「いた・・・・!」
暴走してしまったましろの鳥を追って、同じく鳥を駆るソラ。
走り始めてほどなく、ましろの後ろ姿を捕捉した。
乗っている鳥は未だ暴走しているらしく、すっかり怯えた様子のましろは手綱どころか首にしがみついているのが見える。
「ェイヤッ!」
「グワーッ!」
ソラはあぶみで横腹を叩き、更に鳥を加速させると。
ましろの鳥の真横に並んで、
「ふっ!」
「ぅわっ!?ソラさん!?」
飛び乗った。
「掴まってください!」
「は、はい!」
右手で手綱を握り、左手で後ろからましろを支えたソラ。
「グエーッ!!」
「どーうどうどう!」
当然鳥は暴れ始めるが。
ソラはしっかり姿勢を保って乗りこなしながら、根気強く手綱を引き続ける。
がくんがくんと激しく揺れるロデオの中で、今度はソラにしがみつくましろ。
もちろん、密着している状態だとかを、気にする余裕なんてない。
「どうどうどう、どーどーどー!」
「グエェ・・・・」
宥められ続けて、危険はないことが段々分かって来たのか。
鳥は段々と大人しくなって、無事立ち止まったのだった。
「と、とまってくれたぁ・・・・!」
「ましろさん、お怪我は?」
はぁーっと安堵の息をつくましろに、ソラが安否を問いかける。
「はい!ありがとうございました!」
「いえ、むしろすみませんでした。『暴れない』と言ったばかりだったのに」
「ふふ、そういえばそうですね」
腕の中の彼女が、無傷であることに心底安堵しながら。
測らずとも嘘をついてしまったと、落ち込んでしまったソラ。
すぐに切り替えて、自分が乗って来た鳥の行方を捜し始めると。
「――――ソラ、ましろさん」
「シャララ隊長!」
ちょうど、シャララが手綱を引いて連れてきてくれているところだった。
「見えていたよ、災難だったな」
「はい、私がついていながら、面目ない・・・・」
「あの、ソラさんはすぐに助けてくれたので・・・・!」
しょんぼりするソラだったが。
彼女が悪いとはとても思えなかったましろは、必死にフォローを入れる。
「ああ、分かっているとも。被害が出る前に、よくやった」
「・・・・はい!」
その様子を、微笑ましそうに目を細めたシャララは。
笑顔と共に答えて。
対するソラは、ほっとした顔で敬礼したのだった。
「とはいえ、鳥もましろさんも、一度休めた方がいいな」
改めて、憔悴している鳥とましろを見比べて、提案したのだった。
◆ ◆ ◆
「ぷはー!おいしー!」
鳥と一緒に水を飲んで、ぺかーっと明るい顔になるましろさん。
うんうん、一時はどうなるかと思ったけれど、何とかなってよかった・・・・。
ちなみにこの川は、こうやって一休みする時に使われている。
動物はもちろん、人間が口にしても大丈夫なお水でっせ!!
「そういえば隊長、お体の方は大丈夫ですか?」
鳥達の様子も見ている傍ら。
ふと気になったので隊長に話しかけた。
「ランボーグとして浄化された直後から、働き詰めだと聞いたのですが・・・・」
「何、心配はいらない。私を誰だと思っている?」
「・・・・なるほど」
・・・・いや。
本当は、昨日まで休んでいたのを知っているんだけども。
これ以上突っ込むのは野暮だと感じて、頷いておくことにした。
「・・・・ソラ」
鳥と戯れ始めたましろさんを見守っていると、シャララ隊長が口火を切ったのが聞こえた。
なんだろうと思いながら振り向くと、隊長が静かに微笑みながら私を見つめてきている。
「よくぞ、戻って来た」
「・・・・ましろさんの、仲間達のお陰です」
そうだ。
結局のところ、私一人で成し得たことなんて何一つなくて。
キルミラの洗脳から脱したのも、昨夜クシザスで戦ったのも。
・・・・エルちゃんを、これまで守れてきたのも。
全部、全部、全部。
色んな人達の手助けがあったからこそだ。
「どれほど剣の腕を磨こうと、出来ないことは星の数ほどにある・・・・頭で分かっているつもりでも、真に理解出来ていませんでした・・・・今も、そうです」
「ははは、そう卑下するな」
会話に気が付いたましろさんが、心配そうに見てくる中で。
