BlueArchive -Strive-   作:笹の船

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手に入れたもの(2)

「作戦会議をしよう」

 

 ”鏡”を巡った大冒険の翌日。部室に集まったモモイは開口一番にそう言った。

 それに対し、ミドリもユズもアリスも真剣な表情で小さく頷く。皆、何のための作戦会議なのかは分かっていた。

 ”鏡”の奪取をしに行って、その先で出会ったハッピーケイオスという不気味でおかしな男との戦いを経て、モモイ達は”鏡”がなくてもいいのでは? という一種の核心を得ていた。

 けれど、飛鳥にはそのモモイ達の想いが伝わらなかったらしい。否定はされなかったけれど、代わりに「”鏡”がなくても大丈夫」と言えるだけの理由を説明して欲しいといわれてしまったのだ。

 その時はユウカの”大人の事情”的な話も合ってなあなあのまま”鏡”を持って帰り、ヴェリタスに預けて解散になってしまった。

 だから、最悪説明なんかしなくたっていいのだ。だって、G.Bibleの中身を見られることが確定してしまったのだから。

 それでも。モモイは──いや、皆は昨日感じたあの確信を、絆の力を飛鳥に分かってほしいと思った。

 

「アリス達は、昨日のケイオスとの戦いで確かに絆を深めました。テイルズ・サガ・クロニクルや他のゲームでもそうだったみたいに、絆の力は世界を救います。だから、今の私達ならミレニアムプライスに受賞できるようなゲームを作るのだって出来るはずです!」

 

 アリスの言葉に、モモイとミドリが頷く。

 

「で、でも……多分それじゃ飛鳥先生は納得してくれないよね。もっと……なんていうのかな。具体的な話じゃないとダメなような気がする」

「具体的……って。どう話せばいいんだろ……」

 

 ユズの言葉に、ミドリが渋い顔をしながら唸る。それは、モモイもアリスも、ユズも一緒だった。

 そうして皆で酸っぱいものを食べたような顔をして数分。誰も何も喋らなかった。いや、喋れなかった。なにも思いつかなかったからだ。

 そんな何とも言えない息がつまるような空気が部室に充満したころ、我慢の限界が来たのか座布団に座っていたモモイが大きく伸びをしてそのまま後ろに倒れ込んだ。

 

「分かんない! 分かんないけど今なら行ける気がする!」

「お姉ちゃん、真面目にやってよ」

 

 猫がするみたいに床の上でのびーっと体を伸ばすモモイに向かって、ミドリがため息を吐く。

 そんなミドリに目もくれず、モモイは伸びた時に目についたゲームカセットを無造作に手に取った。

 

「そんなこと言ったってさあ。私達、飛鳥先生にあってからずっとゲームでしか見たことないような冒険してきたじゃん?」

 

 手に取ったものはテイルズ・サガ・クロニクルだった。

 

「ホント、分かんないよねえ。ユズの作ったテイルズ・サガ・クロニクルのプロトタイプが面白くて、ここ来てさ」

 

 そんなに前の話ではない。けれど、間違いなく大切な思い出であるカセットをモモイは愛おしそうに眺める。

 

「わたしの夢は……わたしの作ったゲームを、みんなに面白いって言って貰うことだったの」

 

 もじもじとソファの上で身じろぎして膝を抱えながら、ユズがとつとつと語りだす。

 

「でも、モモイ達が来てくれるきっかけになったそのプロトタイプは4桁以上の低評価コメントと冷やかしだけで終わっちゃって……」

 

 当時を思い出したかのように、ギュッと膝を強く抱えながらもユズは語り続ける。

 

「それが辛くて、ゲーム開発部に引きこもってた時……モモイとミドリが来てくれた。あの時はまだ低評価コメントとかのショックが抜けてなくて、あんまり言えなかったけど……嬉しかった」

 

 寒さに震えるような姿勢だったユズの体から、フッと力が抜けて頬も緩んだ。

 

「今でもはっきり覚えてるよ。モモイが『私も、ミドリも! UZ様みたいに、面白いゲームが作りたいです!』って言ってくれたの」

「ちょっと! やめてよユズ恥ずかしいじゃん!」

 

