「ましろさん!!!ましろさん!!!ましろさん!!!」
ずっと見ていた者、慟哭に気付いた者。
視界に映るのは同じ場面。
剣を取り落としながら、ぐったりしたプリズムを抱えるスカイの姿。
「なんで!!どうして!!起きて!!ねえ!!起きてよぉ!!!」
「ッミックスパレット!!」
完全に取り乱しているスカイの横で、駆けつけたバタフライがミックスパレットを行使。
「イエロー!!ブルーッ!!癒しの力、アゲてこ!!」
袈裟切りにされたプリズムの傷をいやして、跡形もなく消す。
だが、つい先ほどまでどくどくと出血していた影響か。
目蓋は降りたままだった。
「ま、しろさん、どうして・・・・!」
――――ランボーグはまだ健在。
プリズム一人にかまけている場合ではない。
だが、スカイはもう戦える状態ではなかった。
病床に伏せる親を、不安げに見る幼子のような顔で。
プリズムから手を放さなかった。
「もういいかぁい?僕もランボーグも、待てそうにないんだけどぉー!?」
当然、バッタモンダーが悠長に待ってくれるわけがない。
シャララボーグも、もう待てないとばかりに剣を振り上げている。
「ッスカイはそのままプリズムをお願いね!エクリプス!一人でしんどいかもだけど・・・・!」
「ああ、任せろ!!」
仕切り直しに改めて指示を出したバタフライが、再びミックスパレットを構えた時だった。
「――――若造にしては、いい味付けにしたじゃない」
――――悪いことは、連鎖するものである。
◆ ◆ ◆
べろり、と。
頬を舐められた感覚で、一気に覚醒した。
「――――ッ!!」
「アハハハッ!!」
プリズムの血で赤くなったままの剣を振るえば、キルミラが嗤いながら飛びのく。
「次から次へと・・・・!」
バタフライと、避難誘導を終えたウィングが。
プリズムの傍についてくれるのを感じながら、何とか剣を握る。
「オイ!横入りかよ、ババア!」
「それはそちらでしょう、坊や?」
・・・・手が震える。
戦わなきゃいけないのに、体がうまく動かない・・・・!
「先に目を付けたのは、私よ」
「~~~~ッ!」
「ハア・・・・さ、待たせたわね!」
バッタモンダーを威圧したキルミラは、人を殺しかねない顔を嘘の様に消すと。
こちらに向けてにっこり笑いかけて来た。
「迎えに来たわよ、ソラ」
「ッお前の相手をしてる暇はない!」
差し出してくる手へ、切っ先を向けて拒否。
いや、当たり前だろ。
今こっちはそれどころじゃないのに!!
「つれないわねぇ、私はただ――――」
対するキルミラは、にやりと笑うと。
顔を、変えて。
「――――『この人』について聞きたいだけよ?」
「――――ッ!!」
――――動けたのは、ほぼほぼ意地だった。
空ぶった斬撃が、大気を切り裂く音をBGMに。
キルミラは笑みを崩さないまま、顔を戻してひらりと舞う。
「うふふふふっ!そんなに触れられたくないの?」
『かぁーわいい』だなんて宣いながら、バッタモンダーよりも高い位置を陣取って。
優雅に足を組んだ。
「――――最初に見た時から、ずっと決めていたのよ」
くすくすと、可憐に嗤いながら。
爛々とした目に、見降ろされる。
「大衆的な正義か、道徳的な正解かで悩む顔。自分の心を殺しつくして、剣を振ると決めた顔」
逆光の中で光る瞳が、私の心臓をわしづかみにしてくる。
「ええ、そうね。この気持ちを言うのなら『一目惚れ』なのでしょう」
両手で自分の頬を包み込む。
恍惚とした笑みは、獲物を見つけた捕食者の様だった。
「貴女が欲しい、その血を、魂を、心を、最後の一滴まで絞りつくして、味わいたい・・・・!!」
対する私は、動けないままだった。
ただただ捕食される恐怖に慄いて、棒立ちになって。
出来ることと言えば、キルミラから視線を外さないことだけ。
ただ、それだけ。
「~~~~ッ!ご高説はもういいよなぁ!?ランボーグ、いや、シャララボーグ!!」
「ランボーグッ!!」
そうこうしている間に、しびれを切らしたバッタモンダーが声を上げて。
ランボーグが攻撃してきた。
「がああっ!!」
「スカイ!!」
