「あなたは私が守るから」系女子とか卑怯だよ・・・・好き好き大好き・・・・。
――――エスカレーターを登り切り。
自動ドアをくぐって外に出ると。
今まさに、エンジンを唸らせて飛び立つ飛行機の姿が見えたのだった。
「わあぁ・・・・!」
大空に轟音を響かせて去っていく飛行機の後姿を、ツバサくんはめっちゃキラッキラした目で長く見つめ続けている。
――――そもそも、空を飛ぶことに憧れて。
事故と言えど単身異世界に飛び込んで、航空力学を勉強し続けて来た彼のことだ。
プリキュアになって、空を飛べるようになった今でも。
飛行機は憧れの存在なんだろう。
「――――それにしても不思議だな」
しみじみしながらツバサくんを見守っていると、ベリィベリーさんが首を傾げていた。
「あれほど大きなものが、羽ばたきもせずに飛ぶとは・・・・材質も金属だろう?相当重たいんじゃないか?」
出てきたのは、至極当然の疑問。
確かに言われて見れば不思議だよな。
あんな鉄の塊がどうやって飛ぶんだ・・・・?
いや、私はジェットエンジンのお陰って知ってるんだけど。
説明出来るかどうかと言われると、ちょっと無理。
――――何より。
この手のことに関して、一番の適任がここにいるからね。
「それは・・・・ツバサくん!タッチ!」
「任せて下さい!」
ましろさんも同じことを思ったのか、ツバサくんの肩をポンと叩いて。
解説をお願いしたのだった。
「説明しましょう!」
やる気満々のツバサくんは、まるで博士みたいな口調で話し始める。
「鳥は羽ばたくことで翼に風を受けますが、飛行機はジェットエンジンで加速して、その時に出来る風の力で飛ぶことが出来るんです」
「すまない、なんだって?ジェットニンジン?」
「空飛ぶ野菜かな?」
専門家の解説に『おおーっ』となって、ベリィベリーさんのボケに『oh...』となる。
でも、ゲームのアイテムにありそうよね。
ジェットニンジン・・・・。
使ったら早くなりそう・・・・。
この頃のゼ〇ダとかだと、お料理の材料になりそうな名前だ。
「つまり!」
気を取り直して、まとめに入るツバサくん。
「鳥も飛行機も、翼が受ける風の力で飛んでいて、その力を専門用語で言うと――――!」
「――――揚力!」
「そうなんです!良く知って・・・・って、え?」
・・・・ん?
今の誰だ?
頭にはてなを浮かべながら、声がした方を振り向くと。
「そんなの簡単過ぎよ!」
見知らぬお嬢さんが、得意げに笑っていたのだった。
「風って目には見えないけれど・・・・」
得意げなのはそのままに、ポシェットからシャボン玉セットを取り出した彼女は。
私達の目の前で、一吹き。
「ほら、風に乗って飛んでくの!」
シャボン玉の大行進に歓声を上げる私達へ、説明をしてくれる。
「風って、飛ぶのにすごく大事なのよね!」
「君も、飛行機に興味が?」
お嬢さんに同意しつつ、ツバサくんに倣ってポシェットをよくよく見ると。
目の前で何度も離発着を繰り返す機体と、同じデザイン。
「あなたも詳しそうね、一緒に望遠鏡で観ましょう!」
「はい!」
名乗りもしない内に、すっかり意気投合したらしい二人は。
近くの双眼鏡を仲良く覗き込んだのだった。
「えるもみる!」
見守っていた私達も、同じく双眼鏡を覗き込む。
「あ、あれ今降りて来てない?」
「本当だ・・・・おお・・・・おおおー!」
「ツバサくんが少年になってる・・・・」
「少年は元から少年でしょ?」
「そうでした」
「ふふっ」
「ベリィベリーさん、どうしたの?」
「いや、見ている機体の窓際で、寝ている人を見つけてしまって・・・・」
「ええっ、どこどこ?・・・・あはは、見つけた!ぐっすりだね!」
「・・・・ソラちゃん、何してるの?」
「好奇心に負けました、小さく見えるのが面白いです」
「そっか!!」
――――さて。
一通り堪能した私達は、近くの売店で飲み物を買って飲んでいた。
あの、ツバサくんと仲良くなったお嬢さんも一緒だ。
「わたしは、『
ここまでの交流で信頼してくれたらしく。
名前を教えてくれたお嬢さんこと翔子ちゃん。
うんうん、ええ名前やん・・・・。
「素敵でしょ!」
「はい、とっても」
私が頷くと、とても嬉しそうに笑う翔子ちゃん。
「あなたは?」
「僕は・・・・」
必然、翔子ちゃんは名前を聞き返してくるんだけど。
ここでツバサくんは、なぜかあげはさんの方に目をやる。
あげはさんもあげはさんで、何やら訳知り顔で頷いた。
な、なんだよお前ら。
いつの間に仲良しじゃんかよ。
「僕は、夕凪・・・・『夕凪ツバサ』です」
「へぇー、あなたも素敵な名前ね」
・・・・うん?
