BlueArchive -Strive-   作:笹の船

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君は主役になれるかな?

 モモイとミドリが伏せた直後フロア一帯を飲み込んだ閃光を前に、反応できたのはアスナだけだった。

 それが何者かの攻撃であることに気づいたのか、射線上にいたユウカを突き飛ばす。

 が、彼女が出来たのはそこまでだった。

 飛んでくる光に呑み込まれ、アスナははるか後方へと吹き飛ばされていく。

 

「あ、アスナ先輩!? 大丈夫ですか!?」 

 

 ギリギリで一歩横に回避をしたうえで持ち運んでいたトランクを盾代わりにしていたアカネが吹き飛ばされたアスナに声を掛ける。

 

「ご、ごめーん。ちょっと、流石にキッツいかなー……! 後、よろしくねー……」

 

 かろうじて、という言葉がぴったりなほどに弱弱しい声で返事をした後、アスナはそのまま沈黙した。

 その辺りでようやくモモイとミドリが顔をあげる。振り返れば、そこには光の剣を撃ち終わって笑顔を浮かべたアリスが二人に手を差し伸べていた。

 

「モモイ、ミドリ!」

「アリスちゃん!?」

「どうしてここに!?」

 

 アリスに助け起こされながら、二人は驚きを隠せずにいた。

 そんな二人に、アリスは満面の笑みを浮かべながら答える。

 

「生徒会の差押保管所に向かう途中で、考えていたんです。アリスが、今一番どうしたいのか」

 

 アリスの言葉にモモイとミドリがキョトンとした表情を浮かべる。

 

「アリスは、ゲーム開発部を守りたい。アリスの居場所を守りたいです。でも、アリスの居場所はモモイ、ミドリ、ユズ……皆のいる場所です。”鏡”をゲットしても、誰かがいなかったら……それは嫌なんです。だから──」

 

 アリスはその瞳に決意をみなぎらせながら光の剣の銃口をアカネ、ユウカ、そして残るロボット達へと向けなおす。

 

「だから──試練は、共に突破しなくては! 皆で一緒に、です!」

「わ、私もそう思う!」

 

 アリスが来たのであろう、飛鳥のいる方とは反対側の廊下からそう言って駆け出してきたのはユズだった。

 

「ユズ!?」

 

 事前に立てた全滅を避けるために別行動をしていたはずのユズの登場に、モモイとミドリは再び仰天する。

 これではもはや作戦も何もない。ここで捕まれば完全に詰みとなってしまった。

 なのにどうしてか、モモイは自然と笑みを浮かべていた。

 

「なんて、計画がめちゃくちゃなのは今更か」

「ふふ、私達が計画するなんてやっぱり無理だったのかも」

 

 モモイの言葉に釣られるように、ミドリもクスクスと笑う。

 その時だった。

 パチ、パチ、パチとゆったりとした拍手がフロアに響き渡る。

 一体誰がそんな音を、とゲーム開発部全員が警戒態勢に入る。

 しかしそれは、アカネとユウカも一緒だった。

 二人の様子がおかしいことに気が付いたゲーム開発部も、何やらまたイレギュラーなことが起きたのだと悟り唾を飲み込む。

 

「いいねえ、ドラマだよ。僕はこういうのが見たかったんだ」

 

 薄暗い廊下の奥から、ひょうきんな声でそう語りながら歩いてくるものがいる。

 ペタリ、ペタリという足音からはだしであることは確かで、その声は大人の物だった。

 

「誰ッ!? ここにどうやって入ってきたの!?」

 

 警戒心をあらわにしながら声を張り上げ、ユウカが声の主に向かって銃口を向ける。

 だが、銃口を向けられているにもかかわらずその人物は余裕を崩さなかった。それどころか、気取ったお辞儀をして名乗りを上げる。

 暗がりから現れ、明かりに照らされたのは青白い肌に額から伸びた一対の角。そしてX字型のグラスをかけた薄気味悪い男だった。

 

「ハッピーケイオス」

「……は、ハッピー?」

 

