追記:タイトル変えました。
こっちが内容にあってるな。
早朝。
太陽も未だ顔を出さぬ街中を、ソラは走っていた。
暦でも実際でも春と言えど、吐き出す息はほのかに白い。
小高い丘を登り切り、公園未満の憩いの広場に辿り着く。
ふと、ここでちょうど朝日が昇って来た。
来光を前に、気持ちの良い一日を予感したソラは。
息を吸い込んで。
「――――おはようございます!」
一礼したのであった。
「ソラさーん・・・・!」
「ましろさん、大丈夫ですか?」
言いようのない達成感を感じている後ろから、声。
振り向けば、付き合ってくれたましろが。
へろへろになりながら、駆け寄ってきていた。
「み、見ての通りです・・・・!」
ソラは、そのままへたりこんでしまったましろを、近くのベンチまで運んで座らせる。
水筒を手渡すと、ましろは勢いよく煽ったのだった。
「っぷは、はーっ・・・・!」
「すみません、もう少しペースを落とせばよかった」
「いや、そんなの悪いです!」
落ち込むソラを、あたふたと手を振って宥めるましろは。
もう一度だけ深呼吸して、朝の空気を吸い込んだ。
「・・・・ランニングして鍛えたら、少しはソラさんの役に立てるかと思っていたんですけど」
思い出すのは、スカイジュエルを探しに行った時。
逃げ遅れた自分とエルを、失敗しかねない技を使ってまで助けてくれた。
ソラの背中。
「千里の道も一歩からですねぇ、そんなに甘い話じゃないか・・・・」
「千里の道も・・・・どういう意味ですか?」
「毎日コツコツ続けるのが大事って意味です」
「なるほど」
『ヒーロー手帳に書いておこう』と、すっかり愛用してくれている手帳を取り出すソラ。
「・・・・あれ?」
その書き込む手元を、なんとなしに覗き込んだましろは。
ソラのペンが、ひらがなを書いていることに気付いて。
「ええーっ!?いつの間に覚えたんですか!?」
「一日五文字ずつ、毎日コツコツです!」
(小学生の頃を思い出したよなぁ、もうすっかり忘れちゃってたもん)
いや、それにしたって驚異的なスピードである。
「・・・・わたしも、毎日ランニングを続けたら。ソラさんみたいになれますか?」
この世界に来てまだ一月も経っていないのに、もう達者にひらがなを使いこなすソラを見て。
一抹の希望を見たましろは、おそるおそる問いかけるが。
「あはは!『私みたいに』は、やめておいた方がいいですよ」
対するソラは、声を上げて笑ってから。
固く節くれ立った手をひらひらさせて。
「ましろさんの綺麗な手がこんなんなっちゃったら、ヨヨさんにもご両親にも申し訳ない・・・・・それに」
「それに?」
見上げるましろを、見守る様に見下ろして。
「焦らずとも、ましろさんは、今のましろさんのままでいいんです」
「・・・・?」
言葉の意味を呑み込めず、ましろはさらに問いかけようとしたが。
『ぐう』という音が、疑問を引っ込めてしまった。
「あはは、そろそろ朝ごはんの時間ですもんね」
「面目ない・・・・」
お腹をさすって、照れくさそうにしながら立ち上がったソラ。
「ましろさん、走れますか?」
「ええと、もうちょっとかかりそう、です」
「そうですか・・・・ふむ・・・・・では、失礼して」
「えっ」
ひょい、と。
ソラはましろを、軽々横抱き。
まあ身もふたもない言い方をすれば、『お姫様だっこ』をして。
「えっ?」
「帰りが遅くなったら、ヨヨさんもエルちゃんも心配しますからね。飛ばしますよー!」
「ええええええええええッ!?」
ましろの動揺に、ドップラー効果を利かせながら。
帰路を爆走していくのだった。
◆ ◆ ◆
ほんとはお姫様だっこじゃなくて、普通に手を引く方がよかったんだろうけどね。
私のペースに合わせてたら、ましろさんでアスファルトを切りつける形になるからね・・・・。
ということで、虹ヶ丘家に戻ってきた私とましろさん。
ジャージから着替えて、今は朝ごはんの準備中。
エルちゃんはましろさんに任せて、私はヨヨさんを手伝っていると。
玄関のチャイムが鳴った。
「こんな朝早くから誰だろう?」
「私が見てきます」
ヨヨさんは手に物を持っていたので、文字通り手空きな私が出ることに。
「お待たせしまし――――」
玄関を開けると。
「あっはは!!ひっさしぶりー!!」
「おあっ!?」
訪問者は『がばちょ!』と熱烈なハグをかましてきたのだった。
もしかしなくても誰かと勘違いしてますね!?
