ヒーローガールは異物入り   作:数多 命

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偽物、高原で

「わあああ!」

「おいしそー!」

 

レジャーシートの上に並べられた、色とりどりのサンドイッチ達に歓声が上がる。

 

「生で食べられる野菜は切っておいたから、たくさん食べて頂戴ね」

「で、ここへ更に・・・・!」

 

うっきうきな面々を前に、ましろが得意げに取り出したのは。

ココットに入った、もったりしたもの。

 

「ディップソースだ!」

「お野菜につけて、食べてみて!カレーマヨと、たらこクリームチーズ、それからハーブヨーグルトだよ!」

「ヤバ!おしゃれで気分アガるね!」

 

ましろの手元を覗き込んだあげはが、嬉しそうに小躍りした。

 

「でっぷ、ソース?で採れたてを食べるとは・・・・なるほど、確かに特別だ」

「ええ、少し贅沢な気分になりますね」

 

ベリィベリーとソラも胸を躍らせて、興味津々にディップソースを眺める。

 

「ふふふ、それじゃあ、いただきましょうか」

「はい!」

 

ヨヨの号令で、それぞれが食事をとろうとした時だった。

 

「・・・・?」

 

みんなと同じく食べ始めようとしたツバサが、ある一点を見つめて動かなくなる。

 

「ツバサくん?」

 

気が付いたソラが声をかけてもなお見つめ続けた彼は、

やがてぽつりとつぶやいた。

 

「・・・・これから雨が降るかもしれません」

「え?」

「こんなに晴れてるのに・・・・?」

 

すでに食べ始めていたましろが、疑問の声を上げた時だった。

彼女の鼻先に、雨粒が当たる。

かと思うと、先ほどまで晴れていた空が、みるみる重く暗くなってきて。

さらにぽつぽつと雨粒を増やし始めた。

 

「ほんとだ!降って来た!」

「少年、当たったじゃん!」

「本降りになる前に、屋根のある所に行きましょうか」

 

幸い、すぐ近くに東屋がある。

弁当とレジャーシートを回収して、一同そこへ急いだ。

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

ツバサくんのお陰で、危うくお弁当諸共濡れネズミになるところを回避できた私達。

気を取り直して、改めてお昼を再開した。

 

「んん~!しゅっぱい!」

 

細かく切られたトマトを食べて、舌鼓を打つエルちゃんに癒されながら。

私もきゅうりをたらこのソースにつけてぱくり。

うーん!うまぁ!

 

「マーピン、じゃなくて、ピーマンもうまいな」

「本当だ、止まらなくなっちゃう」

 

ベリィベリーさんと一緒に、ピーマンとカレーマヨに夢中になりかけて。

はっと、我に返った。

いかんいかん、このままじゃ私達だけでピーマン食べつくしちゃう・・・・!

 

「あげはさんもどうですか?おいしいですよ」

「えっ!?」

 

ひとまず隣にいたあげはさんに、ピーマンとカレーマヨを差し出すと。

当の彼女は、ぎょっとした顔を見せた。

・・・・・よもや、あげはさん。

 

「あげはちゃん、ピーマン苦手?」

 

同じことを思ったのか、ましろさんが問いかけると。

途端にあげはさんは『いやいやいや!』と慌てて、

 

「そ、そんなわけないじゃん!私、大人なんですけど!?」

 

・・・・多分、ツバサくんやエルちゃんの手前。

あんまり好き嫌いは出来ないんだろうな・・・・。

『体壊すくらいなら無理に食べない方がいい』って、某お百姓な漫画家も言ってるからね。

無理しなくても・・・・。

と思っている目の前で、あげはさんはピーマンをカレーマヨにつけてぱくり。

すると、強張っていた顔があっという間に緩んで。

 

「あれっ、おいしい!カレーマヨのお陰で食べやすい!」

「それはピーマンが嫌いな人の感想だよー・・・・」

「ましろさん、シー!シーッ!」

 

なんてわちゃわちゃしている横で、ベリィベリーさんは曇天を見上げていて。

 

「それにしても、この雨はいつ止むのやら・・・・」

 

そんなことを、ぽつりと零していると。

 

「多分、すぐに止むと思いますよ」

「分かるのか?」

「さっきも天気を当ててたけど、どうして?」

 

ましろさんの言う通り、こんなにピタピタ当てられるのは不思議だ。

ベリィベリーさんと一緒になって頷いていると、ツバサくんが説明してくれた。

 

「雲を見たんです。朝は小さかった雲が、雨を降らせる大きい雲に成長していたんです」

 

へぇー!

