仲間達、立つ
「そんな、ソラさん・・・・!」
その日の夜、虹ヶ丘家。
気絶している間の顛末を聞いたましろは、愕然としていた。
「ごめん、私達じゃどうしようもなかった・・・・!」
「・・・・ううん、あげはちゃん達は悪くないよ」
頭を下げるあげはへ、フォローを入れるものの。
ましろの顔は暗く沈んだままだ。
「・・・・キルミラが変身した、あの顔。誰なんだろうね」
次に話題になるのは、必然とキルミラの話になる。
『この人について聞きたい』。
そう言われた途端に、ソラの様子はますますおかしくなった。
「昔何かあったのかな?」
「でも、ソラさんは記憶喪失だって言ってませんでしたか?」
「ああ、8歳以前のことを何も覚えていないと言っている」
この面々には周知の事実となっている、ソラの記憶喪失。
手掛かりがあるとしたらそこだろうが、誰もかれもが心当たりがない。
何よりも、ソラの動揺ぶりは引っかかるところがある。
「昔助けられなかった人・・・・とか」
「それなら、ソラちゃんむしろ怒りそうだけど・・・・バカにするなーって」
他にも色々考え込んでみたが、明確な答えが出てきそうにない。
仲間達は、難しい顔をして頭を抱えることしか出来なかった。
「・・・・これから、どうしたら」
ランボーグにされてしまったシャララに、キルミラに連れ去られたソラ。
「――――まずは」
立ちはだかる大きな壁に、誰もが慄いていると。
ベリィベリーが重い口を開いた。
「まずは、隊長を取り戻そう」
上げた眼差しは、強い光を宿している。
「伝承の通りなら、キルミラはソラを手駒として放ってくるはず・・・・実に悔しいが、私達では対抗できない」
「手駒って・・・・キルミラって、そんなにヤバいヤツなの?」
あげはの質問に、ベリィベリーは一度ツバサと目を合わせてから。
こっくり頷き合った。
「キルミラが暴れ回っていた五百年前、倒そうとしたヒーローが居なかったわけじゃないんです」
「だが、立ち向かったすべてが返り討ちにされた」
そこまではあげはもましろも把握しているので、頷く。
「・・・・それだけにとどまらず、気に入った者は洗脳し、自分の操り人形として手元に置いたんだ」
「言い伝えでは、操ったヒーローで、彼らが守りたかったものを破壊しつくしたそうです。その後わざと洗脳を解いて、絶望する様を見て杯を煽ったことも有るとか」
「いや、極悪すぎ!!」
『っていうか』と、あげはは立ち上がって。
「今度はソラちゃんが、そんな目に合うってこと!?」
「・・・・ッ!」
ましろも顔をこわばらせて、身を乗り出す。
そんな彼女達を、痛まし気に見つめて。
ベリィベリーは目を伏せる。
「・・・・あのお熱具合だ、十分にあり得る」
「そんな・・・・!」
力なく椅子に戻ったましろの肩を、あげはが優しく抱きしめた。
「・・・・昔の人も頑張っていたんだろうけどさ、そもそもそんな奴をどうして倒せなかったの?」
「簡単です、キルミラは死なないんですよ」
ましろの背中をさすり続けながら、あげはが問いかけると。
ツバサが困った顔で答える。
「それ、不死身ってこと!?」
「そう言っても過言ではないでしょう・・・・
「何の対策も無しに日の光の下に出てしまえば、たちまち全身が焼けて死んでしまう。これは、現在の吸血人達にも共通するな」
「そこはこっちのおとぎ話と一緒なんだね」
あげはが理解出来たのを確認して、ベリィベリーとツバサは説明を続ける。
「だが、キルミラは『
「それに加えて、膨大な魔力を宿しています。人間では致命傷になってしまう傷でも、簡単に再生してしまうんです」
「なるほど、倒そうにも倒せないってわけか・・・・」
眠っていると言えど、エルもいるため。
ややマイルドな表現を用いて、改めてキルミラの脅威を再確認したのだった。
しばらく、沈黙が場を支配したが。
やがて、ましろがゆるゆる顔を上げる。
「・・・・シャララ隊長を取り戻せれば、ソラさんは止められるんだよね」
「・・・・確実ではない、だが、最悪の結果は免れるはずだ」
ソラにとっても、自分達にとっても。
「・・・・そっか」
再び顔を俯かせてしまい、ましろの表情が伺えなくなった。
しかし、握られた手元が。
彼女の再起を如実に語っている。
「・・・・出来そうか?」
ベリィベリーが問いかけると、もう一度顔が上がって。
「・・・・頑張る」
ましろは静かに、答えたのだった。
◆ ◆ ◆
「かえして」
「ねえ、かえして」
「わたしのからだをかえして」
「わたしのかぞくをかえして」
「わたしのゆめをかえして」
「わたしのみらいをかえして」
「かえして」
「かえして」
「かえせ」
◆ ◆ ◆
「――――みんな!」
翌日。
珍しく切羽詰まった様子のヨヨが、ミラーパッドを見せてくる。
そこには、街中でシャララボーグを暴れさせているバッタモンダーが映し出されていた。
「昨日の今日で現れたな・・・・!」
「まずはこっち、行くよ!」
「うん!!」
「はい!!」
力強く頷き合って、飛び出していく。
「――――バッタモンダー!!」
「ああ、来たんだ?」
ベリィベリーが怒鳴ると、ビルの上のバッタモンダーは気だるげに振り向いた。
「何の用かなーあぁ!?こっちはオバハンに邪魔されてむしゃくしゃしてるんだ、怪我したくなきゃとっととすっこめ!!!」
「そんな理由で街を破壊しているのか!?」
「うるせー!何をやろうが俺の勝手だろうが!!」
バッタモンダーの合図を受けて、シャララボーグが目の前に飛び込んで来る。
剣を振り上げる巨体を前に、一同は果敢にミラージュペンを構えた。
――――ひろがるチェンジ!!
