「――――デリシャスフィールドッ!!」
各々が変身する中、真っ先に動いたのは拓海ことブラックペッパーだった。
彼が両手を掲げると、薄いベールが広がっていく。
「すごい!拓海、こんなこと出来る様になったの!?」
「ローズマリーに比べたら、不完全もいいところだけどな・・・・!何もないよりはマシだろ!!」
完全に閉じ込めるわけではない、制御に集中するため動けない。
それでも、少しでも被害を抑えられる。
「ありがとう、ブラペ!!」
「君は僕達が守ります!!」
手短に礼を述べて、一同飛び出した。
「ッチ、余計なことを・・・・ランボーグ!!」
「ランボォーグ!!」
フィールドの端、忌々し気に結界を叩いたバッタモンダーは。
ランボーグに号令。
「ランボーグ!!」
受け取ったランボーグは、剣を構えて跳躍。
飛び掛かる様に一閃を繰り出してきた。
散る様に回避したプリキュア達を追いかけて、次々斬撃を繰り出す。
「わわわッ!!」
「速い速い速い!!」
「ッかわすので、せいいっぱい・・・・!!」
反撃に転じようとすれば、両断されてしまいかねない。
あまりの猛攻に、プリキュア達は苦い顔を禁じ得なかった。
「
と、ランボーグに変化が。
振りかぶられた刀身に、水がまとわりついて。
「
叩きつけて来た。
「今のは・・・・!」
「ッこいつ、スカイの技を!!」
間一髪で避けたプリキュア達。
特にウィングとバタフライは、顔を驚愕に染める。
「あっははは!当たり前じゃないか、それはキュアスカイの剣なんだよ?同じ技を使えるに決まっているだろう!!」
「
驚愕から立ち直る間もなく、ランボーグは技を放ってくる。
「っく・・・・!」
バク転で回避したバタフライ。
なおも向かってくるランボーグへ、キスを投げて反撃すると。
足が止まったところへプレシャスが突撃。
「2000キロカロリイイイィィー!!!パアアアアーンチ!!」
全力で、拳を叩きつけるが。
難なく防がれてしまう。
「
「うわわ!!」
カウンターを、もろにくらいかけたところへ。
「プレシャス!!」
「はああああああ!!!」
フィナーレと、エクリプスが間に合った。
殴打と蹴撃。
それぞれの打撃が、ランボーグの剣を弾き返す。
「プリズムショット!」
体勢を崩したところへ、プリズムの追い打ちも決まり。
ランボーグは、尻もちをついてしまった。
「フィナーレ!」
「プリズム、エクリプス!」
「お待たせ!」
「すまない!遅くなった!」
後から合流した面々と並んで、ランボーグを見上げる。
「あいつ、ソラちゃんの木刀でランボーグを作ってる!同じ技使ってくるよ!」
「ええっ!?」
「あいつ、何と言うことを・・・・!!」
再び構えを取ったランボーグを前に、険しい顔をする一同。
同じく呆然と見上げていたプリズムは、しばし沈黙を保っていたが。
やがて、下唇をぎゅっと噛み締める。
「・・・・ッ」
耳が火照っている。
体がどくどくと脈動している。
視界が狭まっていく。
ぎりっと奥歯が音を立てた頃に、プリズムはやっと気が付いた。
――――嗚呼、自分は今。
(――――怒っているんだ)
――――今まで。
今まで、どれほど。
ソラが傷ついてきたと思っている。
どれほど苦しんできたと思っている!?
心を操られて、欠片も望んでいない破壊と殺戮を強制されて。
解放されても、犯した罪の大きさに圧し潰されそうになって。
それでもなお、誰かを助けようと、救おうと。
身も心もすり減らし続けているあの人を。
どれだけ侮辱すれば気が済むんだ!?
「・・・・ぃ、で」
――――嗚呼、腹立たしい。
腹立たしい。
「ふざけないで・・・・!」
「プリズム?」
――――腹 立 た し い !!!!!
「ふざけないで!!!」
こちらを案じる仲間に、返事も出来ないままに。
プリズムは、激情を咆える。
予想外の大声に、『うわっ』とびっくりさせてしまうのも構わずに。
一歩、踏み鳴らして飛び出した。
「ましろん!」
「ダメだ、闇雲に突っ込むな!!」
バタフライとエクリプスの制止も空しく。
猛然とランボーグに攻撃を加えるプリズム。
――――走馬灯の様に、蘇る。
思い出の数々。
出会った日の背中。
ごつごつだけど、温かい手。
辛いことも、悲しいことも、自分のことの様に反応してくれる優しさ。
空っぽだった不安に、『これからが楽しみだ』と期待してくれたこと。
恋心に圧し潰されそうだった時に、『味方だ』と寄り添ってくれたこと。
(なんで、なんでよぉッ・・・・!!)
