「――――突撃!!」
「ランボーグッ!!!」
ミノトンの号令を受けて、突進してくるランボーグ。
まずは牽制と、プリズムが光弾を発射すると。
あろうことか、ランボーグは大顎で受け止めて、かみ砕いてしまう。
「ええっ!?」
「わぁーっはっは!手負いだからと侮ったな!!」
倒せるとは思っていなかったが、まさか噛み砕かれるのは想定外だったプリズム。
そんな彼女へ、ミノトンは笑い声を上げた。
「我はアンダーグ帝国最強の武人、その我が作り出すランボーグも、また最強なのだ!!」
「ランボォーグ!!」
大顎をかっぴらいて、再び突撃してくるランボーグ。
なんとか足止めしようと、バタフライがバリアを何重にも展開するも。
その全てが、やはり悉く噛み砕かれて行った。
「ちょっ、怖すぎるんですけど!?」
「ソラシドサウルスのモデルは、ティラノサウルス・・・・ティラノサウルスは、顎がすごく強いんです!!」
ミラーパッドで手掛かりを探し出したウィングの言葉を聞いて、スカイとエクリプスが身構えて。
「ならば胴体を狙うのみ!いくぞスカイ!」
「ええ、挟み撃ちです!!」
飛び出した二人は、打ち合わせ通り二手に分かれる。
「肆ノ型 打ち潮!!」
「はああっ!!」
スカイは水を纏った斬撃を、エクリプスは吸血人達も使っていた魔力の刃を雷で再現して。
ランボーグに向かって放ったが。
「ランボーグ!!」
その口の中に、炎が頬張られたのが見えて。
「ッ退避!!」
エクリプスが声を張ると同時に、火炎放射が襲い掛かった。
エクリプスは余裕を持って、スカイはウィングの補助も有り、何とか直撃は免れたが。
高温にあぶられて、肌の一部がやや赤く腫れ上がっていた。
「・・・・ッ!!」
「やあ!!」
二人を睨むランボーグの横合いから、バタフライとプリズムが遠距離攻撃をしかける。
バタフライの直撃に続けるように、プリズムも光弾を放つものの。
ランボーグは高く高く跳ね上がることで回避。
更に、派手に着地することで、攻撃にも転換。
プリキュア達を、巧みに苦戦させていた。
――――戦闘の衝撃で、動物園中が揺れている。
戦いの空気感におびえていた、ふれあいコーナーの小動物達。
「――――!」
振動で開いてしまった出入り口から。
うさぎが一羽、逃げ出してしまった。
◆ ◆ ◆
つ、TUEEEEEEE!!
カバトンじゃないけど!TUEEEEEE!!
さすがはティラノサウルス!
『暴君トカゲ』と日本語訳されるだけのことはある!!
単純にでっけぇのもそうだけど、大顎の咬合力や火炎放射も油断ならねー!!
チクショウめ、『最強の武人』を名乗るだけのことはあるってか!!
「どうしたキュアスカイ!!以前の強さはどこへ行った!?」
「ちょっと!!プリキュアはスカイだけじゃないんだけど!?」
「っは!抜かせ!」
私を煽って来たミノトンへ、バタフライが腕を振り上げて抗議すると。
「足手纏いに気を取られて、刃を鈍らせるなど言語道断!!」
「違うッッ!!!」
仲間達を足手纏いと言われてしまって。
思わず大声が出た。
「私がここに立っているのは、彼らが居てくれたから!!もはやこの手に握る剣と等しい、なくてはならない存在だ!!」
仲間達がいなければ、キルミラの洗脳から戻ってこれなかった。
ましろさんがいなければ、再び立ち上がることは出来なかった。
ずっと信じて、待ってくれたみんながいるから。
私はまた、『プリキュア』を名乗れているんだ。
バカにされて、黙ってられるかよ!!
「次彼らを貶すような言動をしてみろッッ!!骨の髄まで後悔させてやるッッ!!」
そもそも私が力を取り戻せてなかったら、クシザスで『愉しい』戦いが出来てなかったからなオメー!?
握る手に力を込めながら、ミノトンを睨みつける。
対するヤツは、私の反応がお気に召したのか。
また戦意むき出しの獰猛な笑みを浮かべたのだった。
・・・・バトルジャンキーめ。
何を言ってもご褒美かよ。
さてはマゾだな、テメー!?
