誠にありがとうございました。
「わぁ!こっちにもボールドーナツあるんだ!」
気を取り直して、改めてましろさんの乗馬ならぬ『乗鳥』練習も終えた後。
『自分が切欠だから』と、ゆいさんがおやつをおごってくれた。
小さな箱を開けると、一見ボールドーナツに見えるものがコロコロしていたけれど。
「やだなぁ、ましろさん。ドールボーナツですよ」
ボールドーナツと、ドールボーナツ。
名前も味も酷似してるんだよな・・・・。
「どーなぼーる・・・・?」
「ドール、ボーナツです」
「ど、どー・・・・?」
ツバサくんに名前をレクチャーされているけれど、ましろさんは上手く発音出来てなかった。
分かる分かる・・・・初めて聞く単語って、上手く発音出来ないよね・・・・。
『スパゲッティ』みたいな簡単な単語を、詰まらずに発音出来た者だけが。
ましろさんを嗤いなさい・・・・。
ちなみに私は出来なかった・・・・。
向こうで久々に見た時、『スカペッピー』みたいな発音しか出来なかった・・・・。
「まあまあ!とにかく食べてみよ―!」
あげはさんの音頭で、とにかく食べてみる。
「うーん!デリシャスマイルー!」
「プニ麦粉の香ばしさと、
ゆいさんとらんさんは、破顔してボーナツを頬張り。
「向こうのごはんと、違うところはあるけれど、おいしい・・・・!」
「はい!おいしいです!でもやっぱり、いつも食べてるドーナツと、何か違うような?」
「異世界だからだろうな。どのお料理も、間違いなくおいしいが」
ましろさんやここねさん、あまねさんは。
ボールドーナツとの味の違いに、興味津々だった。
拓海くんは静かに味わっている。
「私には、いつもどおりのボーナツですが」
「ああ、ボーナツといえばこの味だ」
ツバサくんも無言で頷く。
・・・・最初の頃は、さすがに戸惑いもあったけれど。
今ではすっかり慣れたボーナツの味。
だけど、やっぱりましろさんやあげはさんからすれば。
ほんの少し違和感を感じる不思議な味なんだろう。
「・・・・やっぱり、違う世界なんですね」
突き抜けるような青空を眺めて。
ましろさんが、ぽつりと零す。
「ソラさんとツバサくん、ベリィベリーさんに、私とあげはちゃん。見た目は変わらないのに、別々の世界の人なんだなぁって」
前髪が心地よい風に揺らされる中。
綿毛が飛ぶのが見える。
「奇跡みたいだなぁって思うんです」
とつとつ語られる心情は、一つ一つを噛み締める様で。
「絵本に出てくるようなお城があって、不思議な鳥さんに乗ったのも、不思議なドーナツを食べたのも・・・・みんなと、出会えたことも」
ちょうど落ちて来た綿毛を受け止めながら、彼女は祈る様に言うのだ。
「この奇跡が、ずっと続くといいなぁって・・・・」
――――その。
誰もが抱く、ささやかな願いが。
温かくて、微笑ましくて。
抑えきれない愛しさを、笑顔になって零してしまっていた。
「――――いた!おーい!」
そこへ、かけられた声。
振り向くと、アリリ副隊長が鳥に乗ってやって来てる。
「副隊長?」
「どうしたんですか?」
何事かあったんだろうか。
ベリィベリーさんと一緒に立ち上がって、出迎えると。
「王様と王妃様がお呼びだ」
「両陛下が?」
鳥に乗ったまま、そんなことを伝えてくれたのだった。
「何か困りごとでしょうか?」
「それ、あたし達も行った方がいいですか?」
私と同じく、何か困りごとかと思ったのか。
ゆいさん達も立ち上がってくれたけど。
「いや、君達クッキングダムのプリキュアはそのままでいい」
『ありがとう』と、案じてくれたことにお礼を告げる副隊長。
・・・・私達ひろがるスカイチームだけっていうことは。
