拙作では、ヨヨさんの子どもはパパさんにしています。
「初めまして、ソラ・ハレワタールと申します」
――――なるほど、確かに誠実そうな
というのが、虹ヶ丘夫妻共通の感想だった。
「ご息女、ならびにお母様には、いつもお世話になっております」
「もう、ご息女だなんて」
数年ぶりに会う娘が、半年前から同居していると話してくれた女性『ソラ・ハレワタール』。
夫妻も知るましろの友人、あげはと同い年であるという彼女は。
すっと背筋を伸ばして、深くお辞儀をした。
「初めまして、ましろの父です」
「同じく母です、貴女のお話はよく聞いているわ」
「恐縮です!」
少し照れくさそうにしているましろを微笑ましく思いながら。
ソラと握手を交わす。
右手のアームカバーについては『昔の火傷で、酷いケロイド痕がある』と、恥ずかしそうに言っていた。
思ったよりも硬い手のひらには驚いたが、どこかほっとする温かさがあった。
言葉づかいも所作も丁寧で、こちらを尊重してくれているのが分かって。
なるほど、ヨヨが認めるのも納得だなと。
静かに頷き合う。
――――祖母と二人きりにしてしまった娘の近くに、知らない大人が現れたと聞かされて。
何も思わなかったわけではない。
しかし、信頼しきった笑顔で話しているましろを目の当たりにした今は。
どうやら杞憂であったらしいと、ひそかに安堵した。
◆ ◆ ◆
虹ヶ丘のご両親が戻って以来。
普段からは珍しい、良い意味で子どもっぽいキラキラした笑顔を見せることが多くなったましろさん。
やっぱり、お父さんやお母さんがいるとほっとするんだろうな。
昨夜、お帰りになった直後の夕飯でも、本当に楽しそうにしていた。
「ましろ、これなんかも似合うと思うんだけど」
「うん、可愛い!」
今日は、ソラシドモールでご家族でのショッピング。
恐れ多くも、私も一緒にとお誘い頂いたので。
荷物持ちを引き受けている。
「ママ、これはどうかな?」
「まぁ!いいわねぇ、素敵!」
年単位ぶりの一人娘との時間ということもあってか。
割とテンション高めにお買い物するお母様。
楽しそうで何よりです。
「ソラちゃんも、何か買いたいものがあったら遠慮なく言っていいんだよ?」
「ありがとうございます、でも、今日はましろさんが主役ですから」
一緒に荷物番をしてくれているお父様にも、お気遣いを頂いたけれども。
今日は遠慮させてもらうことにする。
だって、ましろさんがあんなにはしゃいでいるんだもん。
水を差すのは野暮ってもんよ・・・・。
「はは、ありがとう」
「いえいえ」
・・・・何より。
大事な娘さんを誑かしてしまっている負い目もあるからね(白目)
さすがにね・・・・。
ましろさんの意向で黙っていることに決めたと言えど、罪悪感ががが・・・・。
気分はミッ〇ョンイン〇ッシブルよ・・・・!!
「パパ、ソラさん」
「お、何かな?ましろちゃん」
なんて考えてると、一通り見終えたらしいましろさんが駆け寄ってきていた。
楽しかったですか?それは何より。
「いい時間だし、そろそろご飯でもどうかしら?」
「ああ、確かにお腹空いたね。ソラちゃんは?」
「はい、異論はありません」
お母様も含めた提案に、お父様共々頷く。
・・・・ひとまず。
今は珍しくはしゃぎまくってるましろさんを、見守ることに徹しよう。
「ましろちゃんは何食べたい?」
「パパとママが食べたいものでいいよ?」
「私達は昨日散々食べたからいいの」
「そうだよ!何がいいかな?」
「うーん・・・・」
「決まらない様であれば、レストラン街の案内板を見るのはどうでしょうか?」
「それ、いいかも!」
「ナイスアイデア!」
「恐縮です」
◆ ◆ ◆
ショッピングの翌日、虹ヶ丘家。
各々ゆっくりしている。
ましろも例に漏れず、自室で新たな絵本作りに取り掛かっていたのだが。
「えるー!」
「あれ、エルちゃん?」
廊下から聞こえて来た、エルの声に手を止めた。
部屋から顔を出してみると、ちょうど階段脇から下に向かって声を上げている。
下に降りたがっている合図だ。
自他共にふわふわ浮かばせることが出来るエルだが、まだまだ赤ん坊。
途中で制御が利かなくなることも割とある。
なので、階段などの、事故が起きやすい場所を使いたい時は。
誰かを呼ぶように言い聞かせてあるのだった。
