BlueArchive -Strive-   作:笹の船

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ぶっちゃけ一人であの人数を相手にするのって、すごい疲れるんだよねえ。ま、楽しかったよ? 今後にも期待、かな。

 フロア中にいくつもの銃声が響き渡る中、アリスは再び光の剣の魔力を充填しながらフロアのあちこちに現れるケイオスの姿を油断なく見つめていた。

 アリスが戦線復帰してから、ケイオスは今まで以上にインチキ臭い動きでこちらを翻弄し続けている。

 瞬間移動であり得ない距離を一瞬で移動しながらの不意打ち、クリティカルヒットかと思ったのに変わり身の術を使っていてぴんぴんしていたり。

 あるいは、先ほどアリスの砲撃を耐えきった防御魔法(フォルトレスディフェンス)で皆の攻撃を防いでいたり。

 けれど、やられっぱなしのアリス達ではない。

 

「リロードするよ!」 

「おっけー!」

 

 モモイの掛け声にアスナが応え、その隙を埋める。

 

「アカネ、フォロー!」

「任せてくださいアスナ先輩!」

 

 次はアスナのリロードを、アカネが射撃しながらプラスチック爆弾を投てき、起爆という一連の流れでフォローする。

 

「ユウカさん!」

「任せて!」

 

 アカネに呼ばれるよりも僅かに早く、ユウカがSMGで3点射で正確にケイオスを狙い撃つ。

 と、その時アリスの持つ光の剣の充填が終わった音が手元から聞こえてきた。

 

「魔力充填、完了です!」

 

 フロア全体に聞こえるように声を張って自分の準備が出来たことをアリスは皆に知らせる。

 当然、それを聞いたケイオスがアリスのことをあの不気味な目で、そしてニヤニヤと笑いながら銃を向けてくる。

 けれど、アリスはそれに怯まず自分もケイオスに照準を合わせた。

 ケイオスの射撃が下手くそなのはこれまでの戦いで何となく分かっている。ましてや、今はアリス以外の皆がケイオスに攻撃をして彼に狙いをつける時間を与えないようにしているのだ。

 狙いをつけることの優位性は絶対にこちらが上であることに疑いようもない。

 

「ミドリ、合わせて!」

「任せてユズちゃん!」

 

 ひょいひょいと動き回るケイオスに向けて、ユズがグレネードランチャーを撃つ。

 放たれた榴弾が、誰もいない場所に向けて飛んでいった。

 しかし、フロアの床に叩きつけられ榴弾が爆発するその直前に誰もいなかったはずのその場所にケイオスの防御魔法の光が浮かび上がった。

 そして、榴弾が爆発して防御魔法の表面が揺らぐ。

 

「嘘!?」

「わぁ! すごいすごーい!」

 

 ユウカやアスナが驚き、褒める声をあげるのとほぼ同時にミドリがありったけの弾丸をケイオスに向けて放ち始める。

 

「すごいね? 何で気づいたの?」

 

 ミドリの銃撃を防ぎながら、ケイオスが興味深そうにユズへ視線を向ける。

 ランチャーに次の榴弾を詰め込みながら、ユズがそれに答えた。

 

「ず、ずっとあなたの動きを見てました……! その内に、消えたり現れたりする場所に法則があるって気が付いたんです。不規則に見えて、あなたの動きはずっと一定のパターンを取ってました。例えば……!」

 

 ユズが言葉を切ったタイミングでミドリの銃が弾切れになったのか銃声が止む。

 

「アカネ先輩、右に避けて!」

 

 ユズの声にアカネが即座に反応し、直前までアカネが立っていた場所をユズの放った榴弾が通り過ぎていく。

 その先には誰もいない……はずだったが、再び防御魔法の光が浮かび上がり闇から溶け出たかのようにケイオスの姿が現れた。

 

「わお、すごいね君。まさかここまで読みきられるなんて思わなかったよ」

 

 言いながら、ケイオスはパチパチと気の抜けるような音で拍手をする。

 それに対し、ユズはケイオスを睨みつけつつ榴弾をランチャーに詰めながら口を開いた。

 

「あなたは、絶対にあなたが最後に見ていた人の後ろか他の人がいて射線が通せない場所に移動します……! 今なら私が撃てない場所です!」

「ご名答。でもいいのかな? それを僕に伝えて、僕がパターンを変えることだってあり得るよ?」

 

 ケイオスの煽るような言葉に、けれどユズは彼を真っすぐと見返しながら首を横に振る。

 

「あり得ません。瞬間移動なんて、飛鳥先生だってフレデリック先生との戦いで1回しか使わなかった。あなたのソレが飛鳥先生達と同じ魔法なら、何らかの制限が絶対にあるはずです……!」

 

 ユズの言葉に、ユウカが何かに気が付いたかのように声をあげる。

 

