BlueArchive -Strive-   作:笹の船

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諦めなければ──!

 白状すると、飛鳥はモモイ達の為に魔法を使うことに対してはかなり消極的だった。

 先程の狙撃の時のように、本当に危ない時にだけ使いそれ以外は使うべきではないと思っていたのだ。

 それほどまでに飛鳥の持つ魔法はキヴォトスの技術体系と比べても異質で、そして万能だからだ。

 しかし、事情が変わってしまったことを痛感した。

 

「オラオラ! その程度じゃねえだろ!?」

「くっ……!」

 

 C&Cのリーダー、美甘ネル。

 彼女の実力は元の世界で数々の達人とのシミュレーションを経験した飛鳥をしてかなりの物であると評価せざるを得ない。

 つまり、飛鳥は今追い詰められていた。

 閉鎖空間におけるネルの機動力は並ではない。その上、狙いも正確で隙を突いてくるのも上手かった。

 マナによるバリアがなければ、既に飛鳥は倒れていただろう。

 加えて、飛鳥はフレデリックと戦った時のように魔法を使えない。使えば確実にミレニアムタワーに大きな損害を与えてしまうからだ。

 出力を調整すれば良いのだが、いくら飛鳥が並外れた魔法使いといえども目まぐるしく状況が変わる戦闘中に技の出力を調整するなどという高等技術はおいそれとは行えない。

 ここにきて魔法を使うことに対し消極的であったことが災いした。

 ジャンクヤード・ドッグというハードウェアシーケンスを持つフレデリックであれば比較的容易であろうが、今飛鳥の手元にそういった補助道具はない。

 

「剣よ!」

 

 正面から飛び掛かってきたネルに対して、汗をにじませながら木製バットを”本”から突き出す。

 フレデリックやジャック・オーならいざ知らず、相手は生徒である。まさか刃を本当に出すわけにもいかなかったが故の咄嗟の調整だったが、何とかうまくいって飛鳥は安堵した。

 

「ちぃっ!」

 

 が、両手に持ったSMGを交差するようにしてネルはバットによる突きを防ぐ。

 そして驚くべきことに、突かれた勢いを利用して距離を取るのではなく強引にその場に踏みとどまろうと踏ん張った。

 

「アンタの戦い方は映像で見たんでな! ワリィけど距離を取らせるわけにはいかねぇんだ──よ!」

 

 そう狂暴な笑みを浮かべながらネルが銃でバットを跳ね上げる。

 しかし、防がれた時点でネルの目論見は察していた飛鳥はそれに応えることなく次の攻撃に入る。

 

「さざ波よ!」

 

 膝を付き地面を撫でるように腕を後ろから前に向かって振り払う。

 飛鳥の腕に追従するように、波が発生してネルの足をからめとろうと地面を走って行った。

 

「くらうかよ!」

 

 波がネルの足をからめとるよりも早くネルは真上に飛び上がり、天井に着地をする。

 魔法をかわされたことを察した飛鳥は、とっさにネルとの軸をずらすように横にステップを踏む。直後、飛鳥のいた場所を弾丸の嵐が通り過ぎていった。

 しかし、それで終わりではない。

 

「もらったぜ!」

 

 天井を蹴って銃弾と一緒に降ってきたネルが器用に宙で回転しながら飛鳥の頭めがけてかかと落としを繰り出そうとして来ていた。

 

「──ッ!」

 

 それに合わせて飛鳥は開いた”本”から機械腕を召喚。

 飛鳥の機械腕の繰り出すアッパーが、ネルの繰り出したかかと落としとぶつかり合う。

 力の拮抗は起きなかった。押し負け、吹き飛ばされたのはネルの方だった。

 

「ぐうっ……!」

 

 天井に叩き付けられたネルから、くぐもった悲鳴が漏れる。

 

「しまった……!」

 

 出力を出し過ぎたか、と飛鳥が構えを解こうとするよりも早く飛鳥の体を銃弾が打ち据えた。

 

「ぐぁあっ!?」

 

