――――私はもう、ヒーロー足り得ない。
スカイストーンは陰り、ミラージュペンは消え去った。
操られていただとか、欠片も本意ではなかったとか。
もうその段階は通り越してしまっている。
他でもない自分で、自分の両手を赤く汚してしまって。
ずっとずっと抱いてきた、たった一つの道しるべを失くして。
だけど、だからこそ。
最後の一つだけは。
ましろさんの、未来だけは。
私の命が終わる前に。
守り抜こうと、決めた。
「――――あんたこそ、忘れていないかしら」
目の前。
キルミラの体が変化していく。
十代の可憐な姿から、艶やかな二十代半ばの肢体へ。
「あたしは吸血鬼、加えて今宵は満月よ」
ぶわり、と。
迸る魔力に、髪が逆立つ。
「ただで済むと思うなよ」
爛々と光る眼が、私を睨みつけた。
◆ ◆ ◆
弾丸の様に飛び出したキルミラが。
ソラの顔面を踏みつけ、勢いのままに水底へ沈めた。
ぐりぐり踏み躙り、そのまま溺れさせようと画策するも。
ソラが水底を叩くと、いくつもの水柱が槍に変化してキルミラに襲い掛かり。
体に深々と突き刺さった。
「があああああッ!!」
再び体内を焼かれて、悲鳴を上げるキルミラ。
水場から飛びのくと、魔力の槍をいくつも生成。
未だ水の中にいるソラへ、無数に放つ。
「コオオォッ・・・・!」
対するソラは、落ち着いて呼吸。
「借ります」
「え、はっ!?」
こちらも水から飛び出して後退すると、近くにいたクシザス騎士団から槍を拝借。
器用に振り回して、体から滴る水を纏わせると。
お返しとばかりに投擲した。
「くっ・・・・!」
何度もくらえば、さすがに『受けてはダメだ』と学習するらしい。
キルミラは手に魔力を纏わせて、直接触れないように受け流すと。
「だああああ!!」
「・・・・ッ!」
空いた片手にも同じく魔力を纏い、ソラに殴りかかった。
生身同士と思えぬ、重厚な殴打の音が繰り返される。
一進一退、どちらも退かぬ攻防。
「ぅおああっ!!」
「っあ・・・・!?」
均衡を崩したのは、キルミラの一撃だった。
一際強い殴打が、ソラを大きく後退させる。
構えを崩され、胴体が無防備になってしまうが。
「 吹 っ 飛 べ !!!! 」
あえてそこを攻撃せず。
衝撃波を放って、言葉通りソラを吹き飛ばした。
「ッヂ・・・・!」
瓦礫の中から這い出たソラ。
このままでは埒が明かないと判断したのだろう。
兵士の誰かが落とした剣を拾うと、あろうことか自分の手首に当てた。
「ちょ、ソラちゃん!?」
突然のリストカットに驚くバタフライを置いてけぼりにして、遮二無二近くの石礫を引っ掴むと。
「コオオォッ・・・・!」
あの光を纏わせて、鋭く投擲した。
「ぁ、がっ!・・・・ぎぃっ!!」
次々投げつけられる礫を受けて、苦悶の声を上げるキルミラ。
――――何度も何度も受けていれば。
否が応でも気が付く。
小娘が、ソラが扱っているのは。
(太陽の、光・・・・!!)
虫だけを焼くはずのそれが。
ましてや、夜には存在しないはずのそれが。
よりにもよって、己の体を焼いている!!
(けど、弱点は分かり易いわね!)
一つ、遠距離攻撃の手段が圧倒的に少ない。
一つ、無機物には纏わせにくい。
槍や礫など、必ず水や血などの液体を纏わせてから放っている。
一つ、
(呼吸で力を得ているから・・・・)
向かってくるソラの懐に、潜り込む。
(喉か肺を潰せば、容易く無力化出来る!!)