「ちょっと見ない内に背伸びた!?髪型変えた!?・・・・あれっ?髪色もなんだか・・・・あと固い・・・・?っていうか、でっか!?」
腕を解いて、まともにこちらの顔を見たその人は。
「・・・・・誰!?」
至極真っ当な疑問をぶつけてきたのだった。
「お、おはようございます・・・・」
「あ、はい。おはようございます」
ひとまずありきたりな挨拶を口にして、お茶を濁していると。
「あげはちゃん!?」
よほど騒がしかったのか、エルちゃんをだっこしてやってきたましろさんが。
そんな驚きの声を上げていた。
「ましろん!」
「なんで?どうして?」
「ちょっと、こっちに用事があってさ」
ふむ、お知り合いかな?
「どちら様ですか?」
リビングに案内しながら。
さっきのお返しというわけじゃないけれど、私も至極真っ当な疑問を投げかけると。
彼女は、タブレット端末を取り出して。
電子紙芝居を始めた。
――――むかしむかし、ソラシド市に二人の女の子がいました。
――――名前はあげはちゃんと、ましろん。
――――二人はご近所さん同士!ところが・・・・。
――――お母さんの仕事の都合で、あげはちゃんは遠い街へ引っ越すことに!
――――『ママ嫌い!こんなうち出てってやる!』
――――さて、おうちを飛び出したあげはちゃんの運命は、どうなってしまうのでしょうか!?
・・・・・うん。
「よく出来ていますね、絵もお上手だし、話も分かり易い」
「ありがとー!」
いや、本当にすごい。
今はタブレットで紙芝居作れる時代なんやな・・・・。
「日が暮れちゃうから、手短にいこっか?」
「・・・・だね!」
エルちゃん共々、興味津々で覗き込んでいると。
向かいに座っていたましろさんが、苦笑いしていた。
昔の話ってことは、ましろさんの小さい頃の話とイコールだろうし。
恥ずかしいのかな?
『彼女』も『手短に』っていうのには同意したようで。
特に異論もなく仕切りなおす。
「私は聖あげは、18歳!血液型はB!誕生石はペリドット、ラッキーカラーはベイビーピンク!最近のブームは、イングリッシュティーラテ・ウィズ・ホワイトチョコレート・アド・エクストラホイップ!」
スマホの画像を見せたり、髪を避けて服の色を見せてくれたりと。
賑やかな自己紹介をしてくれる『彼女』、あげはさん。
っていうか、最後の呪文はあれか?某バックスか?
難なく諳んじるとは、ただ者じゃないな・・・・!?
「はい!そっちのターン!」
「初めまして、ソラ・ハレワタールです」
ピースサインを向けて、こちらの自己紹介も促してきたので。
「年は同じく18。こちらのヨヨさんとうちの祖母が友人であるご縁で、一時お世話になっています」
「へぇー!同い年なんだ!それで、こっちの赤ちゃんは?」
「この子はエルちゃん、私の遠い親戚でしばらく預かっているんです」
さぱっとその場で考えた、そんなに違和感のない理由を話す。
・・・・嘘をつくのは心苦しいけれど、スカイランド云々をぶちまけるわけにもいくめぇよ。
ヨヨさんだって、同じ理由でご家族に黙っていたわけだし・・・・。
「そっか!何はともあれ、よろしくね!ソラちゃん!エルちゃん!」
「はい、よろしくお願いします!」
「えあーい!」
エルちゃんが、無邪気に笑っている。
本当にいい人なんだろうな。
ましろさんとも親しいようだし、それを思うとなおのこと隠し事する罪悪感ががが・・・・!
ええい、割り切れソラ・ハレワタール!
ヒーローは時として、嘘をついてでも守らねばならぬものがあるのだ!
・・・・・あ、これ後で手帳に書いとこ。
「あははっ!かーわいー!」
「それであげはちゃん、用事って一体なんだったの?」
エルちゃんをだっこして、一緒にニコニコしているあげはさんへ。
今度はましろさんが疑問をぶつけた。
・・・・そういえば用事があるっていってたな。
そっちは大丈夫なの?