「そうか……! 瞬間移動は点から点へ移動する技術。つまり、移動する為に移動先になるポイントを指定してないといけない。そして、この星は回ってるのだからその点だって常に動いていることになる! いちいち狙った点を指定するとなれば想定外のところへ飛ぶリスクもそれだけ高まるんだから、何らかの法則を決めておいた方が合理的だわ。まして、戦闘中ともなればなおのことじゃない!」

「んふ、流石にミレニアムの生徒となればこの手の理論の理解も早いね。ユウカ君には10点あげよう」

 

 ぱちりと指を鳴らすケイオスに、けれどユウカは険しい表情で再びケイオスに銃を向ける。

 

「貴重な知見を得る機会ではありましたが、それとこれとは話が別です。タネが割れた以上、あなたに勝ち目はないと思いますが」

「そうかな、まだ転移魔法のタネが割れただけだよ? そうだな、こういうのとかはどう?」

 

 何かを思いついたようにケイオスは虚空から何かを取り出した。いや、その手の中に生み出したようにも見えた。

 それはわずかに緑がかったように見える黒い球体だった。放物線を描いたそれが自分に向けて投げつけられたことに気が付いたユウカがとっさに防御の姿勢を取る。

 が、その球体はユウカに当たると溶けるように消えてしまった。その代わり、ユウカが呪われたかのような雰囲気の煙とも炎とも取れるような何かが立ち上っている。

 

「ゆ、ユウカが呪われちゃった!?」

 

 モモイの言葉に、ユウカがハッとして自分の体に視線を落とす。

 ケイオスが動いたのはその瞬間だった。それにユウカがすぐに反応できたのは、流石というべきなのだろう。

 銃を構えたケイオスを見て、射線から外れようとユウカが横に動く。

 

「バァン!」

「グッ……!?」

 

 が、ユウカのくぐもった悲鳴が彼女の口から漏れた。

 

「ユウカ! このっ!」

 

 アカネとアスナがケイオスに向けて攻撃を仕掛けるが、ケイオスは地面をゴロゴロったり、ジャンプをしてそれを器用に回避していく。

 その間にも気の抜けた掛け声とともに構え続けていた銃を発砲し続けていた。

 

「ぐ……うぅ……!」

 

 そして、その全ての弾丸がユウカに命中していた。

 

「なんで……!? さっきまで全然当たってなかったくせに!」

 

 瞬間移動をしなくなったとはいえ、ひらりひらりと全員の攻撃をかわすケイオスに向けてモモイが忌々しそうな声をあげる。

 

「み、皆気を付けて! 多分、あの黒い球に当たったのが原因だから……!」

 

 ケイオスからのダメージでその場にへたり込み、肩で息をしながらユウカが他の生徒達に注意を促す。

 

「皆、足止めないで動いて!」

 

 ユウカの注意を聞いたアスナが鋭い声で号令を飛ばす。アリスもまた、それに従ってモモイ達と突かず離れずの距離を維持しながらケイオスに近づきすぎないよう移動を始める。

 当たってしまったら全ての銃弾が必中になる。そのプレッシャーはやはりすさまじく、攻撃していないタイミングが出ないようにしていたはずの連携にほころびが出始めてきた。

 

「射撃上手くならないかなぁー」

 

 ナメているのか、と言いたくなるようなセリフと共にあの黒い球体(カース)がケイオスの手から投げられるたびに、全員が慌ててその軌道上から避けようと動く。

 その結果、皆の立ち位置がどんどんとぐちゃぐちゃになって行った。

 

「やあ、いらっしゃい」

「しまっ──」

 

 そして、黒い球体を避けようと動いた結果アカネがケイオスのすぐ目の前へとステップを踏んでしまっていた。

 そのアカネの顔面にケイオスの拳(6S)が突き刺さる。

 

「アカネッ!」

「もう一個おまけ」

 

 殴り飛ばされたアカネに一瞬気を取られたアスナに向けて、ケイオスがバックステップを踏みながら黒い球体を投げつける。

 

「ヤバ──」

「光よ──!」

 

 アスナがそれをかわせない、と気が付いたアリスが銃を両手に持ってしっかりとした体勢で構えたケイオスに向けて光の剣のトリガーを引く。

 それに気づいたケイオスは、けれど銃をしっかりと構えてしまっていたが故に回避へ移ることも出来ずに光の中へ飲み込まれる。

 黒い球体を食らってアスナから()()()()()()()()()()()()のは、ちょうどその時だった。

 

「バァン! バァン!」

「うっ!? あぐ!?」

「アスナ先輩!?」

 

 おおよそ拳銃で撃たれたとは思えないような勢いでアスナの体が浮き上がり、やがて地面にアスナが叩きつけられる。

 そんな馬鹿な、とアリスが先程までケイオスがいたはずの場所へ視線を向けた。しかし、そこには誰もいない。

 

「アリスちゃん、後ろッ!!」

 

