今年もよろしくお願いします。
去年は年明けに掲げた抱負を守れなかったので、今年は達成できるように頑張りたいと思います。
今年の目標はエデン条約編4章まで進むことです。
エデン3~4章はブルアカ二次でも頭一つ抜けてカロリーが高いお話になるので、恐らくオリ展開を盛り込むことも考えれば相当苦労すると思いますが、クオリティを落とすことなくキッチリと書きたいものを書ききっていきたいと思います。
「あんなに可愛らしいのに……ミレニアムの生徒会を襲撃しようだなんて、人は見かけによりませんね?」
ミレニアムサイエンススクールの教室棟のひとつ。その屋上で、わずかに目を見開いたブロンドヘアーにメイド服を身にまとった少女──
「純粋な子達よ。でもだからこそ、時にはとんでもない悪戯をしたりもする」
アカネの問いに答えたのはユウカだった。困ったようにため息を吐きながらも、どこか浮かない表情を浮かべている。
「何か腑に落ちない点でも?」
ユウカの表情に気が付いたアカネが柔らかな声色で聞いてみれば、ユウカは再びため息を吐いた。
「……なんというかね。私ももう少し柔軟に動けたら良かったのかなって思っちゃって」
「と、いうと?」
ユウカは屋上の外周に張り巡らされたフェンスに背中を預けながら、空を見上げてほんの少しだけ目を細めた。
「あの子達、今すごく真剣にゲーム開発してるみたいなのよ。でも、どうしても自分達が納得するクオリティにならないみたいで。それでなんかG.Bible? ってやつを見つけてヒントを得ようとしたんですって。で、そのG.Bibleの中身を見るのに私達がヴェリタスから差し押さえたあるプログラムが必要みたいでね」
「ヴェリタス……あのハッキングに特化した、クラッカー集団ですね。セミナーで差し押さえたということは、そのプログラムが悪用されたということですか?」
「ええ。コタマ先輩がシャーレの先生のスマホを盗み見ようとしたから、没収したの。で、今回の件はそのヴェリタスも一枚噛んでるからこっちとしてもはいどうぞ、とは言えなくて……」
ユウカの言葉にアカネがにわかに信じがたいものを見るような表情をした。
「ゲーム開発部の子達がそのプログラムが欲しいから襲撃する、って宣戦布告しに来たんですか?」
「まさか。飛鳥先生が交渉しに来たのよ。自分が責任をもって監督するから、G.Bibleの解析をする時だけ貸してくれないかって。あの人としては襲撃なんてルール違反なやり方はさせたくなかったみたいだし。……まあ、それを断ったからこうなったんだけど」
「飛鳥……飛鳥=R=クロイツ先生ですね? この間グラウンドでちょっとした決闘をしていた魔法使いの。優しそうな顔に見合わず、派手な戦い方をしていたので、よく覚えています」
「アレ、本当に凄かったわよね……今度あの魔法がどういう理屈で使われているのか詳しく聞きたいわ。あれだけの規模の魔法、一体何をリソースに発動しているのかしら……ってそうじゃなくて!」
数日前のことを思い出して真剣に考えこみそうになった自分を振り払うかのようにユウカは勢いよく頭を振る。
そんな彼女を微笑ましいものを見るかのようにアカネが微笑を浮かべた。
「飛鳥先生を信じて、そのプログラムを一時的に貸してしまえば誰も争うようなこともなく、皆笑って終われたのではないか。そう考えているんですね?」
アカネの言葉に、喉に何かを詰まらせたような声を一瞬だけ漏らしてユウカがそっと視線を逸らす。それが何よりの答えだった。
「でも、私はセミナー……ミレニアムの生徒会役員よ。この学校の規範となるべき私達が、いくら大人が責任を取るからと言ったからといって無闇に特例を作るような真似をするわけにはいかないでしょ。そんなことをすれば、何か困ったことがあればシャーレの先生達に頼ればいい。そんな甘えた考えで先生達に迷惑をかける子達が増えちゃうもの」
「くすくす……あなたらしい物言いですね。その言葉の裏に隠された本音が、皆さんに届かないのが残念です」
アカネの言葉にユウカがほんの少しだけ眉尻を下げて、どこか諦念にも似た何かを感じさせる表情で笑いながら空を見上げる。
「いいのよ。そういう役回りだって、分かってこの仕事をしてるんだし。不満のひとつも出ない、完璧な組織なんてあり得ない。だから、一つくらいはそのはけ口があるべきなのよ」
そんな答えを返すユウカに、アカネは一瞬視線を地面に落とす。ユウカだって好きで嫌われたいだなんて思っているはずがない。それは目の前の諦念の混じった笑顔が証明しているといっていいはずだ。それでも、そうすることで皆が笑えるのなら喜んで泥をかぶるのだと、彼女は笑う。
真面目であるが故の不器用な早瀬ユウカという少女の在り方を前に、アカネは思わず感じてしまったやるせなさを悟られまいと視線を地面に落としてしまった。
最も、そんなアカネの仕草なんて空を見上げていたユウカには全く見えなかったのだけれど。
「……ともあれ、依頼された以上は私たちは受けるつもりです。ですが、一つ。ちょっとした問題がありまして……」
「問題?」
「ええ。今のメイド部には最高戦力たるリーダーがおりません」
「ね、ネル先輩がいない!?」
アカネの告白に、ユウカが驚きの余り声を上げる。背中を預けていたフェンスから勢いよく体を起こした反動で、ガシャンとフェンスが耳障りな悲鳴を上げた。
そんなユウカの様子にも動じず、アカネは静かに首を縦に振った。
「ミレニアムの外郭に個人的な用事があるようでして」
先程までの落ち着きが嘘のように百面相になりかけているユウカに、けれどアカネは自信に満ちた微笑を浮かべる。
「ですがご安心ください。厳密にいうと私たちのリーダーは、守ることより『壊すこと』に特化した人ですから」
ユウカの表情がぴしり、と音がしそうなくらいに引きつった。思い当たる節はあったらしい。
だが、今はそんなこと重要ではない。だからアカネは話を続ける。
「もちろん、リーダーがいる時のC&Cが一番強い……というのは紛れもない事実です。ただ、『守る』ということに関しては……もしかしたら、私たちだけの方が良いかもしれません」
そこまで行ってから、アカネはスッと息を吸い込み姿勢を正す。
それからスカートの裾を持ち、膝を折って片足を後ろに引きながらお辞儀をした。
「ではあらためまして、依頼をお受けいたします。約束の時間までゲーム開発部を生徒会の差押保管所に近づけないこと……お約束いたしましょう」
再び上げられたその表情は、確固たる自信に満ち溢れた微笑だった。