BlueArchive -Strive-   作:笹の船

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鏡よ鏡、待っていて!

 G.Bibleをなんとか手に入れた翌日。

 飛鳥はヴェリタスの部室をゲーム開発部生徒達と訪れていた。

 

「依頼された『データ』について、結果が出たよ」

 

 銀髪をポニーテールにまとめた少女──小鈎(おまがり)ハレの言葉に、ゲーム開発部の生徒達が喉を鳴らしてつばを飲み込む。

 

「知っての通り私達『ヴェリタス』は、キヴォトス最高のハッカー集団だと自負している。システムやデータの復旧については、それこそ数えきれないほど解決をしてきた……その上で単刀直入に言うね」

 

 真剣な表情をしてそう言ったハレに、ユズがつばを飲み込みながら拳を固めるのが見えた。

 確かに、こんな前置きをされたら肩に力くらいは入るかもしれない。フレデリックがいたら「御託はいらねえ」と切って捨てそうだけれど。

 というか、似たような事前説明をしようとして実際に言われたような気もする。と飛鳥は若干遠い眼をした。なるほど、フレデリック達が自分の話を聞くときに「前置きが長い」と不満げに漏らすのはこういうことだったのか。

 そんな長年の疑問の答えが分かったような気がしたところで、モモイが崩れ落ちた。

 

「うわぁぁぁぁん! もうダメだーーーー!」

 

 G.Bibleの解析が出来なかったのか、と若干飛鳥の心拍が早まったが聞けばどうやらG.Bibleを入れる際に消去されてしまったモモイのゲームのセーブデータの話だったようだ。

 

「そっちじゃないでしょ!? G.Bibleのパスワードの解除はどうしたのさ!?」

「それなら、マキが作業中ですよ」

 

 モモイの私情丸出しな依頼結果について目尻を吊り上げたミドリの言葉に答えたのはブロンドのロングヘアーに眼鏡と言った風貌の少女──音瀬(おとせ)コタマだった。

 そして、そこへ赤髪のお団子ヘアーが特徴的な小柄な少女──小塗(こぬり)マキがちょうど現れた。

 

「あ、おはようミド! ……と、あ! この間グラウンドですっごいことやってた人じゃん! 名前はえっと……」

「飛鳥だよ。飛鳥=R=クロイツ。シャーレの先生をやってる」

「そうそう! 飛鳥先生だ! あれ凄かったねえ! おかげで私もインスピレーション湧いちゃって最近ちょっと寝不足気味でさあ……ふぁ……」

 

 大きく口をあけながら欠伸をするマキに、ミドリが若干唇を尖らせた。

 

「ちょっとマキ? G.Bibleのパスワードの解析は?」

 

 そんなミドリにマキはウィンクをしながら笑顔を浮かべる。

 

「そんなに心配しなくたって大丈夫。ちゃんと分析できたし、あれは間違いなくかの伝説のゲーム開発者が作った神ゲーマニュアル……G.Bibleで間違いないよ」

「や、やっぱりそうなんだ!」

「ファイルの作成日や最後に転送された日時、ファイル形式から考えても確実。作業者についても、噂の伝説のゲーム開発者のIPと一致してた。それと、あのデータはこれまでに一回しか転送された形跡がない」

 

 マキの説明に飛鳥は舌を巻いていた。依頼された翌日にここまで分かるとはなるほど、確かにヴェリタスの能力というのは一流であることに間違いはないらしい。

 コンピュータ技術は飛鳥にとって学び直しているばかりの物だが、それでもそれを為すにはやはり一流以上の実力を求められるものだということは分かる。

 そしてその情報から導き出される結論として、やはり回収したG.Bibleは本物だ、ということだった。

 だがここで一つ、問題が起きたらしい。

 

「実は……ファイルのパスワードについてはまだ解析できてないの。」

「ええ!? じゃあ結局見られないってことじゃん、がっかりだよ!」

 

 セーブデータの件で若干ささくれだっているのか、モモイの乱暴な物言いに思わず飛鳥は口を出してしまった。

 