 バリン、というガラスが割れるような音と共に飛鳥が後方へ吹き飛ばされ、結界に背中を叩きつけられる。

 

「おい、あんまりアタシを舐めんじゃねえよ。」

 

 マナバリアを強制的にシャットダウンさせられ、肩で息をする飛鳥に舌打ちをしながらネルが銃口を突きつける。

 

「さっきから見てりゃなんだテメェ? バレてねぇとでも思ってんのかよ」

「……何の……話かな」

 

 肩で息をしながら、飛鳥はネルの言葉に首をひねった。

 だが、そんな飛鳥の態度が気に入らなかったのかこめかみに青筋を浮かべながら彼に詰め寄ってくる。

 

「テメェさっきからアタシの攻撃に対しての迎撃しかしてこねえだろうが! 前にグラウンドでやってた時みたいな魔法も使わねえ!」

 

 ネルの剣幕に、けれど飛鳥は冷静だった。

 

「それは……当然だよ……ふぅ。あの時は周りが広かったから魔法を使えたんだ。こんな閉鎖空間で使えば、タワーに少なくない被害を出してしまう」

「んだと……?」

 

 ネルと話す間に息が整ってきた飛鳥は、彼女の目を真っすぐと見据えた上で続けた。

 

「僕はゲーム開発部のサポートの為に来たのであって、戦いに来たんじゃないんだ。無闇に物を壊すような真似は、出来ない」

「なっ……!?」

 

 飛鳥の言葉に、ネルの顔がみるみる赤く染まっていく。それは決して、ロマンティックな理由からではない。

 その証拠にただでさえ鋭かった目つきはさらに鋭さを増し、犬歯を剥き出しにするほどまで彼女の表情が歪んでいく。

 それが怒りによるものだということは、人の心に疎い飛鳥にだって十分分かっていた。

 この手の表情を向けられるのは、なにも初めてではないのだから。

 だが、彼にとってこの問答をしている時間は非常に都合が良かった。何故なら、ダウンしたマナバリアを再起動するのに十分な時間を稼げたからだ。

 それはつまり、彼が再び魔法を放てるようになるということでもある。

 

「テメ──」

「光よ」

 

 怒りの形相で胸倉をつかもうと腕を伸ばしてきたネルに向けて、飛鳥は魔法を発動させる。

 炎の法力による円状の爆発(メトロンスクリーマー808)をもろに食らって悲鳴をあげることすらままならないまま、ネルは結界の反対側まで吹き飛ばされた。

 

「君の期待に応えられないのは申し訳なく思うけど、ケイオスが絡んでいるなら僕も手段を選んでいられる余裕がないんだ。悪いけど少し大人しくしてもらうよ」

 

 結界に叩き付けられたネルに対して謝罪の言葉を述べながら飛鳥は矢継ぎ早に魔法を放つ。

 風の法力で生み出した立方体(ハウリングメトロンMSプロセッシング)を三発、次いで水の法力で生み出した立方体(ハウリングメトロン)、最後に雷の法力で生み出した立方体(ハウリングメトロンディレイ)の合計五つの弾がネルに殺到する。

 結界に背中を叩きつけられた衝撃で体勢を崩していたネルはMSプロセッシングこそ回避できたものの、遅れてやってきたハウリングメトロンは回避できずとっさに防御の姿勢を取る。

 

「ぐぅ……こんなもん……!!」

 

 何とか魔法を受け切ったネルだったが、そのあまりの威力に体勢を崩してしまった。その上、水の法力で出来た魔法を防いだことで全身ずぶ濡れになってしまう。

 そこへ詰めとして飛んできたハウリングメトロンディレイ。回避も防御もままならないネルに、為す術はなかった。

 何とか体をひねって直撃だけは避けたネルだったが、飛んできていたのは雷の法力で生み出された魔法だ。

 かわし切れず、濡れた銃に当たった魔法が銃を伝ってネルの体に高圧電流を流し込んだ。

 

「ぐわあああああああああああああああっ!?」

 

 たまらずネルが悲鳴を上げ、その場に倒れる。その姿に驚いたのは背後でモモイ達と戦闘をしていたアスナだった。

 