「ふんっ!!!」
「ッが、は!!」
みぞおちに一撃叩き込んでやれば、苦しそうに空気を吐き出したので。
さらに追撃を加えて城壁に叩き込んでやる。
「死ねェッ!!!」
さらに、魔力の槍を雨あられと降り注がせて。
瓦礫諸共に、ソラをめった刺しにしてやった。
「は・・・・は・・・・」
肩で息をしながら、しばらく注視して。
ソラが沈黙したのを確認したキルミラは、鈍く息を吐き出す。
「は・・・・さすがに驚いたけれど、所詮は虫けら。呆気ないものね」
賞賛を口にしながらも、不遜な態度で嘲笑するキルミラ。
「さて、後は・・・・」
してやられた憂さを張らずべく、残りの有象無象へ目を向ける。
◆ ◆ ◆
「ああっ・・・・!」
「なんということだ・・・・!!」
噴水周辺での攻防は、城からも見えていた。
キルミラへ、正体不明の有効打を与えていたソラが。
瓦礫の中に埋もれてしまったのを目の当たりにしてしまい。
国王も王妃も、悲痛な顔で声を上げる。
「えう・・・・!」
万が一に備えて、王妃に抱かれていたエルも。
計らずともその光景を見てしまっていた。
「ううぅ・・・・!」
――――せっかく会えたと思ったら。
瓦礫に埋もれたっきり、うんともすんとも言わなくなったソラに。
不安を抱いたエル。
「しょらぁ・・・・」
ちいさな手を向けて、名前を呼ぶ。
「そゃあ・・・・!」
例え沈黙が続こうとも、拙い声で。
「そらぁー!!」
何度も、何度も。
呼び続けて。
◆ ◆ ◆
「起きて!起きて!眠っちゃダメ!!」
起きる?
・・・・私は今、眠っているのか。
「こんなところで倒れないで!あんなやつに負けないで!」
これは、私の声?
「お願い!お願い!あなたが希望なの!!」
いや、違う。
「――――続きを!!」
「『私』の夢の、続きを見たい!!」
――――君は。
「『私』も、一緒に戦うから!!」
「だから、どうか!!」
――――そう言ってくれるのか。
◆ ◆ ◆
――――刹那。
瓦礫が爆ぜた。
「はあーッ・・・・!!」
苛立ちを隠そうともせずに、キルミラは深くため息をついて。
静かに、振り向く。
「キッショ、なんで死んでないのよ」
出血は夥しい。
攻撃は全て命中しているし、肝心の呼吸は頼りないものだ。
「ヒュ・・・・コヒュ・・・・ヒョゥ・・・・!」
それでも、瞳だけはぎらついていて。
射貫かんばかりの戦意を、キルミラにぶつけて来ていた。
「ひゅぉ・・・・!」
おもむろに、右手を横に伸ばす。
赤黒いオーラが、霞の様に弱弱しく揺れて。
一振りの剣を生み出した。
随分と弱っているが、間違いない。
デインリアルだ。
「・・・・ええ、ええ。いいでしょう」
何度も何度も頷きながら、ソラと改めて向き合う。
「殺してやる」
殺意を滾らせて、キルミラは強く踏み込んだ。
「・・・・ッ!」
豪速で迫る敵へ向け、ソラもまた足元を強く踏む。
畳返しの様に地面がめくれて、キルミラがたたらを踏んだところへ。
一瞬で横合いに回り込んで、斬撃を叩き込む。
「ッち!!」
キルミラは容易く受け止めると、殴打を返す。
真正面からぶつかるソラの剣。
「ぐぅ、そ・・・・!」
血に、液体に塗れているからか。
それとも、弱っていても
先ほどよりも『太陽の光』が強く流れ込んでいるように感じて。
キルミラは苛立ちを隠せない。
「調子に、乗るなよ!!」
ソラの頭を引っ掴んで。
「っあ・・・・!」
「塵芥がァッ!!!」
地面に叩きつけた。
「ッグゥ・・・・!」
「が・・・・!!」
しかし、やはりソラは沈まない。
握った剣を振るい、キルミラを切りつけると。
さらに蹴り飛ばして距離を取った。
「こ、の!!」