ゆうなぎ?
いや、素敵な名前と言うのには同意なんだけど。
ツバサくん、君そんな名前だったっけ?
「苗字もあった方が、何かと便利でしょ」
こちらが困惑しているのを察してくれたのか、こっそり教えてくれるあげはさん。
「この前、少年と考えたんだ」
その話に、思い出したことがあった。
確か少し前に、ツバサくんの研究室で、二人で『ああでもない』『こうでもない』と盛り上がっていたのだ。
「・・・・もしかして、いつぞや二人で盛り上がってたやつですか?」
「そうそう!それそれ!」
聞いてみると、ビンゴだった。
やっぱり。
「翔子ちゃんって、本当に飛行機が大好きなんですね」
「そうよ、だってわたし・・・・」
ツバサくんの新たな名前に感心している横で、当の本人は翔子ちゃんと楽し気に会話を続けている。
すると、翔子ちゃんが得意げに笑ったのが見えて。
「ママみたいな、パイロットになるのが夢だもの」
「――――えっ!?」
『ほへー、ママはパイロット』と呑気に相槌を打っていると。
ツバサくんはぎょっとした顔と声。
「ちょ、ちょっと待ってください!それじゃあ、翔子ちゃんのママって・・・・パイロットさんなんですか!?」
「すごいでしょ!!」
「すごいです!!すごすぎです!!」
向けられるキラッキラした目に、ご満悦な翔子ちゃん。
ママが褒められて嬉しいんやな。
分かる・・・・分かるよ・・・・。
「今日はね?ママが操縦する飛行機に、初めて乗る日なの!」
――――へー!
そりゃあ、嬉しいやろうなぁ。
・・・・パイロットさんって結構忙しいと思うんだけど。
それでもママさんは相当翔子ちゃんを愛してるし、翔子ちゃんもその愛をちゃんと受け取ってるのがよく分かる。
もちろん、ご家族のサポートもあるんだろうけど。
それでも、『いつも家にいない』という不満じゃなくて、『ママみたいになりたい』が真っ先に出て来るなんて。
すごく素敵なご家族なんだな・・・・。
「・・・・ところで、一人みたいだけど。誰か大人の人は?」
しみじみしていると、あげはさんがそんなことを切り出す。
・・・・そういえば。
さっきから話しているのは翔子ちゃん一人。
パパさんどころか、ご家族らしき人が見当たらない。
『飛行機に乗る』とも言っていたし、搭乗時間とかあるのでは・・・・?
「ふえ?パパなら・・・・搭乗手続きをしてて・・・・『近くで待ってて』って・・・・」
あっ(察し)
こ、子どもが迷子になる王道パターンの気配・・・・!!
「あれ・・・・そうだ、わたし・・・・待ってなきゃいけないのに・・・・!」
「搭乗手続きって・・・・」
「一階だよ!?」
「きっと、お父上も心配しているだろうな」
翔子ちゃんも自分が置かれている状況を段々と理解してきたようで、声も顔も、みるみる不安そうになっていく。
「ど、どうしよう・・・・ふえぇ・・・・!」
アーッ!!!
泣かないでー!!