――――レディ、ゴー!!
――――ひろがるスカイ!プリキュア!!
変身を終えて、戦闘体勢に入るプリキュア達。
バッタモンダーは、ますます面白くなさそうに顔を歪めて。
シャララボーグをけしかけた。
「ランボーグ!!」
叩きつけられる剣を、散開して回避。
エクリプスが接近戦、プリズムは遠距離攻撃を務め。
ウィングが眼前を飛び回って攪乱し、バタフライが攻撃を防御する。
そうやって役割分担して、連携を極めていても。
シャララボーグは、容易く凌駕してきた。
「ランボー!!グッ!!」
「うわぁっ!?」
強風を伴った、鋭い突き。
煽られたウィングが、大きく吹き飛ばされる。
「負けてたまるか!!」
怯まず、エクリプスが雷撃を放つが。
一太刀で切り捨てられてしまった。
剣圧で同じく吹き飛ばされたところへ、縦一閃。
「させない!!」
「エクリプス!!」
危うく真っ二つになる前に、プリズムショットとバタフライの障壁で上手くいなした。
「ッ分かっていたとはいえ、やっぱりつよ・・・・!」
苦い顔をするバタフライに、静かに同意しながら。
体勢を立て直し、並んでシャララボーグを見上げる。
「っははははははは!どうしたんだい?随分苦戦しているじゃないか!!」
勝ち誇って笑い声を上げるバッタモンダーに苛立ちながらも、冷静に思考を巡らせる。
「ちょっとズルいけど、あの剣をどうにかしないと始まらないね」
「ズルいものか、剣に関しては私も同意だ」
バッタモンダーに聞こえないように、それでいて仲間達には聞こえる様に。
抑え気味の声で、会話する。
「破壊してしまっても、いいんでしょうか?」
「・・・・おそらく、キラキラエナジーで直ってくれるだろうとは思う」
「じゃあ、僕が何とかやってみます。バタフライ、速さのパワーアップをお願いします」
「オッケイ、アゲアゲでぎゃふんと言わせてやろう!」
「プリズム、浄化は私達でやろう」
不敵な笑みのバタフライが、ミックスパレットを構える横。
エクリプスはプリズムに目を合わせる。
「アップドラフト・シャイニングや、タイタニック・レインボーに及ばないだろうが・・・・タイミングを合わせれば、きっと」
「・・・・うん!」
作戦は、決まった。
精悍な顔つきで前を見たプリキュア達を目の当たりにして、バッタモンダーは苛立ちを隠そうとせずに口元をぎりりと噛み締めた。
「ッハ!何をやろうが、俺のランボーグが強いことに変わりはない!お前らのやる事なす事、全部無駄なんだよ!!」
話しているうちに、高揚してきたバッタモンダー。
「そうさ!オバハンに、キュアスカイをまんまと連れ去られたみたいにナァッ!!」
「・・・・ッ」
相手の言葉に反応したのは、プリズムだった。
・・・・自分が余計なことをしたばっかりに、スカイが動揺して、普段通りのパフォーマンスを発揮できなくて。
そして、自分に化けたキルミラに、まんまとしてやられて。
普段通りのスカイなら、どうにか出来たはずなのだ。
普段通りのスカイなら、きっとシャララだって救い出せたはずなのだ。
(そうだ・・・・わたしの所為で、ソラさんは・・・・!)