雲で天気を当てるっていうのは、ぶっちゃけ聞いた事があったけど。

雲の変化までは気にしてなかったなぁ。

目からうろこだ。

 

「あれは短い時間雨を降らせるので」

「すごいです、ツバサくん」

「おばあちゃんみたいに物知りだよ!」

「ああ、その年でここまでピタピタ当てられるとは・・・・」

 

三人で褒めちぎると、ツバサくんは照れくさそうにしてから。

 

「空を飛ぶためには天気も大事なので、それで勉強してて・・・・ぁ」

 

・・・・話の途中で、何かに気付いたツバサくんは。

言葉を止めてしまった。

そういえばこの頃何かに悩んでいる様に見えたな。

それか?

 

「知りたいと思う気持ちは、繋がって広がっていくものだと、私は思うわ。空を飛ぶために勉強していたことが、みんなを雨から守ってくれたわね」

 

首を傾げている目の前で、ツバサくんは隣のヨヨさんに視線を送る。

 

「・・・・私ね、何かを学ぶことと畑は、似ているとお思うの」

 

すると、何かしらの話を聞いていたのか、ヨヨさんは穏やかに語り始めた。

 

「学んだことは肥料になって、あなた達の夢をそだててくれる。けれど、その種がいつ芽吹くか分からないから、学んだことは無駄だったんじゃないかって、不安になるのよね」

 

・・・・ちょっと、分かるかも。

私はヒーローになるために、剣をひたすら鍛えて来た。

今は、頑張った分だけの力を得られていると思っているけど、だからって頂上に立てたとは思えない。

だって、あまりにも出来ないことが多すぎる。

 

(似たような不安を、ツバサくんも抱えていたのかも)

「でも、大丈夫」

 

自分なりに納得している目の前で、ヨヨさんはツバサくんに語り掛ける。

 

「それは明日かも、ずっと先の未来かもしれないけれど、必ず花開く時が来るわ。しかも、思いもよらない花が咲くこともあるのよ」

 

雨音をBGMに、ヨヨさんの話に耳を傾けて。

 

「勉強の為に作った鳥の模型が、畑を守ったりするみたいにね」

 

ツバサくんの悩みは、光明を見ることが出来たらしい。

みんなと一緒に、穏やかに笑う彼を見て。

こっそり安堵した私なのであった。

 

「思いもよらない花が咲く、か」

「私達の武術にも、通ずるところがあるかもしれませんね」

「ああ」

 

自分の手のひらを見つめるベリィベリーさんに笑いかけながら、私も片手を握りしめた。

そんな時だった。

 

「――――君達を倒す作戦を考えるために、こんな山奥に来たというのに」

 

無粋な声に、神経を尖らせる。

 

「まさか、ここで会うことになるとはね。プリキュア」

「バッタモンダー!」

「貴様、性懲りもなく・・・・!」

 

揃って剣呑な目を向けた先には、予想通りのバッタモンダーがいた。

 

「これが、僕の宿命か・・・・!」

 

顔に手を当てて、いつも通りの気障ったらしいポーズを取った彼は。

かっこつけの笑みを浮かべた。

 

「カモン!アンダーグエナジー!」

 

そのままいつも通りにアンダーグエナジーを呼び出した奴は、鳥の模型を素体にしたランボーグを生み出す。

私達も、放っておくわけにはいかない。

同じくいつも通りに、変身アイテムを掲げた。

 

――――ひろがるチェンジ!!

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

「ランボー!グゥッ!!」

 

ランボーグは早速羽を飛ばして攻撃してきた。

 

「えいっ!」

「はあっ!」

「天魔・飛翔閃ッ!!」

 

バタフライが障壁で防いだ後ろから。

プリズムが光弾を、エクリプスが雷を。

そしてスカイが斬撃を飛ばすが。

ランボーグはひらひらと交わしてしまった。

 

「なんて素早い動き・・・・!」

「さすがウィングの作った模型だな」

「あ、いやぁ、えへへ・・・・」

「照れてる場合じゃないよぉ!」

 

エクリプスに褒められてしまい、思わず頬を染めるウィングに。

プリズムがツッコミを入れたことで、気持ちを切り替えた。

 