「リーダー!?」

 

 ネルの様子に驚きを隠せないアスナは思わずモモイとミドリから視線を外し、ネルの方を見てしまう。

 そして、その隙を逃すモモイとミドリではない。

 

「お姉ちゃん!」

「いっけえええええ!!」

 

 アスナに追い詰められ、尻もちをついていた二人がそのままの姿勢でありったけの弾丸をアスナに撃ち込む。

 

「いっ!? いたたたたたたたたた!!」

 

 二人分の銃声とアスナの悲鳴が鳴り響く間にも、飛鳥は自分とモモイ達を分断する結界のディスペルをするべく解析を進めていた。

 

「くっ……師匠め。また見たことないタイプのコード形態を……」

 

 少し解析して分かったのは、コードの複雑さの割に強度はそれほどでもないということだった。

 それこそ、飛鳥の魔法を何発か当てれば簡単に破壊できる程度の強度しかない。

 だがそれは裏を返せば、下手に魔法を撃ち込めば結界の先にいるモモイ達を巻き込むリスクを孕んでいるともいえる。

 破壊するにしても、どの程度の出力の魔法を何発撃ち込めばよいのか。その正確なラインを見極めないことには、強引な手段を取ることが出来ない。

 そもそも、強引な手段を取った場合に何かしら罠が発動する可能性すらあった。

 だが、それを見極めるための解析もその複雑すぎるコード形態によって非常に難しかった。

 飛鳥だけを隔離する為の、完璧な妨害策。ケイオスの手際の良さに、飛鳥の背中に嫌な汗が伝う。

 時間は有限だ。今回の作戦に協力してくれたエンジニア部やヴェリタスの時間稼ぎにも限界がある。

 そんな飛鳥の不安は的中した。

 モモイのすぐ横の床に穴が開き、一拍遅れてかすかな銃声が窓の外から響いてくる。

 その穴の大きさから、C&Cの狙撃手カリンの対物ライフルの弾丸であることは明らかだった。

 

「うっわあああああ?! あっぶなああああ!? えっ、何ハレ先輩!? カリン先輩を抑えられなくてウタハ先輩捕まっちゃったの!?」

 

 悲鳴をあげながら慌ててカバーの体勢に入るモモイの言葉にミドリが顔をしかめる。

 

「マキちゃんからも来た……! アカネ先輩がシャッターを爆発させて脱出したって……!」

 

 二人の言葉に飛鳥は焦りを募らせながら必死に結界の解析を進める。

 しかし、現実は非情だった。

 

「あなた達、いい加減観念しなさい!!」

 

 差押保管所の方から歩いてきたのはユウカだった。

 

「げぇっ!? ユウカ!」

「驚いたわ。いくら飛鳥先生が付いているとはいえ……ううん。ついているからこそこっちも持てる手段をもって備えていたつもりだったんだけど……アスナ先輩? そんなところで寝転んで何をしてるんですか?」

「えっとねー、油断しちゃって! ちょっと休憩中! 結構あちこち痛いんだよね!」

「嘘、アスナ先輩までやっつけちゃったの……!?」

 

 驚きをあらわにしたユウカは、しかしすぐに険しい表情になって物陰に隠れているモモイ達の方を睨みつける。

 

「ここまで私達を追い詰めたその努力は認めるわ。でも、起こした騒ぎの規模を鑑みて一週間は拘禁させてもらうわよ」

 

 ユウカの無慈悲な宣告にモモイとミドリが悲鳴のような声を上げる。

 

「一週間拘禁!?」

「そんな、一週間だと……ミレニアムプライスが終わっちゃう!」

「昼に突撃してきたアリスちゃんも、今は反省部屋に入ってもらってるわ。一人だけで可哀そうだったけど、あなた達が来ればきっと喜ぶでしょう」

「こ、このまま捕まったら『鏡』を奪えてもアリスとユズだけじゃゲームは作れない……!」

 