「スカイの言う通りです!」
「『窮鼠猫を噛む』・・・・よりも、『小鳥も鷹をつつく』の方が通じるかな?甘く見ないことだよ!!」
仲間達も果敢にミノトンに言い返して、メンタルを仕切りなおした。
その時だった。
「ランボーグ?」
不意にランボーグの視線が、こちらから外れる。
何かあるのかと振り向いた先には。
うさぎをぎゅっと抱きしめるエルちゃんの姿が。
「エルちゃん!?」
「いかん!!ランボーグが!!」
そもそも、狙いはエルちゃんを攫うことにあるからだろう。
最悪なことに、ランボーグがそっちに向かって走り出してしまった。
「「「エルちゃん!!」」」」「「プリンセス!!」」
私達も一目散に駆けつけて、ランボーグの前に立ちはだかる。
「陸ノ型・・・・!!」
防衛は仲間達に任せて、私はランボーグを迎え撃とうと構えた。
その背後から。
「ッうさしゃん・・・・まもぅ!!」
「え?」
そんな声が聞こえたものだから、思わず振り向いた。
見ると、エルちゃんのちいちゃな手に木の枝が握られていて。
――――お前は倒す!!ましろさんは守る!!
――――赤ちゃんだって、お父さんとお母さんのところに帰す!!
脳裏。
『始まりの日』の記憶が、蘇る。
「ランボーグ!!」
「ッ・・・・!!」
ランボーグの咆哮で我に返り、すかさず構えなおした隣。
何故かミノトンも降り立ったのが見えた。
「電轟雷轟!!」
「武乱怒!!
問いただす間も惜しいので、とりあえず技を放てば。
ミノトンと一緒にランボーグを吹っ飛ばす形になってしまった。
・・・・いや、なんで??????
「――――強者に立ち向かうその心」
スペースキャットになっている目の前。
ミノトンはエルちゃんへ振り向いて。
「赤子の身ながら、天晴!!!!!」
でけぇ声を出したのだった。
・・・・いやいやいやいやいや!?
「何のつもりです?貴方達の狙いは、エルちゃんのはず!!」
「赤子に牙を向けるなど、武人のすることではない!!」
油断なく切っ先を向けると、ミノトンはじろりと目を向けて言い切った。
「プリンセス・エルは、貴様を下し、残りのプリキュアも倒してからで良い!!」
指が、向けられる。
まるで、私の心臓に狙いを定めている様だ。
「我はずっと待ち望んでいたのだ!!貴様の様な強者と、死力を尽くして戦うことを!!」
言いたいことを言い終えたのか、ミノトンはランボーグの隣まで飛びのく。
すぐに号令をかけて来るかと思ったけれど、こちらを睨むだけだ。
「ッ今のうちに、エルちゃんとうさぎさんは安全な所に!」
「える!」
何にせよ好機と受け取っていいだろう。
プリズムが素早く避難を促すと。
飛行形態のだっこ紐に、うさぎさんを乗せたエルちゃんは。
頷いて飛び去ってくれたのだった。
ひとまず、一安心だな・・・・。
「仕切り直しだ、行けぃ!!ランボーグ!!」
「ランボーグ!!」
・・・・どうやら、エルちゃんが下がるまで待っていてくれたらしい。
それはそうと、倒すけどな!!
「はあっ!!」
バタフライが手をかざして、バリアでランボーグを足止めする。
動きは封じたけれど、下手に近寄ればさっきの二の舞だ。
どうするか・・・・!