「モモイさん。望む結果が得られなかったからと言って、頼み事をした相手にそういう言い方をするのは良くないよ。クライアントからの乱暴な言い方で、心に傷を負って仕事を続けられなくなる人だっているんだから」

 

 少なくとも、飛鳥もギア細胞の研究をしている時にそういった職員をそれなりに見てきた。生体兵器ギアの開発に入ってからは、特にだ。軍部はいつだって研究者のことを大して顧みず、結果ばかりを追求してくる。おかげで将来大成したかもしれない研究者も、何人か潰されてしまった。

 最も、その後聖戦が起きたこと考えれば成功したとて先はなかったのかもしれないが……。

 忌まわしい時代のことを思い出して思わず険しい表情になってしまっていたのだろうか。モモイが若干顔を青くしながら肩を縮まこませた。

 

「うっ……ご、ごめんなさい。マキも、ちょっと言い過ぎた」

「えっ、あ、ううん! 別にそんな気にしてないよ! モモのそういう素直なところは嫌いじゃないしね」

 

 マキのフォローでほんの少しだけ表情を和らげたが、それでもモモイの表情は晴れ渡ったとは言えなかった。

 そんな彼女の様子を見て、飛鳥はまたも自身の失敗にため息を吐きたくなった。

 全く、どうしてこう自分は上手く人とコミュニケーションが図れないのだろうか。

 だが、今はそんな自己嫌悪に浸っている場合ではない。

 

「僕もすまなかった。ちょっと昔の職場を思い出してしまって。……大人げなかった」

「ううん。先生の言った通りだよ。私だって、ユウカに結果が出てないから廃部だって言われた時怒ったもん。頑張ってるのにダメだって言われるの、誰だって嫌だよね……」

 

 モモイの言葉にその場にいる全員が神妙な表情になる。皆、それぞれ思い当たることがあったらしい。

 ただ一人、アリスを除いて。

 

「それで……宝箱の鍵は開けられないんですか?」

「宝箱……?」

 

 アリスの言葉に首を傾げたマキに対して、ミドリがハッとして翻訳を始めた。

 

「G.Bibleの中身を見ることはできないのかってことだと思う」

 

 ミドリの翻訳に、マキはそれまでの湿っぽい雰囲気を吹き飛ばすように腰に手を当ててふんす! と息を吐いた。

 

「確かにG.Bibleのパスワードを解析するのはほぼ不可能だよ。でも、手がないわけじゃないんだ。セキュリティファイルを取り除いて丸ごとコピーしちゃうってやり方ならきっと行けると思う!」

「おお! じゃあ早速それを──」

 

 期待に満ちるモモイに、マキは再び気まずそうに目を逸らした。

 

「えっと、それをやるにはOptimus Mirror System──まあ私達は『鏡』って呼んでるツールなんだけど──が、必要なんだよね」

「要はその『鏡』ってプログラムがあればいいんだよね? どこにあるの?」

「探索ですね! アリス、そういうのも得意です!」

 

 ミドリとアリスの言葉に、マキは非常に言いずらそうな表情で頬をかくような素振りをしながら答えた。

 

「えっ……と。生徒会の『差押品保管所』、かな」

「ええ!? それって生徒会に没収されたってことじゃん! そんなヤバい代物なの!?」

 

 驚くモモイにハレが首を横に振りながら答えた。

 

「そんなことはないよ。ただ暗号化されたシステムを開くのに最適化されたツールってだけ。ただ……世界に一つしかない、私達の部長が直々(じきじき)に製作したハッキングツールで」

 

 ハレの言葉にミドリが何か思い当たるような表情になった。

 

「部長って言うと……ヒマリ先輩?」

「ヒマリ……?」

 

 だが、アリスはそうではなかった。聞きなれない名前に首をかしげた彼女に、ミドリはヒマリについて説明を始める。

 

「アリスちゃんはまだ会ったことないよね、ヴェリタスの部長さんなの。ちょっと体が不自由で車椅子に乗ってるから、見かけたらすぐわかると思う」

 

