誠にありがとうございます。
「なかなか見つからないな、シーグラス」
「長い年月をかけて生成されるものですからね、中々見つからないのも頷けます」
「ペェ・・・・」
すこやか市。
ツバサとベリィベリーは、ペギタンもかつてよく来ていたという海岸に来ていた。
初めての大海原に感動するのもそこそこに、砂浜の漂着物を物色する三人。
目的はシーグラス。
プレゼントについて話し合った結果、ペギタンはシーグラスを集めて小瓶に入れることになったのだ。
「でも、諦めないペェ!」
「ああ、その意気だ!」
「僕達もとことん付き合いますよ」
百円ショップで手に入れた小瓶を片手に、闘志を燃やすペギタン。
それを見て、ツバサとベリィベリーも笑顔を零した。
と、
「――――こんにちは」
「ピェッ!!」
背後からの声に、ペギタンは短く悲鳴を上げて。
ツバサのバッグに入り込む。
「あなたは、確か・・・・ちゆさん」
「突然ごめんなさい、見かけたものだから」
その鋭敏な動きに、ベリィベリーが感心する横で。
話しかけて来た人物こと、ちゆは。
柔らかく微笑みながら歩み寄ってきた。
職務中ではないからか、口調も砕けたものになっている。
「お二人は、ここで何をしていたの?」
「えっと、その・・・・」
「ある人からの頼みで、しーぐらす?を集めていたんだ」
「・・・・そう」
言い淀むツバサをフォローして、ベリィベリーが訳を話せば。
ちゆは目を細めた。
その表情は、嬉しそうにも寂しそうにも見える。
「それ、私も一緒にいいかしら?」
「え?」
ツバサがそれを指摘する前に切り替えた彼女は、そんなことを提案してきた。
「実家が旅館だからかしら、誰かが笑顔になれるのなら、積極的に手伝いたいの」
『ダメ?』と問いかけてくるちゆに、ますます困った顔をするツバサ。
彼女の申し出はごくごく自然なものだし、なんなら褒められるようなものだ。
だが、依頼人でもあるペギタンが、極力会わないように努力しているのである。
それを無下にしていいものか、と悩んでいると。
「――――いいんじゃないか?」
ベリィベリーは、そんなことを告げた。
「ベリィベリーさん?」
「人手は多いに越したことはない」
『それに』と声を潜めて。
「ここで突き放すのも不自然だろう」
「・・・・それも、そうですね」
バッグの中で震えて抗議してくるペギタンには悪いが、そうする他はなさそうだ。
「ペギタンさん、すみません・・・・」
「ペェ・・・・」
ツバサの謝罪に、観念したように声を上げたペギタン。
その様子に気が付いていたちゆは、小さく笑みを零したのだった。
一方その頃、あげはとニャトランは。
「えーっ!!これめーっちゃかわいいー!!」
「だろだろー!?」
「いいねニャトランくん、センスある!!」
街中のアクセサリーショップ。
あげはやニャトラン共々、一般人にバレない程度にはしゃいでいるのは。
『平光ひなた』だ。
ニャトランの元パートナーである彼女への贈り物として、髪飾りを探していたところ。
うっかり見つかってしまったのだ。
そこから芋づる式にあげはがプリキュアであることもバレてしまったのだが。
『プリキュアは秘密にしてなんぼだもんね!いいよ、プリキュア仲間としてちゃんと黙っとく!』
という寛大な言葉をもらっている。
「それにしても、立派になったじゃーん!ニャトラーン!」
「うへへ、撫でるなよ。くすぐったいだろぉ?」
『バレたらどうすんだ』と口にしながらも、嬉しそうにもみくちゃにされている。
「んでもでも、なんか不思議な感じ。あたし達以外にもプリキュアがいるなんて」
「ねー、私達も初めて他所のチームのこと知ったときは驚いたもん」
