ヒーローガールは異物入り   作:数多 命

70 / 172
偽物、砕けた夢

「――――がはっ」

 

覚えている。

 

「げぇ、ほ・・・・ぅえ・・・・!」

 

老人の断末魔を。

子どもの悲鳴を。

 

「ぅえええ・・・・!!」

 

男の慟哭を。

女の絶叫を。

 

「ごほっ・・・・ひゅっ、ひゅっ、ひゅっ・・・・!」

 

肉を切り裂く感覚を。

骨を断ち切る感覚を。

 

「ぉ、げええっ・・・・!!」

 

ましろさんを、貫いたことも。

 

「・・・・ぃね」

 

全部、全部、全部。

 

「しね・・・・!!」

 

覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

――――大敗。

それしか言えない結果だった。

ランボーグは浄化出来て、ソラも取り戻せはした。

しかし、スカイランド、クシザス。

双方の公にも民にも、多大な犠牲が出てしまった。

何より、キルミラにもまんまと逃げおおせられてしまっている。

謁見の間。

誰もかれもが沈んだ気配を漂わせつつ、現状の確認を進めていた。

 

「ましろの容体はどうだ?」

「傷自体は、治療が間に合いました。しかし・・・・」

「デインリアルの呪い、か」

「はい」

 

すぐにバタフライが治療を施したお陰で、ましろは一命を取り留めていた。

だが、デインリアルの刃をもろに喰らった影響で呪いを受けてしまい。

先日までのスカイランド国王と王妃の様に、深い眠りについてしまっていた。

 

「・・・・ソラは、今?」

「タイタニック・レインボーを受けた後、正気に戻りはしましたが・・・・念のため拘束しています」

 

プリズムが、胸に刺突を受けた直後に放たれた合体技で。

ソラの洗脳は解除されている。

だが、本人の精神的外傷が酷いことと、キルミラの洗脳が解け切っていない可能性を考慮して。

現在は拘束の上、投獄されていた。

 

「キルミラはもちろんのことですが、ソラにも悪感情を抱く者達が増えています・・・・あの子は、あまりにも殺し過ぎた」

「無罪放免、というわけにはいかないか」

 

ソラの処遇に、ましろの解呪。

スカイランド、クシザス両国の復興もやらなければならない。

 

「どこかの手を借りねばならんが・・・・」

「そのことですが」

 

会議に参加していたヨヨが、手を上げる。

 

「手を貸してくれるかもしれない国に、心当りがあります」

「それは誠か!?」

「はい・・・・彼らなら、ソラさんへの偏見もないはず」

「・・・・なるほど、分かった」

 

ソラを無罪放免にするわけにはいかない。

だからといって、私刑まがいの目に遭わせるのも正しくない。

なので、ヨヨの言う者達に偏見がないというのは、ありがたいことであった。

 

「とにかく、今は傷ついた民のケアを最優先としよう。青の護衛隊、ならびにクシザス騎士団には、引き続きキルミラに備えてもらう・・・・よろしいか?」

「っは!!」

「異論はありません」

 

シャララとジークフリートが、それぞれ了解を答えたことで。

その場は解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

閑話休題(まだ終わりじゃない)

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ヨヨさんおかえりなさい!」

「ばぁば!」

「ヨヨ殿」

 

城の一室。

未だ眠っているましろの傍にいたあげはと、エルに付き添っていた王妃は。

戻って来たヨヨを迎え入れる。

 

「王妃様、プリンセス、ようこそ。あげはさんもありがとう」

「いえいえー」

 

ベッドに横たわるましろの目は、硬く閉じられている。

呼吸はあまりにもゆっくりで。

触れて確かめないと、死んでいるのではと錯覚してしまいそうだ。

 

「ましよ、ねんね」

「そうですね、起きませんね」

「おっきしてー、ましおー」

 

ツバサに抱えられたエルが、小さな手でぺちぺちと顔を叩いても。

やはり、ましろは目覚めないままだった。

 

「また、キラキラポーションを使えば起きてくれるかな」

「ええ、我々の時の様になればいいのだけれど」

「・・・・それは、どうかしら」

 

あげはの呟きに、王妃も痛ましそうにましろを見守っていたが。

ヨヨだけは、難しい顔で首を横に振った。

 

「今回ましろさんに懸けられた呪いは、アンダーグエナジーだけではないわ。500年前からの、命を蝕むものも混ざっている」

「仮に効いたとしても、完全に解ける保証はない、ということですね」

 

王妃の確認に、ヨヨはこっくり頷く。

 

「デインリアル本体を調べられたら、何か手掛かりが得られたかもしれないけれど」

「・・・・ごめんなさい、私がソラちゃんごと浄化しちゃったから」

「あげはさんだけの所為じゃないですよ。タイタニック・レインボーは、僕達の合体技なんですから」

「そんなことはないわ、ソラさんを止めるにはあれしかなかった」

 