何か、国の秘密的なものを伝えられるんだろうか。
「片付けはこちらでやっておく」
「うんうん!遠慮せず行ってあげて!」
「ありがとうございます、みなさん」
あまねさんやらんさん他、デリシャスチームのお言葉に甘えて。
私達は鳥に乗り込んだ。
「勇敢なるプリキュアの諸君よ。そなた達に何度も救われた」
通された謁見の間。
まずはそう一礼する両陛下。
「私達の呪いを解いてくれたこと、今日までプリンセスを守り抜いてくれたこと、改めて心より感謝する」
「本当に、ありがとうございました」
「ありぁとー」
一緒にエルちゃんもおててを振ってくれて、私達は笑みを零す。
「今日呼び出したのは、他でもない。頼みたいことがあるからだ」
「頼みたいこと?」
何なんだろう、と首を傾げていると。
王妃様が、エルちゃんを抱きしめるのが見えて。
「この子を・・・・プリンセスを、再び貴方達の世界に連れ帰ってほしいのです」
――――そんな依頼を、してきたのだった。
「そんな、どうして!?」
「せっかく、パパとママに会えたのに!!」
「確かに『ミノトン』という新たな刺客は現れましたが・・・・今はシャララ隊長もご健在です、なのに何故!?」
当然、仲間達からも反対の声が上がるけど。
「我々も、可愛いプリンセスと一緒にいたい・・・・だが、この子は、運命の子なのだ」
エルちゃんが運命の子・・・・?
一体どういうことなんだろう。
考えていると、お二人はとつとつ訳を話し出してくれた。
――――それは一年前のこと。
夕暮れ時、あまりの美しさに外に出て眺めていると。
一番星が輝いて、エルちゃんを生み出したらしい。
(リアル『親方!空から女の子が!』やん・・・・いや、それは私もか?)
気を取り直して、耳を傾ける。
一番星がまたたいて、不思議がるお二人に語り掛けて来たそうだ。
曰く『その子は運命の子』。
滅びの運命にあるスカイランドを救ってくれると、そう言ったそうだ。
遠くない内に使命を果たすべく、旅立ちの報せが届く。
その時が来るまで面倒を見る、仮初の親になるようにとも言ってきたそうだ。
断っても構わない、また別の適任者を探すだけだと。
そんな、ちょっと冷たい言葉を投げかけて来たらしい。
始めこそ戸惑ったお二人だけれど、抱き上げたエルちゃんの温もりと、儚さに。
引き取ることを決断したそうだ。
・・・・様々な困難が待ち受けていることを、承知の上で。
――――そして。
とうとうお二人に、覚悟の時が来てしまった。
「エルちゃんが、空から・・・・!?」
話を聞いていた面々は、大なり小なりの違いは有れど。
驚愕を隠せていない。
かくいう私もそうだ。
「そして、プリンセスに再び運命の光が宿った・・・・無情にも、旅立ちの報せを告げたのだ」
ふと。
立ち上がった王様は、王妃様の膝に乗るエルちゃんに歩み寄る。
「本当は、ここで共に暮らしたい・・・・エル・・・・」
涙を流して、我が子を抱きしめる両陛下。
・・・・分かっていたこととはいえ。
その心中、察するに余りある。
私達も、涙は流れないまでも、悲しみを顔に出してしまっていると。
「――――なで、なで」
そんな、拙い声が聞こえた。
はっとなって前を見ると、エルちゃんが両親に手を伸ばしているのが見えて。
「えーんちないよ、いいこ、いいこ」
ちいちゃな両手を、ぱたぱたさせながら。
懸命に、お二人を慰めようとしていた。
「エル・・・・!」
「こんなにも、優しい子になっていたのね・・・・」
王妃様が、あんまりにも嬉しそうな顔をするものだから。
私達も、笑顔になっていた。
「・・・・そうね、きっと大丈夫」
涙を拭って、王妃様がエルちゃんに微笑みかける。