「エルちゃん」
「はーい!お呼びかなー!?」
「あい!」
ましろが廊下に出ると同時に、声が聞こえていたらしいあげはが上がって来て。
そのままひょいとエルを抱き上げる。
実に微笑ましい光景だが、確かソラと一緒にいたはずだ。
隣同士なので、絵本を読んであげている声がましろの部屋にも微かに聞こえていたのだが・・・・。
「エルちゃん、ソラさんは?」
「そら、ねんね!」
「そっかぁ、ねんねかぁ」
「あーう!」
あげはに抱っこされてご機嫌なエルに、ましろが問いかけると。
そんな溌溂な答えが返って来た。
「エルちゃんは引き受けるから、ましろんはソラちゃんの様子見てくれる?」
「うん、ありがとう」
「いいってことよ」
元気よくお返事したエルを、ひとしきりぎゅっぎゅしたあげは。
そのまま一緒に降りて行ってしまった。
聞こえて来た会話から、どうやら近所を散歩してくる様だ。
楽しそうに歓声を上げるエルを、微笑ましく見送ってから。
ましろは、ソラの部屋に目を向けた。
エルの話が本当なら、タオルケットくらいかけた方がいいかもしれない。
「ソラさん・・・・?」
そう思いながら、ドアを開けて覗き込むと。
なるほど、確かに。
ソラがごろりと横たわっていた。
「――――」
自らの腕を枕に寝息を立てる傍には、数冊の絵本が積まれており。
手元にも絵本が一冊、広げられたままになっている。
おそらく、何冊か読んであげている最中に寝てしまったのだろう。
「ふふ・・・・」
あどけない寝顔に癒されながら、ましろはソラのベッドからタオルケットを持ってくる。
そのまま、冷えてしまわないようにかけてやろうとするが。
「・・・・」
ふと、魔がさして。
「・・・・えへへ」
自分も一緒に、タオルケットに包まった。
――――両親が帰って来て、嬉しくないわけではない。
だが、ソラと、恋人との時間がめっきり減ってしまって。
少しだけ寂しい思いをしていたのも事実だ。
「ん~・・・・」
「わ・・・・!」
と、ソラの腕が回って来て。
抱きしめられる形になってしまう。
「えるちゃん・・・・」
「えっ?」
「よしよし・・・・」
・・・・どうやら。
エルと間違われている様だった。
頭を撫でられながら耳を澄ますと、『ひゅぅひゅぅ』と独特な呼吸音が聞こえる。
改めて耳にする、不思議な呼吸は。
何だか心地よい気持ちにさせてくれた。
「ふぁ・・・・」
あくびを一つ。
眠気が導くままに瞼を閉じる。
(あったかいなぁ・・・・)
言いようのない安堵を覚えながら、微睡みに身を任せた。
◆ ◆ ◆
「――――」
うっかりうたた寝して目を覚ますと、ましろさんが横で寝ていた。
タオルケットがかかっていることから、持ってきてくれたところを寝ぼけてホールドしてしまったようだ。
悪いことしてしまったな・・・・。
「す・・・・す・・・・」
静かに寝息を立てているましろさんは、私のシャツを掴んでいる。
・・・・無理に引き離そうとしたら、起こしてしまうかもと。
心配してしまう程度にはしっかり握られていた。
「んん・・・・」
そっと頭を撫でてみると、むにゃむにゃしながら身を寄せて来た。
「・・・・ふ」
ネコみたいな様子に、思わず笑みを零していると。
「――――ぐっすりね」
「ん!っぎゅ・・・・!!」
思ってもみなかった声が降って来て、身を跳ね上げる。
ましろさんを起こしてしまっていないかとパニックになりながらも、出来る範囲で後ろを振り向くと。
お母様が、しゃがみこんでこちらを見降ろしていた。
い、いつの間に・・・・。
「そ、その・・・・すみません・・・・」
「いいのよ」
いたたまれなくなって、まずは謝罪を口にすると。
大らかに笑ってくれるお母様。
「ましろがそんなにぐっすりなんだもの、貴女を信頼しているのね」
「ええ、恐れ多いことです」
声を潜めて、お母様と会話を交わす。
・・・・寝るっていうのは、無防備を晒すということでもあるからな。
それを踏まえたうえで。
すぐ隣でこんな姿を見せてくれるっていうのは、少しだけくすぐったい気持ちだ。
そうやって、微笑ましく思っていると。
「やっぱり、お付き合いしているからかしらね」
――――心臓が。
まるごと、氷になった気がした。
「ぃ、いつから・・・・!?」
「お義母さんに聞いたのよ、帰って来た日に」
ヨヨさーんッ!?
