、多分さっきのおむすび屋さんの辺りにあるでしょうから・・・・ちょっと、探してきます」
慌てるパムパムへ、落ち着き払って笑いかけたソラは。
踵を返して。
「ましろさん達は先に、その『かさい』というお店に行っててください!」
「あ、ソラさん!」
止める間もなく、走り去ってしまったのであった。
「見つかるといいメンけど・・・・」
「コメ・・・・」
すっかり小さくなったソラの背中を、揃って不安げに見つめていると。
「――――あれっ?コメコメ?」
「コメ?」
「パムパムも」
「パム?」
「はにゃー!メンメンもいるーっ!」
「メン、この声は・・・・!」
親し気に、コメコメ達の名を呼ぶ声。
今度はそちらの方を振り向くと。
嬉しそうに駆け寄ってくる四人の少女が。
「ゆいー!」
「ここねー!」
「らんちゃーん!」
「みんな、久しぶりだな」
コメコメ、パムパム、メンメン。
それぞれもまた、嬉しそうに少女達に飛びついてハグを交わした。
「あの・・・・?」
「あ、ごめんなさい!コメコメ達の新しいお友達?」
「コメ!恩返しにおいしーなタウンを案内してたコメ!」
「恩返し?何かあったの?」
「パム、それが・・・・」
少女達はそれぞれ、『和美ゆい』『芙羽ここね』『華満らん』そして『菓彩あまね』といった。
ましろより一つ、あるいは二つ年上の彼女達は、コメコメ達の友達らしい。
「――――ありがとう、それから、ごめんなさい。せっかくの誕生日なのに、パムパム達の為に」
「いえ、そんな!誕生日だからこそ、いいことをしたかったので!」
事情を説明されたここねに頭を下げられて、あたふたするましろ。
「だからってなかなか出来るもんじゃないよ!マシマシにありがとー!」
「ああ、とても優しい子なんだな」
「え、へへ・・・・」
らんやあまねにも褒められて、照れくさそうにはにかんでしまった。
「それで、おいしーなタウンはどうだった?」
「はい!おいしくて、幸せな気持ちになれて、とっても素敵な町でした!」
ゆいの言葉にましろは笑顔で頷いて。
コメコメ達それぞれと目を合わせながら、感想を伝えると。
「今度はこっちの友達と来たいです!」
「うん!是非是非いらっしゃい!」
ゆいはましろの手を取って、心からの破顔を見せたのだった。
と、あまねが顔を引き締めて。
「それで、ソラさんだったか。彼女のイヤーカフスが無くなったという話だが・・・・」
「そうだった、一緒に探した方がいいかな?」
「でも、あまねのお店に行ってるよう言われたコメ」
ゆいを皮切りに、ここねやらんも心配そうに目尻を下げた。
その時だった。
どおん、と轟音。
同時に地面を揺れる。
「きゃああっ!!」
「はにゃーっ!?」
「な、何々!?」
思わず地面に座り込んだ一同が、辺りを見渡すと。
「ッあそこだ!!」
あまねが鋭く指さした先。
「――――ランボーグッ!!!」
ましろにとっては見慣れた怪物が、雄叫びを上げていたのだった。
――――時間を、少し遡ろう。
◆ ◆ ◆
――――せっかくのましろさんの誕生日。
本人も納得して整理券を譲ったとはいえ。
楽しみにしていたのを知っている身として、やっぱり諦めきれなくて。
ワンチャンあったりしないか、あるいは何か類似品が無いかと。
イヤーカフスをポケットに隠して、失くしたふりをして。
こっそりプリティホリックを訪れていた。
「ううん、やっぱりないか・・・・」
とはいえ、転売対策に整理券まで配る徹底ぶり。
それらしい商品は見当たらない。
やはり類似品を探すしかないようだと、コスメコーナーでネイルとにらめっこを始めていると。
「あの、お客様」
「ッ、はい?」
店員さんに話しかけられてしまった。
・・・・・悩みすぎて、ものすごい顔になっていたのだろうか。
「ちょっと、こちらへ来ていただけませんか?」
「分かりました・・・・?」
招かれたのでついていくと、バックヤードと売り場の境目の様な場所に連れていかれた。
な、なんなんだろうか・・・・何かしてしまったんだろうか・・・・。
「実は・・・・」
「ッそれって」
緊張しているところへ差し出されたのは。
今日の分は売り切れたはずの、限定品だった。
「先ほど、お客様側の事情による返品がございまして」
「そうなんですか?」
いや、でも何故これを・・・・。
首を傾げていると、店員さんが苦笑いしながら口を開いた。
「実は先ほど、お連れのお嬢さんが整理券をお譲りするところを見てしまいまして・・・・不躾ながら、今日がお誕生日であることも聞きました」
「あ・・・・」
「こちら、よろしければお客様にお売りしたく・・・・いかがでしょう?」
ね、願ってもいないことだけども・・・・!
「あ、ありがたいのですが、本当にいいのでしょうか?」
「はい!」
笑顔で頷いた店員さんは、私の手に限定品を握らせてくれる。
「人を思いやる素敵なお嬢さんの手にこそ、渡ってほしいのです」
『店長には、許可を得ています』とまで言われてしまっては。
受け取らないわけにはいかなかった。
「ッ、ありがとうございます・・・・!」
「いえいえ、お嬢さん、よろこんでくれるといいですね」
――――ただ、やっぱり本当はいけないことらしいので。
お会計はその場でこっそり行われた。
裏取引してる気分になったのは、内緒である。
そんなこんなで。
「ましろさん、喜んでくれるかな」
急いでましろさん達がいるはずの、『かさい』というフルーツパーラーを探そうとした。
その、後ろから。
「――――楽しそうね、ソラ」
――――後ろへ腕を振るうと同時に、飛びのいた。
そこにいたのは、予想通り。
「キルミラ・・・・!」
「ハァイ、久しぶり」
今、いっちばん会いたくないやつ・・・・!
「何の用だ!?」
「何って、貴女と私は敵同士よ?用事なんて一つだけでしょう?」
ニヤニヤ笑う指先に、アンダーグエナジーが宿った。
返品したのは、ここねちゃんのパパという裏話があったりなかったり。
娘がプリティホリックのファンなのでと買いに行ったら、別の日にあらかじめ購入していた妻とかぶってしまったそうな。