「ここは私に任せて!」

 

状況を打開すべく、バタフライがミックスパレットを起動させる。

 

「ブルー!ホワイト!温度の力、サゲてこ!」

 

青と白を組み合わせて、発生させた冷気をランボーグに当てれば。

相手が凍り付いて、動きが止まった。

 

「ミックスパレットには、そんな力もあるんですか!?」

「えへへ、まだまだあるよ!」

 

ウィングが感嘆の声を上げている横で、プリズムが光弾を飛ばせば。

避けられないランボーグは、必然直撃を喰らった。

 

「畳みかけますよ!エクリプス!」

「ああっ!!」

 

上空でふらつくランボーグへ、スカイとエクリプスが飛び出して。

攻撃を叩き込もうとするが。

刹那、強風にあおられて、ランボーグが上昇してしまった。

 

「動けないはずなのに、どうして飛べるの!?」

「・・・・上昇気流だ」

 

思ってもみなかった事態に一同が困惑する中、ウィングだけが事を把握する。

 

「今ランボーグは、上空に向かう空気の流れに乗っているんです!」

(なるほど、それでか!)

 

ウィングの解説を受けて、情報を共有したプリキュア達。

すると、バタフライがウィングに振り向いて。

 

「それなら、ウィングも同じこと出来るんじゃない?」

「やってみます!」

 

力強く頷いたウィングは、上空へ飛び立った。

もちろん、黙って思惑通りになるランボーグではない。

有利な状況を保守するために、ウィングへ羽の猛攻をしかけた。

障壁や迎撃で、味方が対応する中着地したウィングは。

再び冷静に周囲を見渡して。

 

「バタフライ!あの雲に向かって、下げる力を!」

「ランボーグじゃなくて、雲に?」

 

疑問に思いながらも、指示通りにバタフライがミックスパレットを駆使すると。

ランボーグの上空で、みるみる氷のつぶてが出来て。

容赦なくぶつかって来た。

 

「氷!?」

「どういうことですか!?」

 

驚きの声を上げる仲間達へ、ウィングは微笑んで。

 

「雲は元々、小さな水や氷の粒が集まって出来ています。下げる力で空気を冷やして、粒を大きくしたんですよ」

「なるほどー!」

「ミックスパレットって、そんなことも出来るの!?」

「まだまだありそうですね!」

 

いや、確かにミックスパレットの力もさることながらだが。

それを活かすウィングの知恵も侮れない。

舌を巻く面々の前で、ウィングはにっこり笑っていた。

 

「小賢しい真似を!そんな作戦、力でねじ伏せてやる!ランボーグ!」

「ランボォーグッ!!」

 

当然、やられてばかりのランボーグではない。

バッタモンダーの号令を受け、羽の攻撃に加えて暴風も放ってきた。

バタフライが咄嗟に障壁を張るが、勢いが強い。

 

「これ、やばすぎ・・・・!」

 

じりじり押される彼女を前に、ウィングは素早く打開策を思考する。

――――先ほどランボーグが飛べたのは、上昇気流によるものだ。

 

「・・・・あ!」

 

何かを思いついたウィングは、障壁の後ろから飛び出した。

 

「逃がすな!ランボーグ!」

 

攻撃目標が、ウィングに変わる。

凄まじい暴風が、彼の後ろを追いかけるが。

 

「――――かかったな!」

 

対するウィングは、得意げに笑っていた。

 

「強い風が山に当たると、すごい上昇気流を生み出すんだぁっ!!!」

 

目論見通りに生まれた風に乗り、一気に飛び上がるウィング。

一度は苦い顔をしたバッタモンダーだったが、相手が上空に孤立したと考えてにやけ顔。

 

「追え、ランボーグ!!」

 

ランボーグが、ウィングの後を追う。

――――厚い雲を抜け、視界が開けた。

どこまでもどこまでも、突き抜けるような蒼穹と。

広く広く敷かれた、純白の雲海。

 

「・・・・プリキュアの力だけじゃ、たどり着けなかった」

 

目の前の光景に、ウィングは戦闘中であることを忘れて息を呑む。

――――プリキュアになって、長年の悲願が達成出来て。

自分の胸に、ぽっかり穴が開いた感覚を覚えた。

仲間達はそれぞれやりたいことに向けて邁進しているのに、自分だけが明確なビジョンを持てていないことに気が付いて。

将来を案じた。

だけど・・・・!