 トンチキな言葉に思わず聞き返したユウカに、ケイオスはすぐに切り返す。

 

「名前だよ。僕の名前さ、早瀬ユウカ君」

「ど、どうして私の名前を……!?」

「君にとっても馴染みの深い子と僕は協力関係でね。ま、その縁で色々教えてもらったんだ。室笠アカネ君にそこで倒れてる一ノ瀬アスナ君。まあC&Cについてもそれなりにね」

「私は、あなたを存じ上げませんが……!」

 

 ユウカの隣で油断なく銃を構えながら、アカネもケイオスを睨みつける。

 

「ケイオス……アビドスだけではなく今度はミレニアムで何をするつもりですか」

 

 彼女達の背後から結界越しに飛鳥が問いかける。ケイオスと飛鳥。二人が知り合いであることに驚いたその場の生徒達が一斉に飛鳥の方へ振り返った。

 そして、皆一様に目を見開く。

 何故なら、既に結界の外側から飛鳥と相対しているケイオスの姿がそこにはあったからだ。

 

「し、瞬間移動!? まさかあのケイオスって人……」

「あの姿は正しくデーモン! アリス知ってます! あのデーモンは黒魔導士に違いありません!」

 

 アリスの言葉にケイオスがニマリと笑ってクツクツと喉を鳴らす。

 

「聞いたかい、飛鳥君? 僕、黒魔導士だってさ。そしたら、さしずめ君が白魔導士ってことになるのかな?」

「残念ですが、過去の行いから見た場合僕も黒魔導士ですよ」

 

 飛鳥の言葉にケイオスはピタリと笑うのを止めて肩を落とす。

 

「おいおーい、ここはキヴォトスなんだ。そろそろホームシックになるのも止めとくべきだよ。もっと楽しまないと」

 

 しかし、そんなケイオスの言葉に飛鳥は毅然として返す。

 

「なら、この結界を解いてはいただけませんか。こんなものを、ここに展開する時点でどうかしている」

 

 飛鳥の非難に、ケイオスはどうでも良さそうな声色で言い返した。

 

「あー、それ? 大丈夫だよ。すぐに解決するからさ、それ」

 

 ケイオスの言葉の意味を図りかねた飛鳥が眉をひそめる。

 ケイオスは、そんな飛鳥ではなくその奥へ視線をやりながら声をあげた。

 

「もういいよ! 計画通りこっちは僕がやるから、飛鳥君をお願いね」

 

 言いながら、ケイオスはゆったりとアリス達の方へと歩き出す。

 一方で、ケイオスの言葉の意味を理解した飛鳥がハッとして後ろへ振り向く──よりも早く彼に跳び蹴りが叩き込まれた。

 相当な運動エネルギーが込められた跳び蹴りをまともに食らった飛鳥が結界に叩き付けられる。その直後だった。

 窓ガラスを割ったような音共に、飛鳥が凄まじい勢いでカリンによって穴の空けられた窓ガラスの方へと吹き飛んでいく。

 そして、その勢いのまま飛鳥はタワーから放り出された。

 

「「「飛鳥先生!?」」」

 

 ほとんど悲鳴に近い声で飛鳥の名を呼ぶモモイ達とユウカに、ケイオスがにやけながら軽く手をあげる。

 

「ああ、飛鳥君なら大丈夫だよ。あれでも僕の自慢の弟子なんだ。ここから投げ出されたくらいじゃ死んだりしない」

 

 ケイオスの言葉に、その場の生徒全員が彼に向かって銃を向ける。

 誰もが、ケイオスの言葉を信じていなかった。そんな生徒達の様子に、ケイオスはわざとらしく肩を落とす。

 

「誰も信じてくれないのは流石にちょっと悲しいかなあ。ねえ、君からもなんか言ってよ」

 

 そう言って話を振られたのは、さっきまで倒れていたはずのネルだった。

 声こそ上げなかったものの、モモイ達の表情が一斉に強張る。ここでネルが敵として立ちふさがったら、いくら何でも無理ゲーだからだ。

 だが、そんなモモイ達の心配をよそにネルはケイオスに向かって中指を突き立てた。

 