い、いや、話しちゃダメってわけじゃないんだけども!!
「ぁ、の・・・・その・・・・」
ああ、それよりも。
そんなことよりも。
なんとか、安心させられそうな言葉を伝えないと。
だって、大事な一人娘の近くに。
誑かしたに違いない大人がいるんだ。
どれほど心配していることか!!
「――――誓って」
なんとか、口火を切って。
「誓って、害する意図は、ありません」
「ええ」
まずは、そう伝える。
「貴女や、旦那様の足元には及ばないでしょうが・・・・私にとっても、大切な人です」
「ええ」
・・・・私は、弱いから。
お母様の顔を直視出来なくて。
気が付くと、ましろさんに縋りそうになっていた。
「――――何度も」
腕を何とか離しながら、言葉を続ける。
「何度も、助けられました。何度も、救われました」
「ええ」
「だから、私も、何かを返したくて、この子の為なら、死力を尽くすつもりで」
「ええ」
聞こえるお母様の声は、終始穏やかだ。
剣呑な気配は感じ取れなくて、それが逆に威圧を覚えた。
「願って、いるんです」
「ええ」
「優しいこの子の幸せを、心から願っているんです」
「ええ」
「そのためなら、何でもやるつもりです」
これは、本当だ。
命を懸けたって良い、本当の気持ちだ。
「・・・・だったら」
ここで。
お母様は、相槌以外の言葉を発して。
「この子の幸せの為に、離れてって言ったら?」
「――――ッ」
――――嗚呼、当然だ。
当然の、要求だ。
親として、我が子を案ずるものとして。
全く以て当然の主張だ。
「――――それが」
とうとう、ましろさんを抱きしめてしまいながら。
なんとか言葉を紡ぐ。
「それが、ましろさんの幸せに・・・・明るい、未来に、つながるのなら、そうします」
「・・・・そう」
「――――だけど」
――――だけど。
「一番は、ましろさんの気持ち、なの、で」
「あら」
――――そうだ。
『それが正しいから』って、『そうするべきだから』って。
無理やり引きはがしてしまうのは、違うだろう。
「・・・・この子が、別離を、望まないうちは・・・・出来るなら、一緒にいたい、です」
「・・・・そう」
ああ、でも。
ましろさんは、まだまだ未成年だから。
きっと、ご両親には。
ちゃんと判断出来ているかどうか、心配なんだろう。
いくらヨヨさんが見逃しているからと言って、何も不安に思わないかと言えば。
それもまた、違うに決まっている。
私が、大切な一人娘も、尊敬する母親も欺いている可能性はぬぐえていないはずなんだ。
だから、やっぱり。
『別れろ』って、『離れろ』って言われたら。
従うのが、正しいんだ。
――――そう静かに、覚悟を決めていると。
「――――だ、そうよ?ましろ」
「・・・・エッ?」
本当に。
本当に、何でもないように話すものだから。
びっくりして、視線を降ろすと。
真っ赤になった、耳が見えて。
「・・・・あの」
「待ってください」
表情を詳しく伺えない内に。
ぷるぷる震えるましろさんは、両手で顔を覆ってしまって。
「今は、見ないで・・・・!」
「愛されてるわねぇ~」
ニコニコと、満面の笑みでお母様に見守られる中。
ましろさんはしばらく、悶え続けるのであった。
※プリキュアやスカイランドのことは、上手く隠して伝えたヨヨさんです。
おまけ
ましろパパ「ましろちゃんを愛しているというのであれば、これを着てもらおうか!!!!」(例の親バカTシャツ)
ソラ「えっ」
ましろ「ぜったいやめて下さいよ!?着たら絶交ですからね!?」
ソラ「あっ」
ましろパパ「なんの!!これを着ないとましろちゃんとの交際は認めません!!」
ソラ「うぅっ」
ましろ「ソラさん!!」
ましろパパ「ソラちゃん!!」
ソラ「うああああああ・・・・!!」
あげは(あんなに追い込まれてるソラちゃん、結構レアじゃない・・・・?)コソコソ
ベリィベリー(いや、割と追い込まれてると思うぞ。キルミラ然り、ミノトン然り)コソコソ
あげは(ほんとだ!?)コソコソ
ツバサ(いや、助けてあげないんですか)コソコソ
あげは(や、面白いからもうちょっとだけ!)コソコソ
ベリィベリー(右に同じ)コソコソ
ツバサ(不憫だな、ソラさん・・・・)コソコソ