「はぁっ・・・・!!」
「スカイ!大丈夫!?」
黒煙に呑まれ、沈黙したミノトン。
敵が倒れたか否かを確かめるのもままならず、スカイはがっくり膝をつく。
駆け寄ったバタフライは、滝の様に流れた汗が小さな水たまりを作ったのに気が付いた。
「やっぱ消耗激しいんだね」
「ええ・・・・使いどころは考えないと・・・・げほ・・・・」
(いや、キッッッッッッツ!!死ぬ!!)
ぜいぜいと呼吸を乱し、疲労困憊なスカイ。
そんな彼女を、バタフライが介抱しようとした。
その時、
「ぬぅおあああああ!!」
咆哮が上がって、黒煙が吹き飛ばされる。
驚愕と共に視線をやれば、自らの足で立つミノトンの姿が。
「ものすごいタフじゃん・・・・!」
「特盛にやる気満々って感じね」
「戦意は衰えていないか」
「ええ、厄介な・・・・」
揃って苦い顔で相手を見据えていると。
「――――く、ふふふ」
ミノトンは、肩を震わせる。
その口元は、獰猛に吊り上がっていた。
「ふは・・・・ふゎはははははははははははははははははッッッッ!!!!!!!」
「うわ」
「ものすごいテンション・・・・」
バタフライとローズマリーが慄く中、興奮冷めやらぬミノトンは大声を張り上げる。
「良し!!その信念!!その太刀筋!!実に良し!!」
胴体を袈裟切りにされ、深手を負っているにもかかわらず。
指を突き付けて。
「決めたぞキュアスカイ!!貴様との戦いは!!決着は!!宿命である!!」
(そんな宿命ヤダーッ!!)
言葉を返す余裕もなく、ただ睨むことしか出来ないスカイを置いてけぼりにして。
ミノトンは拳を握りしめる。
「武の極致へ至るのは!!我か!!貴様か!!決着は預けるぞ!!ミノトントン!!」
言いたいことを言い終えると、アドレナリンが切れたのか。
傷口を押さえながら、撤退していったのだった。
「また、七面倒なのが・・・・」
「今度の相手は、随分アクが強そうだねぇ」
やや回復してきたスカイは、深く深くため息をつきながら立ち上がる。
使用時間が極端に短かったためか、動くことはなんとか出来る様だ。
「お疲れ様、今フィールドを解くわね」
「はい、ありがとうございました。ローズマリーさん、シナモンさん」
「ありがとーございました!ものすごい助かりました!」
「ああ、間に合って良かったよ」
『おいしーなタウンの借りは返せたかな』と、微笑むシナモンに。
スカイとバタフライが頭を下げる。
「だいぶ手こずっちゃったね。スカイ、お参りいけそう?」
「はい、でも、その前に花束も探さないと・・・・」
「そうだった、無事だと良いけど・・・・」
フィールドが解除されて、元の風景に戻る。
ミノトンと遭遇した地点へ戻ろうと、二人が振り向くと。
「――――お疲れ様です、大丈夫でしたか?」
にっこり笑う、プリズムがいて。
「「――――ヒュゥッ」」
大人二人の、喉が鳴った。
――――今回の騒動を聞いたウィングとプリズムの二人は。
まだ眠っているエルを城の衛兵に託して、事情を知るエクリプスと一緒に駆け付けてくれたらしい。
「――――もうっ!!なんでそんな水臭いことするんですか!?」
さて、脅威も去ったので変身を解いた一同だが。
今回共謀(?)したソラ、あげは、ベリィベリーの三人は。
ぷりぷり怒るツバサの前に正座させられていた。
「知らないところで危険な目に遭って、どれだけ心配したと思ってるんです!?僕達そんなに頼りないんですか!?」
「ッはい!異議あり!!」
ツバサの物申しに、あげはが勢い良く手を上げる。
「まず、頼りないとかそういうことはないよ。ツバサくんもましろんも、本当に頼りにしてる!」
「じゃあなんで相談してくれなかったんですか!」
「だって元々想定されてたトラブル、ランボーグやアンダーグ帝国とはわけが違うもん」
あげはの言う通り、元は献花台に赴いて追悼の祈りを捧げることが目的だった。
洗脳されていたからこそ、なおのこと自らの足で赴くことを決めていたソラ。
ここクシザスには、スカイランド以上にソラの被害に遭った人々が大勢いる。
石や魔法で攻撃されるのは、十分に予想出来ていた。
だからこそソラは、始め一人で行こうとしていたのだ。
あげはの同行を受け入れたのは、同じ大人であることが大きい。
・・・・ただの『悪』では、片付けられない敵意に。
ツバサやましろ、エルを巻き込むわけにはいかなかった。
「私がソラちゃんの立場でもちょっと躊躇するよ」
『ね?』と目を向けられたソラは、黙ってこくこく頷く。
・・・・その後ろから。
目が据わったましろが、首周りをひたすらぺたぺた触っているのだが。
漂わせている威圧感に、誰も触れられないでいる。
「そもそも、すぐ終わらせるつもりだったのに、あのミノトンとかいうやつが急に絡んできたんだよ!?そんなの予想できなくない!?」
片手を振り上げて、一生懸命弁明するあげはだったが。
「アンダーグ帝国の襲撃が予想出来ないなんて、そんなのいつものことじゃないですか!」
「それもそうだね・・・・」
ツバサの反論に、すぐ撃沈してしまったのだった。
「・・・・その」
ここで、ベリィベリーがおずおず口を開いた。
目を向けているのは、ましろだ。
「ましろは、何をしているんだ?」
「うん」
意を決して、質問してみると。
「首輪とリードを検討してて」
「首輪とリードを検討してて???????」