 僅かに顔を赤らめながら勢いよくユズの方へ振り返るモモイに、ユズがクスクスと笑う。

 

「本当に嬉しかったんだよ? まあ、三人で完成させたテイルズ・サガ・クロニクルは今年のクソゲーランキング1位になっちゃったけど」

 

 そう言ったユズの表情は、けれども振るわなかったことを嘆くようなものではなかった。むしろ大事な思い出を振り返るような、そんな顔だった。

 

「でも、アリスちゃんが訪ねて来てくれて……面白いって、言ってくれた。それで、わたしの夢は叶ったの。心の通じ合う大事な仲間達と、一緒にゲームを作って、それを面白いって言って貰う……ずっと一人で思い描いてるだけだった、その夢が」

「ユズちゃん……」

「そしたら、今度は飛鳥先生達が来て……本当のゲームの世界みたいな景色を見せてくれた。でも思ったの。『やっぱり、もっとゲームを作りたい』って」

 

 それまで伏し目がちだったユズが、顔をあげる。モモイはそこで初めて気が付いた。

 ユズの瞳に、これまで見たことがないほどの情熱の光が宿っていることに。

 そんなユズに(あて)てられたのか、今度はアリスが口を開いた。

 

「アリスは……初めてテイルズ・サガ・クロニクルをプレイした時に教わったんです。仲間と一緒に新しい世界を旅する、あの感覚……あれがきっと『夢を見る』ということなんだって」

 

 語るアリスは胸の前で両手で何かを優しく包み込むように軽く握る。その手の中に、愛おしい何かがあるかのような所作だった。

 

「昨日の大冒険はまさにそんな『夢』が現実になったみたいなひと時でした。特に、皆でケイオスと戦った時が一番それを強く感じたんです。ケイオスは怖かったです。いろいろ言われて、苦しかったです。でも、皆と一緒に乗り超えました」

 

 そこまで一息に語ったアリスの表情が、ふと曇った。

 

「でも、これがゲームなら最後にアリス達全員でゲームを作り上げたら待望のエンディングです。……きっとハッピーエンドになります。だって、今のアリス達はゲームを作り始めた頃に比べてずっと強い絆で結ばれているのですから」

 

 胸の前に置いていた両手を、アリスがギュッと強く握りしめる。

 

「けれど、アリスは思ってしまうのです。終わってほしくない、と。この夢が、覚めなければいいのに……と。だってアリスは……」

 

 すう、とアリスが息を吸い込んで目を閉じる。

 そして、次に目を開いた時アリスの顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。

 

「アリスは、やっぱりゲームが大好きです! 色んな夢を見せてくれるゲームを遊ぶのが。新しい夢の世界をモモイと、ミドリと、ユズと一緒に作るのが! だから、この夢は……いいえ、アリスの居場所(この世界)は終わってほしくないです!」

「アリス……」

「そうだよね。うん、そうだよ。お姉ちゃん、私達も同じだよね」

 

 いつの間にかモモイの隣に来ていたミドリが、モモイの手を握る。

 モモイもまた握られた手を握り返して頷いた。

 

「うん。そうだよ。私も、ゲームが好き。遊ぶのも、作るのも。でも……やっぱりここにいる皆で一緒にゲームを遊んだり、作ったりするのが一番好き!」

 

 モモイの言葉に、皆が頷く。その表情は、作戦会議を始めた時に比べてずっとずっと明るいものだった。

 

「きっと、名作って呼ばれるゲームを作った人達も同じだよ。皆、ゲームが好きだからあんなに凄いゲームを作れたんじゃないかな」

 

 ミドリの言葉にユズが微笑む。

 

「良いものを作りたい。……その気持ちだって大事だけど、私……一番大事なことを忘れてたのかも。そうだよね、良いものが作りたいからゲームを作るんじゃない。ゲームが好きだから……あの夢の世界が大好きだから、私もそんな世界が作ってみたい。それが、一番最初の理由だもん」

「確かに。ユズの言う通りだね。だから私とミドリもここに来たわけだし。なんで忘れてたんだろう」

 