「大丈夫、一緒に探しますから」
咄嗟に体が動いて、翔子ちゃんの前にかがむ。
「一緒に・・・・?」
「うん!任せて!」
頭を撫でてやっていると、同じく動いていたあげはさんもにっこり笑った。
ましろさん達も、こっくり頷いてくれる。
「ん、く・・・・ぱぱ、みつかる・・・・?」
「ええ、もちろん。きっと見つかりますよ」
「それに、パパも翔子ちゃんのこと探してるはずだから、そろそろ・・・・」
安心させる口調で話しかけながら、周囲を探る様にあげはさんが視線を上げたタイミング。
『ピンポンパンポーン』と、おなじみの音が聞こえて。
『迷子のお呼び出しを致します。天野翔子さま、天野翔子さま、お父様がお探しです』
思った通り。
迷子探しのアナウンスだ。
『案内所か、お近くの係員のところまで――――』
「――――ね?」
翔子ちゃんの涙は止まって、すっかり元気になったようだ。
よかったよかった。
「よければ、背中にどうぞ。お父さんの所までお送りしますよ」
「うん!」
一安心しながらおんぶを提案すると、こっくり頷く翔子ちゃん。
「案内所は、一階か?」
「だね!」
「みんなで行こう!」
いち早くパパさんの所へ送り届けるべく、みんなで駆け足をした。
――――一瞬。
知っている気配がいる気がしたんだけど。
翔子ちゃんを送り届けるのに頭がいっぱいで、すぐに忘れてしまった。
◆ ◆ ◆
「ああ、翔子!無事でよかった・・・・!!」
「ごめんなさい・・・・!」
案内所。
ソラ達が連れて来た翔子を、父親が強く抱きしめている。
実際、気が気ではなかっただろう。
国際線と言うこともあり、『誘拐』の文字で頭がいっぱいだったに違いない。
事実、海外旅行先ではぐれてそのまま・・・・なんてことは、現実に起こっているのである。
「わたし、パパの近くで待ってなきゃいけなかったのに・・・・!」
「ううん、パパも目を放しちゃって、ごめんね」
娘と一言二言交わした父親は、今度は親子の再会にほっとしているソラ達と目を合わせて。
「みなさん、本当にありがとうございました」
まずは、感謝と共に頭を下げる。
「妻は・・・・翔子のママは、パイロットという仕事柄、あちこちを飛び回っていて、いつも一緒にいられなくて・・・・」
『仕事であちこち』『いつも一緒にいられない』。
その言葉に、ましろはそっと自分と重ねる。
「寂しい時もあると思うのですが、そんな素振りは見せずに、ママのことを応援していて」
翔子の夢の話を、ソラ達が聞いていたからだろう。
とつとつと、娘について話してくれる。
「いつか一緒に空を飛ぶんだって、楽しみに」
「――――分かります!」
想いを抑えきれなかったましろが、明るい声で前に出る。
「楽しみ過ぎて・・・・飛行機が見られる場所まで、一人で行っちゃったんだよね」
「うん!」
問いかけに、翔子は笑顔で頷いたのだった。
「――――では、よい空の旅を」
「ああ、そろそろ行かないと」
話がひと段落したのを見計らって、案内係が声をかけたことで。
時間が迫っていることに気付いた翔子の父。
「またねー!」
――――いってらっしゃーい!!
ソラ達はせっかくだからと、保安検査場前まで一緒に行って。
天野親子を見送ったのだった。
「――――やっぱり、飛行機っていいなぁ」
まだ手を振ってくれる翔子に、手を振り返しながら。
ツバサはしみじみ口にする。
「乗客を乗せて飛ぶだけじゃなくて、乗る人の思いも繋げているんですね」
「少年、いいこと言った!」
「いっこ、いった!」
感慨深く、息を吐く彼に。
あげはを始め、一同が同意を込めた優しい視線を送る。
もちろん、電車や船でも同じことは言えるだろうが。
やはり、『旅立ち』とは良いものだと。
改めて噛み締める。
「そういえば、ましろさんのご両親がそろそろ帰ってくるのでは」
とはいえ、感傷に浸るのもそこそこにして。
本来の目的であった、ましろの両親の出迎えを思い出したソラが。
設置してあった時計を見て、切り出した。
「そういえば・・・・」
「じゃあ、到着ロビーに行く?」
そろそろ移動するべきだろうと、足を動かそうとした。
その時。
――――ピンポンパンンポーン
また、アナウンスのチャイムが鳴る。
『迷子のお呼び出しを致します』
「おや、また迷子ですか」
「見かけたら送ってやろう」
元よりお人好しな彼らは、そんなことを言い合いながら。
『――――プリキュア様、プリキュア様』
「えっ?」
飛び出してきた名前に、びっくりしてたたらを踏む。
『ミノトン様がお探しです、展望デッキまでお越しください』
「――――今プリキュアって言った?」
「この空港にいるの?」
「っていうかミノトンって誰?」
「いたずらじゃないの?」
周囲が騒然とする中、ソラ達は表情を引き締める。
「展望デッキ・・・・先ほどまでいた場所か」
「ええ、お迎えの前に一仕事片付けないといけませんね」
(さっきの気配か、クソ、なんで気付かなかった・・・・!)
ただのいたずら、思い過ごしであるならそれでいい。
とにもかくにも真偽を確かめるべく、一路展望デッキへ戻っていく。