「――――がはっ」
覚えている。
「げぇ、ほ・・・・ぅえ・・・・!」
老人の断末魔を。
子どもの悲鳴を。
「ぅえええ・・・・!!」
男の慟哭を。
女の絶叫を。
「ごほっ・・・・ひゅっ、ひゅっ、ひゅっ・・・・!」
肉を切り裂く感覚を。
骨を断ち切る感覚を。
「ぉ、げええっ・・・・!!」
ましろさんを、貫いたことも。
「・・・・ぃね」
全部、全部、全部。
「しね・・・・!!」
覚えている。
◆ ◆ ◆
――――大敗。
それしか言えない結果だった。
ランボーグは浄化出来て、ソラも取り戻せはした。
しかし、スカイランド、クシザス。
双方の公にも民にも、多大な犠牲が出てしまった。
何より、キルミラにもまんまと逃げおおせられてしまっている。
謁見の間。
誰もかれもが沈んだ気配を漂わせつつ、現状の確認を進めていた。
「ましろの容体はどうだ?」
「傷自体は、治療が間に合いました。しかし・・・・」
「デインリアルの呪い、か」
「はい」
すぐにバタフライが治療を施したお陰で、ましろは一命を取り留めていた。
だが、デインリアルの刃をもろに喰らった影響で呪いを受けてしまい。
先日までのスカイランド国王と王妃の様に、深い眠りについてしまっていた。
「・・・・ソラは、今?」
「タイタニック・レインボーを受けた後、正気に戻りはしましたが・・・・念のため拘束しています」
プリズムが、胸に刺突を受けた直後に放たれた合体技で。
ソラの洗脳は解除されている。
だが、本人の精神的外傷が酷いことと、キルミラの洗脳が解け切っていない可能性を考慮して。
現在は拘束の上、投獄されていた。
「キルミラはもちろんのことですが、ソラにも悪感情を抱く者達が増えています・・・・あの子は、あまりにも殺し過ぎた」
「無罪放免、というわけにはいかないか」
ソラの処遇に、ましろの解呪。
スカイランド、クシザス両国の復興もやらなければならない。
「どこかの手を借りねばならんが・・・・」
「そのことですが」
会議に参加していたヨヨが、手を上げる。
「手を貸してくれるかもしれない国に、心当りがあります」
「それは誠か!?」
「はい・・・・彼らなら、ソラさんへの偏見もないはず」
「・・・・なるほど、分かった」
ソラを無罪放免にするわけにはいかない。
だからといって、私刑まがいの目に遭わせるのも正しくない。
なので、ヨヨの言う者達に偏見がないというのは、ありがたいことであった。
「とにかく、今は傷ついた民のケアを最優先としよう。青の護衛隊、ならびにクシザス騎士団には、引き続きキルミラに備えてもらう・・・・よろしいか?」
「っは!!」
「異論はありません」
シャララとジークフリートが、それぞれ了解を答えたことで。
その場は解散となった。
「あ、ヨヨさんおかえりなさい!」
「ばぁば!」
「ヨヨ殿」
城の一室。
未だ眠っているましろの傍にいたあげはと、エルに付き添っていた王妃は。
戻って来たヨヨを迎え入れる。
「王妃様、プリンセス、ようこそ。あげはさんもありがとう」
「いえいえー」
ベッドに横たわるましろの目は、硬く閉じられている。
呼吸はあまりにもゆっくりで。
触れて確かめないと、死んでいるのではと錯覚してしまいそうだ。
「ましよ、ねんね」
「そうですね、起きませんね」
「おっきしてー、ましおー」
ツバサに抱えられたエルが、小さな手でぺちぺちと顔を叩いても。
やはり、ましろは目覚めないままだった。
「また、キラキラポーションを使えば起きてくれるかな」
「ええ、我々の時の様になればいいのだけれど」
「・・・・それは、どうかしら」
あげはの呟きに、王妃も痛ましそうにましろを見守っていたが。
ヨヨだけは、難しい顔で首を横に振った。
「今回ましろさんに懸けられた呪いは、アンダーグエナジーだけではないわ。500年前からの、命を蝕むものも混ざっている」
「仮に効いたとしても、完全に解ける保証はない、ということですね」
王妃の確認に、ヨヨはこっくり頷く。
「デインリアル本体を調べられたら、何か手掛かりが得られたかもしれないけれど」
「・・・・ごめんなさい、私がソラちゃんごと浄化しちゃったから」
「あげはさんだけの所為じゃないですよ。タイタニック・レインボーは、僕達の合体技なんですから」