 ミドリの悲鳴のような声がアリスの聴覚センサーに突き刺さる。

 アリスが振り向いたその時、もう目と鼻の先にケイオスがいた。

 世界がスローになる。ケイオスの後ろにいたモモイ達の声が、低く間延びしたものに感じられた。

 ここまでなのか。そう思ったアリスのストレージに、ふとある映像が呼び起こされた。

 それは戦闘の記憶だった。光の剣を手に入れる時に、魔王フレデリック先生と戦った時の記憶。

 自分が光の剣をチャージしている間に魔王を止めようとしていたモモイとミドリに向かって、あの大きな魔剣を持ち上げて地面に突き立てた(6HS)時の記憶だ。

 

「うりゃあっ!!」

 

 気が付いた時には考えるより早く体がその記憶の中の魔王の動きをトレースしていた。

 

「あ、やば」

 

 今日初めて、ケイオスの己が失敗を悟ったと分かる声がアリスの聴覚センサーに届く。

 

「モモイ、ミドリ、ユズ!!!」

 

 何かに光の剣の先端が激突した確かな手ごたえを感じながら、アリスは地面に突き立てた光の剣の後ろに身を隠しつつ声を張り上げる。

 返答は、銃声で持って返された。

 

「おっ、いたっ、あば、おっ、おっ、わああ」

 

 ケイオスのなんとも間抜けな悲鳴と共に、光の剣に銃弾がいくつも突き刺さる硬い音が響き渡った。

 トドメとばかりに恐らくユズのものであろう榴弾が爆発し、その大きな衝撃を光の剣越しに受け止める。

 銃声と爆発が収まり、フロアに静けさが満ちる。

 恐る恐る、光の剣の影からアリスが顔を出すとそこにはまだその場に仁王立ちしたケイオスの姿があった。

 

「これでッ……! トドメです!」

 

 思考は一瞬だった。光の剣のグリップを握りしめ、そのまま正面を薙ぎ払うように振り回す。

 ケイオスはそれを避ける素振りすら見せず、アリスが振り回した光の剣をもろに食らって吹き飛ばされた。 

 

「やった!」

 

 モモイが喜びの声をあげる。けれど、アリスは振り回した光の剣を自分の後ろ側に銃口が向くように持ち直して即座にトリガーを引いた。

 大してチャージをしていない、それでも並の銃よりもずっと威力の高い光弾がアリスの背後に射出される。

 

「おおっと」

 

 そして直後にケイオスの声が背後から聞こえる。

 振り向けば、あの鉄壁の防御魔法を展開したケイオスがそこに立っていた。

 けれど、流石にさっきのモモイ達の総攻撃が効いたのかあちこち傷だらけである。

 さらに、ケイオスが展開していた防御魔法が明滅して消えた。

 

「あ~あ、時間切れかあ」

 

 モモイ、ミドリ、ユズがアリスの傍に駆け寄りアリスと共に自分に銃口を向けるのを見ているのかいないのか、気の抜けたような声でケイオスがそんなことを言う。

 それでも、ここまでの戦いのことを思い出しているのかアリスも含め誰一人油断はしなかった。

 が、そんなアリス達を前にケイオスはおもむろに手に持っていた銃をホルスターに収めた。

 

「銃をしまったってもうだまされないからね! アリス!」

「ハイ!」

 

 モモイの言葉にアリスは光の剣のチャージを始める。

 

「ま、油断をしないのはいいことだよ。でもちょっと待ってくれない?」

 

 降参を示すかのように片手をあげたケイオスが、もう片方の手でズボンのポケットから何かを取り出す。

 そしてそれを持ったまま完全なホールドアップの体勢になった。

 

「それは……HDD……?」

「そうだよミドリ君。そしてこの中には、君達が今日ここに来た目的のものが入っている」

「それって……”鏡”!?」

「あげるよ。頑張ったご褒美だ」

 

 そう言ってケイオスは”鏡”の入ったHDDを放り投げた。

 とっさに反応したモモイが、銃をその場に落として慌ててキャッチしようと待ち構える。

 

「わっ!? わわわわ!?」

 

 右によたよた、左によたよたとしながらもモモイは無事に放り投げられたHDDをキャッチする。

 その様子にアリスは勿論、ミドリとユズもほっと胸をなでおろした。

 が、すぐにハッとなって全員がケイオスが立っていた方向へ視線を戻す。

 

「い、いない……?」

 

 その時には、既にそこにケイオスの姿はなかった。

 皆で背中をくっつけて周囲を油断なく見渡すけれど、フロアのどこにもケイオスの姿はない。

 まるで、初めからハッピーケイオスなんて人物はいなかったかのように忽然(こつぜん)と彼は姿を消していた。

 それでも、アリス達は警戒を緩めることが出来ずにずっと背中をくっつけ合っていた。

 それは、割られた窓からきっと魔法を使ったのであろう飛鳥が戻ってくるまでの間ずっと続けられたのだった。

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