「そっか、あげは姉はもう他のチームに会っているんだっけ。いいなぁ」
すっかり『あげは姉』と呼びながら、髪飾りを選ぶひなた。
「って、あたし達はもうプリキュアじゃないんだっけ」
明るく振る舞うも、どこか寂しそうだった。
――――表情こそニコニコしている彼女だが。
ずっと一緒にいた友達と離れ離れになって、何も思わないわけではなかった。
ましてや、もう二度と会えないかもしれないとくれば。
まだまだ二十年も生きていない少女にとって、どれほどの喪失であることか。
もちろん、これはひなたに限った話ではないが。
「――――でも、それは頼りないってわけじゃないと思うよ」
「えっ?」
そんな心情を知らずとも、落ち込んでいることだけは機敏に察したあげはは。
同じく髪飾りを選びながら、穏やかに語り掛ける。
「例え変身出来なくても、プリキュアとして戦った経験はちゃんとあるわけじゃん?それは確実に、ひなたちゃんとお友達を形作っていると思うよ」
対するひなたは、しばしぽかんとしたあと。
「――――わ」
わなわな震えながら、口元を押さえて。
「うわ!うわうわうわ!すご!今のすっごい大人っぽい!!かっこいい!!」
「あはは!そりゃあ、ホントに大人だからね!」
目をキラキラさせて詰め寄ってくるひなたを、微笑まし気に見るあげは。
「でも、プリキュアとしては後輩だしさ。何かあったら相談させてよ」
「うん!もちろん!」
「にゃははっ!よかったな、ひなた!」
すっかり元の調子に戻った、元パートナーを目の当たりにして。
心配そうに見ていたニャトランも、ぱっと笑顔を咲かせたのだった。
◆ ◆ ◆
『花寺のどか』さんと名乗った彼女は、やはりラビリンさんの元パートナーであるようだった。
というか、ましろさんがこっそり確認していたのを聞いた。
こちらの動揺を知ってか知らずか、花束作りの手伝いを申し出てくれたのどかさん。
ラビリンさんのことを隠している負い目がある以上、無下に断るわけにもいかず。
結局彼女の手伝いの下、花束を作り上げることが出来たのだった。
さて、そんな私達が今どこにいるのかと言うと。
「わぁ、おいしい・・・・!」
「でしょう?」
ラベンダーのハーブティを口にして、顔を綻ばせるましろさん。
私も一口飲んでみて・・・・うん、いい香りだ。
「ここのハーブティ、わたしも大好きなんだ」
お茶にほっとする私達を見て、のどかさんは嬉しそうに笑った。
――――ここは『ハーブガーデン』。
ちょっとオネェな口調のマスターが経営するハーブ専門店だ。
カフェも兼ねているらしいここに、のどかさんたっての希望でやって来たのだが。
(どういうつもりなんだろうか)
いや、害意がないのは分かっている。
それは、ラビリンさんはもちろん、エルちゃんに向けるまなざしからも分かる。
なんなら、私達が何者かもおそらく見当がついているだろう。
そのうえで。
どうして追及するわけでもなく、私達をここへ連れて来たのだろうか。
「おいちぃ!」
赤ちゃん用の麦茶とお菓子を頬張って、嬉しそうにするエルちゃんの隣。
全力でぬいぐるみのふりを継続するラビリンさんを見る。
・・・・ラビリンさん、大丈夫だろうか。
こんなにも近くに、贈り物をしたいくらい大好きな友達がいるのに。
話すことも、触れることも出来ないなんて。
一緒にいればいるだけ、寂しく、苦しくならないだろうか。
ぬいぐるみの振りも、永久に続けられるわけではないだろう。
お茶もお菓子も堪能して、お会計をする傍ら。
どう切り抜けるかと考えていると。
「――――はい、これ」
「えっ?」
不意に。
のどかさんが、紫の何かが付いたキーホルダーを差し出してきた。
これは・・・・いや、何だ?
一頭身の・・・・妖精・・・・?