涙をボロボロ零しながら、攻撃の手を緩めない。
始めこそ『ヒーローになりたい』なんて、子どもっぽい夢を持っているなと思いもした。
だけど、本気でそうあろうと努力している姿は、とても眩しくて。
やりたいことを見つけられなかった頃のましろからすれば、いっそ美しさすら感じていた。
だから、今回のことは。
ソラが連れ去られてから発生した、一連の出来事は。
本当に、本当に。
悔しかった。
「プリズム!!プリズム!!」
「ッあたし達も行こう!!プリズムを独りにしちゃダメ!!」
「ああ!!」
始めこそ気迫に圧されていた他のメンバーも、我を忘れたプリズムを引き止めるべく。
駆けつけようとしたが、
ランボーグの方が、一足早かった。
「
構えた剣に、炎が宿ったと気付いた時には。
もう遅く。
「
「わああああああ!!」
「きゃああああああ!!」
火柱が立ち上り、木の葉の様に吹き飛ばされる面々。
その中には当然ブラックペッパーもいて、閉じ込めていた結界が解除されてしまう。
「うう・・・・!」
「ぐ、くそ・・・・!」
壁に、あるいは足元に叩きつけられて。
苦痛に顔を歪めるプリキュア達。
それは、プリズムも例外ではなく。
「ぁ・・・・う・・・・!」
痛みに耐えながら、それでもなんとか身を起こして。
目を、見開いた。
「――――ぁあ」
倒れ伏している仲間達。
自分が招いた事態だと分かっているからこそ、絶望は深かった。
頭が一気に冷える。
自分のしでかしを、一瞬で理解する。
――――まただ。
また、自分の軽率さの所為で。
仲間達に迷惑をかけてしまった。
「あはははははは!!いいぞ、ランボーグ!!」
笑い声を上げたバッタモンダーは、ジロリとプリズムを見下ろして。
「まずはそいつから片付けようか」
「
剣が、振り降ろされて。
「――――天魔・飛翔閃!!」
横合いから来た攻撃に、庇われる。
「あれぇ?あれあれあれあれぇ~?」
バッタモンダーの、嫌らしい笑い声が聞こえて。
思わず閉じていた目を、開くと。
「そら、さん」
ソラが、ランボーグの前に立ちはだかっていた。
「あっははは!久しぶりだねぇ、ソラちゃん!」
「・・・・ッ」
「ほら見てよ!アンダーグ帝国に忘れてた、君の剣で作ったんだ!!」
右腕の傷が開いたらしく、血を流しているソラ。
馴れ馴れしく話しかけるバッタモンダーを無視して、ランボーグを睨みつけた彼女は。
弱ったデインリアルを構えて、駆け出した。
「ソラさん!?」
「待って、無茶だ!!」
制止の声にも耳を貸さず、ランボーグから視線を外さないまま。
そして相手からも視線を外されないままに。
全力で駆け抜けて、プリズムから意識を逸らさせると。
逆手・左手に持ち替えてから、構えて。
「――――アバンストラッシュ!!」
足元を崩しにかかった。
「ラァンッ!!ボッ!!」
一度はたたらを踏んだが、何とか耐えたランボーグ。
お返しとばかりに剣を振り上げて。
「
熱気迸る切り落としを放った。
「くッ・・・・!」
即座に飛びのいて直撃を免れたソラだったが、足に掠り傷を負う。
ちらりと見やって、問題ないと判断した彼女は。
再び飛び出していく。
「虎牙破斬!!」
「
「
「
「天狼滅牙ァッ!!」
「
巨体から繰り出されるのは、当然範囲も威力も大きい技。
只人の身で受ければ、一溜りもない攻撃を前に。
ソラは一歩も退かずに立ち向かっていく。
「はぁー・・・・分かってたけど、やるなぁソラちゃん」
攻防を目の当たりにして、面倒くさそうにため息をついたバッタモンダーだったが。
ふと、なんとなしに視線を巡らせた先。
「ぅ・・・・ぁ・・・・!」
「――――ヒヒ」
逃げ遅れた子供を見つけて。
「ランボーグ!!そっちはいい!!あっちだ!!あっちをやれ!!」
「ランボーグ!!」
「ぅわ!?」
弾き飛ばされて、地面を転がっていくソラ。
ランボーグの狙いに気が付いて、すぐに飛び起きると。
猛然と駆け抜けて。
子どもと、ランボーグの間に割り込んだ。
◆ ◆ ◆
あああああああああああああああ!!
クソ痛ええええええ!!
「ッ・・・・ぅ・・・・!」
もろにぶった切られた。
はらわたが零れないよう堪えるだけで精いっぱいだ。
それも、一声でもうめき声を上げようものなら。
あっという間にまろびでそうなんだけども・・・・!