「ここを離れても、貴女には温かな家、守ってくれる家族がいるんだもの」
・・・・家族、か。
そう、名乗っていいんだろうか。
「家族・・・・わたし達が・・・・」
ましろさんも、何か思うところがありそうで。
呟く声が聞こえた。
「アンダーグ帝国は、これからも刺客を以て襲撃してくるだろう」
伺う間もなく、王様が改めて私達を見渡す。
「危険を背負わせてすまぬ・・・・だがどうか、プリンセス・エルを守ってほしい・・・・!」
国王として。
そして、一人娘の親として。
切に、切に。
信じて、頼んでくれる陛下達へ。
「――――は、必ずや」
一歩前に、進み出て。
「これまでにも増して、エルちゃんをお守りします!!」
「僕も、任せて下さい」
頷く仲間達と一緒に、宣言した。
・・・・マナー的には、エルちゃんを『プリンセス』と呼ぶのが正解だろうけど。
お二人は、私達を『もう一つの家族』として。
認めて、見込んで。
覚悟を以て、託してくれている。
だから、認めてくれた『家族』として。
宣言させてもらった次第だ。
「頼んだぞ、プリキュア・・・・」
言葉だけでも、安心してくれたのか。
緊張や悲しみが、幾分かほどけた顔で。
王様は返事してくれたのだった。
◆ ◆ ◆
無事に謁見を済ませた、ひろがるスカイチーム。
デリシャスチームとも合流し、いよいよパレードの出発時間が迫ってきている。
各々が緊張したり、背筋を伸ばしたりする中。
「我々が先導を務めるぞ」
「ありがとうございます!」
シャララが、ソラと向き合って。
言葉を交わす中で。
ソラは、思い出したことがあった。
「あっ」
「どうした?」
思ったよりも大きな声を出した部下に、シャララが首を傾げていると。
「その、私、隊長に謝らなきゃいけないことがあって・・・・」
「なんだ?」
問いかけに対して、ソラは新たな相棒『バーストカリバー』を取り出して、差し出す。
・・・・刀でいう『はばき』の部分にスカイジュエルが埋まってているのだが。
ヨヨが調べてくれた結果、シャララから預かったものだと判明したのだと。
申し訳なさそうに語った。
「なるほど、道理で見覚えがあるわけだ」
「すみません。信じて預けて頂いたものが、こんなことになってしまって・・・・」
改めて頭を下げると、シャララは『ははは』と笑い声を上げて。
「何、気にするな。わざとではないのは分かっているし・・・・」
『何より』と、見せてもらっていた剣を返す。
「元々これは、君がくれたものだからな。こうなることもまた道理だろう」
「隊長・・・・」
――――かつて。
ヒーローとして、青の護衛隊隊長として。
贈られる名声と、己に出来ることの差異に葛藤し、苦しんでいた頃を思い出すシャララ。
それを救ってくれたのは。
たまたま訪れた辺境で救った、一人の少女からの贈り物だった。
決して質がいいとは言えない、小さな石ころが。
彼女に、ヒーローを貫く熱意を最熱させたのだ。
「どうしてもというのなら、そのジュエルに相応しいヒーローを目指せ」
そんな事情を胸中に隠したシャララは。
バーストカリバーを指さして、不敵に笑う。
「君ならできる、大切な仲間がいる、君なら」
「・・・・はい!」
激励の言葉は、上手く届いたらしい。
笑顔を取り戻したソラに、シャララもまた、安堵したのだった。
「・・・・スカイランドは、私が守る。君は君の、ヒーローを目指せ」
「はい!」
――――いよいよ、パレードが始まった。
それぞれ鳥に跨り、開かれた城門をくぐっていく。
「おっ、と・・・・ふう」
「ましろんやるじゃん!」
「えへへ・・・・」
練習でひと悶着あったましろが、上手く乗りこなせていることに。
一同安堵していると。