私は反応が遅れて、もろに吹っ飛ばされる。
その隙をついて、キルミラが動いたのが見えた。
攻撃が、向く先は。
「ッましろさん!!」
恐怖で軋む体を、無理やり動かして。
我武者羅に割り込んで。
なんとか、剣を振るえば。
「――――やっぱり、この顔は攻撃出来ませんよね?」
ましろさんの、顔と声が。
そっか、私の顔。
返り血。
「ソ♡ラ♡さぁん♡」
嗚呼、もう。
ダメだ。
◆ ◆ ◆
キルミラの両腕が、スカイを捕らえた。
「――――やっと」
その姿は、愛する人に抱き着いている様にも見えて。
「手に入れたぁ♡」
うっとり囁くキルミラは、口を開けて。
噛み付く音が、やけにはっきり聞こえた。
彼女の牙が、スカイの首筋を喰らっている。
口元で、魔力が迸って。
注ぎ込まれる。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッ!!!?!!!?」
スカイの悲鳴が、そこら中に響き渡る。
「スカイ!!」
「スカイ!!っち!!邪魔するな!!」
仲間達が駆けつけようとするが、シャララボーグに邪魔されて叶わない。
そうやって手間取っている内に、スカイの目から光が消えて。
がっくりと、意識を失う。
「あははっ!!やったやった!!これでずっと一緒よ!!私のお人形!!」
一方のキルミラは、まるでクリスマスプレゼントをもらった少女の様にはしゃいでいる。
「させない!」
「邪魔」
「ッバタフライ!!」
バタフライが飛び掛かろうとするが、向けられた手のひらが衝撃波を放って。
ボールよろしく吹き飛ばされてしまう。
ウィングがフォローに回ろうとするが、伸ばした手と一緒に見送ることしか出来なかった。
「クソ、せっかくいいところだったのに」
「まだ何かあるの?」
「ひぇ、な、なんでもいいだろ!?」
面白くないのは、横入りされたバッタモンダーだ。
顔の通り、実に詰まらなさそうにぶすくれたが。
キルミラに一睨みされて、慌てて取り繕う。
「ふん、まあいいわ・・・・他はいらないから、好きにしていいわよ。私はこれから忙しくなるから♪」
「ッ待て!!」
エクリプスがせめて一撃、と飛び掛かるが。
「待たない、キルミラミラ」
スカイ諸共に撤退したことで、攻撃は空振りに終わった。
「~~~~ックソ!!」
着地点で、先ほどまでキルミラがいた場所を睨みつけて。
エクリプスは手近な柱を叩く。
正直悔しい。
シャララに続き、スカイ…ソラまでも敵に奪われたのだ。
悔しさのあまり、体が爆発してしまいそうだった。
だが、今はそれどころではない。
「・・・・ッ!」
拳を握り、シャララボーグと向き合おうとしたが。
「あーあ、俺も萎えたわ」
バッタモンダーは、心底詰まらなさそうに吐き捨てて。
「バッタモンモン」
シャララボーグ共々、撤退していってしまったのだった。
「そんな、ソラさん・・・・!」
後に残されたのは、大敗を喫したヒーロー達。
「・・・・・ぁ、れ、わたし・・・・?」
誰もかれもが呆然とする中、ゆっくり目を開けるプリズムを見下ろして。
バタフライは唇を噛み締めた。
◆ ◆ ◆
「そぉーっれ!!!!」
――――テンションぶちあがったキルミラが。
つい先日まで自分が浸かっていた『池』に、何かを放り込んでいた。
「・・・・今何を入れた?」
「なんでもいいでしょ!あ、触ったら殺すから、よろしく!!」
思わず問いかけると、まともな回答もないままに走り去ってしまう。
「まったく、一体何を・・・・?」
『見るな』とは言われていないので、覗き込んでみると。
ちょうど一人の若い女性が浮かび上がってくるところで。
「こやつ・・・・!?」
自分も知らない女だ。
だが、あのテンションの上がりようからして、毎日の様に語っていたプリキュアの一人であろうことは容易に想像出来た。
「ううむ・・・・」
水面に漂う体つきから、長い年月をかけて鍛え上げて来たことが分かる。
話の通り、相当武術に長けているのだろう。
「――――哀れなものよな」
だからこそ。
他者に人形扱いされることが、とても惜しまれた。
影薄くなってごめんな、紋田・・・・。