 そう言って微笑み合うモモイ、ミドリ、ユズに、けれどアリスは笑顔で首を横に振った。

 

「否定します。アリスはそうは思いません」

 

 アリスの言葉に三人が首をかしげる。そんな三人に、アリスは微笑んだ。

 

「アリスはテイルズ・サガ・クロニクルをプレイするたびに感じられるのです。モモイが、ミドリが、ユズが……どれだけあのゲームを愛しているのかを」

 

 あっけにとられたような表情の三人を順番に見つめながら、アリスは続ける。

 

「ゲームが大好き、という気持ちを三人が忘れたことなんてきっとないって、アリスは思うんです。その気持ちはいうなればそう……パッシブスキルなんです。たとえ見えなくたって、いつでもそこにあるって……アリスはそう思います!」

 

 アリスの言葉に、三人がほんの少し照れくさそうに笑った。

 ちょうどその時だった。

 

「ハ~イ、ゲーム開発部のちびっ子達! マキちゃんからのプレゼントのお届けだよ!」

 

 部室の扉が勢いよく開かれ、ご機嫌な声と共にマキが何かを片手に入って来る。

 

「あ、マキ!」

「遅れてごめんねー。”鏡”をセミナーに返すっていうから、その件でちょっとバタバタしちゃって」

「私達は別に返すのは良かったけど、マキ達はそれで良かったの……?」

 

 モモイの心配する言葉に、マキは笑顔で返す。

 

「実は、ヒマリ先輩は最初から全部知ってたみたい。それくらいあげてもいいから、これからはあんまり無理しないでって。えへへ」

 

 そこまで話したマキが、ふと何かを思い出したかのようにあ、と声をあげた。

 

「それでね。G.Bibleを開いてた時にこの、<Key>っていうフォルダを見つけたの」

「なにこれ……ケイ、って読むのかな」

「……ケイ?」

 

 モモイの余りにもあんまりな読み間違いにアリスがちょっとびっくりしたみたいにモモイの方を見て、姉の醜態(しゅうたい)にミドリが思わず声をあげる。

 

「『キー』でしょ! お姉ちゃんは本当に高校受験合格したの!?」

「うるさいなあ、今はどうでもいいでしょそんなこと」

 

 ミドリの小言に唇を尖らせるモモイにコロコロと笑いながらマキが見つけたフォルダについて語る。

 

「実は、こっちについては何一つ分からなくって。ファイルは壊れてなさそうだけど……私達の知ってる機械語じゃ解読できない、信じられないような構成をしてる。G.Bibleの方はきちんと開けたけど、こっちはちょっと見ただけじゃ何も分からなかったの。この<Key>のこと、何か知ってたりする?」

 

 マキの問いにモモイは首を横に振る。

 けれど、ミドリは何かが思い当たる節があったように考え込んだ。

 

「もしかして……あの時の……?」

 

 何やら思い当たる節があったらしいミドリに、けれどマキは気を取り直したように手に持ったものをモモイの方へ差し出す。

 

「ふうん、何かあったの? ま、でもとりあえず今はG.Bibleの方でしょ。<Key>についてはまた今度ね。時間があったら頑張って分析してみるよ」

「マキちゃん、ありがとね!」

「こっちこそ! またねー!」

 

 元気な声で嵐のように去って行ったマキを見送り、再び静かになった部室でモモイ達はお互いに顔を見合わせた。

 

「……とりあえず、見てみよっか。G.Bible」

「そうだね」

 

 なんとなく気まずいような、そんな雰囲気の中モモイがG.Bibleを起動する。

 アプリケーションが起動して、ディスプレイに文字が表示され始めた。

 

「え……これって……」

 

 そこに表示された『最高のゲームを作るたった一つの秘密の方法』に、そこにいた誰もが言葉を失った。

 

「やあ、G.Bibleの中身が見られるようになったって聞いたけど、どうかな?」

 

 飛鳥が部室にやってきたのは、ちょうどその時だった。




GGSTDRアニメまでには……パヴァーヌ終わらせてエデン条約編入りたいです……!
去年も同じようなこと言ってたっけ……
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