「口がダメなら、尻尾だ!!」
悩んでいる私とは対照的に、エクリプスが飛び出した。
「バタフライ!頼む!」
「オッケィ!!」
動けないランボーグの頭上へ軽々飛び上がると、バタフライがミックスパレットでパワーアップを飛ばして。
エクリプスの腕力を強化する。
「おおおおおおお!!!」
そのまま宣言通り尻尾を引っ掴んだエクリプスは。
雄叫びを上げながらランボーグを振り回して。
「ダアアアアアッ!!!」
「ランボーグ!?」
地面に、思いっきり叩きつけてしまった。
うひゃー、痛そ・・・・。
「よし、アゲてくよウィング!!」
「はい!」
ミックスパレットを持っているからだろう。
バタフライとウィングは、そのままタイタニック・レインボーを発動。
動けないランボーグに、容赦なくぶち当てて。
「スミキッター・・・・」
浄化してしまったのだった。
「うむ、それでこそ我が戦うにふさわしい・・・・ミノトントン」
ミノトンも撤退して、壊れたものが元通りになっていく。
今回も、何とか出来てよかった。
――――それにしても。
さっきのエルちゃん・・・・。
◆ ◆ ◆
「――――そっか。さっきのエルちゃん。ソラちゃんの真似してたんだね」
「ええ、剣のつもりか、小枝も持っていましたし・・・・」
「なるほどー!」
仕切り直しにやってきたふれあいコーナー。
先ほど助けたうさぎに、餌を上げるエルを見守りながら。
ソラとあげはは、先ほどの出来事について話す。
「危ないことは、真似してほしくないのですが・・・・」
困っているような、照れくさいような。
そんなくすぐったい気持ちで、うさぎと戯れるエルを見つめるソラ。
向ける眼差しは、温もりに溢れていた。
「・・・・ぉ?」
と、誰かの泣き声が聞こえて来た。
そろってそちらを見ると、エルと同い年くらいの女の子が、お父さんの後ろに隠れて泣いている。
おそらく、初めて間近でみるうさぎが怖くなってしまったのだろう。
困った様子のお父さんが、なんとか宥めようとするも。
女の子は泣き止みそうにない。
「ん、しょ」
するとそこへ。
エサ入れを持ったエルが、歩み寄って。
「どーじょ!」
女の子に、野菜を一つ分けた。
始めこそ及び腰だった女の子は、うさぎが野菜を食べる様を見ている内に。
みるみる笑顔になって。
「なかよち!」
つられるように、エルもまた笑顔を浮かべた。
「――――ぁ」
一連の出来事を見守っていたましろの脳裏に、絵本のコンクールの記憶がよみがえる。
――――あーい!なかよち!
賞こそ取ることは出来なかったものの。
エルが笑顔になってくれて、ほっとした。
あの日に込めた祈りが、エルに届いていたのだ。
「エルちゃん・・・・!」
「前は、こんな風に譲ったり出来なかったのに・・・・!」
「ましろんの絵本が、エルちゃんの心に届いたんだよ」
エルの成長に、目を潤ませてしまっているツバサと一緒に。
胸がいっぱいになるましろ。
「――――エルちゃんは」
女の子と仲良くなっているエルを見つめながら、ソラが口を開いた。
「私達が気付かないうちに、色んなことをたくさん受け取ってくれてたんですね」
「はい・・・・!」
――――これからもきっと、『これでいいのかな』と悩み続けるだろう。
しかし、優しく育ってくれているエルを見て。
『今はこれでいいんだ』と安堵を覚える一同なのであった。
「今はひとまず、これで大丈夫そうですね」
「ああ、我々なりの答えを、これからも考えていこう」
「うん!みんなで見守っていこう!」
ソラと、ベリィベリーの言葉に。
誰もが頷き合って、笑みを浮かべる。
――――その、陰で。
(エルちゃん、すくすく育ってくれるといいなぁ)
安堵する、ソラの耳元。
「ゆるさない」
声が、聞こえた。
◆ ◆ ◆
――――動かない。
死んでいる、事切れている。
近くの屍と、遠くの屍。
どれもこれも知っている顔だ。
あげはさん、ツバサくん、ベリィベリーさんに、ヨヨさん。
バイト先の社長、女将さん、鉄郎くん。
エルちゃんも。
みんな、みんな、みんな。
一様に物言わぬ物体に成り果てていて。
「――――は」
見下ろした自分の両手は、真っ赤になっていた。
「――――は、は、は、は」
暗闇の中、目が覚める。
幻覚と分かっていても、文字通りの夢幻だと分かっていても。
今しがたの光景が、頭にこびりついて。
「ぐっ・・・・ぼ・・・・!」
なんとか手足を動かして、這う這うの体でトイレに駆け込む。
「お、ぇ・・・・ごぼっ・・・・!!」
首元と横髪が汚してしまいながら、吐き出した。
「ひゅ、ひゅ、ひゅ・・・・おげぇ・・・・!!」
今日の晩御飯が無くなり、酸っぱい胃液だけになっても。
嘔吐は止まらない。
「か、っひゅ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・!」
やっと止まった頃には、もう空が白んで来ていて。
「は・・・・は・・・・は・・・・!」
項垂れながら、浅く速く呼吸する。
――――例え、仲間の下に帰れても。
許してくれる人がいても。
自分の罪は、決してなくなりはしないことを。
今更に自覚した。
この主人公、よく吐くなぁ・・・・()