頭を下げるあげはを、ツバサが庇えば。

ヨヨは慌てて訂正を入れた。

結果的に孫娘が昏睡してしまったとはいえ、彼らに落ち度はないのは分かり切っているのだから。

 

「・・・・こちらこそごめんなさい、責めるつもりはなかったのよ」

 

沈んだ顔で、頭を下げ返すヨヨ。

普段は、誰かを傷つけかねない言葉を言わない彼女が。

失言をしてしまうくらいに疲れているのだと。

誰もが感じ取れた。

 

「・・・・ソラのことも、心配ですね」

 

一度降りた沈黙の中、王妃が口を開く。

 

「助けを求める誰かの為に、一生懸命になれるあの子のことです。此度のこと、この世の誰よりも悔いていることでしょう」

 

――――ソラが『確保』された時のことは、王妃も報告で聞き及んでいた。

『死ね』と、己に向けた呪詛を絶叫しながら。

指が削れて血が出るのも構わずに、地べたを掻き毟っていた。

その、痛々しい様。

放っておけば自死を選びかねないため、やむを得ず厳重に拘束されていることも聞いている。

 

「・・・・何か、救える手立てがあると良いのですが」

 

――――エルの、娘の為に。

異世界にまで飛び込む勇気を持った、恩人だ。

未熟ながらも、シャララに次ぐヒーローになるのではと、夫共々期待を寄せていたことも有る。

どうにかして、救えやしないかと。

今度はこちらが助けになれやしないかと。

力不足を、静かに憂いていた。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

「すみません、無理を聞いてもらって」

「何、構わんさ」

 

スカイランド城、牢獄。

ベリィベリーは、護衛隊の先輩と並んで歩いていた。

前に、ソラやベリィベリーとならんでナババ(バナナ)を食べたことがある彼は。

得物である槍を持ち直しながら、疲労交じりの笑みを浮かべる。

 

「今回のハレワタールに関しては、俺も思うところがあるからな」

「先輩・・・・」

「っと、ここだ」

 

歩みが止まる。

案内してもらったのは、ソラが投獄された牢屋だった。

扉を開けてもらい、中に入ると。

まず、見張りの兵士が彼らを出迎える。

彼に会釈を返しながら、鉄格子の向こうに目をやれば。

ソラが、力なく壁に寄りかかっていた。

両手足はもちろんのことだが、口元も拘束されている。

・・・・自決しかねないほどに、憔悴していたのは知っていたが。

改めて目の当たりにすると、いたたまれない思いを抱いた。

 

「――――ソラ」

 

だが、今はそうもいっていられない。

大事なことを伝えるべく、ベリィベリーは口を開いた。

 

「ましろは生きている、呪いの所為で眠ってしまっているが・・・・解呪の糸口は、ヨヨ殿とツバサがきっと見つけてくれるだろう」

 

虚空を見つめる濁った目を見ながら、言葉を続ける。

 

「・・・・・今のお前に、こんなことを言うのは酷だろうが」

 

拳を握りしめる。

 

「こんなところで、あんなやつに足を引っ張られたままでいいのか?お前は、それでいいのか?」

 

いつの間にか、語気が強くなっていた。

 

「あげはも、ツバサも、プリンセスも・・・・もちろん、ましろだって。お前を待っている、だから、負けるな」

 

『そろそろ時間だ』と、退出を促されてしまう。

去り際、ベリィベリーはソラの様子を伺った。

 

「――――」

 

瞳に、光が宿ったのを見て。

ほっと息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――さて、もう頃合いね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、そろそろ交代だぞ」

「ああ、もうそんな時間か」

 

夜。

火事場泥棒など、災害時にこそ増える犯罪に備えて。

青の護衛隊、ならびにクシザス騎士団は、合同で夜警を行っていた。

その中の、とある班。

焚火を光源に見回っていた青の護衛隊に、クシザス騎士団がやってきた。

 

「ありがとう、あとは任せたよ」

「夜は俺達吸血人の領域だ、どーんと任せてくれ!」

「お互い頑張ろうな」

 

同じ災難に見舞われた同士。

励まし合いながら、入れ替わろうとした。

その時だった。

 

「・・・・ッ」

「どうした?」

「今、空に何か」

 

休憩に入ろうとした護衛隊が、何かに気付いた。

夜空を横切ったはずの陰を探すべく、あちこちに視線を巡らせると。

 

「っあ!!あそこだ!!」

 

騎士団が指さした先。

城の尖塔に佇むキルミラの姿があった。

 

「今、信号弾を上げる!!」

「敵襲ッ!!敵襲ーッ!!」

 