「ラベンだるまちゃん、ここのマスコットなんです」
「あ、ラベンダーだから紫・・・・」
ううん、だとしても割と好みが分かれそうなデザイン・・・・。
「・・・・よく見たら、可愛いかも」
「むらしゃき!」
と思っていたら、ましろさんのツボにはハマったらしい。
エルちゃんも物珍しそうにラベンだるまを見ていた。
・・・・なるほど、ましろさんは好きなデザイン。
覚えとこ。
「ふふ、でしょ?」
そんな二人を見て、嬉しそうに顔を綻ばせるのどかさんは。
おもむろに、ラビリンさんに手を伸ばして。
スカーフに、キーホルダーを取り付けた。
「・・・・うん、かわいい」
・・・・ラビリンさんを撫でる手も、向ける眼差しも。
とてもとても、温かいもので。
・・・・ああ、やっぱり。
バレているな、これは。
「あ、あの・・・・?」
「あ、ごめんなさい」
同じく気が付いているましろさんが、一生懸命いまいち分かっていないふりをすると。
のどかさんは慌てて両手を上げる。
「そのウサギさん、可愛いから、つい」
「そ、そうなんですか・・・・」
そして、困ったような笑みを浮かべたのだった。
「えゆ?」
何も分かっていないエルちゃんが、不思議そうに見上げる中。
ここからどうしたもんかと悩んでいると。
「――――ッ」
ひりつく気配。
――――性懲りもなくまた来やがったか、ミノトン。
「まし・・・・」
いつも通りに知らせようとしたけれど。
――――夢の光景が、頭を過ぎって。
「ソラさん?」
「・・・・ッ」
ましろさんが、不思議そうに見上げてくる。
見渡せば、エルちゃんやのどかさん、ラビリンさんも同じような視線を向けてきていて。
「あ、その・・・・宿に忘れ物をしたので、取りに行ってきます!」
「え?」
「あの、だったらわたしも・・・・!」
「大丈夫です!」
さっきから、悪夢の光景がちらついているせいか。
ましろさんの申し出を、食い気味に断る形になってしまったけれど。
事態は一刻を争う。
「すみません、のどかさん。皆さんをお願いします!」
「えっ、あの・・・・!」
「わっ!足速い!!」
返事を待たずに、駆け出した。
◆ ◆ ◆
「――――もしかして」
「える・・・・!」
慌ただしく駆け出して行ったソラを見送って、ましろは口元を結ぶ。
人一倍気配に敏感なソラのことだ。
おそらく、ミノトンの出現を感じ取ったのだろう。
それだけではない。
あの、ややそっけない態度。
(似ている)
アップドラフト・シャイニングのきっかけになった、あの態度と。
本当によく似ている。
(追いかけなきゃだよ、じゃないとソラさん、また無茶しちゃう・・・・!)
自分も後を追おうと、踏み出そうとして。
「ふわぁ、ソラさん、足速いんだね」
「えっと、は、はい!そうなんです!」
のどかの感激する声にたたらを踏み、うっかり返事をしてしまったましろ。
「足だけじゃなくて、運動神経自体がすごくて!多分『KOTAROU』*1でもきっとぶっちぎりですよ!!」
「へぇー!」
追いかけようにも、すっかりタイミングを逃してしまった。
どうすればいいのか、のどかと会話をしながら必死に考えていると。
「あれー!?のどかっち!!」
「ひなたちゃん?」
「おっ!ましろんもいるじゃん!」
「あげはちゃん!」
あげは(と、ニャトラン)が通りすがった。
一緒にいる少女は、のどかの知り合いらしい。
ひなたというらしい彼女は、エルの隣にいるラビリンへ指を向けて。
「あーっ!!ラビリンもいるーっ!!」
「・・・・えっ!?」
とんでもねぇ爆弾発言をぶちかましてくれたのだった。
◆ ◆ ◆
「ミノトン!!」
「む、お前一人か」
市街地から離れた、森林公園の奥地。
ミノトンはそこで待ち構えていた。
「っええ、みなさんには休養が必要ですから」
「ふん、軟弱なやつらだ」
「貴方がたが攻めて来なければいい話なんですよ?」
「抜かせ!」
私の返しを怒鳴りつけたミノトンは、『まあいい』と組んでいた腕を解く。
「ランボーグを喚び出せば、おのずと他も集まるだろう!!」
「なら、その前に片を付ける!」
「その意気や良し!ならばやってみろッッ!!」
――――来たれ!アンダーグエナジー!
いつもの文言で、アンンダーグエナジーが呼び出される目の前で。
私もミラージュペンを構えて、いつも通りに変身する。
・・・・いつもと違うところが、あるとしたなら。
――――赤黒いオーラで構成された体。
今まさに侵食されている足元。
「こ、こやつは・・・・!?」
生み出したミノトンすらも驚愕させながら、
「――――ランビョオォーゲェーン!!!」
異質としか言いようのないランボーグは、咆哮を上げたのだった。