『気持ちは分からんでもないが』と、苦笑いした隊長は。
こちらに歩み寄って、肩を拳で叩いてくれて。
「『立ち止まるな、ヒーローガール』」
「・・・・ッ!?」
「そう伝えたはずだぞ、ソラ」
・・・・託すように当てられた拳は、温かく、力強く。
そして、向けられる瞳は。
とても穏やかで。
「人との出会いが世界を広げ、繋いだ絆が新たな自分に出会わせてくれる・・・・そうだろう?」
「・・・・はい」
『見守られている』と、分かったから。
胸がぽかぽかすると同時に、なんだか照れくさくなって。
思わずほっぺたを掻いてしまった。
「――――おーい!ソラさーん!ましろちゃーん!」
「あ、ゆいさん!」
と、そこへ。
名前を呼ぶ声が聞こえたので振り向くと、ゆいさんが鳥に乗って土手を降りてきている。
「さっきはごめんね!大丈夫だった!?」
「はい!ソラさんもすぐに助けてくれたので!」
「よかったぁ~!」
ましろさんの無事を、心から喜ぶゆいさん。
土手をもう一度見上げると、他の仲間達も次々駆け寄ってきている。
シャララ隊長に微笑まし気な視線をもらいながら、私も彼らに合流する。
◆ ◆ ◆
スカイランド城、子ども部屋。
如何に国を治める国王と言えど、その肩書を外せばただの人である。
数々の試練を乗り越え、やっとのことで作れた家族の時間。
広い画用紙に、クレヨンでぐりぐりお絵かきする我が子を。
国王夫妻は微笑まし気に見守っていた。
「どれどれ、見せてごらん?」
埋まって来た画用紙を覗き込んで、何が描かれているか見てみる。
「おおっ!これは、私と王妃ではないか!」
「まあ、お絵かきが上手ねぇ」
「ぱぁぱ!まぁま!」
まず目についたのは、自分達の似顔絵だ。
拙いながらもちゃんと特徴をとらえたタッチに。
二人の顔が自然とほころぶ。
「他には、何を描いたのだ?」
絵は他にもある。
国王と王妃は、一緒になって覗き込んだ。
「これは、何かな?」
次に気になったのは、黄色い何か。
全体的に、四角い形をしているように見える。
エルに問いかけてみると、
「ぶーぶー!」
そんな言葉が返って来た。
「ぶー、ぶー?・・・・はて、なんだろうか」
スカイランドではなじみのない言葉に、国王は首を傾げる。
「これは誰かしら?」
気を取り直して、今度は王妃が問いかける。
「ばぁば!」
「まあ、ヨヨ殿ね!」
もう半年も世話になっていることも有り、『ばぁば』の愛称が定着するくらいにすっかり懐いていた。
「これは?」
「えるのおうち!」
「ここも、プリンセスのおうちなのだけれど・・・・」
その次に見たものは、恐らくあちらの世界のヨヨ宅なのだろう。
躊躇いなく『おうち』と言い切る娘を前に。
それだけ安心できる場所であると、安堵すると同時に。
この城でなかなか過ごせていないという事実を突き付けられたようで。
なんだか複雑な気持ちになってしまった。
「これ!」
そんな両親の胸中を知ってか知らずか、エルは次の絵をペチペチ叩いて示す。
描かれているのは、五人の顔。
「おや、プリンセス。これは?」
「ぷりきゅあ!」
国王の問いかけに、楽しそうに答えたエルは。
おもむろに立ち上がって、ピンクのクレヨンを握る。
「すかいみあーず!とーんねくと!」
「「わぁー!じょうずー!」」
「きゃふふっ!」
プリキュアの真似をしているのだと、すぐに分かった夫妻は。
ぱちぱちと拍手をして娘を誉めた。
「ひろがゆすかい!」
拍手と笑顔が嬉しくて、もう少しだけ真似っこを続けるエル。
「ぷりきゅあ!」
キリッとクレヨンを掲げた、その胸に。
きらりと瞬く、光が宿って。
弾ける。
「えゆ!?」
「ああ、プリンセス!」
危うく倒れる我が子を咄嗟に抱き留めた国王は、王妃と目を合わせた。
「・・・・今のは」
父に抱擁されて、嬉しそうに笑うエルを横目に。
彼らは同じ記憶を思い出す。
「あの時と、同じ光・・・・」
――――一年前の、一番星を。
当時は、一番星とかエルちゃん周りについて不穏な想像をしたりしましたが。
全然そんなことなくてよかった・・・・本当によかった・・・・。