「そんなことはないわ、ソラさんを止めるにはあれしかなかった」
頭を下げるあげはを、ツバサが庇えば。
ヨヨは慌てて訂正を入れた。
結果的に孫娘が昏睡してしまったとはいえ、彼らに落ち度はないのは分かり切っているのだから。
「・・・・こちらこそごめんなさい、責めるつもりはなかったのよ」
沈んだ顔で、頭を下げ返すヨヨ。
普段は、誰かを傷つけかねない言葉を言わない彼女が。
失言をしてしまうくらいに疲れているのだと。
誰もが感じ取れた。
「・・・・ソラのことも、心配ですね」
一度降りた沈黙の中、王妃が口を開く。
「助けを求める誰かの為に、一生懸命になれるあの子のことです。此度のこと、この世の誰よりも悔いていることでしょう」
――――ソラが『確保』された時のことは、王妃も報告で聞き及んでいた。
『死ね』と、己に向けた呪詛を絶叫しながら。
指が削れて血が出るのも構わずに、地べたを掻き毟っていた。
その、痛々しい様。
放っておけば自死を選びかねないため、やむを得ず厳重に拘束されていることも聞いている。
「・・・・何か、救える手立てがあると良いのですが」
――――エルの、娘の為に。
異世界にまで飛び込む勇気を持った、恩人だ。
未熟ながらも、シャララに次ぐヒーローになるのではと、夫共々期待を寄せていたことも有る。
どうにかして、救えやしないかと。
今度はこちらが助けになれやしないかと。
力不足を、静かに憂いていた。
◆ ◆ ◆
「すみません、無理を聞いてもらって」
「何、構わんさ」
スカイランド城、牢獄。
ベリィベリーは、護衛隊の先輩と並んで歩いていた。
前に、ソラやベリィベリーとならんで
得物である槍を持ち直しながら、疲労交じりの笑みを浮かべる。
「今回のハレワタールに関しては、俺も思うところがあるからな」
「先輩・・・・」
「っと、ここだ」
歩みが止まる。
案内してもらったのは、ソラが投獄された牢屋だった。
扉を開けてもらい、中に入ると。
まず、見張りの兵士が彼らを出迎える。
彼に会釈を返しながら、鉄格子の向こうに目をやれば。
ソラが、力なく壁に寄りかかっていた。
両手足はもちろんのことだが、口元も拘束されている。
・・・・自決しかねないほどに、憔悴していたのは知っていたが。
改めて目の当たりにすると、いたたまれない思いを抱いた。
「――――ソラ」
だが、今はそうもいっていられない。
大事なことを伝えるべく、ベリィベリーは口を開いた。
「ましろは生きている、呪いの所為で眠ってしまっているが・・・・解呪の糸口は、ヨヨ殿とツバサがきっと見つけてくれるだろう」
虚空を見つめる濁った目を見ながら、言葉を続ける。
「・・・・・今のお前に、こんなことを言うのは酷だろうが」
拳を握りしめる。
「こんなところで、あんなやつに足を引っ張られたままでいいのか?お前は、それでいいのか?」
いつの間にか、語気が強くなっていた。
「あげはも、ツバサも、プリンセスも・・・・もちろん、ましろだって。お前を待っている、だから、負けるな」
『そろそろ時間だ』と、退出を促されてしまう。
去り際、ベリィベリーはソラの様子を伺った。
「――――」
瞳に、光が宿ったのを見て。
ほっと息を吐いた。
◆ ◆ ◆
「――――さて、もう頃合いね」
「おーい、そろそろ交代だぞ」
「ああ、もうそんな時間か」
夜。
火事場泥棒など、災害時にこそ増える犯罪に備えて。
青の護衛隊、ならびにクシザス騎士団は、合同で夜警を行っていた。
その中の、とある班。
焚火を光源に見回っていた青の護衛隊に、クシザス騎士団がやってきた。
「ありがとう、あとは任せたよ」
「夜は俺達吸血人の領域だ、どーんと任せてくれ!」
「お互い頑張ろうな」
同じ災難に見舞われた同士。
励まし合いながら、入れ替わろうとした。
その時だった。
「・・・・ッ」
「どうした?」
「今、空に何か」
休憩に入ろうとした護衛隊が、何かに気付いた。
夜空を横切ったはずの陰を探すべく、あちこちに視線を巡らせると。
「っあ!!あそこだ!!」
騎士団が指さした先。
城の尖塔に佇むキルミラの姿があった。
「今、信号弾を上げる!!」
「敵襲ッ!!敵襲ーッ!!」