 

「・・・・無駄じゃなかったんだ!」

 

涙が出そうなくらいの絶景に、ため息をついていると。

 

「ランボーグ!!」

「うわぁっ!!」

 

その隙を突かれて、攻撃を喰らってしまった。

 

「ッ、はああああああ!!」

 

痛みで状況を思い出したウィングは、お返しとばかりにランボーグへ反撃。

文字通り、雲の下まで叩き落とす。

 

「ヒィーロォーガーァールゥーッ・・・・!!」

 

墜落した先には、すでに必殺技の構えを取ったエクリプスが待ち構えていて。

 

「エクリプスッ!!ジャッジメントオオオオオオオオッ!!」

 

哀れ、避けられなかったランボーグは。

直撃を受けてしまった。

 

「スミキッター・・・・!」

 

元の模型に戻っていくランボーグ。

 

「んだよ!調子に乗ってられるのも今のうちだからな!!」

 

キラキラエナジーも無事に回収し終えたプリキュア達を見て。

バッタモンダーは心底悔しそうに歯を向いた後、不敵な笑みを浮かべた。

 

「どうやら、あれを使う時が来たようだな・・・・」

「『あれ』・・・・?」

 

怪訝に首を傾げたスカイをあざ笑う様に、バッタモンダーはそれ以上何も言わずに撤退していった。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

――――プリキュアになって、長年の夢であった『空を飛ぶ』が叶ったツバサくんは。

将来に不安を感じていたらしい。

けれど今回の経験を経て、もっと自分の世界を広げようと考えたみたいだった。

・・・・この頃悩んでたのは分かってたけど、上手く聞き出せなくてもどかしかったんだよね。

なんとか結論を出せたみたいで、よかった。

『知りたいという気持ちを、繋げて広げるお手伝いをしてくれるから』と、ミラーパッドももらっていて。

俄然やる気が出た様だった。

それにしても、さすがヨヨさんだなぁ・・・・。

悩んでいるツバサくんを、しっかり導いていた。

私もああいう大人になりたいもんだよ。

そう考えていると、自室のドアがノックされた。

 

「はい?」

「――――ましろです、入っていいですか?」

「ましろさん?どうぞ」

 

何の用だろうか?

特に断る理由もないので、部屋に招き入れる。

すっかり寝る準備を整えたましろさんは、おずおずと私を見上げてくる。

その顔は、明らかに緊張していた。

な、なんだ。

どうしたんだ、ましろさん・・・・!?

 

「・・・・ぁ、の」

 

固唾を呑んで見守っていると、意を決して口が開かれた。

一度開いた後で、生唾を呑み込んだましろさんは。

唇を震えさせながらこちらを見上げて、

 

「・・・・おやすみ、の、キスが、ほしい、です」

 

一語一語、区切りながら。

耳まで真っ赤になって、そんなことを言ってきたのだった。

だ、誰の入れ知恵だ?

あげはさんか?あげはさんなのか!?

 

「・・・・やっぱり、ダメですか?」

「ああ、いえ。ダメじゃないです」

 

動揺していると、ましろさんがしゅんとしてしまったので。

慌ててフォローする。

 

「むしろ、いいんですか?」

「はい・・・・その・・・・やってみたかったので」

 

頷きつつ俯いてしまったましろさん。

その顔は、いよいよ以て蒸気が噴き出しそうなほど真っ赤になっている。

・・・・こんなになってまで、勇気を出しているんだ。

これは、答えなければ。

 

「では、失礼します」

「・・・・は、ぃ」

 

そっと、頬に手を添える。

髪を耳にかけてやっていると、ふと。

ましろさんの顔がよく見えた。

必死に目をつぶって、私からのキスを待っているましろさん。

何だか可愛く思えて、しばらく観察していると。

目が開いて。

 

「・・・・ソラさん」

「ぁ、はは・・・・すみません」

 

ぷく、と頬が膨らんで抗議されてしまったので、素直に謝る。

 

「もう・・・・!」

「ふふ、すみませんでした」

 

恨めし気な顔に、唇を重ねる。

 

「――――ッ」

「これで、許してください」

 

ぼ、とますます赤くなったましろさんは。

口をぱくぱくさせながら、私の胸に埋まったのだった。




次回、ついにあの話です。
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