「ふ・・・・ふ・・・・!」
足元に赤い水たまりを作りながら、立ち上がる。
なんとか剣を構えて、ランボーグを見上げる。
ああ、もう。
他に表現しようのないほどの、大ピンチだ。
だけど・・・・!
「ああ・・・・!」
背中を意識する。
後ろの守るべきものを感じ取る。
「――――大丈夫」
振り向く余裕がない分、努めて明るい声を出す。
「お姉ちゃんが絶対に守るから、待っててね」
「ッハハハハハハハ!!強がっちゃってさ!!」
バッタモンダーのキンキンした笑い声が耳に障って、一瞬怯んでしまう。
「変身も出来ない!自分の身すらロクに守れない!そもそも、ヒーローを名乗る資格なんてのも消えてんだろ!?」
プリキュア達はどれくらい立ち直っているだろうか。
彼女達がこんなことで倒れるわけがない。
「なのになんで立つ!?なんで守る!?終わったヤツは終わったヤツらしく、しおらしくしてりゃいいのにさぁ!!」
右腕と胴体の出血は激しい。
視界は明滅して、気を抜けば今にも倒れてしまいそうだ。
痛みは、落ち着いてきた。
というより、麻痺してきてるんだろう。
今はそれで都合がいいんだけど。
「サア、サア!!教えてくれよ!!ヒーローさんよォッ!!」
いよいよ以て調子に乗ってるバッタモンダーの声。
・・・・嗚呼、でも。
一理あるなぁ。
私、なんで立ってるんだろう。
痛いのに、しんどいのに。
どうして、バカの一つ覚えみたいにここにいるんだろう。
自分で、自分の夢を汚して。
もはや、ヒーローどころか、日向を歩く資格すらもないのに。
どうして、こんな。
・・・・ああ。
そう、考えたら。
(疲れたな)
体が重くなる。
顔が下を向く。
視界が段々かすんで、暗くなってくる。
・・・・狭窄する世界で、何かが動く。
気怠く顔を上げると、ランボーグが剣を振り上げていて。
――――そっか。
(楽に、なれる)
迫る刃を前に、棒立ちになって。
「――――うあああああああああああ!!!!」
気付いた時には、プリズムに抱えられていた。
横を見ると、後ろにいた子どももブラックペッパーに同じく抱えられている。
「うぅ!!」
「ぐ・・・・!」
ほぼほぼもつれ込む様に着地して、地面に転がった。
・・・・たすかった。
「むぐ」
と、思ったら。
そのままぎゅっとホールドされてしまう。
「・・・・ッ・・・・っ・・・・!!」
・・・・微かに嗚咽を漏らすプリズムは。
私の顔から肩にかけてを、無我夢中で抱え込む様に抱きしめていた。
ブラックペッパーの治療を受けながら、しばらく抵抗せずにいる。
遠くからは、仲間達が戦っているであろう音が聞こえていた。
「・・・・ソラ、さん」
やがて、プリズムは。
ゆるゆると口を開いた。
相変わらずホールドされたままなので、表情は見えないけど。
まだ泣いてるだろうことだけは、分かった。
「――――休みましょう」
もう少しだけ、いっぱい悩んだ彼女は。
まず、そう伝えてくれる。
「ヒーローのことも、償いのことも、一度おいといて・・・・ゆっくり休みましょう」
・・・・休む、か。
「十分頑張っているのは、分かっています。傷ついても、辛くても、弱音を呑み込んで、立っているの、分かっています」
でも、と。
「それでソラさんが、倒れちゃったら。意味ないじゃないですか・・・・!」
喉を鳴らして、涙を呑んだプリズムは。
腕の力を強めて、さらに抱きしめてくる。
「代わりに、わたしが頑張りますから」
・・・・温もりに包まれて、微睡みそうになるのを耐えながら。
なんとか意識を保つ。
「ソラさんみたいに出来ないかもしれないけど、あげはちゃん達と一緒に、負けないくらい一生懸命にやりますから・・・・だから・・・・!」
腕が、ほどかれた。
見えた顔は、やっぱり涙でいっぱいで。
今も雫が落ちてきていたけれど。
向けられていたのは、こちらが泣きたくなるくらいの優しい微笑みで。
「今は、わたしに守らせてください。世界で一番大好きな、わたしのヒーローさん」
・・・・なん、で。
どうして、まだ、そんな。
「――――プリズム!!」
ブラックペッパーの声に、思わず一緒にそちらを見る。
ここでやっと、敵がまだ健在であることを思い出した。
視界で確認できたのは、再び倒れ伏した仲間達と。
「
剣を振り上げる、ランボーグ。
「
放たれた斬撃を前に、いち早く動いたのは。
プリズムだった。
◆ ◆ ◆
意の一番に飛び出した彼女は、いつもの光弾を七つ生み出す。
薄く伸ばして、やや湾曲したバリアを七枚作り上げると。
両手と共に、前方に展開した。