 加速度的に悪くなっていく状況を前に、飛鳥は焦りながらも結界の解析を進めていく。

 解析していくうちに、ケイオスの造ったであろう結界が非常に性格の悪いものであることが分かってきた。

 一つ。罠という罠がこれでもかと敷き詰められ、雑にディスペルしようものなら即座に結界内で高威力の魔法が発動すること。

 その威力はマナバリアを展開した飛鳥であっても大怪我は免れないほどだ。倒れているネルに当たろうものなら、最悪命を落としかねない。

 二つ。強引に結界を破った場合、フロートを応用──最早魔改造と言って良いだろう──した魔法で破った要因となるものの運動エネルギーに結界のエネルギーを上乗せして砲弾のように射出する。

 ただ、この場合結界の範囲内に対して高威力の魔法が発動することはない。

 それでも、攻撃をうかつに撃ち込むことが出来なくなった。飛鳥の魔法で作った弾は勿論、下手をすればその辺りの物体一つでも殺傷性の高い弾丸に早変わりだ。

 だが、突破するならやはり強引に結界を破る方がリスクは少ないと飛鳥は判断した。

 どうにかして結界の出力を下げ、トドメの一撃だけそれ程勢いのない攻撃を当てれれば最悪怪我で済むからだ。

 そんな解析を終えた飛鳥だったが、どうやら一手遅かったらしい。

 ユウカとの問答の途中で追いついてきたらしいC&Cのアカネとロボットの大群に圧倒され、モモイとミドリが戦意を失いかけていた。

 

「ごめん、ごめんね先生……先生はずっと助けてくれてたのに、私達の力不足で……私達のせいで………!」

 

 ほぼ戦意を失い、泣き出すモモイに飛鳥は魔法を放つべく本を開きながら声を張り上げた。

 

「モモイさん、諦めちゃダメだ! 君達は、最高のゲームを作るんだろう!?」

 

 結界を破らないように出力をギリギリまで絞りながら、魔法を放つ。

 魔法を撃ち込まれる度に結界が震え、明滅を繰り返すがその度に飛鳥は計算違いで結界が破れてしまわないか心臓が縮みあがりそうだった。

 そんな必死の抵抗をする飛鳥に、モモイは首を左右に振る。

 

「そうしたい、けど……もう無理だよ。前にはC&C、後ろにはミレニアムの生徒会……ミレニアムの二大勢力。こんな状況で、いったいどうしたら……!」

「それでも……それでもここで足を止めちゃダメだ! 守りたいんだろう、君達の居場所を!」

 

 必死に叫ぶ飛鳥は、その裏で百年前のことを思い出していた。

 アリアがTP感染症だと分かった時のことを。ギア計画への軍部の介入を止められないと悟った時のことを。

 それを逆手にとって、アリアとフレデリックがもう一度共に生きられるように二人を改造すると決めた時のことを。

 今もなお後悔の念に苛まれる程に最悪の手段だった。一時は本当にフレデリックに殺されたいとすら考えもした。

 それでも、せめてアリアとフレデリックが共に生きられるようになるまでは。その一心で進み続けた。

 その結果が今だ。彼らは、今も友として飛鳥の隣にいてくれている。

 どれだけ苦しく、厳しい道のりであっても諦めさえしなければいつか道は拓ける。飛鳥はそれを身をもって知っている。

 

「だから、立つんだ! 二人共!!」

 

 モモイ達を巻き込むリスクを回避する為、魔法の出力をあげられず中々結界を破壊できない現状に汗をかきながらも飛鳥は叫んだ。

 果たして、そんな飛鳥の言葉に応えるものがいた。

 

「そうです! 勇者は、仲間のことを諦めたりしません!!」

 

 そんな何者かの言葉と同時に、何かの駆動音が辺りに響き始める。

 その声の主と、駆動音に覚えのあったミドリがハッとしてモモイに覆いかぶさった。

 

「お姉ちゃん、伏せて!」

「魔力充填、100%──」

 

 けれど、ユウカ、アカネ、そしてようやく立ち上がったアスナは事態を飲み込めずに怪訝そうな表情をしている。

 

「光よッ!!!」

 

 直後、そのフロア一帯を閃光が包み込んだ。

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