アヤネを除いたアビドスの生徒達が昇降口に到着したのを、フレデリックはアヤネのドローンからの映像が映し出されたタブレット端末で確認した。
直後、アヤネがもう一機飛ばしていたらしいドローンの映像へと切り替える。そこにはおよそ30人程の武装した集団がこちらに向かって走ってきている姿が映っている。
……そのすべてがバイクのヘルメットをかぶっているせいで珍妙な光景になっていて、イマイチ緊張感に欠けていたが。
それでも、脅威であることに変わりはない。話し合いに来た雰囲気でもなく、迎撃は必須だった。
「敵、約30人! 約20秒後に校門から侵入してきます!」
「全員、無駄弾は避けろ。ホシノ、前に出て敵を引きつけろ。昇降口を出たら右の方へ走って学校の外周の塀で外からの射線を切るように走れ」
『うへ~。暑い中走るのは嫌なんだけど……了解ー』
「セリカはホシノが引き付けた奴を横から強襲。シロコはホシノが引き付けきれなかった奴の迎撃をしろ」
『ん。了解』
『……分かったわ』
「ノノミはセリカ、シロコの迎撃で動きが止まった連中をまとめて薙ぎ払え」
『了解です!』
フレデリックの指示に従って生徒達が走り出す。既に敵の数人が校門から侵入してきており、さっそく前に飛び出したホシノを狙って射撃していた。
ホシノを狙って引き金を引こうとするヘルメット団にセリカが横から頭を撃ち抜く。
通常なら脳の中身が飛び出るようなスプラッターシーンの出来上がりだが、撃たれた生徒は横にふっ飛ばされながらその場に倒れるも、出血した様子はない。
ヘイローも消えていないので意識を刈り取るまでも行かなかったようだが、ぐったりとその場に倒れたまま動かないあたり急所への射撃で無力化は出来るようだった。
当然、横から銃撃されたとあればヘルメット団達もやられっぱなしとはいかない。
撃たれた方向へと銃口を向けなおして、味方をダウンさせた下手人を倒そうと銃口をさまよわせる。
しかし、そんな隙を見逃すアビドス生徒達ではない。
敵の位置を掴み切れていないヘルメット団達の頭をシロコが的確に撃ち抜く。
また違う位置からの銃撃に一瞬の動揺と隙が出来た他のヘルメット団の頭をセリカがまた撃ち抜く。
破れかぶれになってホシノだけでもと彼女に銃口を向けようとした生徒がホシノの接近を許したことに気づいた時には、その胴にゼロ距離でショットガンの弾を受けて吹き飛んだ。
「ノノミ。校門から複数人同時に侵入する。薙ぎ払え」
『はーい! お仕置きの時間ですよー!』
アヤネのドローンから状況を再確認したフレデリックの指示にノノミは元気よく答えて校門に向けてミニガンを掃射する。
セリカやシロコのアサルトライフルのそれとははるかに規格の違う銃弾の暴風雨が一斉に敷地内へと侵入してきたヘルメット団達を滅多打ちにする。
『うぎゃああ!?』
ドローン越しから響くヘルメット団達の悲鳴と、それすらかき消すミニガンの銃声が鳴りやんだ時には銃声は完全に鳴りやんでいた。
「敵の無力化に成功! 私達の勝利です!」
ドローンで周囲に敵がもういないことを確認したアヤネの言葉にフレデリックはフッと小さく息を吐く。
ひとまずは凌げたらしいが、やることはまだある。この校舎を目的とした断続的な襲撃となれば、それは確実に何かしらの意図があるはずだ。
それを知る必要がある。アビドスの生徒達に撃退されたヘルメット団の中にはまだ立ち上がれず退却しきれてないメンバーもいた。
ならば、そいつ等にダメもとでここを襲う意図を聞いてみるのがいいだろう。
そう考え、フレデリックは教室の扉へ向かって歩き出す。
「フレデリック先生? どちらに……?」
「馬鹿な生徒になんでこんなことしてるのか聞く」
「ええっ!? 銃も持ってないのに――先生!?」
アヤネの驚く声にも耳を傾けず、フレデリックはずんずんと廊下を歩いて昇降口までやってきた。
「先生……?」
戦闘が終わり、銃を下ろして一息ついていたシロコがフレデリックに気づいて不思議そうな表情をする。
「ご苦労だったな。少し休め」
「う、うん……?」
言うだけ言ってそそくさと昇降口から外に出ようとするフレデリックに、シロコは呆然とただ見送るだけだった。
しかし、そんなフレデリックの腕を掴んで引き留めた生徒がいた。
セリカだった。険しい表情をした彼女は、非難するような視線をフレデリックに向けている。
「ん? 何だセリカ」
「な、何だじゃないわよ!? まだ敵がいるのに、何で外に出ようとしてるのよ!?」
「だが無力化した。別に問題ねえだろ」
フレデリックの言葉に彼の腕をつかむセリカの力が強まった。
「ばっかじゃないの!? アイツらは卑怯でクソみたいなやつらなの! 銃も、ヘイローもないアンタがノコノコと出てったら良くて人質、最悪撃たれて死……死ぬかもしれないでしょ!」
無力化をしたのはアヤネのドローン越しに確認済みで、外にはまだホシノが警戒を解かずに撤退を始めたヘルメット団を視ている。
セリカの言う万が一のような事態にはならないだろうというのがフレデリックの見立てであった。
それでも、セリカはやめろと叫んだ。大人なんて信用できないと叫びながら、他人であっても誰かが目の前で傷つくことを良しと出来ない。フレデリックの腕をつかむその手は、ほんの僅かだが震えていた。
捻くれた言動の裏にあるどうしようもない位真っすぐな彼女の本質を目の当たりにして、フレデリックは今もイリュリア*1で民の為に東奔西走しているであろう
昔はこういう奴が嫌いだったな、と過去を振り返りながらフレデリックは表情を和らげる。
「分かった。それなら護衛でもして貰おうか。お前がいれば大丈夫だろ」
フレデリックの言葉に、セリカはピクリと体を小さく跳ねさせて目を見開く。
けれど、すぐに目を吊り上げて唇を尖らせる。
「ふ、ふん! 仕方ないから、ついてってあげるわよ!」
「あらあらー♪ それじゃあ私も一緒に行きますね」
「ん。皆で行けば安心」
「好きにしろ」
ニコニコしながらいつの間にか傍にやってきていたノノミとほんのわずかに口元を緩めたシロコを見て肩をすくめて、フレデリックは昇降口の外へと踏み出した。