「アタシは元からテメェを信用してねえんだよ。何ならここでコイツにいっぺんボコボコにされちまった方がいい気味だと思うね」

「アレ、もしかして裏切っちゃう感じ?」

 

 ケイオスの言葉にネルは鼻を鳴らす。

 

「裏切り? 今テメェはアタシになんて言ったっけな? こっちは僕がやる、だっけ? んで、アタシはあの飛鳥って先生を追いかけるって話だったはずだ。この後この場で何が起ころうと、テメェが何とかするって意味だろ? ほら、ただの役割分担じゃねえか」

 

 ネルの言葉にケイオスはあっけにとられたような顔をして、それからまたクツクツと笑い始めた。

 

「確かに、君の言う通りだ。でも少しくらいは手を貸してくれてもいいんじゃないかい? 僕、こう見えて弱いんだよ?」

 

 笑いながらそう言ったケイオスに、ネルもまた笑いながら返す。

 

「全部が全部計画通りじゃつまらねえだろ。ちょっとしたアクシデントがあってこそのドラマなんじゃねーの? いいじゃねえか、テメェもこれで晴れて舞台の上だぜ?」

 

 笑いながらネルは飛鳥が放り出されていった窓際へ歩き、彼が放り出されたことで大きな穴の空いた窓の前で立ち止まってからモモイ達の方へ振り返る。

 

「そういう訳でお前ら! ソイツは好きにしろ。アタシは下に落っこちちまった先生を()()()行ってくる。じゃあな!」

 

 そう言うが早いか、ネルは窓から飛び降りて階下へと姿を消してしまった。

 そんな彼女の後姿を見送りながら、ケイオスが頭をポリポリとかいて呟く。

 

「あーあ、ホントに僕のこと置いて行っちゃったよ、酷いなあ」

 

 そんなケイオスに対し、銃を向けたままアカネとユウカが彼の背後からにじり寄っていく。

 

「リーダーとも協力関係だったようですが……詳しいお話を聞かせて頂けますか?」

「不審者ではない、というのならその証明はキッチリとして貰います! ご同行いただけますね?」

 

 二人の言葉にケイオスがピタリと動きを止める。

 それから、少しばかり何かを考えこむような声を漏らした。

 が、それもすぐに終わり、ケイオスはおもむろにユウカ達の方へ振り向いた。

 その表情は愉快そうな笑みで歪んでいる。

 

「実に良いよ。想定外と言えば想定外だけど、ある意味では想定通りでもある。でも、やっぱり確認はしておきたいんだよね」

 

 不気味さすら漂わせたその笑みを向けられていたのはユウカでもアカネでもない。

 

「天童アリス……僕は君が何者かを見に来たんだ」

 

 ケイオスの言葉にモモイとミドリがアリスの前を、ユズがアリスの後ろに立ち彼女を守るようにケイオスを睨みつける。

 

「あ、アリスを……?」

 

 ほんのわずかにおびえた声を出したアリスを見て、ユウカが声を張り上げて銃構えなおした。

 

「動かないで! アリスちゃんに何をするつもり?」

 

 ユウカの剣幕に、けれどケイオスはその笑みを崩さない。

 それどころか、腰のホルスターに収まっていた二丁の拳銃を取り出した。

 

「言ったじゃないか。アリスが何者なのかを見に来たって」

 

 ユウカの問いかけに答えながらケイオスは器用にガンスピンをさせつつ銃を持ち上げていき、銃を顔の前で構えた。

 その瞬間、誰が言うでもなくその場の生徒全員が戦闘態勢を取る。

 複数の銃口を向けられてなお、ケイオスはその笑みを崩さずむしろ深めながらアリスだけを見つめながら問いかけるように言った。

 

「さあアリス──君は主役になれるかな?」




ケイオスにこのセリフを言わせたいがためのパヴァーヌ1章だった。
なんか思ったより話が伸びそうです。鏡争奪戦はもうちょっとだけ続くんじゃよ。
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