支給された筒に、点火した火薬玉を放り込み。

地面に置いて、発射する。

赤い光に照らされたキルミラは、慌てふためく有象無象を面白そうに見下ろしてから。

放たれる矢や魔法をひらひら交わして、あっという間に城内へ侵入してしまった。

 

「さて、ソラは・・・・こっちね」

 

一度魔力を注いだ餌の居場所、探るなど容易い。

彼女の足取りに迷いはなく、騒然とする城内を駆け抜ける。

 

「と、止まれ!」

「はい邪魔ー」

 

立ちふさがる全てを排除しながら、最後の壁をぶち抜く。

予想通り、ソラが檻の向こうでじっとしているのが見えた。

 

「やっほー!迎えに来たわよ、ソラ!」

 

潰れた見張りごと瓦礫を踏みしめて、鉄格子を飴細工の様に引き裂いた。

予想通り、ソラはぐったりと動かない。

視線だけを向けてきたが、それだけだった。

 

「もー、本当に楽しみにしてたんだから!」

 

邪魔な鎖もあっという間に引き千切りながら、外に持ち出そうとすると。

 

「――――キルミラッ!!」

 

別の壁を破壊して、エクリプスが飛び込んできた。

 

「もう好きに出来ると思うなよ!!」

「あら、ちょうどいいとこに」

 

怒気と雷を迸らせる様を見てなお、余裕を持つキルミラへ。

エクリプスはお望み通り雷を叩き込むが、

 

「なっ!」

「――――何もダメージを与えるだけが攻撃じゃないわよ」

 

あまりの手ごたえのなさに、驚愕する目の前。

風に飛ばされる綿毛よろしく、ふわりと飛んで行くキルミラ。

してやられたと気付いて、追撃を放とうとするが。

 

「はい、お疲れ様」

「ぐああっ!!」

 

キルミラが放った楔形の魔法が、エクリプスの四肢を文字通り縫い留めてしまう。

 

「ッ、待てえ!!」

「待たない、虫らしく這いつくばってなさい」

 

咆哮もどこ吹く風。

拘束から逃れようとするエクリプスを嘲笑すると、まんまと外へ逃げおおせる。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――ベリィベリーさんの言葉を聞いた時。

心の底から、安心した。

まだ、希望は残っている。

ましろさんは、まだ助かる。

仲間達なら、きっとやってくれるから。

 

 

 

だったら、私に出来ることは。

 

 

 

人殺しに、出来ることは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――逃がすな!!」

「キルミラァッ!!!」

「お前だけは!!お前だけはァッ!!!!」

 

外にも、青の護衛隊やクシザス騎士団。

そして、民間の義勇兵達が。

一斉に飛び掛かってくるものの。

キルミラは軽やかにステップを踏むだけで魔法攻撃を放ち、その全てを退けてしまう。

 

「さて、ここでいいかしら」

 

最終的に陣取ったのは、噴水。

 

「ふふふ、我慢に我慢を重ねたのも、この時の為・・・・!」

 

オブジェの上に降り立ったキルミラは、ランチボックスを開けるノリで。

ソラの拘束を全て解いて。

 

「いっただっきまーす!」

 

首元に、噛み付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呼吸の音が。

変わったことにも気づかずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッギャアアアアアアアアア――――!!!!!!!」

 

駆けつけていた誰もが。

目の前の光景を疑った。

あのキルミラが、悲鳴を上げている。

 

「ぁあああああ・・・・があッ・・・・!」

 

どころか、口からぼたぼたと何かを零して。

もがき苦しんでいる。

 

「な、何が・・・・!?」

 

変身していたプリキュア達も、何事かと注視していたが。

 

「ソラさん・・・・?」

 

ふと、ウィングは。

キルミラが取り落としたソラに、違和感を覚えた。

 

「ぁ、そっか」

 

すぐに気が付く。

彼女は今、確かに水に落ちたはずなのに。

沈んでいない。

どころか、水面にゆらりと立ち上がる。

足元には、不思議な波紋が浮かんでいた。

 

(いや、なんで沈んでいないんだ?)

 

何がどうなっている。

尽きない疑問に思考が支配されて、体を上手く動かせない。

 

「――――やっぱり」

 

そんな仲間達の動揺など露知らず。

噛まれた首元を押さえながら、睨むキルミラを見上げるソラ。

 

「特別なのはガワだけで、中身は他と変わらないんだな」

「ッごむずべ(小娘)ッッ!!なぎをじだがぁ(何をしたあぁ)っ!?」

「でけぇ声出さなくても聞こえてんだよ、クソババア」

 

普段の彼女からは想像もつかない、荒っぽい言動で。

気だるげに睨みつけるソラは。

『コオオオオ』という呼吸を、ますます強めて。

 

「年貢の納め時だ、覚悟しろ」

 

陽光の中で。

目をぎらつかせた。




キルミラ「これが我が逃走経路よッ!!」
・・・・何でもないです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。