不意に、辺りが暗くなった。
「む?」
「え、何々?」
何事かと空を見上げると、大きくて真っ黒な雲が鎮座している。
「やだなぁ、いじわる雲かぁ」
「いじわるぐも?」
「晴れた空に一つだけ現れる黒雲のことを、スカイランドでは『いじわる雲』って呼ぶんです」
オウム返しするここねへ、ツバサが説明。
「長時間居座り続けるからな。雨ほどではないが、洗濯物も乾きにくくなる厄介者なんだ」
「主婦の敵って感じだね」
ベリィベリーの捕捉も加わったことで、なかなかの困りものであると理解する面々。
「――――これじゃあ、お祝いが大無しだ」
「――――まあ、せっかくの良き日だというのに」
広場で待っていた人々も、テラスから見上げていた国王達も。
残念そうに眉を潜めている。
それは、パレードをするソラ達も同じで。
「・・・・わたし達で、何とかできないかな?」
そんな中、ましろが意を決して口を開く。
再び両親と離れることになってしまうエルの為にも、スカイランドの晴れた空を見せたい。
彼女の願いに、プリキュア達は諸手を上げて賛成する。
「よおーっしゃ!!それじゃあ手っ取り早くあの雲を追い払っちゃおう!!」
「はにゃー!!やーってやるー!」
それぞれが、変身アイテムを掲げた。
「スカイミラージュ!」
「ルナ・グローブ!」
「トーンコネクト!!」
「ひろがるチェンジ!!」
「プリキュア!デリシャスタンバイ!」
「パーティゴー!!」
それぞれ変身して降り立てば、歓声に出迎えられるプリキュア達。
「――――プリズム」
「はい!まずはわたし達が!」
少しこそばゆい気持ちになりながらも、まずはいじわる雲を追い払うべく。
スカイとプリズムが、手を取り合う。
「「――――プリキュア!!」」
「「アップドラフト・シャイニング!!」」
普段はランボーグに向けられる浄化の光が、いじわる雲に直撃して。
黒雲を晴らしてしまう。
「次は私達の番!ミックスパレット!」
蒼穹を取り戻した空に向けて、今度はバタフライがミックスパレットを構えた。
「何が出るかな?サプラーイズ!!」
紫色の光を当てられて飛び出したウィングは、飛行機雲の様な軌跡を描いて。
空に飛び出す。
「あたし達も!」
「「「「うん(ああ)!」」」」
デリシャスチームも、それぞれ空に技を放てば。
空に描かれた大きなエルの似顔絵の周囲に、色とりどりの花火を添えた。
――――わあああああ!!
大歓声の中。
賑やかになった青空を、バルコニーから眺めていた国王達は。
腕の中のエルを、見下ろして。
「運命が一回りした後は、パパとママの下に帰ってくるんだよ」
「ずっと待っていますよ、エル」
「・・・・ぱぱ!まま!」
握りあう小さな手に。
互いの息災と、無事を祈った。
◆ ◆ ◆
「プリズム!」
「みんな」
取り戻した青空を見上げる彼女へ、駆け寄る。
「・・・・同じ空の下、奇跡みたいな出会いでも。運命で繋がって、わたし達、家族みたいに同じ時を過ごしている」
・・・・もしかして。
さっきの謁見から、そんなことを考えていたのだろうか。
でも、確かに。
決して出会うことがなかっただろう私達が、一堂に会して。
同じ朝、同じ夜を迎えて。
喜びも悲しみも分かち合っている。
この関係性を、『家族』以外の言葉で表すのは。
難しいだろう。
「それが今は、すごく嬉しいんです」
「・・・・今だけではありません」
プリズムや、バタフライの手を取ると。
察してくれたウィングが、同じくプリズムとエクリプスの手を握って。
「これからも、です」
――――エルちゃんの笑顔が輝く空の下。
私達の笑い声が響き渡った。
今回でデパプリチームの出番もおしまいです。