帰って来た返答に、全員が宇宙と猫を背負ったのだった。
「――――おや、こんなところにいた」
困惑に会話が途切れたタイミングで、彼らにかかる声。
振り向くと、ソラとあげはが訪ねた花屋の老婆が。
二人が止むを得ず置いていった花束を抱えて、歩み寄って来ていた。
「今回ばかりはさすがに災難だったね」
「わー!ありがとうございます!」
「すみません、助かりまッ・・・・あ"ッ!」
すんなり立ち上がったあげはとは対照的に、ソラは崩れ落ちてしまった。
やはり体に疲労が蓄積していたようで、足をつったらしい。
「うごごごごご・・・・!」
「・・・・聞いたよ、街を守ってくれたって」
野太いうめき声を上げて悶絶するソラを見下ろして、老婆は穏やかに語り掛ける。
その言葉に、一瞬虚を突かれたソラもまた。
穏やかな笑みを浮かべて。
「・・・・もとより、それが本懐故」
「・・・・そうかい」
嚥下する様に、小さく頷いた老婆は。
ソラへ花束を手渡した。
散った花は除かれて、丁寧に整えられているのが分かる。
ちなみに、青鳥草は無事だった。
「すみません、せっかく綺麗な花束だったのに」
「なぁに、別にやろうと思ってやったんじゃないだろう」
痛みを堪えて立ち上がるソラ。
目の前の老婆は、ずっとずっと下に顔があるのに。
向けられる微笑みが、彼女がずっとずっと『大きい』存在であることを雄弁に語っていた。
「せっかくだから、ついでに一つ頼まれてくれないかね?」
「頼み、ですか?なんでしょう?」
首を傾げるソラへ、老婆は笑顔に得意げな雰囲気を混ぜて。
「仕事も終わったから、帰りに献花台に寄りたいんだ。ちょいと付き合ってくれないかね?」
「・・・・そういうことであれば、よろこんで」
「僕達も行きますからね!」
騎士の様に深々と一礼するソラに続いて、ツバサも宣言したことで。
全員で行くことになったのであった。
◆ ◆ ◆
――――翌朝。
無事にお参りを済ませることが出来て。
ここでやるべきことは概ね達成したと思う。
・・・・いや、まーた変なのに目をつけられたんだけどさ。
ひとまず被害が広がる前に追い払えたので、ヨシ!!
「昨夜は災難だったな、よくぞ街を守ってくれた」
「は、痛み入ります」
謁見の間。
頭を垂れて、ジークフリート王子の言葉に答える。
・・・・まだ戴冠式は終わらせてないはずだからね。
『王子』呼びでいいと思う・・・・。
「この後スカイランドに帰るのだろう?」
「はい、お世話になりました」
「色々ありがとーございました!」
「ごじゃまーした!」
あげはさんとエルちゃんが、明るい声でお礼を述べて。
和やかな雰囲気になったところで。
今度こそ、帰路につくことになった。
「――――んおっ!?あんたは!!」
城の庭に出て、遊覧鳥の離着陸スペースに行くと。
一羽がこちらに寄ってきて・・・・って。
「貴方は・・・・」
「プリンセスのお誕生日以来やないか!!久しぶりやな、ネエちゃん!!」
この
初めてプリキュアになった日、王都に運んでくれた遊覧鳥さんだ!!
「何々?知り合い?」
「あ、はい!そちらの世界に行った日に、お世話になった遊覧鳥さんです」
「へぇー!こんにちは!聖あげはでーす!」
「おう、よろしゅうな!」
挨拶もそこそこに、背中に乗り込んでいく。
と、ジークフリート王子一家がやってきた。
わざわざお見送りに来てくれたようだ。
「この度は、大変お世話になりました」
「今度は観光にでも来ると良い。お前でも歓迎するぞ、ソラ」
「どうぞ、気を付けてお帰りください」
「ありがとうございます、お許し下さるのなら、是非!」
手を振り返して、今度こそクシザスを発つ。
「――――いやぁ、聞いたで!昨日の晩の活躍!」
「え?」
飛んでいる途中、遊覧鳥さんがそんなことを話しかけて来た。
「新たに現れたアンダーグ帝国の刺客から、スータロスの街を守ったって!スカイランド中が湧いとるんや!!」
「ええっ!?もう知られてるの!?」
「そらぁ、クシザスは『眠らない国』やからな!情報伝達も速いんやでぇ!!」
なんでも、もう今朝の朝刊で一面を飾ったそうで。
一度はキルミラの手先として暴れてしまった私が、すっかり元のヒーローに戻っていることが報じられたそうだ。
「そもそもキルミラ単体でもドエラい悪者やったからなぁ。それを見事討ち取ったネエちゃん達は、スカイランドのヒーローっちゅうこっちゃ!」
「やばぁ、私達有名人じゃん!」
そ、そんなことになってるのか・・・・。
なんか、帰るのが少し怖くなって来た。
だって、確かにキルミラは倒したし、街も守ったけれど。
そんなの、プリキュアとして、ヒーローとして。
当然のことをやっただけで。
そこまで盛り上がって褒められるようなことじゃない、はず、なんだけどな・・・・。
「まあまあ!難しい顔しなーい!まずは最初の課題クリアをお祝いしよー!」
「うわわっ」
不服が顔に出てしまっていたのか、あげはさんに飛びつかれてしまった。
「帰ったらちょっとしたパーティもしちゃう?」
「もう、はしゃぎすぎですよ」
「そうだな、落ちたらどうするんだ?」
「あはは、ごめんごめん!」
『てへぺろ!』と額を叩くあげはさんと、その物まねをするエルちゃんに癒されながら前を見る。
スカイランドの王都が、少しずつ近づいてきていた。
次回、やっっっっっっっと原作24話です(白目)