「本当にすみませんでした!」
フレデリックがアビドス高等学校の昇降口で銃口を突きつけられてから数分後。
ひとまず昇降口ではなく教室へ、と案内されたフレデリックは支援を要請してきたアビドス高の生徒達から勢いよく頭を下げられていた。
「あー、まあ気にするな。キヴォトスじゃあの程度のこと良くあるんだろ」
「で、でも支援要請に応えてくれた先生に向かって銃を突きつけるなんて失礼、なんてお詫びしたらいいか……」
やや長めの黒髪ショートヘアに赤ぶち眼鏡が特徴的な少女が申し訳なさそうに眉尻を下げる。
他の生徒もそれぞれ同じような反応……いや、自分達の
そういえばシン*1はこんな顔あんまりしなかったな、などと考えながらフレデリックは目の前の生徒達に声をかけた。
「失敗したんなら仕方ねえだろ。次はやらねえように気を付ければいい」
フレデリックの言葉に、しかし生徒達の表情は優れない。
シンくらい能天気でいてくれたらいっそ楽だったんだがな、とため息を吐きそうになるもギリギリで堪えた。
「テメエらには俺がガ……子供が一回失敗した程度で見切りをつけるような薄情な大人に見えんのか?」
「あったりまえでしょ! 今まで誰も私達を助けてくれなかったのに、今更大人なんて信用できると思う!?」
「セリカちゃん!!」
フレデリックの言葉に弾かれるように顔を上げて吠えたのはやや青みがかった黒髪をツインテールにした少女だった。
セリカと呼ばれた少女は、犬歯を剥き出しにしてフレデリックを睨みつける。いや、フレデリックをというよりも"大人"という存在に対する不信感をフレデリックにぶつけているようだった。
そんな彼女を赤ぶち眼鏡の少女が険しい声でたしなめるが、セリカの態度は変わらない。
「まあまあ。セリカちゃんの気持ちは分かるけど、今この人にそれをぶつけても仕方ないでしょ。支援が必要なのは確かだしさー」
重苦しくなった教室の空気をすべて無視して、脱力しきった声でセリカをなだめたのはあの桃色の髪をした少女だった。
教室の一角にあるソファーで横になる姿は、昇降口の時とはまるで別人だ。
「ぐ……」
桃髪の少女の言葉に、セリカは歯噛みした。どうやら見た目とは裏腹に、この生徒達をまとめ上げているのはこの少女であるらしい。
「まあいい。俺はフレデリック。フレデリック=バルサラだ。さっきも言ったが、連邦捜査部シャーレの担当顧問の一人だ。奥空アヤネって生徒の手紙を読んで支援に来た」
何でもいいから話を前に進ませたいフレデリックは自己紹介を無理やりねじ込んだ。
お互いの名前も知らなければ会話にも支障が出るし、いつまでも目の前でうじうじされるのは非常に面倒くさいからだ。
「わ、私が奥空アヤネです! アビドス高校1年生です」
声を上げたのは先ほどの赤ぶち眼鏡の少女だった。
アヤネがスッと視線をセリカへ向けると、セリカはフレデリックから露骨に目をそらしてぶっきらぼうに自己紹介をした。
「……黒見セリカ。1年」
「はーい。私は
ぶすっとしたセリカを覆い隠すように一歩前に出て自己紹介をしてきたのは、流れるようなブロンドの髪を腰まで伸ばしたノノミという少女だった。
セリカとは対照的に人好きのする柔らかな笑顔を浮かべている。
「それで、こっちが……」
「ん。
ノノミに紹介され、小さく会釈をしたのは銀髪にケモノ耳が特徴的な少女のシロコだった。
他の生徒に比べて表情の変化は乏しいが、感情がないというほどではない。
エルフェルトとラムレザル*2を足してエルフェルト成分だけ減らすとこんな感じだろうかとフレデリックは取り留めもなく考えた。
「ほら、先輩も挨拶しよ」
シロコがソファーに寝そべる桃髪の少女の両脇を抱えて立たせる。
「うへぇ~。しょうがないなあ。……
この場の誰よりも小柄で脱力しきったホシノがぶらぶらとだらしなく手を振って自己紹介をしたかと思いきや、すぐにソファに寝そべった。
そのように他の生徒達が呆れたようにため息を吐く。どうやらこの光景は日常的なモノらしかった。
「それでその……フレデリック先生は支援に来てくれたんですよね?」
おずおずとアヤネがフレデリックに問いかける。それも仕方がないだろうとフレデリックは思った。
何せ今の彼は手ぶらである。支援物資などどこにも持っていない。
だから、彼は通信法術を起動させた。フレデリックの耳元に術式が展開され、それに指先を添える。
「飛鳥。アビドスの生徒達と合流した。そっちの手はずは?」
『ごめんフレデリック。もう少しかかりそうだ。ちょっと……トラブルがあってね』
「ああ? 何があった」
飛鳥のトラブル、という言葉に思わず眉間に皺が寄った。
トラブルなんていつものことかもしれないが、今飛鳥が動けないとアビドスの生徒達が困る。
武装勢力に日常的に襲われているとの話だったし、早めにクラフトチェンバーで弾薬を生成、転送してもらわないと状況は悪化の一途を辿るばかりなのだ。
『い、いや……ちょっと生徒が押しかけて来て。火急の用ではなかったから帰ってもらったんだけど』
「……? 何でもいい、早く――」
しろ、と言い切る前に辺りに銃声が響いた。
「飛鳥! 何でもいいから急げ!」
「え、え!? 襲撃!?」
「ぶ、武装集団が学校に接近中! ……カタカタヘルメット団です!」
「マズいですね……弾薬はもうほとんどないのに……」
「とにかく、応戦しないと」
「仕方ない。やれるだけやるしかないねー」
そこからの動きは早かった。
アビドスの生徒達は日々襲撃を受けているとだけあって、瞬く間に準備を終える。
「じゃ、アヤネちゃん。オペレートよろしく」
「は、はい! 先生、サポートお願いできますか!?」
「ま、乗り掛かった船だしな」
「よし。それじゃあ出撃だー」
ホシノのそこそこ脱力した号令でアヤネを除く生徒達が外へ飛び出していった。
「かったりいが……たまには飛鳥の真似事でもやってみるか」
そう呟き、フレデリックも戦闘に備えはじめた。