「え?知りたい?」
「えっ、うん」
「そんなに?そんなに知りたい?」
「え、あ、う、うん」
なんだか食い気気味に迫るあげはさんに、ましろさんはたじたじ。
・・・・・このノリ、もしかしなくても陽キャだな?
「ふっふーん、じゃあ教えてあげよー!」
得意げなあげはさんに、連れていかれたのは。
◆ ◆ ◆
「保育士、ですか」
「はい」
『ソラシド福祉保育専門学校』。
そう書かれた建物を見上げて零した、ソラの言葉に。
ましろは頷いた。
「他のおうちの小さい子供を預かって、面倒を見るお仕事なんです。あげはちゃん、昔から保育士さんになりたいって言ってて」
「なるほど」
インパクトが強かった第一印象とは裏腹に、将来をしっかり見据えた女性なのだと。
ソラは感心しながら、再び校舎を見上げる。
「なりたいもののために頑張ってる、本当に偉いと思います」
「ええ、そうですねぇ」
ヒーローを目指すソラとしても、共感出来る部分がある。
あげはは尊敬できる人物だと思っていると、ましろが膝に乗せたエルに話しかけていた。
「ね、エルちゃんは大人になったら何になりたいの?」
「える?」
問いかけに、きょとんとした顔で見上げるエル。
やはり赤ん坊にはまだ早かったかと、ましろとソラは微笑ましくエルを見た。
「ましろさんは、どんな大人になりたいですか?」
「私ですか?私は・・・・・」
話の流れで、今度はソラがましろに問いかける。
ましろは、始めこそ答えようとしたが。
言葉が続かず。
「――――特にない!?」
今だ決まっていない自分の進路に、愕然とした。
思えばましろのクラスメイト達は、イラストレーターや公務員、キュアチューバーなど。
はっきり将来を定め始めた子達が多い。
(いつの間にか、決まってないとダメなターン!?)
もう中学二年生。
そろそろ進学する高校の方針も固め始めないといけない時期だ。
商業か、工業か、看護系?部活に力を入れている高校だってある。
しかし改めて考えてみると、特にこれと言える特技も思い当たらない。
(そんな人間が何かになれるの!?疑問だよおおおおおお!!)
エルの不思議そうな視線に気づかぬまま、うんうん唸りだしてしまったましろ。
「――――ふふ」
「ソラさん?」
そんな彼女を見ていたソラは、微笑ましそうに笑い声を上げた。
「ああ、ごめんなさい。バカにしたわけじゃないんです、ただ・・・・」
「ただ?」
ましろの視線を受けて、すぐに謝ったソラは。
柔らかく微笑んで。
「今のましろさんは、『アブネイ一匹分』なんだって思って」
「あぶねいいっぴきぶん」
「はい、こちらで言う『大器晩成』に似た意味の、スカイランドの言い回しです」
拙くオウム返しするましろへ、ソラは解説を始めた。
――――スカイランドには『ムレルト・アブネイ』という種類の蝶々がいる。
それら一匹一匹は大したことない、どこにでもいる虫なのだが。
年に一度、繁殖の時期になると。
繁殖地である空の島に一斉に移動し始めるという。
スカイランド中の彼らが、一か所を目指して大移動。
始めは小さなグループでも、一つ二つと合流して。
やがて、その羽ばたきで嵐を巻き起こすほどに大きな群れになる。
ムレルト・アブネイが通過する地域の空では、毎年その時期になると。
大嵐に見舞われるのはもちろんのこと。
その前兆である、黒くて大きな、大蛇の様なうねりが見られるとのことだった。
「はえー、そんなすごいちょうちょがいるんですね」
「例え一匹一匹は大したことなくても、たくさん集まれば大きな力になる。だから、今はちっぽけでも、いつかは大きなことを成し得る人のことを『アブネイ一匹分』と言うようになったんです」
「今は、ちっぽけでも・・・・」
気付けば頭から離れていた両手を、じっと見つめるましろ。
そんな彼女を見守りながら、ソラは語り掛ける。
「――――将来、ましろさんの手が、どんなことが出来る様になっているか」
ましろの視線を、優しく見つめ返しながら。
「そう考えると、ワクワクしませんか?」
にっと、歯を見せて笑ったのだった。
拙作ソラさんは、あげはさんと同じくらいの身長です。
『ムレルト・アブネイ』
拙作オリジナル要素。
ネーミングは『群れると危ねぇ』。
まさしくバタフライエフェクトを体現した、季節性の嵐を引き起こすトンデモちょうちょである。