「ぅぅうううう――――!!」
その内五枚が一瞬で砕け散った。
耐えている六枚目も、五秒と経たないうちに割れる。
「ああああああ・・・・!!!」
踏ん張った足が、地面を削って後退していく。
プリズムは死力を尽くして耐えるが、最後の一枚にも無常に亀裂が走っていっている。
破られるのは、時間の問題だろう。
「ブラックペッパー、その子を連れて行ってください」
・・・・あの子が、逃げないのは。
自分達がここにいるからだ。
自分達がここにいるから、踏みとどまっている。
それを理解しているから、ソラはブラックペッパーに離脱を促した。
「ソラさん、あんたは・・・・!?」
「いいから!」
実際、ソラはすぐに動けそうにない状態を自覚していた。
どうせ無事で済まないのなら、何の関係もない子どもだけでも。
「私もすぐに行きますから!早く!!」
「ックソ!!」
極光を前に苦い顔をしたブラックペッパーは、子どもを抱えて撤退していく。
それを見送ったソラも、ただちに後に続こうとしたが。
やはり、体は上手く動いてくれなかった。
内臓が零れる心配がなくなったとはいえ、ダメージが全快できたわけではないのだ。
「っぐ・・・・!」
なんとか膝を立てたが、それ以上にはなかなかいけない。
まごついている場合はない。
こうしている間にも、バリアの亀裂は大きくなっている。
(はやく、はやくしないと)
(――――ましろさんが!)
言うことを聞かない体に苛立ちながら、諦めず動こうとしていた。
その、目の前で。
「きゃあっ!!」
最後の一枚が、半分砕け散った。
極光がプリズムの右腕を掠めて、一瞬でズタズタにしてしまう。
残った左手でなんとか耐えているが、もはや一刻の猶予もない。
「ッましろさん!!」
――――熱気に晒される中。
背後からの声に、プリズムは振り向く。
「逃げて!!もういい!!私はいいから!!お願い、貴女だけでも!!」
こちらを案じて、叫んでくるソラに。
プリズムは、泣きたい気持ちで目を細めた。
――――どれほどの。
どれほどの傷を負ったのか、自覚はあるのだろうか。
今プリズムが去れば、残された自分がどうなるか分かっているだろうに。
それでも、自分よりもこちらを心配してくれる。
ずっとずっと、守ってくれたから。
助けてくれていたから。
だから、自分もそうしたかった。
(そう、したかったな)
――――最後のバリアが、飴細工の様に砕けていく。
もう、持たない。
「――――」
刻一刻と、極光が迫る中。
ふと。
いつかの夢うつつが、頭を過ぎって。
「――――好きです」
気付けば、そう口にしていた。
「わたしが出会った、あなたが好きです」
――――取り返しのつかないことをしてしまったと。
涙していたあの姿。
果たしてあれはなんだったのか、プリズム自身もよく分かっていなかったが。
これは、伝えるべきものだったと。
妙に納得がいった。
「ソラさん」
自然と浮かんでいたのは、笑顔だ。
「お元気で」
最後の欠片が、割れる音がした。
◆ ◆ ◆
――――何を、している。
何を、這いつくばっている。
立て、立て。
立て!!!!!
「――――ぁあ」
一秒でも早く、一瞬でも早く。
あの子の下に行け!!!
「――――あああ」
死なせるな!!!絶対に死なせるな!!!
この手が血に濡れてもなお。
呪ってしまってもなお。
力を失ってもなお!!
ヒーローと呼んでくれるあの子を!!
ましろさんを!!!!
死なせるな!!!!
「――――ああああああ」
資格がないからなんだ、変身出来ないからなんだ。
構うものか!!知ったことか!!
動いて、立って、走って!!
あの子を守れ!!
「あああああああああああああああ!!!!!」
一歩一歩が、長く感じる。
いつもならほんの一瞬で詰められる距離が、遠いにも程がある・・・・!!
こうしている間にも、ましろさんが危ないのに・・・・!!
(――――いや!!!)
否!!否!!否!!
諦めてたまるか!!!
みすみす死なせてたまるか!!!
――――ヒーローになりたい。
虫がいいのは分かっている。
――――ヒーローになりたい。
もはや名乗れないのは分かっている。
だけど・・・・!
――――ヒーローになりたい。
死ななくていい命を、傷つかなくていい心を。
何より!!
未だそう呼んでくれるあの子を!!!
守りたい!!
――――その為に!!!!!!
「――――ヒーローに!!」
「――――なりたい!!」
「――――スカイミラージュ!!」
「トーンコネクトッ!!」
「ひろがるチェンジ!!」
「――――スカイッ!!」