「――――あんたに、この世界の言葉を一つ教えてあげる!」
俯きかけた、そのタイミングで。
バタフライが声を張り上げた。
「『弱い犬ほど、よく吠える』!!」
「あ"あ"?」
視線だけで殺せてしまいそうな、激しい表情を向けるバッタモンダーへ。
果敢に啖呵を切ってみせる。
「調子にのんな!バーカ!!」
「ッシャララボーグ!!!」
もはや怒号のような号令。
シャララボーグが、猛然と突撃してくる。
その豪速を前に、プリキュア達は努めて冷静に跳躍。
さらにバタフライとプリズムが蹴り合うことで、方向転換と散開を行った。
「ミックスパレット!」
降ろしてもらったバタフライは、回避した先でミックスパレットを発動。
隣のウィングに、速さのパワーアップを与える。
「速くなったところでどーなるってんだよ!!!」
己の優位を信じて疑わないバッタモンダーが喚き散らした、その時。
バタフライはにやりと笑って。
「――――こうなるっての!!」
刹那、ウィングが弾丸の様に飛び出した。
ジェットエンジンのような音を立てて空を駆けまわり、シャララボーグを翻弄する。
「ゥゥウウランボーグ!!」
「くっ・・・・!」
しかし、相手もシャララを素体にしているだけあってすぐに順応していく。
斬撃がウィングのすれすれを捕らえ始めて、追い込まれそうになったところで。
「――――レッド!ホワイト!」
再び行使される、ミックスパレット。
「元気の力、アゲてこ!!」
ウィングが、レモン色に加えて、薄ピンク色のオーラも纏って。
「――――ひろがるッ!!」
一閃を紙一重でかわして、頭上を取ったウィングは。
一息で最高速度まで加速。
シャララボーグの剣に狙いを定めて。
「ウィングアターックッ!!!」
最速で最短で、真っすぐに。
隕石の様に降り落ちた。
「なあっ!?」
真っ二つにされてしまったシャララボーグの剣が、がらぁんと音を立てて地面に落ちる。
バッタモンダーがあんぐり口を開けている間に、プリズムとエクリプスが動いた。
得物を失い、狼狽えるシャララボーグの懐に潜り込んで。
「「ヒィーロォーガーァールゥーッ!!」」
それぞれ、技を構える。
「プリズムショット!!」
「エクリプスジャッジメント!!」
迸る、浄化の光。
ランボーグのガワが引きはがされて、シャララが放り出される。
あわや地面に激突するところを、エクリプスがうまく受け止めた。
「ミックスパレット!」
ヨヨがキラキラエナジーをしっかり回収する横で、何度目か分からないミックスパレットの発動。
癒しの力が、シャララを包み込む。
プリズムとウィングがバッタモンダーを警戒。
バタフライとエクリプスは、目を閉じたシャララを見守る。
固唾を呑んで、祈る様な気持ちで待つこと、しばし。
「――――ん」
シャララの目蓋が、静かに開いた。
「ッシャララ隊長!」
「大丈夫ですか?自分の名前を言えますか?」
ぼんやりとした眼差しに見つめられながら、エクリプスとバタフライがそれぞれ声をかけると。
「・・・・その気配」
シャララは、ふわりと笑みを浮かべて。
「そうか、ジークの月十字・・・・・お前が受け取っていたんだな、ベリィベリー」
「隊長ッ・・・・!」
弱弱しくも、しっかりと反応をしてみてくれるシャララに。
エクリプスは、喜びに涙を滲ませた。
「――――ッハン!!」
一同がほっとする中、バッタモンダーはわざとらしく声を上げる。
「お前らどうせ、オバハンになんもかんもめちゃくちゃにされるんだ!!精々豆粒にもならねぇ喜びを噛み締めな!!」
心底不愉快だとばかりに吐き捨てるだけ吐き捨てると。
お決まりの『バッタモンモン!』を言い残して撤退していくのだった。
「・・・・ベリィベリー、あれからどれほど経った?」
「ああ、ダメですよ。まずは休まないと」
「・・・・ソラの姿も見えないが」
バッタモンダーの様子から、まだ油断出来ないと判断したのだろう。
無理に起き上がろうとするシャララを制するバタフライだったが。
ソラについて聞かれて、思わず言葉を詰まらせた。
「・・・・何かあったんだな」
さすがはスカイランド最強のヒーローと言うべきか。
プリキュア達の細かな仕草と表情で、大体を把握したらしい。
「――――どちらにせよ、一度体を休めるべきです」
「ヨヨ殿」
険しい顔をするシャララへ、エルを抱えたヨヨが進言した。
「我が家へお越しください。そこで、今何が起こっているのか、きちんとお話しますわ」
「・・・・そう、ですね。お言葉に甘えさせてもらいます」
自身の状態を、よく理解していたのだろう。
ヨヨの提案を、シャララは頷いて受け入れたのだった。
この先辛い展開もあるので、耐えられないときは『例のチピチピチャパチャパ♪なリズムで揺れるエルちゃん』を想像してます。
『その後ろでバックダンサーやる年長ズ』と、『ペンライトを振ってコーレスするベリィベリー、ましろん、ツバサくん』も合わせてイメージするとなお良し。
可愛い光景が脳内にひろがりますよ・・・・。