 彼女の噂は飛鳥も聞いたことがあった。

 身体的な障害を補って余りあるその才覚故にミレニアムでも史上三人しか貰えていない『全知』という権威ある学位を得たという少女だ。

 

「で、何でそのヒマリ先輩が作った装備をとられちゃったの?」

 

 モモイの問いかけに、コタマは心底不思議そうな表情で答える。

 

「……私はただ、先生のスマホのメッセージを確認したかっただけです。その為に『鏡』が必要で……不純な意図は、全くなかったのですが」

「……? 僕達のスマホの中を見てどうするんだい? 別に面白いものなんてないと思うけれど……」

 

 実際、見られて困るものなどない。本当に他者に見られたり聞かれたりしたらマズいものは、法力通信での口頭連絡で済ませているからだ。

 ケイオスに傍受される可能性がないではないが、そこは飛鳥とて対策をしているつもりだ。今回のプロテクトは飛鳥は勿論、フレデリックも構築に一枚噛んでいる。ケイオスとてそうそう簡単に破れるものではないはずだ。

 だが、コタマにとってはそうでもなかったらしい。

 

「そんなことはありません! キヴォトスでも有名なシャーレの先生のプライベート情報なんて、いくらあっても困らないですから!」

「不純な意図しかないじゃん!」

 

 ミドリの鋭いツッコミの傍で、マキがガシガシと頭をかきながらエビぞりするような姿勢で声を上げた。

 

「うわあぁん! 早く『鏡』を探さないと、部長に怒られちゃう!!」

 

 そんなマキを横目にハレもやや真剣な表情で飛鳥達の方を向いた。

 

「とにかく……整理すると、私達も『鏡』を取り戻したい。あなた達にとってもG.Bibleのパスワードを解くために『鏡』が必要。そうでしょ?」

 

 ハレの言葉にモモイが得心したとばかりに頷く。

 

「なるほどね。呼び出された時点で、何かあるのかなとは思ってたけど。だいたい分かったよ」

 

 モモイの言葉にミドリが嫌な予感を感じたらしく、顔を僅かに引きつらせた。飛鳥もそれを見て、なんとなく背筋に寒いものが走る。

 とても、大変な話になりそうな気がしてきた。

 

「ふふ、さすがモモ。話が早いね」

「目的地が一緒なんだし、旅は道連れってね」

「共にレイドバトルを始めるのであれば、私達はパーティーメンバーです」

「……一応、聞いてもいいかな。モモイさん、これから一体何をするつもりなんだい?」

 

 嫌な予感で背筋がビリビリするような感覚──それを努めて錯覚だと思い込もうとしつつ──を覚えながら、飛鳥はモモイに何をする気か問うてみた。

 そんな飛鳥にモモイはやる気に満ち溢れた表情を返す。

 

「もちろん、ここにいる皆で『鏡』を取り返しに行くんだよ! セミナーだって、みんなで襲えば怖くない!」

 

 モモイの言葉に同調するヴェリタスの三人とアリスを前に、飛鳥、ミドリは二人そろってレモンを無理やり口に押し込まれたかのような渋い表情を隠せなかった。




年内最後の更新になります。
年始の目標はエデン条約編突入でしたが、間に合いませんでした。すみません……!

プライベート上では色々あった一年となりました。
主にメンタルぶっ壊して休職してた的な意味で。
おかげさまで今は復調し、問題なく仕事に行けております。

GGSTもシーズン4になり、立ち回りとかも大きく変わりました。ソルは難しくなりましたが、逆にそのおかげで前よりソルを使えるようになったような気もします。

後は本作BASTも作者的に初めてとなる評価バー全部に色が付き、かつ赤を維持するという快挙を達成できたのもありますね。
その節は読者の皆様に心から感謝申し上げます。
来年も更新は継続していって、エデン条約編4章終わるところくらいまでは進めたいところです。

長くなりましたが、今年もありがとうございました。
来年もBlueArchive -Strive-をよろしくお願いいたします。

それでは皆様、良いお年を。
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