吹っ飛びかけたキルミラは踏ん張って耐え抜き、猛然と飛び掛かる。
対するソラもまた、剣を構えて。
すれ違いざまに、一閃。
「っづ・・・・!」
「っく!」
互いに一撃受けながら、振り向きざまにもう一度ぶつかった。
「――――ダメだ、速すぎる!」
いつまでも棒立ちと言うつもりはなかったバタフライとウィング。
だが、キルミラもソラも素早過ぎて、介入の余地がない。
「このまま、見ているだけだなんて・・・・!」
奥歯を食いしばる。
目の前の攻防から目を逸らさないのは、せめてもの意地だった。
「はああっ!!」
「がぁうッ!?」
剣を逆手に持ち、駆け抜けて一閃。
キルミラの横腹を裂く。
「捕まえ、たッ!!」
「ぁ、しまっ・・・・!」
だが、同時に捕まえられてしまった。
「ぅおらあっ!!」
「あああッ!!」
ソラの髪を乱暴に引っ掴むと。
尖塔の一つに投げ飛ばして、叩きつける。
そのまま上空に舞い、追撃の魔法攻撃を放とうとしたが。
「ぐあっ!?」
尖塔から、剣が投擲されてきた。
胸を貫かれたキルミラが、目をやれば。
飛び上がったソラが、足を振り上げたのが見えて。
「――――
踵落としが、柄を叩く。
『太陽』が、キルミラを焼く。
「がああああああああああああああああああああッッッ!!!!」
最初の噴水へ、文字通り叩き落とされるキルミラ。
水底で喘ぐ中、夜空に似つかわしくない光が瞬いたのが見えた。
「ご、ば・・・・がぁお・・・・!」
それがなんなのか。
分かっていたからこそ、我武者羅に魔法の槍を生成して乱射する。
視界が定まらない水中であっても、いくつかが命中したのが確認出来たものの。
敵を屠るには、足りなかった。
「――――
なんとか起き上がって、水面に顔を出した頃には。
すでに、相手の間合いから逃れられず。
「――――
顔に、拳が。
突き刺さった。
衝撃で噴水が崩壊、水が流れ出す。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!」
『日光』が、焼く。
太陽有り得ぬ夜に、太陽に焼かれる。
顔も、頭も、腕も、足も。
体の全てを、『陽光』が刺す。
(死ぬ?死ぬ!?この私が!?)
手足の感覚が無くなっていくのを自覚しながら、愕然とするキルミラ。
誇り続けて来た暴威が、あまりにもあっさりと終わる気配に。
今起こっていることを、呑み込めないでいた。
(何の冗談よ!?どんな悪夢よ!?こんな、こんな・・・・!)
油断なく、拳を突き付けたままのソラは離れそうになかった。
それこそ、こちらが絶命するまで。
(玩具でしかない、食料に!!殺されて!!死ぬ!!?)
なんという屈辱か、なんという口惜しさか!!
(ただで死んでやるものか、ただでやられてやるものか・・・・!)
苦し紛れに、顔を変えて。
口を、開く。
「そら、さん、の・・・・ひとごろしぃ・・・・!」
ましろの、顔と、声で。
嘲笑うが。
「――――何を、今更」
嗤い返されて、拳をさらに押し込まれた。
肉が潰れる音。
キルミラの体が、今度こそ崩壊していく。
爪の一欠けら、髪の毛の一本に至るまで。
『陽光』に焼かれて、この世から欠片も残さず
「ッソラ!!」
「ソラちゃん!!」
「ソラさん!!」
ソラが、灰になってくキルミラを凝視しているところへ。
プリキュア達が駆けつける。
「・・・・みんな」
ゆっくりと振り向いたソラは、一人一人と目を合わせてから。
心底安心した笑顔を浮かべて。
「あとは、まかせます」
ふっつりと、糸が切れたように。
倒れ伏した。
『舐めてかかってたら思わぬ反撃を受ける』という点が、キルミラのアウラ要素です()