支給された筒に、点火した火薬玉を放り込み。
地面に置いて、発射する。
赤い光に照らされたキルミラは、慌てふためく有象無象を面白そうに見下ろしてから。
放たれる矢や魔法をひらひら交わして、あっという間に城内へ侵入してしまった。
「さて、ソラは・・・・こっちね」
一度魔力を注いだ餌の居場所、探るなど容易い。
彼女の足取りに迷いはなく、騒然とする城内を駆け抜ける。
「と、止まれ!」
「はい邪魔ー」
立ちふさがる全てを排除しながら、最後の壁をぶち抜く。
予想通り、ソラが檻の向こうでじっとしているのが見えた。
「やっほー!迎えに来たわよ、ソラ!」
潰れた見張りごと瓦礫を踏みしめて、鉄格子を飴細工の様に引き裂いた。
予想通り、ソラはぐったりと動かない。
視線だけを向けてきたが、それだけだった。
「もー、本当に楽しみにしてたんだから!」
邪魔な鎖もあっという間に引き千切りながら、外に持ち出そうとすると。
「――――キルミラッ!!」
別の壁を破壊して、エクリプスが飛び込んできた。
「もう好きに出来ると思うなよ!!」
「あら、ちょうどいいとこに」
怒気と雷を迸らせる様を見てなお、余裕を持つキルミラへ。
エクリプスはお望み通り雷を叩き込むが、
「なっ!」
「――――何もダメージを与えるだけが攻撃じゃないわよ」
あまりの手ごたえのなさに、驚愕する目の前。
風に飛ばされる綿毛よろしく、ふわりと飛んで行くキルミラ。
してやられたと気付いて、追撃を放とうとするが。
「はい、お疲れ様」
「ぐああっ!!」
キルミラが放った楔形の魔法が、エクリプスの四肢を文字通り縫い留めてしまう。
「ッ、待てえ!!」
「待たない、虫らしく這いつくばってなさい」
咆哮もどこ吹く風。
拘束から逃れようとするエクリプスを嘲笑すると、まんまと外へ逃げおおせる。
◆ ◆ ◆
――――ベリィベリーさんの言葉を聞いた時。
心の底から、安心した。
まだ、希望は残っている。
ましろさんは、まだ助かる。
仲間達なら、きっとやってくれるから。
だったら、私に出来ることは。
人殺しに、出来ることは。
◆ ◆ ◆
「――――逃がすな!!」
「キルミラァッ!!!」
「お前だけは!!お前だけはァッ!!!!」
外にも、青の護衛隊やクシザス騎士団。
そして、民間の義勇兵達が。
一斉に飛び掛かってくるものの。
キルミラは軽やかにステップを踏むだけで魔法攻撃を放ち、その全てを退けてしまう。
「さて、ここでいいかしら」
最終的に陣取ったのは、噴水。
「ふふふ、我慢に我慢を重ねたのも、この時の為・・・・!」
オブジェの上に降り立ったキルミラは、ランチボックスを開けるノリで。
ソラの拘束を全て解いて。
「いっただっきまーす!」
首元に、噛み付いた。
呼吸の音が。
変わったことにも気づかずに。
「ッギャアアアアアアアアア――――!!!!!!!」
駆けつけていた誰もが。
目の前の光景を疑った。
あのキルミラが、悲鳴を上げている。
「ぁあああああ・・・・があッ・・・・!」
どころか、口からぼたぼたと何かを零して。
もがき苦しんでいる。
「な、何が・・・・!?」
変身していたプリキュア達も、何事かと注視していたが。
「ソラさん・・・・?」
ふと、ウィングは。
キルミラが取り落としたソラに、違和感を覚えた。
「ぁ、そっか」
すぐに気が付く。
彼女は今、確かに水に落ちたはずなのに。
沈んでいない。
どころか、水面にゆらりと立ち上がる。
足元には、不思議な波紋が浮かんでいた。
(いや、なんで沈んでいないんだ?)
何がどうなっている。
尽きない疑問に思考が支配されて、体を上手く動かせない。
「――――やっぱり」
そんな仲間達の動揺など露知らず。
噛まれた首元を押さえながら、睨むキルミラを見上げるソラ。
「特別なのはガワだけで、中身は他と変わらないんだな」
「ッ
「でけぇ声出さなくても聞こえてんだよ、クソババア」
普段の彼女からは想像もつかない、荒っぽい言動で。
気だるげに睨みつけるソラは。
『コオオオオ』という呼吸を、ますます強めて。
「年貢の納め時だ、覚悟しろ」
陽光の中で。
目をぎらつかせた。
キルミラ「これが我が逃走経路よッ!!」
・・・・何でもないです。